2011/11/26

ハレの日には麦を食え

今週の勤労感謝の日、上州名物のおっきりこみを家で作って食べたのだ。
煮ぼうとうとも呼ばれるもので、塩を入れずに水で練って延ばした麺をたっぷりの野菜と一緒に汁で煮込んで食べるんだよ。
山梨のほうとうとはちょっと違って、カボチャなどが入らない分、甘みは少なく、さっぱりしているのだ。
なかなかの美味。
イメージ的にはすいとんに近いのかな?

今でこそ小麦をよく口にするけど、どうも日本ではそれほどメジャーではなかったらしいのだ。
伝統的な小麦を使った料理としては、うどんやそうめんのような麺類、ほうとうやひっつみ、はっとなどのすいとん類、まんじゅう、麩など。
けっこうよく見かける気がするけど、実はどれも庶民が口にできるようになったのは江戸時代なんだとか。
それは、単純に挽き臼の問題らしいのだ。

小麦も大麦も日本には弥生時代には伝わっていて、ともに「五穀」として認識されていたのだ。
実際に記紀神話にも出てくるし。
でも、大麦はわりと簡単に脱穀して飯や粥にして食べられるので、食糧作物として普及したようなのだ。
(戦前のようないわゆる米麦混炊の麦飯ではなくて、大麦だけで食べたり、あらかじめ火を通した大麦を後で加えたりして食べていたようだよ。)
小麦は中心の溝が深いし、粒ももろいので引いたりつぶしたりして粉にしないと食べられなかったんだよね。
日本では稲や大麦、粟などそのままでもゆでたり炊いたりすれば食べられる穀物がよくとれたのでわざわざ小麦を工夫して食べることがなかったようなのだ(>o<)

でも、中国やインドでは小麦をよく食べるよね。
中国の麺や餃子などの点心やインドのナンは小麦粉を使っているのだ。
でも、これは気候が大きく影響しているんだ。
中国でもインドでも、小麦を食べるのは北の方。
南の方は稲作中心で米を主食にしていることが多いのだ。
つまり、より乾燥や低温に強い小麦の方が食糧作物として栽培にふさわしかったのだ。
東欧やロシアとかだともっと寒くて、その場合はライ麦なんかが栽培されるけど、これも気候の影響なんだ。

だったら大麦でもよいようなものだけど、小麦が主流になったわけはその中に多く含まれるタンパク質のグルテン。
大麦の場合はそのまま粥にして食べられるけど、いったん粉にしてしまえば、小麦はパンや麺にするともっちりとした独特の食感があっておいしいよね。
大麦のパンやライ麦のパンはどうしてもかたいのだ・・・。
その方が好きな人もいるみたいだけど。
ただし、大麦も主要作物には違いなくて、むしろデンプンが多く含まれることを利用して発酵食品のもとになっているのだ。
ビールやウイスキーは大麦で造るし、日本でも醤油や味噌、焼酎は大麦なんだよね。

日本に渡ってきた小麦はそれなりに食べられてきたんだけど、小麦粉に加工されて麺やまんじゅうなどになったのは鎌倉時代から室町時代にかけての話。
仏教、特に禅宗とともに点心が伝わってきて、麺や饅頭の手法が伝わり、それが日本式にアレンジされていったのだ。
ところが、挽き臼が普及していない日本ではわざわざ粉に挽く小麦粉は高級品で、お坊さんがおやつとして点心的なものを食べるくらいで庶民の口には入らなかったんだそうだよ。
たまにハレの日のお祝いの席で食べられたんだとか。
砂糖自体が貴重だったこともあるけど、まんじゅうはお祝いのお菓子だし、祝いの席で人が集まるとすいとんやうどんが振る舞われることがあたようなのだ。
というわけで、ちょうどこのころにいろんな料理法は生み出されるのだ。

