2010/03/27

不毛地帯?

職場に置いてあった日経サイエンスをちらちらと見ていたら気になる記事を発見。
それは、なぜサルの仲間のうち、人間だけが「裸」なのか、というもの。
確かに、人間に一番近いとされるサルの類人猿もみんな毛深いよね。
で、気になったので中身を読んでみたのだ。
今回はその紹介だよ。

これまでけっこう信じられていた説のひとつは、人間への進化の過程でいったん半水棲生活を送っていて、その名残で毛がない、というもの。
これは、水棲ほ乳類の中でも、イルカやクジラの仲間には毛がない、という事実から発想を得たものなんだとか。
水の抵抗を少なくするために毛がなくなり、体も魚と同様に紡錘形になっているよね。
でもでも、ここで忘れちゃいけないのが他の水棲ほ乳類たち。
水の中に棲んでいると言っても、また陸上に生活の場を移したということは、水中と陸上を行き来していたはずなのだ。
で、そういう動物でいうと、ラッコ、アザラシ、アシカ、カワウソなどなどがいるわけだけど、どれも毛皮があるんだよね(笑)
イルカやクジラみたいに魚類と同様の生活を送るのならまだしも、陸上にもどった人間が毛をなくすのは考えがたいのだ。
体の形はサルのままだしね。

で、そこで研究者たちは考えたらしいんだけど、着眼点は至ってシンプルで、「裸」である方が毛皮があるよりも有利なことはないか?、ということ。
つまり、毛がない状態の方が有利な生活形態になったので、自然選択で毛の少ない個体が選ばれ、現生人類のような「毛のないサル」になった、という考え方だよ。
一般的な進化生物学の考え方で、当たり前と言えば当たり前なんだけど、これまではどうしても、「毛が必要なくなったからなくなった」と考えがちだったようなのだ。
そんなこと言っても、進化の過程では必要だったけど、今となっては不要なものが「進化の痕跡」として残っていることもあるから、やっぱり無理がある考え方なのだ。

で、結論から言うと、「毛のないこと」のメリットは、発汗による冷却機能が向上すること、なんだそうな。
動物の場合、人間のように汗をかくことはまれで、イヌやネコは暑いときに舌を出して「はぁはぁ」して放熱しているよね。
人間のように汗をかいて体を冷やしているのはウマくらいなのだ。
これは、毛皮にくるまれているとそこに汗が貯まってしまって乾きにくい=蒸発して気化熱を奪ってくれない、ということ。
お風呂に入った後、体はタオルでふけばすぐに乾くけど、髪の毛はなかなか乾かないのでドライヤーを使うよね。
それと同じで、毛皮は体温を保つために保温機能は高めるけど、そのために発汗による冷却機能は下がっているのだ。
つまり、人間はあるときから、体を温めるよりも、冷やすことの方が重要になる生活形態に移行した、と考えられるわけ。
ちなみに、ウマの毛皮をみるとわかるけど、非常に短髪でその上を汗が流れるのだ。
なので、走らせた後のウマはよくワラで汗をふいてあげないとカゼを引いてしまうんだよ!

では、なぜ保温よりも冷却が重要になったのかだけど、それは、人間が森を出て、草原で暮らすようになったことと関係している、と書かれていたよ。
森の中にいる限りは、食べ物もそれなりにあるので、基本的には採取生活ですむのだ。
すると、できるだけエネルギーを節約して、時々食べ物を食べる、という生活の方が有利なわけ。
一方、草原の場合は、食べ物も豊富でなく、何より身を隠すところもないので、常に狩猟や隠れるために動き続けなければならないのだ!
これが冷却機能が重要になった理由で、長時間動き回るからこそ、体から適切に排熱することが求められたんだよ。
人間は短距離走ではほとんどどの動物にも勝てないほど足が遅いけど(100mを10秒で走れても時速は36km/hで、カバの最高時速の40km/hより遅いのだ。)、長距離となると断然人間が有利なんだって。
実際にマラソンのように長時間走り続けることができるのは人間くらいで、それも汗をかいて体を冷やしながら動けるからなんだそうだよ。

記事の中では、この冷却機能の向上がもうひとつの恩恵をもたらした、と考察しているのだ。
それは脳の発達。
あまりにも高熱になると脳機能に障害が出ることが知られているけど、それくらい脳という組織は熱に弱いそうなのだ。
ところが、きちんと体を冷却できるようになったので、熱に弱い脳を大きく発達させることができるようになるのだ。
実際、森に棲んでいたと思われる猿人は脳の容積がかなり小さく、ほとんど類人猿と変わらないけど、草原に棲んでいたと思われる原人まで来ると格段に脳の容積が大きくなっているそうなのだ!
走り回るために毛をなくしたことで、ついでに脳が発達してより高次で複雑な脳機能を持つに至ったというわけ。
これってなんだかすごいよね。

