2017/07/29

南仏の香り


フランスはまさにバカンスシーズン。
街中から人が消えたよ。
休みのお店も多いし。
びっくりするのは、普通に1ヶ月くらいお店が休むんだよね!
そんなバカンスにフランス人がこぞって向かうのが南仏。
マルセイユをはじめとするプロヴァンス地方や、ニースのあるコート・ダ・ジュールだよ。
日光が大好きだから、光を浴びに行くんだよね。

その南仏のおみやげの定番と言えば「石けん」。
特に「マルセイユ石けん」というのが有名なのだ。
ニースにもたくさん売っているけど、やっぱり「マルセイユ石けん」だよ(笑)
老舗の4店が組合を作っていて、そこが定める厳格な基準に適合していないと、「マルセイユ石けん」とは名乗れないのだとか。
オリーブ油などの植物性油脂を72%配合とか、防腐剤を使わないとかだって。
使ってよいのは精油などの天然香料だけ。
でも、決して高級品というわけでもなくて、けっこうリーズナブルに買えるのも魅力的なのだ。

マルセイユの石けん作りが盛んになったのは16世紀のこと。
もともとプロヴァンスなどのあたたかい地方はオリーブの産地であったことと、塩、炭酸ナトリウムなどのその他の原料も手に入りやすかったからなんだとか。
で、マルセイユの石けんは品質の高い高級石けんとしてメジャーになっていくんだけど、そうなると、いわゆる「ぱちもん」も出回るようになったんだとか。
これに対し、17世紀になると、石けんの質を確保するため、国王ルイ14世が、石けんに使う原料をオリーブ油に限るなどの王令を発出したため、石けん製造がますます南仏に集中する結果になったんだって。

南仏の石けんを高級品にしたのは、何も質のよいオリーブ油があったからだけではないんだ。
もう一つの秘密は香料。
マルセイユ石けんはとにかく香りがよいのだ。
しかも、鼻にいつまでも残るような強烈なものではなくて、すがすがしい感じの香り。
置いておくだけで周りがいいにおいになるよ。
ボクなんかは職場の机の上に芳香剤代わりに置いているよ(笑)

もともと、マルセイユの石けんは十字軍が中東から持ち帰った、質の高いアラブの石けんをまねして作られたんだとか。
当時は欧州よりもアラブ世界の方が文化・技術レベルが高かったからね。
そのとき、十字軍は同時にアラブ世界の様々な香料を持ち帰っているのだ。
しかも、当時のアラブ世界には、アラブ商人がインドや中国などの東洋の国と交易して手に入れた香料も出回っていたわけ。
こうして、ユーラシア大陸全体の香料が欧州で使えるようになったんだよね。
これは後に欧州における香水の発展にもつながっていくんだけど、石けんにも使われるようになったんだって。
確かに、油をけん化しただけの石けんは独特の油臭さが残るから、香料を入れることは大事だったんだよね。
香料自体は、皮革産業でなめし革のにおいを消すのに使われ始め、発展していったそうだよ。

でも、よくよく考えてみると、この香料の発達は「再発見」に近いものがあるんだよね。
もともと香料はギリシア時代に発達し、それがローマに伝わって世界に広まるのだ。
古代ローマはそれこそ中国までシルクロードでつながっていたので、その時代には、ユーラシア全体の香料が流通していたはずなのだ。
そして、マルセイユという街は、ギリシアの植民地に端を発する古い街。
マッサリアという都市だったのだ。
ガリア戦記にも出てくるそうだよ。
そのむかしも様々な香料があったかもしれないよね。

2017/07/22

年2回の大売り出し

フランスでは、今まさに夏の大売り出し期間!
いわゆる「Soldes」。
どこもかしこも割引品が並んでいるよ。
そして、海外からの観光客も含め、多くの人が買い物をしているのだ。
で、人が買っていると、自分も買いたくなる(笑)

フランスでは、この「Soldes」は夏冬の年2回と決まっていて、しかも、日程まで定められているんだ。
夏は、6月の最終水曜日から5週間(最終水曜日が6月28日より後になる場合は、その前の水曜日から5週間)。
冬は、1月の第2水曜日から5週間(第2水曜日が1月12日より後になる場合は、第1水曜日から5週間)。
そして、ともに午前8時から、と時間まで決まっているよ。
この二つ以外の「セール」は「promotion」と呼ばれていて、区別されているんだ。
時期が決まっているので、予定も立てやすいよね、買う方も売る方も。