日本での小麦文化が開花されるのは江戸時代。
やっと挽き臼が広まったのだ(笑)
それまでは臼の中で搗くだけだったのが、ようやく粉にできるようになったわけ。
で、同時に粉にしないと食べづらい蕎麦も広まっていくことになるのだ。
このころは税として米やそれに代わるものを納める必要があったわけだけど、流通経済も発展してきたので、それだけではなく、商品作物の栽培も盛んになるのだ。
それで様々な野菜や果物、お茶やたばこなどの嗜好品がより多く作られ、庶民の口にも入るようになるんだ。

小麦や大麦は春に収穫できるので、二毛作を行う上で稲の裏作物としてよく栽培されたのだ。
米は税で取られるけど、麦類は手元に残るから、自分たちが食べられるのだ。
で、大麦なんかは米の代替品として同じような料理法で食べられたわけだけど、小麦は挽いて粉にしてから食べる必要があったので、主に加工品になるわけだよね。
すいとん類はそのまま小麦粉を練った団子様のものを汁で煮るだけで簡単に作られるので、農作業の合間の食事として食べられたりしたみたい。
讃岐うどんの生醤油うどんのような原始的(?)なうどんも、ゆでて醤油を絡めるだけなので、同じような部類だよね。
いわゆるおそば屋さんで食べるような具の入った汁とともに食べるうどんはうどんをゆでるのと汁を作るので手間がかかるので、やっぱりハレの日の料理になるのだ。

パンのような生地にしてから食べるのはまんじゅう類だけど、あん入りのまんじゅうは砂糖が高級品なので、一般的な料理ではないのだ。
むしろ、長野のおやきのように、小麦粉で作った生地で具を包んで焼いて食べるようなものが主流。
上州名物の焼きまんじゅうも本来はあんが入っていないまんじゅうを串に刺し、味噌だれをつけて焼いて食べたもののようなのだ。
ちなみに、おやきは無発酵ぱんだけど、麹で発酵させてふっくらさせるまんじゅうはしパンだよね。

保存性の高い小麦加工食品を作って流通させたのはそうめんや稲庭うどんのような乾麺や麩のようなもの。
まずは長期保存を目的に作られたんだろうけど、保存が利けば流通するようになるのだ。
そうめんは江戸時代にもかなり流通していたみたいだし、麩も農閑期に農家で作られていたりもしたみたいだよ。
こういうのは現金収入になるので、当時としてはすごく重要な加工品だったはずなのだ。

戦国時代には一部にカステラやパンが入ってくるけど、西洋的な小麦食品がメジャーになるのは明治期以降。
それでも、明治時代はまだ大麦の方が主要な作物だったみたい。
それが逆転してくるのは戦後にパンやパスタなどが食卓によく並ぶようになってからなのだ!
そう考えると、意外と小麦を食べる習慣って最近のものなのかも。
やっぱり給食としてコッペパンと粉ミルクが支給されるようになり、多くの日本人がパン食になれたというのが大きいんだろうね。
でも、そこからさらに巻き返しがあり、お好み焼き、たこ焼き、焼きそばなどの粉もの文化が花開くのだ♪

というわけで、これから小麦加工品を食べるときは、江戸時代以降の伝統と明治期の西洋食文化の導入、そして、戦後の日本食文化としての再興に思いをはせていただく必要があるよ!
ま、おいしければなんでもよいんだけど。
お米も大事だけど、小麦や大麦も大事な食文化としてきちんと残していきたいね。

2011/11/19

1秒間に1京回!

先日次世代スパコン「京」がまたまたスパコン世界ランキングで1位になったのだ!
その直前にLINPACKというプログラムを使った速度測定で10ペタフロップス(1秒間に浮動小数点演算を1京回する、という速さだよ。)という速度を達成したのだ。
LINPACKというのは、いろいろな機能のあるスパコンの早さを比較するために使われるベンチマークプログラムで、これで世界トップ500を決めているんだ。
それで2回連続1位を獲得したわけ。
中国が追い上げてきているし、米国はスペック的にはもっと上を目指したスパコンを開発中なので抜きつ抜かれつだけど、うれしいのはうれしいよね♪
やっぱり2位より1位がよいのだ!