というわけで、なかなか興味深く読めて、感心するところもあったのでついつい紹介したくなったのだ。
こういう研究は考えを巡らせるだけで、検証できないことだけど、いかに矛盾なく説明できるかという点で考えていく、というのは非常におもしろいのだ。
これこそ人間の思考力の極みだよね。

2010/03/20

マグロ問題はマクロな視点で

最近ニュースでよく取り上げられている食材と言えばクロマグロ。
日本人の食生活には欠かせない存在が禁輸措置で価格が高騰するかも、ということだったんだけど、なんとか回避できたみたいだね。
でも、クロマグロって超高級品だから、もともと庶民が口にする機会はごくごくまれだったような・・・。
更に手が出せなくなるってことかな?
で、せっかくなので(?)、今回はマグロについて調べてみたよ。

マグロはあたたかい海を回遊している大型肉食魚類のひとつで、海の食物連鎖でも最上位に位置する海の王様。
日本近海でもとれるけど、多くはインド洋や太平洋、大西洋といった外洋で水揚げされるのだ。
広い海を悠々と、というか、かなりの超スピードで泳いでいるんだよね。
その時速は最大で100ノットと言われるから、時速180kmを超える速さだよ!
おそろしく速く泳いでいるのだ。

でもでも、よく言われるように、マグロは泳いでないと死んでしまうんだよね・・・。
これは、自分でえらぶたを動かして呼吸することができないためで、えらぶたを開いた状態で泳ぎ続けることでえらに海水を通し、呼吸をしているのだ。
止まるとえらに海水が入らなくなり、呼吸できなくなるというわけ。
これはサメも同じだよ。

そのため、マグロは持久力に優れていて、その証拠があの独特の赤身なのだ。
赤身の肉質は筋肉中にミオグロビンが多い証拠。
これは有酸素運動に必要な酸素と結合するタンパク質で、人間でも長距離走のランナーは筋肉が赤いというのだ。
逆に、スプリント型の瞬発力が必要とされるアスリートは筋肉中にミオグロビンが少なくて肉質が白っぽくなるよ。
これが白身の魚で、普段はゆったり泳いでいるけど、とっさの時にさっと急加速や急展開して逃げ回るような魚に多いのだ。
さらに、マグロの場合は独特の紡錘形の体型による水の抵抗を抑え、より少ないエネルギーで泳げるようになっているんだ。
しかも、トロに代表されるように脂肪も蓄えているので、その脂肪を有酸素運動で燃焼させながら長時間の運動ができるようになっているよ。

ただし、常に泳いでいるためか、マグロは水揚げされてからも脂肪の燃焼が続いていて、放っておくと体温が上昇していってしまうのだ。
それにより、すぐに冷やしたり、尾の付け根を切って血を抜いて「活け締め」しめないと身が白っぽくなってしまうのだ。
これがいわゆる「身焼け」という現象で、せっかくの味が損なわれてしまうんだよね。
なので、つり上げられたマグロはすぐに氷水につけられたり、冷凍されたりするのだ。
そうしないと鮮度と味が保てないんだ。
泳いでいる間は海水でどんどん冷やされているようで、この体温上昇は侮れないもののようなのだ。

このマグロにもいくつか種類があって、その中でも最上等のものと言われるのが本マグロ。
今回まさに話題になったクロマグロだよ。
希少価値が高く、なかなか本物にはお目にかかれない高級魚なのだ。
次に高級なのはクロマグロとして市場に並ぶタイセイヨウクロマグロ。
本マグロが日本近海から太平洋にかけて生息しているのに対し、こちらは名前のとおり大西洋に生息していて、大きさもちょっと大きめみたい。
そして、インド洋のあたりにいるのがミナミマグロで、これが寿司屋でもよく名前を見かけるインドマグロ。
身に脂が豊富なので、寿司ネタのトロとして珍重されるのだ。

