2011/10/29

原器ですか~?

先週の土曜日、気になる記事を見つけたのだ。
それは、「キログラムの定義を見直す」というもの。http://www2.blogger.com/img/blank.gif
これまでは1kgの標準となる「キログラム原器」というおもりがあって、それと比較して決めていたのだ。
それが、洗浄したり、ほこりが付着したりして微妙に重さが変わるので、現在の精緻な測定には耐えられない、という判断があったみたい。

そこで調べてみたんだけど、このキログラム原器というのは白金(プラチナ)90%・イリジウム10%で作られた円柱形の分銅。
フランスで40個作り、それが世界に配布されているのだ。
おおもとの「国際キログラム原器」(=一番正確なもの)はパリ郊外のセーヴルにある国際度量衡局にあるのだ。
日本ではつくばにある産業技術総合研究所計量標準総合センター(旧工業技術院計量研究所)にあるよ。
米国の場合は米国国立標準技術研究所(NIST)が管轄しているのだ。
で、フランスのおおもとの原器と各国に配布されている原器を約10年ごとに比べて校正するんだって。

当初は単純に水1リットルの質量として定義されたのがキログラムなんだけど、水の堆積は温度や気圧で変化するので、改めて特定の温度・圧力下での、空気の溶けていない蒸留水1リットルの質量として定義されなおしたんだって。
その重さを体現したのが白金・イリジウム合金の原器というわけ。
これは真空中に厳重に保管されているんだけど、洗浄すると少し軽くなったり、ほこりがつくと少し重くなったり(と言ってもマイクログラム=100万分の1グラムのオーダーだけど)するので、もっと普遍的な定義に見直そう、というのが決まったのだ。

一番有力なのは、ケイ素(Si)原子○個分の重さ、という定義で、ケイ素は非常に安定な物質で、不純物をほとんど含まず単結晶を作ることができるので(純度の高い水晶のことだよ。)、一番向いているだろう、と選ばれたわけ。
一般に、1モルことアボガドロ定数(6.02×1023)の個数の原子があると、質量数にグラムをつけた質量になるんだよね。
例えば、自然界に最も多いケイ素の安定同位体だと28Siだと28g。
でも、これはそうなるような数をアボガドロ定数と定めているので、むしろ本当に何個でそうなるかを精度よく決める研究が必要なのだ。
それを今後4~5年やって、新しいキログラムの定義に活かそうというわけ。

一方、メートル原器というのはすでに使われていないんだよね。
かつては長さの基本単位としてキログラム原器と同様に使われていたんだけど、もっと普遍的な定義を置いたことで使われなくなったのだ。
やっぱり白金90%・イリジウム10%の合金製で、両端についている目盛りの間の距離が、摂氏零度のときにちょうど1メートルになるように作られているんだ。
やっぱりフランスが30個製作して、各国に配布していたんだよ。
日本ではキログラム原器と同様に産業技術総合研究所に保管されていたのだ。
ところが、この白金・イリジウム合金は比較的化学変化が少ないとはいえ、熱で膨張・収縮したり、ちょっとゆがんだりと不具合もあるんだよね。
長さについても高い精度が求められるようになったことを受け、より普遍的な定義を置くことになったのだ。
ちなみに、米国のNISTがそもそも最初のメートル原器に誤差があることを見つけているそうだよ(>o<)

そこで19世紀終わりに出てきたのは、特定の光の波長をもとに定義しようという考え。
20世紀になってからも議論を続け、やっと光の波長に基づく定義を見直したのだ。
具体的には、希ガスのクリプトン86(86Kr)の真空中での電磁スペクトルであるオレンジ~赤色の発光スペクトルが示す波長の1,650,763.73倍と等しい長さ、ということになったんだよ。
ただし、メートル原器はそれなりに使いやすいこともあって、1960年までは使われたみたい。

