2013/06/29

氷をかじって病を防ごう

いよいよ6月も終わり。
これで半年が過ぎ去ったのだ。
で、この時期神社に行くと、大きな茅の輪があったりするんだよね。
これは「夏越しの祓え」と呼ばれる行事で、この茅の輪を「水無月の夏越しの祓えする人は千歳の命延ぶと言ふなり」と言いながら8の字に回ると無病息災が約束される、というものなのだ。

もともとは宮中行事にも取り入れられていた「大祓」のひとつで、正月から半年が過ぎる水無月の末(夏越しの祓え)と年末である師走の末(年越しの祓え)にそれまでの半年間の「ケガレ」を祓う行事なんだ。
古代日本では、「ケガレ」によって病気になったり、不幸が起きたりと考えていたので、これをなんとか身から落とすことが必要だったのだ。
その方法のひとつが茅の輪くぐりであり、紙で作った人型の依り代に名前や年齢を書いて川に流すようなこともしたんだ。
それが現代の夏越しの祓えにも続いているというわけ。
(旧暦の行事のはずだけど、お盆と一緒で新暦で行われるようになってしまっているけど。)

なぜ茅の輪が病除けにつながるかというと、それは「蘇民将来」の神話に由来していると言われているよ。
鎌倉時代の「釈日本紀」に引用されている「備後国風土記」の逸文によると、旅の途中で乞食のような人が一晩の宿を乞うたとき、裕福な弟の巨旦(こたん)将来は断ったが、貧しい兄の蘇民将来は快く受け入れ、もてなしたのだ。
この乞食のような人が実は神様である武塔神(むとうのかみ)で、巨旦の妻になっていた蘇民の娘に茅の輪の目印をつけさせ、それをつけていない巨旦の一族を滅ぼしたというのだ。
以来、茅の輪を目印にし、「蘇民将来之子孫也」の護符を門口に掲げておくと疫病による難を免れる、と言われるようになったんだ。
おそらく、先に茅の輪を作る風習があって、そこからこの話ができたような気もするけど、茅の輪は災厄を祓うイコンとなっているのは確実なんだよね。
(注連縄と同じように、神として崇拝される蛇を表しているとかなんとかあるのかもだけど。)

この神話に出てくる武塔神の正体は実は素戔嗚尊で、素戔嗚尊は牛頭(ごず)天王と同一視されているから、全国の天王社、須賀神社等々で護符や茅の輪守りが配られているよ。
中でも大きいのは祇園様こと京都の八坂神社。
祇園祭ももともとは疫病除けを祈願するお祭りで、やっぱり夏のお祭りなのだ。
どうも日本では夏に疫病除けを祈願する風習があるんだよね。
で、調べてみると、赤痢は夏の季語なのだ!
夏に流行することが多かったのかな?
また、衛生状況が悪かったので、梅雨明けでじめじめと暑くなる旧暦の水無月から長月にかけては食中毒も相当多かったんじゃないかと思うんだよね。
なので、疫病対策が重要な課題だったと考えられるのだ。

実は、年越しの祓えと同じように年末の宮中行事だった追儺(節分の原型と言われるけど、年末の行事なのだ!)は、疱瘡の疫鬼を石を投げて追い払うものなんだよね。
疱瘡は今で言う天然痘。
感染力の強い天然痘は基本的には時期を問わずに流行するから、疱瘡は季語にはなっていないみたい。
だからこそ年末にまとめて追い出したのかもしれないけど、むしろ、こういう時期を選ばないものは「祟り」や「怨霊」のなせる技と考えられるので、「御霊信仰」や「御霊会」によって鎮められるべきものになっていったんじゃないかな?
また、正月の七草がゆを作るときの囃し歌では「唐土の鳥が渡らぬうちに♪」と歌うけど、これは冬に感染症が流行することを想定していると考えられるんだよね。
乾燥した冬の時期だとやっぱりメインはそっちになるのだ。

