2010/10/30

New Comer

そろそろ「新米」の季節♪
とれたて、というか、今年収穫された新米が食卓に上るのだ。
この時期になると新米フェアなんてのもあるよね。
ただでさえ秋で食欲がわいているのに、おいしいお米でますます太ってしまうかも・・・。

そんな「新米」だけど、これはその年に収穫されたお米を指すのだ。
もっと古いのが古米で、これは前の年に収穫されたもの。
さらにさかのぼると1年前になるごとに「古」が増えて、「古々米」、「古々々米」となっていくのだ。
むかしの学校給食では、国が備蓄していた古米や古々米を使うことが多かったんだよね。
米の流通が国がしっかり管理していたころの名残なのだ。
今の給食はもっとおいしいお米を食べているのかもしれないけど。

食糧庁がしっかりと管理をしていたころは、11月1日から始まる米穀年度で管理をしていて、11月1日を基準に新米と古米を分けていたのだ。
これは主に10月に米の収穫が行われていたからなんだけど、水郷地域などでとれる早稲(わせ)なんかだと9月くらいに収穫できてしまって(これを早場米と言うのだ。)、もともと合わないんだよね。
しかも、一時期主流になったコシヒカリは典型的な早場米なので、この区分で考えると適切ではなくなってきたのだ。
さらに、米の備蓄計画上は7月からの1年間を単位としているので、これまたずれているんだよね・・・。
なので、ざっくりと今年とれたお米、去年とれたお米くらいの認識の方がよかったりするのだ(笑)
ちなみに、日本農林規格(JAS)法に基づく「玄米及び精米品質表示基準」では、新米と表示できるのは収穫年の年末までに精白・包装された精米に限られるので、そもそも玄米の状態だと新米と表示できないし、買える時期も限られるみたい。

一般に新米はみずみずしくて香りもよく、光沢があって粘り気があると言われていて、古米はその逆で、水分が少ないために硬く、古米臭という独特のにおいがして、黄色っぽくて光沢もなく、粘り気も少ないのだ。
玄米の状態だと数年保存できるので米は食糧として重要だったんだけど、やっぱり保存期間が長くなると味の方は劣化していくのだ(>_<)
これは水分が少なくなることで細胞壁が硬くなって水を吸いにくくなっていたり、中に含まれる脂質が分解されて脂肪酸になり、さらにそれが酸化されて古米臭と黄ばみの原因物質ができたりするからなんだって。
さらには、脂肪酸がデンプンと混ざることで粘り気のもとである糊化が妨げられたり、デンプン分解酵素やタンパク分解酵素の活性が落ちて甘みやうまみが少なくなったりもしているんだ。
こういう複合的な要因で味や香りが落ち、なんだかぱさぱさで硬いお米になってしまうわけ。
当然、古米より古々米の方が質が落ちていて、保存時間とともにどんどん劣化していくのだ。
そんなわけで新米が珍重されるんだよね。

でも、古米もそんなに悪いばかりじゃなくて、寿司飯なんかの場合は水分が少ない方が酢がなじむといってわざわざ古米を使ったりすることもあるみたい。
ピラフやチャーハンなんかの場合もぱらっと仕上げるためには古米の方がよかったりするのだ。
もともと粘り気の少ない、ぱらぱらのお米を食べている東南アジアの人たちからすると、むしろ新米の方がねばねばしていて気持ち悪いみたい・・・。
後はカレーとかドリアとか雑炊とかにおいやぱさつきが気にならないような料理に使うというのも手なんだよね。

一方で、古米をおいしく炊きたいというニーズもあるわけで、いろんな方法があるみたいだよ。
有名なのはもち米を1割程度まぜて炊く方法で、こうすると足りなくなった粘りが増強されるのだ。
それから、単純なことだけど、しっかり研いでよく水につけてから炊く。
しっかり研ぐことで表面の少し黄色くなったにおいのある部分を削り取り、さらに、よく水につけてしっかり膨潤させてから炊くとぱさつきにくいのだ。
ほかにも、寒天を少し入れて炊く、はちみつを混ぜて炊くなど、ぱさつきを押さえつつ、においもごまかして、という方法があるみたい。
中には「にがり」を入れて炊くなんていうのもあって、こうすると浸透圧が高くなるのでよりお米に水が浸透しやすくなってつやつやに炊けるそうなのだ。

というわけで、日本では古くからお米を主食にしてきていたこともあって、新米と古米を区別したり、古米をおいしく食べる工夫をしたりといろいろと考えてきたのだ。
やっぱりお米の文化のくになんだねぇ、と感心するよ。
でもでも、最近は保存技術も向上してきているので、むかしほど古米は劣化していないんだって。
低温で湿度管理して保存するので、おいしさを持続できるのだ。
これもまたすごいことだよね。

2010/10/23

木はむかしを知っている!