国が民間企業と共同でスパコンを世界最速のスパコンを開発した最初は航研スパコンこと「数値風洞(NWT)」というもの。
これは流体シミュレーションを行うもので、それまで大型の風洞実験施設でモデルを使って実験していた流体実験をコンピュータ上で再現するんだ。
このときはこういうスペックで流体シミュレーションをしたい、というのがあって、それに見合うスパコンを作ったら世界最速に躍り出たというわけ。
これは関係の研究者に非常に評判がよくて、このスパコンを所有していた航空宇宙技術研究所(現在は統合して宇宙航空研究開発機構)はこの分野のCOEとなったのだ。

その次は有名(?)な地球シミュレータ。
これは海洋研究開発機構が持っているよ。
これは地球規模で大気の動きなどをシミュレーションするために開発されたスパコンで、できた当時は温暖化予測などで話題になったのだ。
もちろん、世界最速というところも注目されたし、世界最速の座から転落されたときはもっと大きく報道されたのだ(>o<)
ま、マスコミとしてはそっちの方がおもしろいんだろうね。
ちなみに、世界最速の称号は2年半にわたって維持したのだ(5期連続)。

これは航研スパコンの成果を引き継いで、さらにバブル崩壊で落ち込んだ日本の産業基盤を活性化するため、高性能・高速のスパコンを開発が目指されたという経緯があるのだ。
で、それをどの分野に使うか、ということになったとき、それまでは計算量が多すぎてなかなか精緻なシミュレーションができなかった大気の動きや気候変動予測などの分野が選ばれたんだ。
全地球規模で同時にシミュレーションができるので、その名も「地球シミュレータ」になったわけ。
ただし、このときはすでに世界最速のスパコンを作ることが大きな目的になっていて、「やりたいこと」が先にあったわけでもなかったのでアプリケーションが弱いとの批判があるのだ(ToT)
確かに、十分に使い切れないのか、地球シミュレータを使った研究を公募する事業も文部科学省の補助で行われているんだ(他に大学等の大型研究施設も共用の対象だよ。)。
とは言え、国が税金を使って整備した最先端機器だから、それを広く共用しようという意味が強いんだろうけど。

そして、第3世代となるのが、次世代スパコンとして開発された「京」。
ここに至っては、我が国のフラッグシップとして世界最速のスパコンを作ること自体が目的になっているので、「コレ」というアプリケーションは特に想定して折らず、「汎用型」となっているんだ。
それゆえに批判もあるんだけど・・・。
ちなみに、どういう分野で使えそうかは当然わかっているので、今はアプリケーションの開発に向けた予算投入も始まっているのだ。
せっかく瞬間風速だとしても世界最速になったのだから、よいアプリケーションを作って活用してもらいたいよね。

で、この「京」には生みの苦しみもあったのだ。
それは途中で開発主体のひとつだったNECが撤退したこと。
航研スパコンを開発したのは富士通、地球シミュレータはNECで、その両者がタッグを組んで開発に取り組んでいたのだ。
でも、このNECが途中で採算が合わない、と撤退し、富士通のみが残ったのだ。
それでも、開発計画を見直した上で、所期の目的の10ペタフロップスという計算速度は実現したわけ。

富士通とNECの役割分担は、スカラー計算を行う部分を富士通が、ベクトル計算を行う部分をNECが担当、というもの。
スカラー計算というのはひたすら単純な計算を繰り返し行うもので、まさにLINPACKやら円周率計算やらを早く正確に行うのに向いているのだ。
一方、ベクトル計算というのは、複数の計算を同時並行的に行うもので、複数のパラメータを同時に変えなくてはいけないような複雑な計算が得意。
地球シミュレータではまさにそれなわけ。
実はこれは日本の強みでもあったんだ。