で、夏越しの祓えの時期に京都で食べられる和菓子と言えば「水無月」。
そのままの名前だけど、白いういろうに粒あんがのっているお菓子だよ。
これがなかなかおいしいのだ。
冷ややかな見た目とさっぱりした甘さ。
これを夏越しの祓えに食べると無病息災がにつながると言われるのだ。

このういろう部分は氷を表しているようで、もともと旧暦の水無月の朔日に氷室から氷を出してそのとけ具合からその年の豊作・凶作を占うという行事があったようなのだ(氷の朔日の節句)。
春がどれだけあたたかかったのかを示すことになるから、けっこう科学的かも(笑)
で、このとき出してきた氷のかけらを食べると病気にならない、と言われていたんだって。
それが時期の近い疫病除けの夏越しの祓えと習合し、氷をかたどったお菓子を食べるようになったわけ。

粒あんの部分は氷室から出してきた氷についている砂や土という考え方もあるようだけど、より一般的には、小豆の魔除けの効果を狙ったものと考えられているよ。
日本ではむかしから赤や朱という色が悪いものを防ぐと考えていて、鳥居を赤く塗るのもそのため。
ついなの儀式では疫鬼を避けるのに赤いものを身につけていたらしいよ。
で、小豆もその色から魔除けの食材として重要だったのだ。
氷室の氷と魔除けの小豆で疫病除けの効果もパワーアップということだね!

2013/06/22

トロー・ミー

ときどきネットですごいものを目にするのだ。
それは「メシマズ」。
料理が上手でない、という以上に、食べるのが危険なものを作る人たちみたい・・・。
で、その中には、友人や家族の指導でなんとか上達していった、というものがあるんだけど、そういうものは、たいていの原因が、「味見をしない」というのと「レシピどおりに作らず勝手にアレンジする」というものみたい。
もともと味覚音痴の人もいるので、その場合はもう無理なんだけどorz

「レシピどおりに作る」っていうのは意外にできていないもので、あんまり人のことを言えない部分もあるのだ。
よくあるのは、カレーやシチューのルーのレシピで、「ルーはいったん火を止めてから割り入れる」とあるんだけど、たいていの人は弱火のまま入れて溶かしているんじゃないかな?
まさにボクもそうだったんだけど、実は、ここはけっこう重要なポイントのようなのだ!
火を止めてから入れ、十分溶かしてから再加熱する。
これだけでとろみがまろやかになり、ダマにもなりにくいんだって。

カレーなどのとろみはデンプンの糊化によるもの。
吸水したデンプンは加熱すると結晶構造がゆるみ、そこに水分子が入り込むことでゲル状になるのだ。
あんまり加熱しすぎると結晶構造が完全に崩壊してかえって粘度は低下するんだよね。
八宝菜とか麻婆豆腐とかのとろみのある料理を電子レンジで温めすぎるとさらっとなってとろみが消えてしまうのはこのためなのだ。
とろみは二度と復活しないので、もう一度水溶き片栗粉でとろみをつけるほかないよ(>o<)
鍋で温める場合はそこまで急激に加熱しないのでとろみは残るんだけどね。

カレーのルーのとろみの主成分は小麦粉。
ルーが溶けた状態で加熱されると、小麦粉の中のデンプンが糊化してとろみになるのだ。
このとき、火を止めずにルーを入れてしまうと、ルーが溶けきれないままルーの表面の小麦粉デンプンが糊化していてしまうんだ。
すると、ルーはさらに溶けにくくなって、ルーのダマができてしまうのだ(ToT)
これが火を止めてから入れるようにレシピに書いてある理由だよ。
まずは火を止めて加熱をやめ、余熱でルーを完全に分散させることが大事で、その後加熱してあげれば均一に小麦粉デンプンが糊化してなめらかなとろみになるのだ♪
給食のカレーでも、肉かと思ったらルーの溶け残りかよ!、ということがあるけど、きちんとレシピどおりにやればそういう不幸な事故は避けられるのだ。