でも、やっぱりまだ不確実性が残るので、より普遍的なものが求められるようになったのだ。
それは光を使った定義。
相対性理論でも光速は一定という前提を置いているけど、これを使って、光がある時間に真空中を進む距離、という形式で1メートルを定義したのだ。
宇宙では「光年」という距離の単位を使うことがあるけど、こっちは「光秒」だよ。
光速が299,792、458m/sなので、逆にして1/299,792、458光秒ということになるのだ。
ほぼ同時期にセシウム原子時計が確立されていて、時間の単位の「秒」が精度よく定義できるようになったことも影響しているみたい。
ちなみに、原器が廃止された後は、測定結果が基準になるため、基準となる計量器が特定されるようになるんだって。
これはキログラムも同じだろうね。

メートルはもともと海抜0mの地球の子午線の4万分の1の長さと定義されていたんだよね。
実は、これはフランス革命に前後する時代。
キログラムの定義もほぼ同じ頃に検討されているのだ!
ちょうど世界的視野でものごとをとらえる転換点だったんだろうね。
度量衡の統一というのは中国の古代王朝でも行われたけど、国際的な取引をする際には避けては通れない道で、その途を拓いたのはフランスだったのだ。
スペインとかオランダ、ポルトガルなんかは世界を股にかけて交易していたけど、そういう発想はなかったんだよね。
逆に、フランスでは革命が起こって共和制になったので、古い絶対王政の時代に使っていた度量衡を使わず、新しい単位を作りたい、それも国際的に通用する単位が作りたい、という機運があったのかもね。
実際、フランスでは欧州で使われていたグレゴリオ暦に代わって、革命後に新しい暦(革命歴、熱月とか霧月とかあるやつだよ。)を作ったりもしたからね。
暦は広まらなかったけど(笑)

2011/10/22

夜に光る

世田谷で相当古いラジウムを使った夜行塗料が見つかって大騒ぎになっているのだ!
最初は「すわっ、都内でもホットスポットか?」と話題になったわけだけど、ふたを開けてみると、民家の軒下から放射性物質が「わきだし」たんだよね(管理下にない放射性物質が発見されることを専門用語で「わきだし」と言うらしいよ。)。
で、そのラジウムが入った瓶に「日本夜光」とかかれていて、どうもむかし使われていた夜光塗料ではないか、ということまでわかっているみたいだね。
もともと線量が高いことがわかってすぐ、出ている放射線のスペクトルを調べてセシウムではなさそうだ、というのがわかっていたようだけど。

で、この事件でわかってきたことは、けっこう最近まで放射性物質が入った夜光塗料が使われていたという事実(>o<)
ま、たいした線量ではないので、その夜光塗料が文字盤に使われた時計を身につけていても健康には影響がないはずだけど。
それでも、関心は一気に高まったよね。
家にある文字盤が光る時計を見て不安を覚えている人も多いかも、なのだ。

もともとレントゲン博士がX線を発見したときのエピソードは、目には見えないけど感光紙に反応する謎の照射がガラス管から出ている、というものだったんだよね。
それでよくわからないから「X線」と名付けたのだ。
さらに、ノーベル賞も受賞したキュリー夫人は、ウラン化合物からそのX線に似た透過力を持つ謎の光線が出ていることを発見。
これが人類による放射線の発見で、その放射線を出す能力を放射能と定義したんだよね。
目には見えないけど、フィルムを感光させるなど間接的に存在がわかったというのがみそなのだ。

今回見つかったラジウム化合物の場合、壊変するときに出てくる放射線で自ら励起され、蛍光を持続的に発するのだ。
いわば自然に発光するわけ。
この特性を利用して、夜光塗料として使われていたんだ。
最初は原因不明だったんだけど、この夜光塗料を使う人の中にがんになる人が頻発したことから、どうも塗料に含まれる放射性物質ががんに関係しているとわかってきたのだ。
よくよく調べると、職人さんたちが夜光塗料を塗る際に筆をなめていて、それで体内にラジウムなどの放射性物質を取り込み、内部被ばくをしていたという事実が判明。
ラジウムはカルシウムに似ているため骨に取り込まれ、けっこう長い間内部被ばくの原因となるのだ。
夜光塗料として使われ始めたのが1900年代初頭、がんの発生が認められ始めたのが1910~1920年代、世界中で使用が禁止されるに至ったのは1990年代なんだって。
もともと低線量だから、使い方に気をつければいいだけではあるんだけど。