以上が高級マグロで、そのほかが庶民的(?)なマグロ。
その代表格は目が大きいことから名付けられたメバチマグロ。
日本での流通量は最大で、スーパーなんかで見かけるお刺身はこのメバチマグロが多いよ。
ツナ缶として加工されることが多いのはビンナガマグロ(ビンチョウマグロ)やキハダマグロ。
小型のマグロで、赤身が多く脂肪分が少ないのでツナ缶に加工されるんだけど、その中でもビンナガマグロはホワイトミートと呼ばれ高級品なのだ。
生食需要の高まりでビンナガマグロが「ビントロ」としてトロの部分が寿司ネタに使われることも増えてきたみたい。

いずれも世界的に食用に供されるようになったのでだんだん漁獲量が減ってきていて、それで絶滅危惧種に指定されているものもあるのだ。
今回のクロマグロの禁輸措置もそういった乱獲を抑制する意味合いがあったわけだけど、マグロを食べている国と輸出している国の意向が合致して賛成・可決に至らなかったようなのだ。
とは言え、そのままとり続けたら減っていくわけで、漁獲量を制限したりする必要はあって、その調整の枠組みはあるのだ。
さらに、ハマチなどの魚のように養殖の技術も開発されつつあって、現在では幼魚を育てるだけでなく、卵を孵化させてからの完全養殖にも成功しているみたい。
ただし、もともと長距離を回遊する性質があるし、皮が弱く、すぐに傷ついて死んでしまう、成熟に時間がかかるなどの課題があって、コスト高みたい。
ただし、とれなくなれば重要な技術にはなるんだよね。
ちなみに、稚魚から育てる養殖の場合、逆に稚魚の乱獲にもつながるので、生体数の維持という点では問題があるのだ。

マグロは日本ではかなりむかしから食べられていたことが知られていて、縄文時代の貝塚からも骨が見つかったりしているんだって。
でも、すぐに実が腐敗してしまって扱いづらく、今のように全国各地で食べられるというようなものではなかったようなのだ。
江戸時代には赤身を長期保存されるために醤油ベースの調味ダレにつけた「ヅケ」がメインで、それが寿司ネタにも使われていたようだけど、今とは違って下魚扱いで庶民の食べ物だったそうだよ。
お金持ちは鯛などの白身の魚を珍重していたのだ(落語の「目黒のさんま」もそうで、むかしは脂がのった魚はどちらかというと下品な食べ物だったのだ。)。
それが戦後になって冷蔵・冷凍保存技術が進んで流通が可能になると全国的に食べられるようになり、更に、味覚の変化で脂ののった身が好まれるようになると、トロがもてはやされるようになり、現在のように高級魚になっていったのだ。
近代化後もツナ缶に加工されることが多かったわけで、大きく扱いが変わったみたい。

ちなみに、俗にカジキマグロと呼ばれるカジキ類はマグロとはまったくの別種で、身の肉質や味がマグロに似ているのでそのように呼ばれるみたい。
カジキは口先が剣状に鋭く延びている分だけマグロより体長は大きいけど、ほぼ同じくらいの大きさの大型肉食魚類。
やはり海の食物連鎖では最上位に位置しているのだ。
カジキの場合、新鮮なものなら刺身も食べられるようだけど、主には焼いたり揚げたりと火を通すことが多いよね。
身は蛋白でありながら適度に脂ものっていてぱさつかないので、普通にソテーにしてもおいしいのだ。

マグロやカジキでもうひとつよく話題になるのは水銀等の生物濃縮の問題。
食物連鎖の頂点に立つので、水質の汚染があると、水銀などの有害物質が体内に貯まってしまうのだ。
これは水銀などの有害物質はなかなか排出されないので、体の中に蓄積されてしまうからなのだ。
マグロなんかは大量の小魚を食べるので、その分がどんどん貯まっていってしまうんだ。
なので、妊婦さんにはできるだけマグロやカジキなどの大型魚類を食べさせない方がよい、と指導されているよ。
最近はそういうところも気をつけないといけないから大変だよ(>_<)

2010/03/12

なめしてガッテン

新婚旅行でイタリアのフィレンツェに行ってきたんだけど、フィレンツェの名産と言えば革製品。
確かに街中にも自分の工場で革製品を作って売っているお店を見かけるのだ。
いわゆるブランドものではないけど、けっこう人気の品みたい。
かく言うボクも、お財布を購入してしまったのだ!
で、気になったのは革製品を作る前段階の皮なめし。
なんかしていることはわかるんだけど、いまいち何をしているかがよくわからなかったので、調べてみたのだ。