水溶き片栗粉の場合も、失敗を少なくするためにはいったん火を止めてから加え、よくかき回してから加熱する、というレシピがあるよ。
プロは煮立った中にさっと「の」の字を書くように入れ、さっくり混ぜて作ってしまうんだけど、これはかき回す速度が重要で、もたもたしていると水溶き片栗粉は入ったそばから糊化していくので、ダマになっていくのだ・・・。
あらかじめ水と片栗粉を混ぜて十分に膨潤させておいて、入れる直前によくかき混ぜ、全体に広がるようにさっと入れてそのまますぐかき混ぜる、という手際の良さがあってこその技、ということだよ。
上っ面だけまねしてもなかなかうまくいかないのだ。
実は加熱時間も重要で、とろみが出てきたなぁ、と思ってからさらにしばらく加熱しないとまだデンプンの粒子が残っているので、口当たりがあまりよくない状態なんだって。
そこから完全にデンプン粒子が崩れるまでにはタイムラグがあるので、しっかり熱を入れて方がよいそうだよ(カレーなどの煮込みだとあまり問題にならない部分だけど。)。

ちなみに、とろみをつけることのメリットとしては、炒め物なんかだと表面につやが出て美しいというのがあるよね。
これは日本料理のくず寄せなんかでも同じ。
また、薄味でもしっかり味わえる、とか、冷めにくい、なんてのもあるのだ。
これはとろみの物理的性質によるもので、粘度があるので口の中での移動速度が遅くなるのだ。
すると、とろみがないさらっとしたものと比較してより長い間口の中にあるわけ。
舌の上で味を感じる味蕾にも長い間接するので、味を強く感じるのだ。
熱についても同様で、「のど元過ぎれば・・・」だけど、なかなかのど元を過ぎないのでより熱を感じているというわけ。
冷めるのが遅くなるわけじゃないので注意だよ。
ちなみに、冷めると塩分はより強く感じるので、冷めてしまったとろみがついた料理は塩辛く感じることが多いのだ。

というわけで、ちょっとした料理のこつというのは経験の中から出てきたものだけど、科学的にも妥当なものなんだよね。
レシピの中の工程や材料にはアレンジがきくところもあるけど、逆に絶対に外せない部分もあるので、そこの見極めがポイントってこと!
ここでセンスのあるなしが出てくるわけ(笑)
センスがよろしくないと、果敢な「アレンジャー」としてメシマズ路線に陥ってしまうのだ。
原理的なところまで勉強する必要はないけど、まずはレシピどおりちゃんとい作ってみる、その後ちょっとずつアレンジを加えてみて、失敗したらそれは二度とやらない、ということでしか上達はしないのだ。
メシウマの道は一日にしてならず。

2013/06/15

東アジアの新機軸通貨?

7月になると日韓通貨スワップ協定の30億ドル分が期限切れになるのだ。
まだ韓国から正式に延長要請はないらしいけど、東アジア経済の最大の関心事だよね。
アベノミクスで日本経済がけっこう盛り返してくる中、急成長を遂げている中国経済にも陰が見え始め、韓国経済も停滞気味だから・・・。
でも、それ以上にボクが気になる東アジアの経済問題は「チョコパイ本位制」なのだ!

もともとは韓国と北朝鮮の合同事業である開城(けそん)工業団地が震源地(?)なんだよね。
北朝鮮内の安価な労働力を活用しようと、韓国が資本を提供して工業団地を運営していたのだ。
今は両国の緊張関係で操業が止まっているけど、北朝鮮にとっては貴重な外貨獲得のドル箱だったみたい。
正規ルートで外貨が入ってくるわけだし、自国内の工業化も進むし、メリットが大きかったのだ。
でも、この団地で働く人口の95%以上を占める北朝鮮の人には、韓国側から給与が直接支払われることなくって、北朝鮮当局が一括して受け取っているんだって。
ということは、労働者にはきちんと給料がわたっていない可能性も・・・。