それに代わって出てきたのが蓄光する夜光塗料。
事前に光を当てておくとエネルギーをためて、暗くなるとぼわっと淡く光るのだ。
最近では時計の文字盤だけでなく、照明器具にも使われているよね。
いきなり暗くならず、しばらくちょっとだけ明るいので便利なのだ。
電源がなくても光るので、避難経路を示す避難誘導板にも使われ始めているらしいよ。
そのほか、キーホルダーやアクセサリーにも使われているのだ。
放射性物質を使った自発光型夜光塗料と違って、時間がたつにつれて発光は弱まっていくのが特徴。
自分の時計の夜光塗料が気になる人は、しばらくながめていれば区別できるというわけ。

この蓄光型の夜間塗料が光るのは燐光が出ているため。
燐光というのは、物質に光などのエネルギーが当たって励起(エネルギー準位が高くなった状態に遷移すること)された後、より波長の長い(=エネルギーとしては弱い)光を出す現象の一つ。
もっと有名なのは蛍光だよね。
蛍光灯はその名のとおり蛍光で光っていて、水銀などから出てくる紫外線がガラス管の内部に塗られた蛍光物質を励起し、そこから蛍光として可視光が出てくることが光るのだ。

蛍光と燐光の違いはなかなかむずかしいんだけど、端的に言うと、外から光などでエネルギーを加えられてからすぐに光(=エネルギー)を放出して基底状態にもどるか、徐々に光を放出して基底状態にもどるかの違いなんだ。
図で示すと以下のようになるんだけど、蛍光の場合は励起された電子のスピンが対になっているので(一重項状態)、すとんとすぐに基底状態まで落ちることができるのだ。
一方、燐光の場合は、励起された電子のスピンが同じ向きにそろっているので(三重項状態)、すぐに基底状態まで落ちることができず、徐々に落ちていくんだ。
このため、蛍光は反射的にぱっと光って、燐光は持続的にぼわっと光るのだ。
この燐光の時間差を利用したのが蓄光というわけ。



ほかに光るものと言えばホタルの光や露点で見かけるサイリューム(これは登録商標で、一般名はケミカルライト)が有名かな。
ホタルの場合はルシフェリンという発光物質がルシフェラーゼという酵素の作用で光るんだ。
下村博士がノーベル賞を獲得した緑色蛍光タンパク質(GFP)の場合は、GFPとイクオリンというタンパク質が複合体を作っていて、それがカルシウム濃度の変化によって光るものだよ。
これはエネルギーとしてATP(アデノシン三リン酸)を消費して光らせているんだ。
こういうのは生物発光と呼ばれるよ。
ちなみに、ネコの目が夜に光って見えるのはこちら側の光を反射しているだけで、発光しているわけでないんだ。
道路にある反射板と一緒。

ケミカルライトの場合は、シュウ酸ジフェニルと過酸化水素を混ぜることで発光させるのだ。
チューブに入った状態では混ざってなくて、ぽきっと仕切りを折って外して混ぜると光り始めるよ。
シュウ酸ジフェニルが過酸化水素と反応すると過シュウ酸エステルになって、それがさらに酸化を受けると1,2-ジオキセタンジオンというとても不安定な物質(四員環化合物)が生じるんだ。
これはすぐに2つの二酸化炭素に分かれるんだけど、このときに出るエネルギーがまわりにある蛍光色素を励起させることが光るんだ。
蛍光色素を変えることで色も変えられるのが便利なんだよね。
使うときに熱も出ないし、持ち歩けるし、最近では軍隊や災害対策でも使われているよ。

というわけで、夜間に光るものもいろいろあるのだ。
太古のむかしは月明かりや星明かりしかなくて本当に暗かったんだろうけど、現代は身の回りに光があふれているんだねぇ。
中には今回のラジウムのようにちょっと心配なものもあるけど、電気がなくても光るものが意外と身の回りにあるよ。

2011/10/15

ギャンブル必勝法?

ネットで、「二度あることは三度ある」の確率を数学的に解いている記事を見つけたのだ。
なかなか興味深い(笑)
で、気づいたんだけど、意外と確率の話って誤解というか、あやまったイメージをもたれがちなんだよね。
特に顕著に出てくるのは、丁半ばくちとか、ルーレットの赤・黒、ハイ&ローなんかの確率が1/2の「出目」の読み方。
ここまで丁/赤/ハイが続いているから次は逆・・・、なんて発想があるよね。
でも、それこそが誤った認識というか、錯誤なのだ!