もうひとつ、大きな違いが。
それは、セール用の品物を売るんじゃなくて、それまで売っていたものを値引きして売らなければならない、ということ。
日本の場合だと、セールで売る用の商品があることもあるけど、フランスではNG。
「Soldes」開始の1ヶ月以上前から点灯で売られているものについて、値引きをして売らなければならないとか。
ということは、セールで買ったからといって、品質が下がるわけではないのだ。
そりゃあ人気なわけだ。
多少流行遅れかもしれないけど、そのままのものが安く手に入るんだもんね。

ただし、いくら売れても、在庫品を売り切って終わり、というのもルール。
まだ仕入れ先にストックが残っていたとしても、それを新たに仕入れて売ることは許されないのだ。
なので、早く行かないと希望のサイズや色、柄、デザインのものは手に入らないよ!
日本のセールだと、期間を分けてちょびちょびと出したりするけど、そういうこともないので完全に早い者勝ち。
なので、初日に大行列ができるのだ。

ちなみに、売れるものはそれでもいいけど、値引きしても売れないものってあるよね。
そういうものは、期間中に更なる値引きがなされることがあるそうなのだ。
なので、ためてためて、期間ぎりぎりに一番安いときに買う、という戦略もあり得るよ。
実際にそういう買い方をする人もいるみたい。
まさに心理戦だ(笑)

「Soldes」の場合、価格表示にもルールがあって、元の値段を二重線などで消して、値引き後の価格と値引率(30%引きなどを表示する必要があるんだ。
多くの場合は、30%引きは赤、40%引きは緑、50%引きは青とかで色分けされたシールが貼ってあるよ。
で、元の値段と値引き後の値段が比較できるようになっているのだ。
この表示の方法については、抜き打ちでフランス当局の検査があって、不当表示とされた場合は、75,000ユーロもの罰金が科されるらしいよ。
日本でも、割引と偽って、もともと高く設定した価格を割り引く形で値段設定をして売られている商品があるけど、そういうのはアウトだね。

というわけで、フランス人の多くは、この年2回のチャンスに大きな買い物をするのだ。
それはもう必死に。
そして、夏の「Soldes」が終わればヴァカンス。
それまで貯めていた分を一気に散財するわけだね。
でも、こうすることで経済がよく回るようになるのかも。
日本も変な商品券とか配るより、一斉にバーゲンをした方がよかったりして。

2017/07/15

パリ最大の祭り

昨日はいわゆる「パリ祭」。
凱旋門前で大パレードが行われたのだ。
軍隊だけでなく、警察や消防(ポンピエ)も参加しているんだよ。
米国のトランプ大統領も来ていて大騒ぎだったのだ。
フランスでは、「Fête nationale française」と呼んでいて、「国民の祭り」といった意味なのだ。

ボクは「革命記念日」だと思っていたんだけど、実はそうではないとか。
もともと7月14日は、フランス革命のきっかけになったバスティーユ監獄の襲撃事件の日。 
なので、それを記念して革命記念日にしたと思っていたんだけど・・・。
実は、その1年後の1790年にフランス革命の締めくくりとして行われた、 建国記念祭に端を発しているようなのだ。
確かに、米国の場合は、独立宣言書に署名がなされた7月4日が独立記念日。
革命の最初の出来事の日を記念するって言うのも変な話だよね(笑)

今ではバスティーユにあるのはオペラ劇場だけど、当時は監獄があったのだ。
しかも、その監獄に収監されていたのは、国王の恣意的な拘禁令状 (lettre de cachet)で拘束された「政治犯」。
この人たちを解放することこそ、フランスの専制政治への反乱の象徴だったのだ!
今ではバスティーユ監獄の壁の一部が残るのみで、徹底的に破壊されたみたいだよ。

襲撃から1ヶ月半くらいたった後の8月26日、フランス革命の基本原則を示した「人間と市民の権利の宣言」が憲法制定国民議会で採択されるのだ。
これを起草したのは、米国独立でも活躍した「両大陸の英雄」ラファイエット。
当初は立憲君主制を前提に起草されていたなけど、実際には、その後すぐにフランスは共和制に移行したので、何度か修正されたようなのだ。
 1791年に 制定されたフランス最初の憲法のもとになっているものだよ。

バスティーユ襲撃から1年後、共和政府による大規模な国家式典が行われ、これがフランス革命の集大成と見なされたのだ。
その場所はなんとシャン・ド・マルス公園。
というわけで、 今でもエッフェル塔のまわりで花火が上がったりしているけど、このときからそうみたい(笑)
まだ凱旋門はなかったからね。
ちなみに、このときの式典には、ラファイエットのほか、ルイ16世も参加していたみたいだよ。

正式に祝日に指定されたのは、1880年になってから。
パリがナチス・ドイツの侵攻に陥落して亡命政府になってからはロンドンで開かれたこともあったようだけど、祝日に指定されてからは年に一度のフランス最大の祝賀式典が開かれる日になっているのだ。
確かに、すごい規模だよ! 