そんな労働環境の中、開城工業団地に工場を持っている韓国のアパレル企業が、労働者へのおやつとして「チョコパイ」を配りだしたんだよね。
そうしたら、これが大人気で、チョコパイの配給量が少ないと労働生産力が落ちるまでの事態に!
そこで急遽チョコパイ配給にかかるガイドラインまで作成されるに至ったのだ。
北朝鮮国内の状況は推測するしかないけど、おそらく食料は不足気味で、しかも、甘いものなんて貴重品だし、ましてやチョコレートなんてなかなか庶民が口にできるようなものではないだろうから、人気が加速したと思われるのだ。
戦後日本の「ぎぶみー・ちょこれーと」にちょっと通じるものがあるのかも。

で、工場内の労働者間で争奪戦が繰り広げられるだけでなく、いったん持ち帰られて取引されるようになってきているらしいのだ。
一説にはお米1kgと交換されるとも・・・。
北朝鮮ではすでに、チョコパイは単なるおやつではなく、裏経済の中で取引される重要な物品ともなっていたのだ。
慢性的な品不足お金があっても自由にものが買えないことがあるお国柄というのもあって、北朝鮮ウォンよりもチョコパイの方が購買力が強いなんてことも。
これをネットで揶揄して、「チョコパイ本位制」なんて呼ばれ始めたんだよね。
開城工業団地が操業停止になったときには、労働者がチョコパイを求めて暴動が起きるかも、なんて思っていたけど、今のところはそういう報道はないね。
せいぜい相場が高騰しているというものくらい。
あとは虚構新聞の記事かな(笑)

このチョコパイ、日本ではロッテが販売しているのだ。
ソフトケーキの間のバニラクリームをはさみ、チョコレートコーティングしたもの。
もともとは1917年にテネシー州の炭鉱で労働者向けに売られたムーンパイというお菓子が元祖なんだって。
このムーンパイはグラハム・クラッカーにマシュマロを挟んだもので、米国南部では労働者向けの定番のお菓子になっていったみたい。
日本にもこれが伝わり、戦後の1958年に森永製菓がエンゼルパイを発売するのだ。
エンゼルパイは本場のムーンパイと同様にマシュマロを挟んでいるんだけど、かたいビスケットではなく、ふっくらしたソフトケーキで挟み、さらにチョコレートでコーティングしたものだったのだ。
これが現在まで続いているエンゼルパイで、今ではミニサイズのものもあるよ。

バブル経済が始まる前の1983年には、ロッテからチョコパイが発売されるのだ。
エンゼルパイと違って、ソフトケーキに挟むのはマシュマロではなくバニラクリーム。
これでお菓子というよりケーキ的な感じになったのだ。
エンゼルパイ側でも翌1984年にソフト・エンゼルパイとしてマシュマロの代わりにクリームを挟んだものを発売するんだけど、いつの間にかなくなっているから、むしろ差別化した方が売れる、ということなんだろうね。
今では100円ショップなんかでも見かけるけど、その廉価版は韓国やベトナム、中国でライセンス生産しているものみたい。
確かにロッテのものの方がおいしいような気が・・・。

北朝鮮で大人気のチョコパイは韓国のものだけど、韓国ではオリオン(日本の駄菓子メーカーのオリオンとは別で、コンビニなどで売っているマーケット・オーのリアルブラウニーを作っている会社)が1974年に売り出したらしいのだ。
こちらもエンゼルパイ同様に中に挟んでいるのはマシュマロ。
また、そのマシュマロを挟んでいるのも、日本のようなソフトケーキでなく、米国のものに近いやわらかめのビスケットみたい。
このお菓子は韓国でも爆発的なヒット商品らしく、メジャーな存在なんだって。
韓国映画「JSA」では、韓国軍が北朝鮮兵士に「脱北したらチョコパイが腹一杯食べられる」と脱北を促すシーンがあるんだそうけど、そこで出てくるのもこのチョコパイなんだって。