先週テレビでインディー・ジョーンズを見たのだ。
言わずと知れた考古学者が主役のアドベンチャーだけど、あんな行動的な考古学者って想像がつかないよね。
実際はもっと地味に、土をはらったりしながら発掘してそうなのだ(笑)
そもそも、あんな迷宮みたいな遺跡はほとんどないだろうし。

で、そんな(?)考古学分野で重要なのは年代測定。
それがいつの時代のものかを判別することなのだ。
ときどき、世界最古が変わったりしてニュースになるよね。
思ったより古い時代よりこの文化があった!、なんてのは大発見だし、年代を詳細に測定してみると実は案外新しいものだった、なんてのも。

この年代測定として現在広く行われているのが炭素年代測定。
遺跡から発掘された木材や木製の道具、土器などに付着している穀物のかすや炭なんかに含まれる炭素原子から年代を測定する方法だよ。
金属とかだけじゃわからないのが難点だけど、炭素はいろんな形で存在しているので、そんなに困らないのだ。

その方法というのは、自然界にわずかに存在している放射性同位元素の14Cの量を測定すること。
14Cは大気の上層部で宇宙線から発生する中性子が窒素に当たり、水素を放出してできるのだ。
この14Cは半減期約5,730年というスピードでゆっくり崩壊して、β線を出しながらもとの窒素にもどるんだ。
植物は生きている間は光合成をして大気中の二酸化炭素を取り入れていくので14Cの存在率は大気中と同じなんだけど、死んでしまうと新たに取り込まれないので、このゆっくりとしたスピードで減っていくのだ。
大気中の14Cの存在率はほぼ一定なので、どれだけ減ったかでどれくらい前に死んだか新たに14Cを取り込まなくなったかがわかるわけ。
切り倒されて木材として使われたり、収穫されて煮炊きして食べられた時代がわかるということなのだ。

14Cの検出にはβ線を測定するわけだけど、どうしても検出限界があるので数万年前くらいまでしかさかのぼれないんだって。
また、ごく微量のβ線を検出しているので誤差もあって、数十年~百年ほどずれることもあるのだ。
(今では加速器をつかって直接14Cの数を数える方法もあって、それだとより性格に測定できるそうだよ。)
さらに、実際には大気中の14Cの存在率は一定ではないので、その値で較正する必要があるのだ。
1950年代以降は核実験のせいで大きく14Cの存在率が変わっているとのことで、基本は1950年の値をもとに、そこから何年さかのぼるか、という調べ方をするんだって。
ちなみに、この原理を発見したリb-博士はノーベル化学賞を受賞しているのだ。
日本では理化学研究所と学習院大学で最初に研究が始められて、今でも拠点になっているみたい。
学習院って意外だよね。

で、年代の較正に使われているのがやっぱり木を使ったもので年輪年代測定というもの。
温帯や冷帯に生えている樹木には年輪ができることが知られていて、その年輪を数えると樹齢がわかる、というのは小学生でも知っていることなのだ。
この年輪を使って年代を測定するのが年輪年代測定(そのままだけど・・・。)。
年輪を数えるだけだと樹齢しかわからないけど、年輪の幅のパターンを比べることで、その年輪がいつくらいに形成されたものかわかるようになるというのだ。

年輪の幅はその年に成長して太くなった部分だけど、これは日当たりや雨量などの気候や、樹木の種類によっても変わってくるよね。
これを複数の資料を調べて年輪のパターンを平均して標準化していくと、もっとマクロな気候の影響だけが抽出できるのだ。
これは猛暑とか冷夏とか、、暖冬とか厳冬とかそういうレベルの大きな気候の影響だよ。
で、そのパターン曲線と、年代を調べたい年輪の幅のデータをつき合わせると、一番パターンが合致するところがその年輪の年代だとわかるわけ。
これをクロスデーティングというそうなのだ。

これを繰り返していくと、新しい方、古い方ともにパター曲線を延長していくことができて、現存しないような古い樹木の年輪パターンもわかるんだ。
年輪だと1年刻みで年代がわかるわけだけど、その年輪の部分から試料を取り出して炭素年代測定をすると、14Cのレベルも較正できるというわけ。
これでかなり正確に年代が測定できるのだ!
技術の進歩はすごいねぇ。

ただし、木材にしても穀類にしても、伐採や収穫した時期にすぐに使う・食べるというわけじゃないので、そこでも年代がずれるのだ。
食べ物の場合はせいぜい数年のレベルなので大きくきいてくることはないけど、お寺や神社などの建築物にはわざと古い材木を使ったりすると、仏像や神像は流木や朽ち木を使うことも多いので、そういうものはどうしても正確に製作年代は特定できないのだ。
ま、これは仕方がないんだけどね。
それでも、どのくらい古い木が使われているのかだけはわかるのだ。

2010/10/16

この時期は足下に気をつけろっ!