皮なめしというのは、動物などからはぎとった生の「皮」を加工して、製品原料となる「革」に加工することを指すんだって。
生きている間は伸縮性も柔軟性もあるけど、死んだ後の皮をそのままにしておくと当然腐ると、徐々に硬化してきてぼろぼろになってくるので、手を加えて腐敗を防ぎ、柔軟性と伸縮性を維持させる技術なのだ。
さらに、水や熱に対する耐性も高め、長持ちするようにするんだよ。
確かにハンドバックやベルト、お財布が腐ってきたらやだよね・・・。

具体的には、生皮から腐敗しやすい動物性油脂やタンパク質を除去し、網目のシート状構造を構成している繊維タンパク質のコラーゲンを安定化させるんだ。
でも、そのままだと少し固いので、そこに後から油脂を加えてしなやかにし、場合によっては表面加工をしたり、染料を加えて色を付けたりするよ。
古い加工法では、火の上で皮を拡げて煙でいぶし、薫製と同じように皮のタンパク質を変質させて長持ちさせるということをしていたようだけど、これだとどうしても固いまま固まってしまうんだよね。
で、できたものをよくたたいたりしていると多少やわらかくなってきて、やっと製品加工できるようになるのだ。
でも、そんなにしなやかな仕上がりとはいかないのは当然だし、煙でいぶしているだけなので中までタンパク質を変質させることはできず、そのためにそんなに長期間もたないのだ。

そこで発明された加工法が皮なめしで、まず生皮を水に浸して柔らかくし、川に着いている肉や脂をよくそぎ落とし、脱毛した後に消石灰を加えるのだ。
そうすると液中で水酸化カルシウムができるんだけど、これにより液性が塩基性(アルカリ性)になって、コラーゲンのような繊維状でない余計なタンパク質を溶かし出すんだ。
これはタンパク質中のアミド結合を加水分解し、より水にとけやすい分子量の小さなポリペプチドに分解する作用があるためだよ。
水酸化ナトリウム溶液を触ると指の表面がぬるぬるするけど、あれは指の表面のタンパク質が水酸化ナトリウムで溶かされているためで、あれと同じようなことが起こるのだ。
さらに、水酸化カルシウムによって皮の中に含まれる脂肪酸が鹸化され、水に溶けるようになるのだ。
こっちは手作り石けんと同じ原理で、脂肪酸と水酸化カルシウムが反応して石けん用の物質ができるんだけど、それは水によく溶けるので皮の中から脂肪分が除去されるということなのだ。

余計なタンパク質と脂肪を取り除いたら、今度は脱灰。
これは酸を加えて中和するとともに、液中からカルシウムを除くのだ。
一般にカルシウム塩は水に溶けにくいものが多く、酸を加えていって液性を酸性にまで持っていくとカルシウム塩が沈殿するんだ。
最初に入れて消石灰由来のカルシウムを除くので脱灰というわけ。
さらに、液性を酸性にしておくと、次のなめし工程に使うタンニンが皮に浸透しやすくなるのだ。

今では工業的に作られたものが使われることが多いようだけど、むかしは柿渋などの天然植物由来のタンニンを使ってなめしを行っていたのだ。
酸性溶液でもタンニンはなかなか皮に浸透していかないので、薄い溶液から徐々に濃い溶液に何度もつけていくことで、皮の中までタンニンがしみ込んでいくようにするんだって。
タンニンがしみ込んでいくと、繊維状のコラーゲンなどのタンパク質と反応し、網目状に絡み合っている繊維タンパク質同士をさらに化学反応で結びつけて、その網目構造を安定化させるのだ。
これにより熱に強く、丈夫で長持ちする革になるというわけ。

でも、このままではまだ固いので、この後に油脂を加えてなめらかさ、しなやかさを出すのだ。
シャンプーした後にリンスをすることでとりすぎてしまった油脂を補充するのと同じようなものだよ。
なめしが終わったら、液性を中和し、よく水洗い。
その後、半乾きのうちにヒマシ油などの加脂剤をまんべんなく塗り込んでいくのだ。
染料をしみ込ませたいときはこの工程と合わせて行うみたい。
で、引っ張ってよく乾かしたら、たたいて伸ばしてやわらかくするのだ。
最後に表面を磨いてできあがり。