2017/07/08

いんちき高級水?

この間話していてびっくりしたのだけど、いまだに「水素水」を信じている人がいたんだよね・・・。
国民生活センターがいわゆる「水素水」について発表を行って、そのときは大きな話題になったと思ったのだけど、もう忘れられているんだね・・・。
せっかく発表した意味がない(>_<)
そして、まだ「水素水発生装置」とかにだまされる人が出てくるわけだ。

「水素水」と言われるものは、水の中に微量の水素が溶け込んだもの、と言われているのだ。
でも、正確な定義はなくて、何らかの形で水素が溶けている、というものらしいんだよね。
この時点ですでにあやしい(笑)
水素ガスを水の中に通して微量に溶かす、というのがわかりやすい方法だけど、水を電気分解することでも作ることができるのだ。
水を電気分解すると、陰極から水素ガスが発生するけど、そのガスが水の中に溶け込むというわけ。

もともとは、半導体や液晶の洗浄につかっていたんだって。
半導体などの精密工業の洗浄に使われる水と言えば、ボクとしては超純水が思い浮かぶのだけど、水素水もよいのだとか。
超純水の場合は、何も水の中に溶け込んでいないので、半導体表面についた不純物を溶かして洗い去る能力が強いと考えられているのだ。
超純水が危険なものというわけではないのだけど、少しでも水に溶けるものであれば、超純水で洗ってあげれば落ちるというわけ。

一方で、水素水の場合は、水の中にできる水素ガスの微少な泡がキャビテーションが発生して、それで洗浄力が上がるというもの。
超純水は表面に付着した汚れをはがすのに対して、水素ガスの微少な泡で汚れをこそぎ落とすイメージだよね。
半導体などの場合、洗浄液の中に洗剤を入れると、その洗剤をきれいに洗い流さなくちゃいけなくなるだけなので、できるだけ不純物のないもので洗いたいのだ。
水素水なら、洗った後に水素ガスが付着するくらいなので、問題はあまりないというわけ。
鋼材だと、金属柱に水素ガスが溶け込む「水素ぜい化」という現象で、もろくなることが知られているのだけど、半導体とか液晶ならそういうこともないのだ。

で、そういう用途で使うのなら問題ないし、実績もあるのだけど、その水素水が人体にどう影響を及ぼすかというと全く何もわかっていない、という状況に近いのだ。
っていうか、クリアカットに多っ聞く影響すればすぐにわかるわけで、あったとしても、あるかないかわからないくらいの影響しかないということなんだよね・・・。
なんだけど、水素水で体の中の活性酸素が除去されてアンチエージングになるとか、そういう効能がうたわれるのは問題というわけ。
活性酸素はガンの中で悪さをしているなんて話と合わされて、ガンに効く、とかなると、むかしからの怪しい民間療法と同じにおいがしてくるよ・・・。
「おぼれる者はわらをもすがる」につけ込むよくない商法なのだ。

国民生活センターがそもそも問題視したのは、業界においても「水素水」の定義がなくて、どの程度の溶存水素量があれば「水素水」と呼んでいいのかがはっきりしないまま、「水素水」が健康によい、的なプロモーションがなされていること。
また、すでにパッケージされて売られている水素水や、水素水発生装置で作られる水素水の溶存水素量が確認できていないこと。
本当に水素ガスが溶けているかどうかわからないのに、「水素水」と呼ばれてしまうのだ。

健康によい・悪いについては今後の研究で何かわかるかもしれないし、本当によいものである可能性も否定できないけど、そうだとしても、どれくらい水素が溶け込んでいないと効能がない、とかいうのがあるはずなんだよね。
それが生理現象に影響を及ぼすのであれば。
そういうのを置いておいて、印象論でやっているのがよくないのだ。
こういうのはやっぱり、科学リテラシーが大事なんだよね。

2017/07/01

夏にこそ温かいものを!