すっかりこの季節となったねぇ。
何かって言うとギンナン。
せっかくキンモクセイのよい香りがしてきたなぁ、なんて思っていると、街路樹の近くではあの独特の異臭が・・・。
普通に道に落ちているので、誤って踏むと1日中くさくなるのだ!
このギンナンがひとしきり落ちると今度は黄葉してすっかり秋の色合いに変わるんだよね。

ギンナンはイチョウのみなんだけど、見た目はオレンジ色のサクランボのような形。
外側にある果肉のように見える部分(実は外皮)がにおいの素で、その中に堅いからに包まれた淡い緑色のギンナンが入っているのだ。
火を通すとうっすらと黄色になって、秋の料理の彩りによく使われるよね。
ほんのり苦くて、大人の味なのだ。

調べてみて知ったんだけど、ギンナンっていうのは気になっている状態ではくさくないのだ!
で、これが地上に落ちて、軸が外れるとそこからにおいがしてくるのだ。
当然、踏まれて実がつぶれるともっとにおいが立ちこめるよ。
つまり、軸がついたままならそんなにくさくないので、もし拾うなら軸つきのままで集めるのがよいよ。
肉質化した外皮の表面以外が空気に触れると独特の異臭が発生するのだ。

この異臭の主な成分は酪酸。
実は足のくさい人のにおいの成分と同じで、ウシなどの反すうする草食動物のゲップのくささにも関与している物質なんだ。
もともとはバターの中から発見されたのでこの名前があって、ナチュラル・チーズの独特のにおいもこれ。
皮膚や粘膜に対して腐食性があるので、ギンナンを素手でさわってつぶれたりするとかぶれることがあるよ!
拾うときは要注意。
ちなみに、揮発性が低くてなかなかにおいがとれないので、その点でも注意が必要だよ。

このにおいのせいでニホンザルやネズミ、タヌキなどは忌避して食べないんだけど、なぜかアライグマなんかはそのまま食べてしまう見たい。
雑食界の横綱?
人間もくさいのを我慢して中身を取り出して食べているんだから、大関くらいはいっているかな(笑)
進化の過程で(といっても古代からそのまま残っている植物だけど)、実を食べられないようにくさくなったみたい。
でも、その戦略がうまくいったのか、中国大陸には原生代まで生き続け、それが日本にわたり、日本から世界各地に広まったのだ。

よく公園とかで拾っている人を見かけるけど、拾った後の後処理が大変なんだよね。
標準的には、水につけて水中でごしごし外皮をはいでいく、水につけたり土中に埋めたりしてしばらくまって外皮が腐ったところで水で洗い流す、などの方法で外皮を取り除くがあるのだ。
どちらにせよ、においを我慢しての作業だよ。
その後、から付きのまま乾燥させ、固いからを割って、薄皮をとって、とやると見慣れたギンナンになるよ。
しかも、外皮をとってしまうとけっこう実が小さいのだ(ToT)
売られているのは食品用に栽培されている種で、中粒~大粒らしいんだけど、一般的には小粒なんだよね。
ちなみに、農家の場合は大量に処理する必要があるので、洗濯機に入れてがっしゃんがっしゃんと洗って、その後からのまま天日干しするみたい。

ギンナンが好きな人はけっこういるけど、気をつけなくてはいけないのは中毒。
中にビタミンBの類似物質が入っていて、これが体内でビタミンBのじゃまをするのだ。
そうすると、ビタミンBの欠乏症の症状が出てくるわけ。
大人だとそんなに大量に食べなければ大丈夫だけど、子どもとかは気をつけた方がよいらしいよ。
食べ過ぎるとけいれんなどを起こすそうなのだ。
というわけで、秋の味覚を楽しむのもほどほどに。

2010/10/09

「学」の館

今回はノーベル賞が出たねぇ。
日本のお家芸とも言える有機合成の分野なのだ。
野依先生の研究成果もそうだけど、純粋な科学的な成果と言うだけでなく、生活に身近なものを作る化学工業プロセスにも使われている反応ということなので、まさに暮らしの中に生きている成果なんだよ。