でも、単純に一般のパソコンのCPUをどんどん高度化して行くイメージのスカラー型に比べ、ベクトル型は特殊なので、開発にもよりお金がかかるというデメリットがあるのだ。
さらに、省電力性能でもスカラー型はかなりよくなってきているのに比べ、ベクトル型にはどうしても限界があるみたい。
さらに、最近では並列処理計算といって、ひとつの計算機の中でスカラー型のCPUを複数個同時に動かしてひとつの計算をすることで、これまでスカラー型が苦手としていた複数変数の同時計算がかなりよくできるようになってきたのだ!
2009年には長崎大の助教が3,800万円という破格で地球シミュレータを越える計算速度を持つスパコンを組み上げたんだけど、これは市販のCPUを760個使って並列処理をするものなんだ(ちなみに、CPUを同期させて一つの計算をさせるところが難しいのであって、単純にCPUを多く使えばいいってものでもないんだよ。)。
これによりベクトル型にはこの先限界が見えてきた、ということみたい。
で、けっきょく「京」ではスカラー型に絞ることにしたんだけど、並列処理により複雑な計算もできるようにはなっているのだ。
さらに、他のスパコンとネットワークでつなぐことで、さらに計算能力を高めようとしているわけ。
これがハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)と言われる計画だよ。

もともと一つの計算を複数のコンピュータで分担して計算するという手法(分散コンピューティング)は前からあって、グリッド・コンピューティングとしてそれぞれが持っている計算資源(スパコン)の能力を持ち寄って、より高い計算環境を実現しよう、というものがあるのだ。
例えば、大学や研究機関のスパコンをつなぐ、ナショナル・リサーチ・グリッド・イニシアティブ(NAREGI)というものがあるよ。
HPCIの場合は、並列処理で計算能力を上げたスパコンをネットワークでつないでグリッド化し、さらに計算能力を高めようという魂胆だよ。
これにより、単独のスパコンとしては能力を抜かれても、総合力では勝てる可能性があるのだ。

というわけで、けっこうスパコン界も大変みたい。
「2位じゃダメなんですか?」なんてのもあったけど、本来は「やりたいこと」を実現するためのツールなんだよね。
でも、逆にツール側の技術力向上で新たにできるようになることも出てくるわけで、その意味では高性能スパコンの開発を進めることにも一定の意義はあるのだ。
なかなか難しい問題だけど、税金が投入されるプロジェクトなので、これからも「関心を持って見ていくことが大事なのかも。
個人的には勝てる分野ならフラッグシップ的なものも「あり」のような気もするけどね。

2011/11/12

よいマルチ?

予算委員会で3次補正予算案の審議が始まったと思ったら、中身は山岡大臣の「マルチ問題」・・・。
これでいいのか?、という気もするけど、この件も気になるのは確かだよね。
疑問符がつく人が担当大臣をしていていいのか、という問題もあるし。
で、個人的に気になったのは、この話で出てくる、「よいマルチ、普通のマルチ」という言葉。
「マルチ商法」って一般には悪いイメージだよね。
「よい」も何もないと思うんだけど・・・。

調べてみると、マルチ商法というのは法律用語ではなく、定義もいろいろあるので受け止め方に差が出てくる言葉のようなのだ。
法律上規制されているのは、「特定商取引に関する法律」で規制されている「連鎖販売取引」というもの。
消費者生活センターなどでは、この「連鎖販売取引」のことをいわゆる「マルチ商法」として表現しているみたい。
例えば、国民生活センターの相談事例なんかを見ていると、連鎖販売取引に関するトラブルのところで「マルチ商法」とあるのだ。
大学生が勧誘された例だけど、これは実際に平成16年に女子学生から相談があった実例みたい。

「連鎖販売取引」というのは特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号)第33条で定義されているんだ。
そのまま引用すれば、

