2018/05/26

雨ににおう

雨の独特なにおいってあるよね。
パリではそんなに雨は降らない、と聞いていたんだけど、最近は天候が不安定で、けっこう雨が降るのだ。
で、この「雨のにおい」を実際に感じることとなったわけ。
なんだかなつかしい感じがするけど、都会ではあまり感じることがないからかな?

はっきり言えば、現代科学できちんと分析がされていないので、おおまかにしかわかっていないようなんだけど、いわゆる「雨のにおい」には2種類あるようなのだ。
ひとつは、雨が降り始める前の、何かむせかえるような、もわっとしたにおい。
もう一つは、雨降った後の、ちょっと甘ったるい、土の香り。
雨の主成分は水なので、基本的には無臭。
では、なぜにおいがするかというと・・・。
どうも地面に雨粒が落下した衝撃で巻き上げられている物質がエアロゾルになって嗅覚を刺激しているようなのだ。
雨が降ってくる途中ににおいのあるエアロゾルを巻き込んでくるわけではないんだよ。

降り始めのにおいは、「ペトリコール」と呼ばれているのだ。
「ペトロ」はギリシア語で石や岩のことで、「石のエッセンス」といった感じのネーミング。
十二使徒筆頭で初代教皇とも言われるペトロは、本名は指紋だけど、キリストから「ケファ(アラム語で「石」の意味)」と呼ばれていて、それがギリシア語に訳されて「ペトロ」になったのだ。
つまり、それと同じ。
豪州の鉱物学者が1964年にNature誌で発表した論文で定義した言葉みたい。
論文では、「長い間日照りが続いた後の最初の雨に伴う独特の香り」としているよ。

その正体は、地面に生えている植物が出しているステアリン酸やパルミチン酸などの脂肪酸が大量に含まれる油状物質が、乾燥している時に粘土質の土壌や岩石の表面に吸着したもの。
これらの油状物質は、発芽抑制効果があるそうで、乾燥状態では水の競合相手となる新たな植物が生えてこないように牽制する役目を持っている、と考えられているのだ。
雨が降り始めると雨滴が地面に落下してくるけど、その衝撃でこのペトリコールが空中に飛散され、まわりの水分とくっついてエアロゾル化するんだよね。
これが風に流されてくるけど、「降り始めのにおい」になるわけ。
風はマグものある方向から流れてくるので、雨の前ににおいだけがただよってくることになるみたい。
でも、すぐに水に流されてしまうので、本格テクに降り始めるとにおいはなくなっていくそうだよ。

一方、「雨上がりのにおい」の正体は、土中の放線菌などが作る化学物質のゲオスミンというもの。
こっちは特定の化合物で、立体構造も決定されているよ。
実は、ドジョウやナマズ、コイ、フナなどの淡水性の魚の「泥臭い」においのもともこの物質。
やっぱり「土のにおい」なのだ。
下水道のかび臭いにおいのもともこれだって。
ゲオスミンは、細菌が暑く乾燥した状態で死んだり休眠したりするときに作り出される物質なのだとか。
雨が降ると、これらの化学物質が大気中に放出され、エアロゾルになって嗅覚を刺激するのだ。
なぜかヒトの嗅覚はこの物質に敏感で、5ppt(一兆分率)もあれば感じるのだとか・・・。

どちらも地面由来のものなので、アスファルト舗装された都会ではなかなか感じることができないにおいなんだよね。
また、しばらく雨が降らないとこれらの物質がたまるので、よりにおいが強くなるのだ。
ずっと雨が降り続くと水でにおい物質が流されてしまうので、どんどん無臭になっていくよ。
なんかそれもさみしいけど。

実はこのほかにも「雨のにおい」に貢献している物質があるのだ。
それは、オゾン。
酸素原子が3つくっついただけの単純な分子だけど、刺激臭があることで有名なのだ。
名前の「オゾン」もギリシア語の「におい」から来ているんだよ。
オゾンは、雲の中で静電気放電、いわゆる「雷」が生じると発生するのだ。
雷があればいいので、雨が降らなくてもオゾンのにおいはあるみたい。
ま、どこまで関知できるのかよくわからないけど。