このタンニンなめしの場合、何度も溶液につけないといけないのでどうしても工程数が多くなるのだ。
そこで考案されたのが化学的になめしを行うクロムなめし。
これはタンニンの代わりに塩基性硫酸クロムなどの化学薬品(いわゆるミョウバンのようなもの)を使ってなめすんだけど、よく浸透するので一度ですむのだ。
この場合、クロムイオンが間にはさまって繊維タンパク質同士を錯体として架橋することで、網目構造を安定化させるのだ。
タンニンでなめすと自然と仕上がりは茶色くなり、型くずれしにい、染料で染めやすい、吸湿性がよい、使い込んでいくうちにつやが出てなじんでくる(柔らかくなってくる)などの特徴のある革ができあがるんだけど、クロムなめしの場合は、仕上がりが青白く、伸縮性が翼柔軟でソフト、吸水性が低く水をはじく、耐久力があり熱に強い、といった特徴の革になるんだって。
ただし、クロムなめしをした革を焼却処分すると有害な物質が出てくるので、最近では原点回帰でタンニンなめしが見直されているらしいよ。

ようは余計なタンパク質と脂肪を除いてから、繊維タンパク質を変性させて安定化させればよいので、他にもアルデヒド・ホルマリンやジルコニウムなどの金属イオンでなめすこともできるみたい。
さらに、むかしながらの手法としては、油をよくしみ込ませてなめす方法もあるのだ(ただし、耐久力などは低め。)。
さらに、日本の伝統的な白なめしという方法では、生皮を川に着けてバクテリアの力を借りて脱毛し、その後塩入れ、菜種油による油入れを経て、天日干しをしながら足でもんで徐々に柔らかくしていく、という一切のなめし剤を使わない方法もあるんだって!

さらに、なめした革の加工法としては、表面にエナメルペイントを施したエナメル皮(靴などにうよく使われるつやつやのやつ)、毛でなくて肉が付いていた内側の方の表面をヤスリなどでけずって起毛させたスウェード(表面がビロード状になったやつ)、逆に毛のついていた外側をヤスリなどでけずって起毛させたヌバック(いわゆるデザイン目的のダメージ加工)などなどがあるのだ。
上からロゴなどをプレスして型押しもするし、クラッキングと称してわざと最初から表面にひび割れを入れることもあるのだ。
加工品を作ってから脱色・染色をするものもあるみたい。
スプレー缶なんかもあるけど、表面に樹脂の膜を吹き付けてはっ水・防水加工をすることもあるよね。
と、様々な目的・用途に向けて加工されていくのだ。

この天然皮革の対極にあるのが人工皮革。
いわゆる合皮、合成皮革で、これはベースとなる布地に樹脂などを付着させて皮革のようにしたもので、天然皮革に比べて手入れが簡便、品質が安定、水に強いなどの特徴があるよ。
ただし、やっぱり色合いがチープな印象を与えたり、使い込んでいくうちになじんでくる、ということもないので、人工皮革の方がもてはやされるのだ。
さらに、むしろ合成皮革の方が劣化が早い携行があるんだよね。

というわけで、皮なめしについて調べてみたけど、けっこう奥が深い技術だよね。
今となってはどういう化学反応が起こることで丈夫で長持ちな革になっているかがわかっているけど、それを経験的に試行錯誤の末に培ってきたんだからすごいものだよ。
革製品って身近なものだけど、あなどれないよね。

2010/03/06

とろっとした乳

春が近づいてきて、八百屋さんやスーパーでもイチゴをよく見かけるようになってきたのだ。
お菓子でもイチゴ味のものが季節限定で増えるんだよね。
で、イチゴと言えば日本人におなじみなのがコンデンスミルク。
ボクは酸味があるのが好きなのでそのまま食べることが多いけど、コンデンスミルクをかけて濃厚な甘みを楽しむ人も多いよね。
でも、このコンデンスミルクって、加工乳なんだろうな、ということはわかるんだけど、どういうものなのかよく知らなかったので、ちょっと調べてみたのだ。

いわゆる「コンデンスミルク」と呼ばれている缶やチューブに入ったどろどろの乳製品は、食品衛生法に基づく厚生労働省令の「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(通称「乳等省令」)」においては「加糖練乳」と定義されているのだ。
乳脂肪分8%以上、乳固形分28%以上、かつ、すべての糖分58%以下というのが成分規格なんだとか。
これを見ただけでも、カロリーが高そうだよね、半分以上が糖分なわけだし。
英語ではsweetened condensed milkというらしいので、コンデンスミルクというのは和製英語みたい。