第三十三条  この章並びに第五十八条の七第一項及び第三項並びに第六十七条第一項において「連鎖販売業」とは、物品(施設を利用し又は役務の提供を受ける権利を含む。以下同じ。)の販売(そのあつせんを含む。)又は有償で行う役務の提供(そのあつせんを含む。)の事業であつて、販売の目的物たる物品(以下この章及び第五十八条の七第一項第一号イにおいて「商品」という。)の再販売(販売の相手方が商品を買い受けて販売することをいう。以下同じ。)、受託販売(販売の委託を受けて商品を販売することをいう。以下同じ。)若しくは販売のあつせんをする者又は同種役務の提供(その役務と同一の種類の役務の提供をすることをいう。以下同じ。)若しくはその役務の提供のあつせんをする者を特定利益(その商品の再販売、受託販売若しくは販売のあつせんをする他の者又は同種役務の提供若しくはその役務の提供のあつせんをする他の者が提供する取引料その他の主務省令で定める要件に該当する利益の全部又は一部をいう。以下この章及び第五十八条の七第一項第四号において同じ。)を収受し得ることをもつて誘引し、その者と特定負担(その商品の購入若しくはその役務の対価の支払又は取引料の提供をいう。以下この章及び第五十八条の七第一項第四号において同じ。)を伴うその商品の販売若しくはそのあつせん又は同種役務の提供若しくはその役務の提供のあつせんに係る取引(その取引条件の変更を含む。以下「連鎖販売取引」という。)をするものをいう。
なんだけど、これじゃわからないよね(笑)
わかりやすく言えば、布団やら化粧品やら健康食品やらを販売する事業で、会員になって受託販売をすると、売上高や新規会員紹介でマージンがもらえる、という仕組みで会員を増やしていくものなのだ。
ただし、会員になるときに入会金が必要だったり、有料の研修を受けなければいけなかったり、一定量の商品をあらかじめ購入することを義務づけられたりするのだ。
受託販売のところだけ見るとフランチャイズに似たような感じもするけど、フランチャイズの場合はロイヤルティーを払って自らやらせてもらうんだよね。
なので、自分で事業をしているという感覚があるのだけど、マルチ商法の場合は、もともと売れたらその分マージンがもらえる仕組みで、「副業的に」とか「アルバイト感覚で」とか称してもっと安易にできるようなイメージがあるのだ。

実際に受託販売がうまくいくのであれば問題はそんなに問題は発生しないわけで、それがどうも「よいマルチ」らしいんだよね。
「マルチ商法」と言うと聞こえが悪いので、「ネットワーク・ビジネス」とかも言ったりするみたい。
ちなみに、類似のものに「マルチまがい商法」というのもあるよ(笑)
でも、多くの場合、商品が売れないのでマージンが入らない、というところで問題が発生するんだ。
その際、あらかじめ受託販売用に購入させられた商品が返品(クーリング・オフ)できない、とか、実はほとんど売れない商品でもともと会員の入会料だけで回していたような仕組みだった、とかのトラブルにつながるわけ。
簡単だ簡単だと言って高額な入会料や研修料をとる詐欺まがいの行為もあるんだ。
よい資格があると言って高額な料金を払わせて資格を取得させるけど実際には全く使えない資格だったとか、高額な研修を受けてもも実際は仕事を回してもらえないだとか、内職用の高額な器具を交わされても実際には儲からない内職だったとかの詐欺的な手口だよ。

ただし、この連鎖販売取引は、それ自体が禁止されているものではなく、一定の規制がかけられているだけ、というところがいわゆる「ネズミ講」との違いなんだよね。
もともと「特定商取引に関する法律」は悪質な訪問販売や通信販売を規制するためにできた「訪問販売等に関する法律」で、マルチ商法はそれが社会問題化してきたときにこの枠組みに入ったのだ。
で、新たな手口が出てきて問題が発生するたびに取り締まりを強化すべく改正を繰り返し、今の法律になったというわけ。
それでも、日々悪質な手口も進化していくので、「いたちごっこ」的ではあるんだよね(>o<)