この考え方の基本になっているのは、二項分布の正規分布による近似なんだよね。
おそらく、大半の人はそんなこと考えたこともないとは思うけど、直感的に知っている話なのだ。
これは、ある確率pで発生する事象について、十分に大きい例数nで繰り返すと、その期待値はnpになる、というもの。
具体的に言えば、コインの裏表について、1,000回繰り返して投げると、表又は裏が出る期待値はそれぞれ500回程度、ということなんだよね。
もともと1/2の確率なんだから、半分程度になるだろう、という直感と一致するわけ。
すると、片方が多めに出ていると、次はもう一方が出ないとバランスがとれない、という考え方になるのだ。
これが錯誤、誤認のおおもとなんだよね。

実際には、近似式で計算すると、100回繰り返した場合、標準偏差は5になるので、60回以上表又は裏が出る確率は15.87%、65回以上表又は裏が出る確率は0.13%になるんだ!
これが400回繰り返した場合だと、標準偏差は10になるので、210回以上表又は裏が出る確率が15.87%、230回以上表又は裏が出る確率が0.13%ということになるのだ。
さらに、10,000回繰り返すと、標準偏差が500になって、5,500回以上が15.87%、6,500回以上が0.13%だよ。
これは、正規分布表を利用した簡便計算で、標準偏差σの振れ幅に入る確率として計算しているのだ。
1σの範囲を超える確率は15.87%、2σだと2.28%、3σだと0.13%なのだ。
でも、逆に言うと、100回繰り返した場合でも、40~60回の間にはいるのは68.26%で、1/3くらいの確率で10回以上の差がつく、とも言えるんだよね。

もっと小さい数で考えてみると、5回繰り返した場合に3回以上表又は裏が出る確率はなんと1/2!
5回だと全部で32通りのパターンが考えられるんだけど、そのうちの半分の16通りでは片方の目が3回以上出続けるのだ。
これを6回繰り返した場合を考えてみると、全部で64通りのパターン。
そのうち、6回連続になるのが表又は裏で2通り。
1回だけ別の目が出る場合を考えると、どのタイミングで別の目が出ても必ず3回以上連続することになるので、表と裏各6通りで12通り。
出目が4:2になる場合を考えるとそれぞれ9パターンあるので全部で18通り。
出目が均等な場合は対称性を考慮して全部で6通り。
すると、(2+12+18+6)/64=38/64で60%弱の確率となるのだ!
むしろ、6回繰り返すと3回以上続かない方が珍しいというわけ。
ちなみに、6回繰り返して4回以上連続する確率は16/64でなんと1/4なのだ。

こうなると、すでに続けて同じ目が出ているから次は逆、なんて発想は捨てた方がよいよね。
それに、3回連続で同じ目が出てもなんら不思議ではないのだ。
6回繰り返しただけでむしろ3回連続する方が起こりやすいわけだからね。
ボクたちがイメージしているほど、3回連続で同じ目が出るなんていうのは珍しいことではないのだ。
仏の顔も三度までとか言われても、けっこう頻繁に許してもらえなくなるね(笑)

でもでも、もっと重要なのは、いくらその前まで同じ目が出続けていようと、次に表又は裏が出る確率は確実に1/2でしかないということ。
出目の流れなんてはっきり言って関係ないのだ。
前までに出ている出目はすでに確定してしまった事象なので、その確率は考慮に入れる必要はないんだよね。
つまり、その時々の確率だけ考えればよくて、経緯は気にしてはいけないのだ。
全体的に見れば、確かに出目が何回も連続するのは珍しいことでかもしれないけど、それは最初から10回分なりをかける場合(スポーツ振興くじのtotoは全試合の勝敗を1回の投票で予想してかけるけど、そういうイメージ。)の話であって、前にどんな目が出ていようと、次に表又は裏になる確率は変わらないのだから、1回ずつの勝負であれば前のことをすっかり忘れてフレッシュな気持ち(?)で臨むのがよいわけ。