で、今回気になったのは、ノーベル賞関連の報道の中にたまに出てくる日本学術振興会やら、日本学士院やら、日本学術会議などという組織。
同じような名前だけど、それぞれやっていることは違うのだ。
というわけで、普通の人はあんまり気にしないだろうこれらの組織についてちょっと調べてみることにしたのだ。

最初は日本学術振興会。
現在は文部科学省所管の独立行政法人になっていて、その前は、文部省の特殊法人。
科学研究費補助金(科研費)をはじめとした研究費による学術研究の助成(科研費については、文部科学省から事務委任を受けて交付事務などを実施しているのだ。そのほかにも、文部科学省からの委託を受けて様々な競争的資金等の業務を実施しているのだ。)や、学術の国際交流、研究者養成のための助成なんかを主な事業としているよ。
さらに、日本学術振興会賞や昭和天皇在位60周年を記念して創設された国際生物学賞などの顕彰もやっているよ。

もともとは、昭和7年に昭和天皇から御下賜金150万円をいただいた創設された財団法人日本学術振興会が前身。
これが昭和42年に特殊法人になり、特殊法人改革の中で現在の独立行政法人という形態になるのだ。
ちなみに、独法化するまでは、大学などと同じ「ac.jp」をURLに使っていたんだけど、独法化してからは「go.jp」になったんだよ(豆知識)。
イメージとしては、米国の全米科学財団(NSF)に近いかな?

この日本学術振興会が密接に連携をとることと、と法律上定められているのが次に出てくる日本学術会議。
これは内閣府に置かれた特別の機関で、日本学術会議法によって設置された「科学者の国会」なのだ。
もともとは文部省にあったんだけど、在り方の見直しが行われ、科学技術政策担当大臣のいる内閣府の所管に移ったんだって。
法律によれば、「科学者の内外に対する代表機関であり、科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させることを目的」としている機関で、任期6年で再任なしの210名の会員と任期6年で再任ありの約2,000人の連携会員、それに事務スタッフで構成されているのだ。
もともとは終身会員制をとっていたようなんだけど、上がつまることもあって在り方の見直しをしたときに任期を定めたんだって。
ちなみに、現在の会長は、宮内庁の御典医としても知られる金澤一郎先生なのだ。

ここは人文・社会科学を含む全学術分野の科学者・研究者が一堂に会し、研究者コミュニティとしての意見をまとめ、政策提言する組織なんだよ。
米国で言うと全米科学アカデミー(National Academy of Science)に置かれている研究評議会(National Research Council)が近い機能かな?
科学技術基本計画策定に当たっての提言などをまとめるのが代表的な例だけど、最近では、ホメオパシーに関する会長談話なんかが注目を集めたよね。
前まではそんなに動きは活発じゃなかったように思うんだけど、前の会長の黒川清先生の頃から積極的に提言をするようになってきているのだ。
研究者コミュニティ、科学界の声を国に届けるというのは大事なことだよね。

これと似て非なるものが日本学士院。
こちらは正真正銘の日本のアカデミーで、英国の王立協会(Royal Society)や米国の全米科学アカデミーと同列のもの。
「科学者の殿堂」とも表される栄誉機関としての機能と、研究機関としての機能があるのだ。
日本の場合は研究会をやったり、科学誌を発行したりしているくらいだけど。
それと、日本学士院賞や恩賜賞などの顕彰もやっているよ。

文部科学省設置法と日本学士院法に基づいて設置される文部科学省の特別の機関で、もともとは福沢諭吉先生が初代院長を務めた東京学士会院が前身。
その後帝国学士院に改組され、戦後に日本学士院として再スタートしたのだ。
こちらは今でも終身会員で、定員は150名。
会員には、非常勤の特別職の公務員として年間250万円ほどの給与が支払われるのだ。
文化的な貢献をした文化功労者の年金は年間350万円なので額面上もちょっと少なくて、かつ、給与として支払われるので課税対象ということなのだ。
手取りはもっと少ないってことだね。

似た組織が日本芸術院。
どちらも上野にあるんだけど、日本芸術院は文部科学省設置法に基づいて文化庁に設置された特別の機関で、個別法のある日本学士院とは位置づけが違うのだ。
また、日本芸術院は日本芸術院賞や恩賜賞などの顕彰と、「芸術の殿堂」としての栄誉機関の位置づけは同じなんだけど、自ら研究活動などは行っていない点は違うのだ。
こっちは終身会員で定員は120名、こちらは年金なしだよ。
これが一番大きな相違点かもね。

というわけで、似たような組織だと思われがちだけど、それは名前だけどけっこう役割は違うのだ。
こうやって知ってから報道とかで名前を目にするとまた印象が違ってくるかも。
周りの人にも教えてあげよう♪