甘みの強い乳製品というイメージがあるけど、もともとは糖分を加えて浸透圧を高くすることで雑菌の繁殖を抑え、保存性を高くするために作られたらしいのだ。
一般的には牛乳に砂糖を加えて煮詰め、液体に光沢が出てきたくらいで加熱を止めて冷却。
しばらく寝かせておくと粘性の高いコンデンスミルクができあがるのだ。
しょ糖(砂糖)は結晶化せず、乳糖は最小限の結晶となる限度まで糖分を添加しているそうで、ぎりぎりでざらつき感のない、粘度の高い乳液にしているんだって。
もともと保存用なのでむかしのものは容器に充てん後の加熱殺菌は行っていなかったようだけど、今は耐熱式のチューブなんかもあるので加熱殺菌後に出荷することが多いみたい。

日本ではイチゴにかけたり、かき氷にかけたりというのが一般的だけど、ベトナムコーヒーではコーヒーミルクの代わりに使うんだよね。
生クリームを入れるウインナーコーヒーよりもさらに甘く、濃厚なミルク感のコーヒーになるのだ。
今はジョージア・ブランドの一員になっているマックスコーヒーもコンデンスミルクを入れることで甘さと濃厚さを売りにしていた缶コーヒーだったんだよね。
当初は新鮮な牛乳が得られないところで水やお湯で割って飲んだりしていたらしいんだけど、さすがに流通が発達してたいていの地域では生乳が手にはいるようになったので、今ではそういう使い方をすることはないのだ。
粉状の脱脂粉乳だと食品材料としてよく使われるんだけどね。

コンデンスミルクは、加糖練乳というくらいなので、糖を加えない練乳もあるのだ。
それが無糖練乳。
こっちは乳等省令で「濃縮乳であって直接飲用に供する目的で販売されるもの」とされていて、その規格は「乳脂肪分7%以上、乳固形分25%以上、かつ、細菌数0」なのだ。
コンデンスミルクと違って過剰な糖分で雑菌の繁殖を防げるわけでないので、「細菌数0」という基準が加わるんだよね。
一般的には、牛乳を加熱殺菌して半分くらいになってとろみがつくまで煮詰め、それを感などの容器に封入してさらに加熱殺菌をするのだ。
生乳を煮詰めるだけでなく、脱脂粉乳やカゼイン(乳タンパク)などの粉末乳製品や植物性脂肪、増粘多糖類(いわゆる寒天のようなもの)を加えて風味を付けるものが多くなってきているとか。
そのものを見かける機会はあまりないけど、ホワイトソース(ベシャメルソース)やミルク風味のお菓子の原料に使われることが多いみたい。
これは英語でevaporated milkと呼ばれるので「エバミルク」と呼ばれることもあるけど、ときどき飲食店で業務用の「エバミルク缶」を見かけることがあるよね。

練乳はさらに奥が深くて、糖を加える・加えないだけでなく、生乳原料が脱脂乳原料かの違いもあるのだ。
脱脂乳に糖を加えて煮詰めれば加糖脱脂練乳、そのまま脱脂乳を煮詰めれば無糖脱脂練乳。
コンデンスミルクもエバミルクも規格上乳脂肪分の基準があるので、脱脂乳由来の練乳は別のカテゴリーにわけないといけないんだよね。
乳脂肪少なめ或いは脂肪0とうたった乳製品・ミルク風味食品に使われるみたい。

日本ではあまりなじみがないけど、コンデンスミルクをさらに火にかけて煮詰めていくとできるのがミルクジャム。
南米ではドゥルセ・デ・レチェとして知られるキャラメル風味の乳製品なのだ。
キャラメル風味だけど茶色くなるのは糖同士が重合反応をしていくキャラメリゼ(カラメル化)ではなく、糖とアミノ酸が反応するメイラード反応なんだって。
トーストやごはんのおこげ、黒ビールやチョコレートの色素と同じようなものだよ。
キャラメルは生クリームに水飴、砂糖、バターなどをまぜて加熱しながら練り上げるので、できあがった姿は似ているけど別物なのだ。
キャラメルがソフトキャンディとして主に食されるのに対して、ドゥルセ・デ・レチェはそのまま固めて食べるだけでなく、スプレッド(ピーナッツバターのようにパンにぬるもの)として使ったり、お菓子の原料にしたりするみたい。

というわけで、意外に牛乳を濃縮しただけのように見えても広がりがあるのだ。
乳製品は発酵させたり、乳脂肪分を分離させたりといろいろと加工されるけど、加熱濃縮に糖分添加でさらにバリエーションが広がるんだねぇ。
日本ではそんなに乳製品を食べてこなかったのでよくわからない部分も多いけど、それこそ欧米の文化では牛乳を使い尽くす的な発想があったんだろうね。
感心するのだ。