というわけで、上でぐちゃぐちゃ計算していたのは、実はそんなに意識しなくても、といううより、むしろ考えない方がよい話なのだ。
とは言え、まったくの無駄ではないんだよね。
それは本当に表又は裏の出る確率が1/2になっているかということ。
表又は裏が出やすいと、計算上の確率ではなかなか起こらないような事象(例えばずっと同じ目が出続けるなど)がより起こりやすくなるわけ。
ま、賭け事の場合はむしろ「いかさま」を疑った方がよいんだよね。
全体の流れを読むのはむしろいかさまが行われているのか、偶然性の下に行われているのかを見極める上で必要なのだ。
例えば、上の例から行くと、100回の結果で66回以上表又は裏が出ているんだとすると、かなりあやしいことになるよね。
逆に、出目が交互に出続けるのは実はものすごくまれな事象なので、むしろそういう場合はいかさまを疑った方がよいんだよ。
それは明らかに誤った確率の認識に基づいてバランスを考えて出目を細工しているはずだから。
気をつけなはれやっ!

2011/10/08

いざ!無限大の彼方へ♪

今年のノーベル物理学賞は超新星の研究で宇宙が加速膨張をしていることを示した研究者に贈られたのだ。
って、よく意味がわからないよね(笑)
毎年のこととは言え、物理学賞、特に宇宙関係の受賞は難しい話が多いような・・・。
でも、なんだかくやしいので、ちょっとだけ調べてみたよ。

宇宙の始まりは、今では「ビッグバン」で始まったというのが定説だよね。
でも、アインシュタイン博士が相対性理論を確立した近代物理学では「ビッグバン」なんて現象は信じられていなかったのだ!
むしろ、「静的な宇宙」、すなわち、厳然としてそこにあって、変化のない宇宙が広がっている、と考えられていたんだ。
普通は自分たちを取り巻く環境は、小さな変化はあるにしても、トータルでは不変と考えるからね。
ところが、相対性理論をつきつめていくと、宇宙はかなり動的であることがわかってきたんだ。

その中で出てきたのがビッグバンという理論。
ある時巨大な爆発が起こって、そのときに宇宙が生じ、現在に至るまで広がり続けている、という話だよ。
仮説として提示されたときは見向きもされなかったようなんだけど、宇宙望遠鏡にも名前を残したハッブル博士の研究で宇宙が広がっている証拠が示されてから、状況が変わってきたんだ。
ハッブル博士は、非常に遠くの銀河系やクエーサーの研究をしていたんだけど、そこから来る光を調べてみると、銀河の組成から想定される光の波長より長い波長の光が観測されている事実を発見したのだ。

これは光のドップラー効果によるもので、遠ざかっていく光源からの光は波長がより長く観測され(赤方偏移)、逆に近づいてくる光源の光は波長が短く観測されるのだ(青方偏移)。
光速は常に一定なので、音のドップラー効果とは違って、周波数でなく波長がずれるんだよね。
で、遠くにある銀河からの光を調べたら、核融合反応等の光源と考えられる現象で出てくるはずの光より波長が長い光が観測されたんだよね。
で、光源である銀河は観測点である地球から徐々に離れている、ということがわかったのだ。
調べてみると、離れている距離に比例して速い速度で遠ざかっていることがわかって、これを「ハッブルの法則」というのだ。

さらに、宇宙には宇宙背景放射と言って、全方向からマイクロ波が放射されているのが観測されるのだ。
これは熱源が光としてエネルギーを照射する黒体放射に換算すると絶対温度で3K程度。
これは宇宙の「気温」とも言うべきものなんだけど、この正体は、ビッグバンからしばらく後(38万年くらい後)に出てきた光の「なれの果て」と考えられているんだ。
ビッグバン直後は超高熱状態で光(光子)は自由に広がって運動できない状態らしいんだけど、ある程度冷えてくると自由に動けるようになるそうなのだ。
それが「宇宙の晴れ上がり」と言う瞬間で、このときに出てきた光が広がっていって、大きく赤方偏移して赤外線を通り越してマイクロ波にまでなったのが背景放射の正体と考えられているんだ。
で、この背景放射はどこでどの方向から測っても同じという等方性を有しているんだけど、それこそがビッグバンの時に出てきた光が広がったものが観測されているから、という証拠になるんだって。