2010/10/03

食べたその後に

餃子っておいしいよねぇ。
でも、ニンニクが入っている餃子だと、においがどうしても気になってしまうのだ(>_<) とはいえ、あのにおいが滋養強壮にききそう、というイメージもあるんだけどね(笑)
それでも、そのにおいのメカニズムを知ると、なかなかおもしろいのだ。

いわゆる「にんにく臭」のもとはアリシンという物質。
これはにんにくに含まれているアリインという物質が、にんにくの細胞中にあるアリナーゼが作用してできる物質なのだ。
このアリインとかアリナーゼはネギ類によく含まれているもので、ネギやニラなんかのにおいも基本的には同じだよ。
にんにくでもニラでもネギでも、切ったりして細胞が傷つくとアリナーゼが出てきてにおいが発生するのだ!
ネギやニラは切ったとたんににおいがしてくるのはそのためだよ。

で、口の中でにんにくやネギ、ニラをかむと、同じようにアリインとアリナーゼが出会ってアリシンが生まれるんだけど、アリシンはわりと不安定な物質ですぐにほかの物質に変わっていくのだ。
そのひとつがアリルメチルスルフィドと呼ばれる物質で、これがにんにくを食べた後の不快な口臭の原因と言われているよ。
ところが、この物質は口臭だけでなく、実は汗の中にも分泌されたりするので、実際には体中がにおっているんだよ!
というのも、このアリシンから派生していく物質はのきなみ脂溶性が高いもので、すぐに粘膜から吸収され、血流にのってしまうのだ。
で、揮発性も高い物質なので、血液を介して呼気や汗の中に出ていったとき、においのもとになるというわけ。
にんにくを食べた後はいくら歯磨きをしてもそんなに意味はないのだ。
むしろ、コーヒーや緑茶に含まれるタンニン、牛乳に含まれるタンパク質など、におい物質を吸着するものが含まれているものを食後すぐに飲む、という方が効果があるみたい。
でもでも、すぐににおい物質はできているので、緊急の対処(?)が必要だよ。
あ、においが出てる、と気づいたときにはもうだいたい遅いのだ。

逆に、このにんにくのにおいをありがたがる人たちもいるんだよね。 その典型がにんにく注射。 名前だけ見るとにんにくのエキスを注射しているみたいだけど、実際には、注射をした後ににんにく臭がするのでそう呼ばれているだけで、注射されている薬剤はビタミンBの誘導体なんだ。
ビタミンB誘導体は活性型ビタミンBとも呼ばれるもので、普通のビタミンBより吸収率が高いのだ。
胃腸が弱っているときや、強度のビタミンB欠乏(いわゆる「脚気(かっけ)」)だとビタミンBが吸収しづらいので使われるんだ。
普通の食生活を送っている限りは水溶性ビタミンのビタミンBが欠乏することはそんなにないので、注射してまで補給するものかどうかはちょっと疑問なんだよね。
ちなみに、水溶性ですぐに尿中に排泄されるから、そんなに過剰摂取を気にしなくても大丈夫だよ。

このビタミンB誘導体で有名なのがアリナミン。
にんにくを研究していて生まれたと言われているんだけど、これは、にんにくに含まれるアリシンがビタミンBが結合してアリアチミンになると吸収率が上がる、という発見がもとなのだ。
さらに研究をして、薬として安定性を高めたのがプロスルチアミンというやつで、これが初代のアリナミン。
当時は錠剤だったのだ。
でも、このプロスルチアミンは、にんにくのにおい成分をもとに開発しただけあってにんにく臭が強かったんだよね。
そこで、にんにく臭を減らす研究が進められ、コーヒーの香り成分を結合させた「におわない」ビタミンB誘導体を開発したのだ。
それが今のアリナミンのフルスルチアミンだよ。
最初は黄色い錠剤だったけど、やがて黄色いドリンク剤になったのだ。
(黄色い色はビタミンBの色だよ。)

にんにく注射で使われているビタミンB誘導体も似たようなもので、だいたい黄色いんだよね。
でも、まだにおい成分が残っているものを使っているので、打った後ににんにく臭がするのだ。
にんにくを食べた場合よりもひどくて、すぐに血中に入るので、打った直後からにおいがするよ。
普通なら否定的にとらえられてもおかしくないのに、にんにくはむかしから滋養強壮にきくと言われていたので、肯定的に受け取られているみたい。
アリナミンならにおいなしで同じ効果だけど。
でも、どのみち普通にちょっとつかれているくらいの人なら、注射してまで補給する必要はないので、ほとんどが精神的な効果(プラセボ効果)じゃないのかな?