一方、韓国内でもロッテはチョコパイを販売していて、それは日本のものと同様にクリームを挟んだやわらかいもの。
でも、やっぱり韓国でチョコパイというとマシュマロを挟んだかたいもののようなのだ。
ということで、おそらく北朝鮮でもてはやされているのはマシュマロを挟んだもの。
ここに日本のエンゼルパイやチョコパイを持って行ったらどうなるんだろう?
至高のお菓子になるのか、或いは、やっぱり韓国のものでないと、となるのか。
ちょっと興味があるよね。
ボクは日本の柔らかいものの方がおいしいような気はするけど、流通にはむしろかたい方が適しているのかも。
やわらかいと「通貨の代わり」にはしづらいよね(笑)

2013/06/08

わらびもくずもかたくりも使ってない!

初夏に突入して暑い季節がやってきた!
こうなると、冷たい和菓子がおいしい季節だよねぇ♪
水ようかんやあんみつもよいけど、個人的にはわらび餅がけっこう好きなんだよね。
涼しげな見た目と、さっぱりな味がよいのだ。

このわらびもち、もともとは山菜のわらびの根からとったわらび粉で練って作ったものだったんだけど、今ではわらび粉は使っていないのだ。
というのも、わらび粉っていうのは数kgのわらびの根から数十gしかとれないという貴重なもので、今では高価な食材なんだよ・・・。
実際に見てみるとわかるけど、わらびって細く長い根が地中に張っていて、そもそも掘り出すのが大変。
で、この細い根からデンプンを抽出したのがわらび粉なのだ。
本物のわらび粉でわらび餅を作ると、少し赤茶けた灰色になるんだけど、和菓子屋さんで見かける多くのものは透明だよね。
これはわらび粉の代わりにサツマイモ由来のデンプンを使っているんだとか。

同じようなことは他でもあって、例えば、同じ和菓子のくず餅もくず粉が使われていない例が多いのだ。
関東のくず餅はもともと小麦粉デンプンを乳酸発酵させて作る別物だけど、関西のくず餅はくず粉から作るものだったんだよね。
でも、このくずも貴重なもので、やっぱり別のもので代用されているのだ。
本当にくずを使っている場合は、「本くず使用」なんてわざわざ書いてあるしね(笑)
奈良の吉野くずなんかが有名。
そして、日本の台所ではおなじみの片栗粉。
かつてはかたくりの根から作ったからそういう名前がついているんだけど、今ではジャガイモデンプンなのだ。

原料は違えどデンプンの抽出方法は基本的には同じで、細かく破砕して水にさらした後、濾過したものを整地しておくのだ。
すると、水に溶けないデンプンが沈んでくるので、上澄みを捨て、また水で懸濁して沈殿させ、と精製していくのだ。
わらび粉もわらびの根を細かく砕いてデンプンを抽出していくんだけど、そもそもの量が少ないし、精製が大変なんだって。
特に、デンプンの粒子が小さめなので、沈殿に時間がかかるのだ。
ジャガイモなんかはデンプンの粒子が大きめなので、短時間で精製できるんだけど。

植物由来のデンプンは、原料によってけっこう性質が違うのだ。
これはデンプンの粒子の大きさが違うだけでなく、デンプンの質自体がことなるため。
デンプンはブドウ糖が重合したものなんだけど、一本の鎖状に重合したアミロースと、枝分かれが多くて房状に重合したアミロペクチンの2つの高分子が混ざっているものなのだ。
懸濁液中にデンプンが分散しているときは、アミロペクチンでできたかごの中にアミロースが詰まっている「ミセル」の状態になっていて、これが顕微鏡で見えるデンプンの粒子なのだ。
アミロースやアミロペクチンの重合度(=長さ)とその比率でいろんな大きさ、形になるんだ。