こうした観測データからビッグバンによる宇宙生成が証拠づけられてきたんだけど、いくつか理論的不具合もあったのだ。
それを解決するのが日本の佐藤勝彦博士も提唱者の一人であるインフレーション理論というやつだよ。
けっきょく「原初」はどうなっていたのか、完全に「無」だったのかどうかなどの解決はついていないんだけど、理論的にいろんなことがわかってきて、かつ、一様と考えられていた宇宙(universe)は、実は同時並行的にいろんな状態が存在している「マルチバース(multiverse)」な状態であることもわかってきたんだそうな。
もうこの辺になるとついていけないよね(>o<)

ビッグバンに話をもどすと、相対性理論で考えていくと、まずいことがわかってきたのだ。
それは、現在推計される宇宙全体の質量では宇宙が膨張し続けるには不十分である、という計算結果。
もっと巨大な質量がなければ膨張が止まって収縮を始め、いずれは無次元の特異点に収束してしまうことになるのだ。
これを「ビッグクランチ」と言うんだよ。
でも、実際は広がり続けているので、何か観測できていない、足りない分の質量があるはずなのだ。
それで出てきたのが暗黒物質(ダークマター)。

重力が働いた痕跡として間接的には存在がわかるんだけど、正体が未だにわからないんだよね。
質量が0だと思われていたニュートリノ(小柴博士がスーパーカミオカンデで観測してノーベル賞を取った素粒子だよ。)に質量があったので、一時はダークマターの正体だ、と言われたこともあったけど、ニュートリノだけでは足りないのだ!
そこで、重力波観測装置(LCGT)というのを作ってその正体をつかもう、という国際大型プロジェクトも動き始めているんだ。
そのうち何かわかるのかな?

で、今回のノーベル物理学賞の受賞は、さらに踏み込んだもので、遠くにある超新星から出てくる光を調べていたら、想定したよりも速い速度で宇宙が広がっていることをつきとめた、という成果。
ハッブルの法則では距離と遠ざかる速度は比例するんだけど、実際に精度を高めて観測すると、加速膨張していることがわかったんだ。
つまり、現在も宇宙が広がる速度は少しずつ大きくなっているというわけ。
そうすると、現在推計されている宇宙全体のエネルギーだけでは説明ができなくなるのだ・・・。
そこで出てくるのが暗黒エネルギー(ダークエナジー)というやつで、よくわからないけど、宇宙を広げるように働く(物質同士が近づこうとする万有引力に抗して斥力として働く)ものが存在すると仮定したわけ。
なんだかこんな話が多いね(笑)

これでやっと今回の受賞研究の内容に行き着いたんだけど、このダークエナジーについてはほんとによくわからないんだよね。
現代物理学では、宇宙に存在しているすべての相互作用(重力や電磁気力、原子核内の強い相互作用や弱い相互作用)をひとつの理論で説明しようとする大統一理論の構築を目指しているけど、けっきょくはそこに行き着くことになるのだ。
ダークエネジーを解明することは、その大統一理論の構築につながるんだって。
もしこの理論を打ち立て、それが観測データから証明されれば、またノーベル賞受賞につながるはずなのだ。
これまでも宇宙の生成を巡ってはいくつもノーベル賞が出ているんだけどね。
実生活にはほとんど影響がない話のようだけど、壮大な話ではあるよね。
つい50年前の人たちはビッグバンもしらなかったわけだけど、今では多くの人は聞いたことがあるわけで、未来ではもっと一般の人も宇宙生成について詳しくなっているのかもしれないね。

2011/10/01

皇室の第一次産業

今週、天皇陛下が皇居内で稲刈りをされた、というニュースが流れたのだ。
いよいよ秋も深まってきたねぇ、と実感するニュースだよね。
意外と知られていないのかもしれないけど、皇居内には水田があって、陛下は毎年播種、田植え、稲刈りと稲作農業を御公務としてなされているのだ。
これに対して、皇后陛下は養蚕をされていて、繭をとって糸を紡ぐところまでなされているんだよ。
両陛下のスケジュールを見ていると、様々な公務の中にそういうのが散見されるのだ。
例えば、5月にはお田植え御養蚕の様子が紹介されているよ。