連鎖販売取引の場合、クーリング・オフができるようにする、中途解約できるようにする、誇大広告をしない、強引な勧誘をしないなどの規制がかかっているんだけど、それをクリアすれば禁止されているものではないのだ。
とは言え、実質上はこの規制はとても厳しくて、ほぼ事実上の禁止に近いものになっているそうなんだ。
なので、「マルチ商法」かな?、と感じたら、とりあえず避けた方が無難。。
もしひっかかっていたら、早め早めに都道府県の消費者センターに相談するべきなのだ。
理論上「よいマルチ」というか「合法的な連鎖取引販売」は存在するけど、本当にそれがビジネスモデルとして社会に存在しているかははなはだあやしいのだ・・・。

ちなみに、「ネズミ講」は法律で禁止されているんだ。
「無限連鎖講の防止に関する法律」というのがそれで、その中で定義されている「無限連鎖講」がいわゆる「ネズミ講」。
親会員から子会員、孫会員とネズミ算式に会員を増やしていく過程で入会料を集め、それを上位会員に配当金として分配していくのでその名があるんだ。
会員が無限に増えていくのであればいいのだけど、実際には会員が無限に増えるわけではないので、ある時点で破綻し、末端の会員は入会料だけ払って配当がもらえなくなるのだ。
ピラミッドの上位にいた人だけはもうかっていて、それが成功事例のように映ると新規会員が増えてしまうんだよね・・・。

事業、ビジネスモデル自体に収入が見込めないのに、入会料だけで配当金を回そうとするとこの仕組みになるのだ。
今問題になっている「安愚楽牧場」の経営も、実質上これに近いことになっていたんだよね。
けっきょく肉牛はほとんど売れていなくて、新たな会員からの出資金をもとに配当を払っていたので、会員の加入がなくなった時点で破綻することは目に見えていたのだ。
ま、この場合は意図的にやっていたのではないので「ネズミ講」には当たらないのだろうけど、ウソのビジネスモデルでそういうことをすると「ネズミ講」になるのだ。

というわけで、世の中そんなにうまい話があるわけではなくて、楽してもうけようというのはうまくいかないのだ。
株取引とかで一夜にして莫大なお金を稼ぎ出す人もいるけど、それは一部の才覚のある人で、一般人ではそうはいかないのだ。
宝くじが当たるほど運がよければ別だけど、「誰でも楽にもうけられる」なんてうたい文句ウソっぱちなので、引っかからないように自分で気をつけないといけないよ!

2011/11/05

私の名はミミ♪

日本ではまだまだ浸透していないけど、テレビなんかではハロウィンの仮装の様子が報道されていたりするよね。
どうも日本の「お化け」のイメージと明るいのだ。
日本のものが「陰」なら、西洋のものは「陽」だよね。
西洋でも怖い「お化け」は当然いるんだろうけど、ハロウィンだとどうしても滑稽さが出て来るのかな?

そんなハロウィンの時期にふと思い出したのが、「耳なし芳一」の話。
子どものころに知って、かなり怖かった思い出があるのだ・・・。
命は助かるけど、「耳」は取られてしまうっていう、東洋的なあまり救われないストーリーは後味がよくないよね。
むしろ霊を慰めているくらいで、悪いことはしていないはずなのに(>o<)
で、記憶をたどると、最後に耳を取られて、「目も見えない、耳も聞こえない」とhttp://www2.blogger.com/img/blank.gifいう二重苦の状態になったものだと信じていたんだけど、どうもそれは勘違いだったみたい。
改めて小泉八雲さんの「怪談」に収録されている「耳無芳一の話」を読んでみると、耳を取られた後に和尚さんの声に気づいているので、聴覚の機能は失われていないのだ!