この前、日本酒のプロモーションのイベントを少しお手伝いしたのだ。
日本酒について簡単にレクチャーした後、試飲してもらうもの。
もちろん、来ている人たちは試飲が目的だよね。
フランスでもけっこう日本酒の人気は高まっているようで、日本食材店に買いに来るフランス人もいるくらい。
で、このとき、参加者になかなか理解されなかったのが、「燗酒」なのだ。

参加者からの質問は、「なぜ燗にするのか」や「冷や酒で飲むものと燗酒にするものの違いは何か」というもの。
なにやら、専門的には酒の中に含まれる酸味成分の違いで、クエン酸系の酸味が多いものは温めないで飲む方がよく、リンゴ酸系の酸味が多いものは温めた方がおいしいんだって。
いずれにせよ、燗をすることで揮発性の香味成分が外に出てくるので、いわゆる「香りが立つ」ということになるのだ。
これは赤ワインのデカンタージュと同じだって。

でも、科学的にはもう少し違いがあるんだよね。
実は、温度によって味覚の感じ方は変わってくるので、それも影響するのだ。
酸味の場合はほとんど影響を受けないのだけど、甘味にについては温かいと感じやすく、熱すぎるとまた感じなくなってくるという特徴があるのだ。
冷たいときも十分甘いけど、ぬるくなったコーラがより甘く感じるのはこのため。
フランスのオランジーナは常温で飲むことが多いけど、日本では冷たくして飲むので、日本のオランジーナはより甘いとか。
さらに、うまみ成分のアミノ酸や核酸も、温かいときの方が感じやすいんだよね。
冷たい味噌汁よりも温かい味噌汁の方がうまみを感じやすいのだ。
一方、渋味・苦味は単純に温められると感じにくくなるみたい。
冷たいお茶の方が渋味を感じることが多いのもこのためかな?

というわけなので、もともとそんなに甘くない、辛口の日本酒なんかは、温めると甘味が引き立つんだ。
そういえば、冷やで飲んでほしいと言われる地酒系の日本酒には甘味が強いものが多いような。
そして、渋味や苦味のような「雑味」がある場合は、温めるとそれがやわらぐことになるよ。
なので、最近では、あまり「よくない」お酒を燗にするというように受け取られているように感じるよね。
地酒の多くが冷や酒(常温だけでなく、氷で冷やすようなものも)で飲まれていて、いわゆる大量生産系の昔ながらの灘の酒が燗にされるのでそういう受け止めになってしまうみたい。
それに、燗をすると香りが強くなるんだけど、大吟醸のようなもともと香りが強いものは、温めると強烈になり過ぎてよくなんだって。
大吟醸=高いお酒だから、高いお酒は燗にしない=安いお酒を燗にする、という構図ができてしまっているのもあるかも。

ただ、むかしのサザエさんなんかを見ていると、日本酒は燗酒で出されているんだよね。
これは、江戸時代に清酒が庶民にも流通した頃からの伝統だって。
平安時代には、秋冬シーズン(重陽の節句から桃の節句まで)にはお酒を温めて飲んでいたことがわかっているんだけど、あくまでも貴族などの上流階級でのお話。
安土桃山時代くらいに清酒の製法ができて、江戸時代に一気に広まった頃から、燗酒にされるようになったようなのだ。
当時は、醸造された酒量に対して税金がかかったので、アルコール度数がほぼ最大の20度くらいの原酒を造ってそれを出荷し、仲卸や小売りの段階で水で薄めていたんだって。
庶民の口に入る頃には4~5度とかいう話もあるから。ビール感覚だったのかも。
それを温めて飲んでいたのだ。
ちなみに、今でも日本酒の多くは20度くらいの原酒を少し薄めて、14~15度くらいにして出荷しているんだよ。
これを加水調整というのだ。

当時の日本酒は雑味が多かったのか、薄めているが故に甘味が感じにくかったのか、とにかく温めて飲むが主流。
貝原益軒さんも、日本酒は温めて飲むがよい、と書いているそうだよ。
もともと日本人はお酒にあまり強い人種じゃないから、その方がアルコールもさらに少し飛んでよかったのかも。
それに、燗酒は、吸収もよいので、飲み過ぎることがあまりないんだって。
逆に、冷酒の場合は、吸収されにくいので、ついつい飲み過ぎてしまうそうなのだ・・・。
これは気をつけないといけないね。