デンプンの粒子が水中で加熱されると、アミロペクチンのかごが緩んできて、中に水分子が入り込んでくるようになるのだ。
これは、アミロペクチンの房状の構造の変化で、低温状態では折りたたまれているけど、高温では開いてくるから。
すると、中に入っているアミロースと水分子が水和していって粘りが出てくるよ。
これはゲル化した状態で、糊化と呼ばれる現象なのだ。
一般にアミロペクチンが多いと低温で糊化しやすく、粘度も高くなるのだ。
アミロースが多いと高温じゃないと糊化せず、さらっとしているよ。
これがそれぞれのデンプンの性質に大きく関わってくるわけ。

日本では、デンプンが糊化してねばりが出たた状態を「αデンプン」と呼んでいて、糊化する前の結晶状態のデンプンをβデンプンと呼ぶのだ。
一度α化したデンプンも冷えていくとしだいに再結晶かが進んで堅くなるけど、これを「老化」と呼んでいるよ。
芋の煮物はあたたかいうちはねっとりだったり、ほくほくしているけど、冷めるとかたくなるよね。
たきたての御飯がふっくらもちもちなのに、冷や飯がかたいのも、一度α化したデンプンが老化するから。
老化の場合はもとの結晶状態にもどるわけでもないので、加熱前の状態ともまた違うんだ。
再び加熱するとα化されるけど、これにも差があって、お米なんかは温めるとわりとたきたてに近い状態に戻せるけど、ジャガイモなんかはよほど高温でしっかり温めないとかたいままなのだ(>o<)

話はわらび餅にもどるんだけど、わらび餅の場合は、デンプンに水を加えて加熱しながら練って糊化させ、冷やしたものなのだ。
ということは、糊化したデンプンが老化してかたくなったらまずいわけ。
実際に本物のわらび粉で作ったわらび餅は井戸水なんかで冷やすのは大丈夫だけど、冷蔵庫に入れると白くかたくなるんだって。
まさに老化してしまうのだ・・・。
で、今店頭に並んでいるわらび餅なんかは、冷蔵庫に入れても老化しにくいサツマイモ由来のデンプンやタピオカ由来のデンプンを使っているようなのだ。
たしかに、ふかしたサツマイモって冷めてもそんなにかたくならないし(これはジャガイモに比べて、だけど。)、タピオカも冷たい飲み物に入っているくらいだから、老化しにくいんだろうね。
こういうところにも科学が生きているんだなぁ。

2013/06/01

これでカンダタも安心?

山形のベンチャー企業が人工クモ糸の量産化に成功したらしいのだ。
もともとは慶應義塾大学で研究されていたもので、その成果をもとに山形県鶴岡市で起業したんだって。
ここにインタビュー記事もあるのだ。
六本木ヒルズに人工クモ糸で織ったドレスも展示されていたらしいよ。
2015年からは実際に人工クモ糸製品が市場に出るみたい。
なんかクモ糸って言われると女性からは避けられそうだけど・・・。

虫の出す糸と言えば、カイコの作る絹はメジャーだよね。
古代から人類とともに生きているよね。
日本では天皇家も養蚕をするくらい、文化に密着した存在だし。
木綿、麻と並ぶ天然繊維としては極めて重要だったんだよね。

クモではなくてカイコの糸を使ってきた理由は、飼育・生産が可能だから。
えさは桑の葉なのでこちらも栽培可能だし、繭という形で大量に糸を吐き出してくれるので、量的な確保もできるのだ。
一方で、クモの場合はそもそも肉食なのでえさを確保するのは大変。
クモの巣から糸を絡め取るにしても、たいして量がないんだよね・・・。
なので、クモの糸自体が優れた繊維であることは知られていたんだけど(鋼鉄より堅く、ナイロンより伸縮性があって、引っ張り強度でもとにかく丈夫なのだ。)、使われることはなかったのだ。
逆に言うと、何らかの手段で量産化できれば、実用化できるはず、ということで研究を始めたのが今回の成果のきっかけだよ。