それもそのはずで、平家の怨霊に引きちぎられた「耳」は解剖学的には「耳介」と呼ばれる部分で、聴覚自体を担っているものではないのだ。
それこそむかしは戦争で耳がちぎれたりすることもあったろうから、耳がなくなっても音が聞こえなくなるわけじゃない、というのは知られていたんだろうね。
科学的な知識がないからといってバカにできなくて、むしろ経験則として現代人以上にいろんなことを知っている場合があるのだ。

人間の耳は、外耳、中耳、内耳と分かれていて、いわゆる「耳」は外耳の耳介という部分。
耳たぶのことは「耳垂」と言うんだそうだよ。
この耳介と耳の穴である「外耳道」を合わせて外耳と言うのだ。
これは空気の振動である音を集め、中耳に伝える役割があるのだ。
耳の後ろに手を当てると音がよく聞こえるようになるけど、耳介にはそういう集音機能があるわけ。
でも、人間の場合はそんなにその機能は発達していなくて、むしろ、後ろ方向からの音を遮ることで、どの方向に音源があるのかを確認することに意義があるのだ。
動物の中にはウサギのように耳を動かして音源方向をソナーのように探ることができるものもいるけど、人間は耳をほとんど動かせないので、首を回すしかないんだよね。
ちなみに、ゾウのような大きな耳介をラジエーターのように放熱器として使っている例もあるのだ。

鳥類やは虫類なんかだと耳の穴だけがあって、耳介はないんだよね。
鳥の場合は翼によって三次元的に動けるからそんなに水平面での音源方向探索は重要ではないのかも。
は虫類だと、においや赤外線なんかを感知していたりするから音よりもそっちの情報が重要なんだろうね。
ヘビやトカゲがぺろぺろと舌を出すのは周囲のにおい物質を集めているわけだし、ヘビはピット器官でサーモグラフィーのような知覚を得ているのだ。
ヘビなんかは鼓膜すら退化しているようだから、音は重視していないのは確実だね。

外耳道は耳の穴でここまでは空気の振動として伝わって来る音が、鼓膜によって固体の振動に変換されるのだ。
なので、鼓膜が破れてしまうと、その変換ができなくなるので音が聞こえなくなるんだよ。
ちなみに、外耳道はただ音を伝えるだけでなく、共鳴管にもなっていて、特定の周波数の音は共鳴で増強されて聞こえやすくなっているのだ。
共鳴させることで音のノイズもある程度キャンセルされるんだよね。
これにより、人間の耳にとって聞こえやすい音とそうでない音が出てくるわけ。

中耳には鼓膜があって、ここで空気の振動が固体の振動へと変換されるんだけど、これが蝸牛のある内耳に行くと液体の振動に変換されるのだ。
蝸牛の中はリンパ液で満たされていて、固体の振動として伝わってきた音はここで液体の振動に変換されるのだ。
蝸牛の中には有毛細胞という細胞表面に細かな「毛」が生えている細胞があって、液体が揺れるとこの毛がそれを感知するのだ。
すると、その機械的な刺激がカルシウムイオン濃度の調節に作用して、そこから神経を伝わる電気信号になるのだ。
揺れ方によって反応する有毛細胞が違うそうで、それで周波数の高低を区別するんだそうだよ。
よくできているねぇ。

ちなみに、薬剤による副作用の難聴はこの聴覚神経へのつなぎの部分に対する影響なのだ。
抗生物質のストレプトマイシンが有名だけど、これは電気信号への変換が阻害されるようなのだ。
薬をやめれば治るというわけでもないようなので、注意が必要なんだ。
最近ではその副作用の少ない薬剤も増えてきているようだけどね。

で、最後に、ちょっと気になったのが一時期話題になった「モスキート音」。
これは若者にだけ聞こえる音として注目を集めたのだ。
年齢が進むと高周波の音が聞こえにくくなってくるんだけど、それを利用しているわけ。
どういうメカニズムかはよくわからないんだけど、おそらく、筋肉が固くなることによって中耳での変換が悪くなるからじゃないかなぁ、と思うんだよね。
一般に若い方が肉は軟らかいのだ。
ただ、有毛細胞のところの劣化も老人性難聴では問題になるので、そっちかもしれないんだけど。