宮内庁の整理では、稲作と養蚕は我が国の農耕文化の中心という位置づけで、「伝統文化の継承」というカテゴリーで紹介されているんだ。
すでに御高齢で各種祭祀や儀式、行幸などで御多忙な中、毎年毎年取り組まれているのには頭が下がるよね。
計画停電時も23区内は対象外だったのに自主的に停電されるなど、常に国民の目線を意識されているようなのだ。
世界でも、国家元首自らがこうした儀礼的でなく農事に携わるのはきわめてまれなんだそうだよ。

もともと天皇家は農耕社会の中から生まれてきて、農耕文化とは切っても切れない縁があるのだ。
重要な宮中祭祀である新嘗祭は、その年に収穫された新米などの五穀の新穀を天神地祇にすすめるとともに、自らも食してその年の収穫を感謝するものだよ。
御自分もお食べになるのは、神、そして皇祖皇宗と一体化するためと言われているよ。
特に即位後最初の新嘗祭である大嘗祭はもっとも重要な祭祀といわれているのだ。
で、現在では、皇居内で獲れた新米が新嘗祭に使われているのだ。
御自分で育て、収穫した稲を使って行う祭祀であれば、感謝の念もひとしおだよね♪
まさに伝統行事の一環というわけ。

こうした宮中祭祀は天皇という存在の由来にも関係していると考えられているんだ。
欧州の王家の多くは王権神授説に代表されるように、神から支配する権限を授けられている、という形式になっていて、王と国民は支配者と被支配者とう関係なのだ。
で、旧約聖書の世界に見られるように、その支配者としての地位は「神との契約」によるもの、となっているんだよね。
なので、実は統治責任は被支配者たる国民に対してではなく、神に負っているので、国民から不評でもやめなくてもよいのだ・・・。

でも、日本の場合は実はそういう形式ではなくて、天皇家は農耕祭事を司る「シャーマン」という位置づけが強いんだよね。
農耕社会の中で、神に祈り、神の声を聞き、人々を導く存在なのだ。
なので、天皇家は、農耕社会の祭祀・儀礼の主催者というのが一義的な役割で、決して農民を支配する、というものではないんだよね。
実はこれが大和朝廷がずっと存続してきた理由の一つなのかも。
何かまずいことがあっても、それを鎮めるための祭事を執り行うことになるからなのだ。
日本書紀なんかでは「百姓」と書いて「おおみたから」と読ませるけど、被支配者というよりは国を支える者という意識が強いからそういう言い方になっているんじゃないかと思うんだよね。

ちなみに、中国の場合は支配者たる皇帝は天命を受けて支配者となるわけだけど、皇帝は国を治めるのみならず、四時の運行をも支配することになっているのだ。
つまり、季節の移り変わりや天候の順行にも責任を負っているわけ。
その意味では農耕社会との関係は西洋世界より濃厚なのだ。
でも、この関係は逆に言うと、冷夏や天候不順などは皇帝の「徳」に問題があるから、と考えられてしまうので、不作・凶作は皇帝の責任ということになってしまうんだ。
その意味では、皇帝は天に対して責任を負いながら、事実上支配民や農事にも責任を負う形になっているわけ。
なので、西洋世界に比べて王朝の交代、革命が起きやすい環境なんだよね。

でも、むかしから皇室で自ら稲作をしていたわけではないんだ。
現在のように皇居内で稲作を始めたのは昭和天皇で、昭和2年(1927年)のこと。
はじめは天皇自らが泥の中に入って農作業をすることに抵抗があったようだけど。
養蚕の歴史はもう少し古くて、明治4年(1871年)に昭憲皇太后が始められたんだって。
皇居内では、稲作は皇居内生物学研究所で、養蚕は紅葉山御養蚕所でそれぞれ行われているよ。
皇居内生物学研究所は、陛下が御専門のハゼの研究をされているところでもあるのだ。
日本の国家元首は世界でもめずらしい理系元首なんだよね(笑)

そんなわけで、皇室は都市に暮らすボクたち以上に季節の移り変わりと密着した生活をしているのだ!
日本の伝統的な姿を体現しているよね。
そういう意味では、今でも「国体」なのかも。