クモの糸もカイコの糸も、その主成分となっているのはフィブロインというタンパク質。
特徴的な構造をもっているタンパク質で、グリシンとアラニンという小さいアミノ酸の含有量が高いことで知られているのだ。
グリシンは約1/3に当たる35%、アラニンは約1/4に当たる27%で、この2つのアミノ酸で全体の6割以上を占めているのだ!
次いで多いのはセリンとチロシンで、4つ合わせると9割を超えるようだよ。
シルクの場合、この偏った種類のアミノ酸が3000~4000個つながった鎖状のタンパク質が、分子量が35万~37万くらいになるまでくっついたものがフィブロインの分子になっているんだって。

このフィブロインの分子も特徴的な形をしていて、緻密に規則正しく分子が並んでリジッドに構造が保存されている結晶性の部分と、分子の並びが不規則で緩くなっている非結晶性の部分があって、それが交互に並んでいるんだって。
結晶性の部分が全体の4~5割程度で、この結晶性の部分には側鎖の小さいグリシン、アラニン、セリンが非常に多く含まれているみたい。
逆に緩いところにはチロシンなどの側鎖の大きいアミノ酸がいるんだって。
イメージで言うと、結晶性の部分はでこぼこの少ない鎖が密にからみあっていて、緩い部分はときどき大きな出っ張りがあるのでそこまで鎖がからみあっていない、というところかな?

この結晶性と非結晶性の2つの部分からなる構造がフィブロインの繊維としての特徴を生み出していると考えられていて、独特の引っ張りや伸び、吸水性、染色性に関係していると言われているのだ。
例えば、結晶性の部分はがっちり結合しているけど、その間に比較的ゆるい非結晶性の部分がからみあっているので、この部分が伸縮するときの「伸び」のもとになるのだ。
また、フィブロインは多孔質になっているんだけど(非結晶性の部分が穴になるのだ。)、分子量が小さい水や水蒸気は通すものの、大きな水滴は通さないので、通気性はあって蒸れないけど防水性もある、という便利な特性につながるのだ。
また、多孔質であることによって表面で光を乱反射し、光沢を持つことにもつながっているんだ。
これで着心地と肌触りがよい上に見た目もきれい、という絹の特性が出るのだ。
クモ糸の場合はもっと丈夫になるみたい。

フィブロインは液体の状態で体内にためられているんだけど、外にはき出されるときに繊維化するのだ。
これは不可逆な反応なので、一度繊維になったものをもう一度液体状にはもどせないみたい。
つまり、やり直しがきかない、ということ。
これが人工クモ糸の繊維化に当たっても技術がいるところみたいだよ。
タンパク質自体は、遺伝子を解析してアミノ酸配列を決定すれば、多少改変をした上で大量生産ベースに載せることは可能なのだ。
問題は、できたタンパク質をどうやって繊維の形にするかなんだよね。
繊維の三次元構造で引っ張り強度や伸び、通気性、吸水性などの特徴が変わってくるので、ここにこそ技術が必要になるんだよ!
実際に紡糸技術が一番難しかったみたいで、なかなか天然クモ糸ほどの伸縮性が出なかったりと技術的課題が多かったようなのだ。

今回の成果では、タンパク質の大量生産技術と、強くて丈夫な糸にする紡糸技術の2つが結実したことで量産化ができるようになったというわけ。
他にも、染色技術もいるし、まだまだ必要な技術はあるんだけど。
さらに、このベンチャー企業では、糸にするだけでなく、フィルムやナノファイバーなどの様々な形に加工することで、軽くて丈夫な材料への展開を目指しているみたい。
すごいことになってきたねぇ。
もともと地獄から罪人を引き上げるくらい強い材料だしね(笑)

というわけで、この人工クモ糸は夢の材料として注目を集めているのだ。
最近は「ほこ×たて」で日本の中小企業が持つすごい技術が再び着目されているけど、こういう技術開発ベンチャーもがんばっているんだねぇ。
うれしい限りだよ♪
日本はやっぱり技術立国の国なので、これからもばんばんこういう事例が出てほしいものなのだ。