2018/05/19

かたいクリーム

フランスに来てびっくりしたのが、けっこう「バタークリーム」を使ったケーキが売られていること。
日本では生クリーム(ホイップクリーム)ばかりであまり見かけなくなっているし。
でも、よく考えてみると、フランスのクリスマス・ケーキであるビュッシュ・ド・ノエルはバタークリームだし、ダロワイヨが開発したチョコレートケーキの「オペラ」も本来はバタークリームだよね。
フランスにはおいしいバターがあるから、バタークリームなのかな?、という気がしてきたのだ。
でも、ちょっと調べてみると、もう少し別の理由がありそう。

そもそもなぜ日本で最近生クリームばかりになったかというと、冷蔵・冷凍の技術が普及したから、なんだよね。
特に流通面でのシンポが大きいのだ。
キンキンに冷やしたまま運べるようになった、というのが大きいよ。
というのも、生クリームはバタークリームよりもとけやすいから。
むしろ、バタークリームはとけにくいので、冷蔵技術が発達・普及する前によく使われていた、ということなのだ。

生クリームが、中に小さな泡をたくさん包含している形状を保っているのは、乳脂肪が固まっているおかげ。
熱が加わって乳脂肪がとけてしまうと、この構造が崩れて液状になるのだ。
まさにホイップ前のクリームにもどるので、せっかくケーキをデコレーションしていても、それがぐちゃぐちゃになってしまうわけ。
熱いクレープやワッフルにのせられた生クリームはどんどん液状になっていくよね。
一方、バターに砂糖と卵白又は卵黄を混ぜて泡立てたバタークリームは、生クリームよりとけにくいのだ。
生クリームはより水分が多いので、30度なるとぐちゃぐちゃになるけど、バタークリームだと少しとけはじめるくらい。
つまり、春や秋であれば、バタークリームならちょっと冷やしておけばなんとかなるのだ。

ホイップクリームの場合、乳脂肪分の含有量は30~40%くらいだけど、バターは80%。
なので、常温でもかたいんだ。
でもでも、逆に、クリームにしてもやっぱりかたいんだよね。
アイシングとかにはむいているんだけど。
それと、ちょっとしつこいし。
そういうのもあって、日本では生クリームが使えるようになると使われなくなっていったみたい。

一方、フランスの場合、来てみて気づいたけど、パリのアパルトマンの部屋には基本冷房がない。
街中を見る限りあまり冷蔵車・冷凍車も走っていない。
ケーキ屋さんのショーケーキも中があまり冷えてなさそう。
つまり、生クリームではなく、バタークリームを使った方がよい環境がそろっているわけ。
さらに、フランスのバターはおいしいので、バタークリームにしてもそこまでしつこくなく、逆に、濃厚なバターの風味が楽しめるのだ。
なので、おそらくだけど、フランスの場合は、お菓子の味に合わせて意図的にバタークリームを使っていると思われるよ。

ビュッシュ・ド・ノエルは冬のものだけど、冷蔵庫が普及する前から作られている伝統的なお菓子なので、バタークリームで作るのが正解なんだよね。
オペラの場合も、生クリームのやわらかい、とろける食感よりも、バタークリームのちょっとかちっとした食感の法が会う気がするし。
それに、フランスではケーキを適当に包むので(箱がなくて紙でそのまま包むこともしばしば)、ある程度「リジッド」でないと持ち運べないのだ。
そうなると、バタークリームの方が有利だよね(笑)

2018/05/12

実はチャリンコ

フランスの名物お菓子といえば、マカロンやミルフィーユだよね。
でも、玄人は、パリブレストをあげるのだ。
リング上のシュー生地の間にプラリネクリークが挟まっているお菓子だよ。
日本ではそんなに見かけなかったけど、パリではどこにでもあるのだ。

実はこのお菓子、自転車の車輪をイメージしたものなんだって。
リング上のシュー生地はタイヤなのだ!
で、パリブレストというのは、パリとブレストという二つの都市の名前をくっつけたもので、パリとブレストの間を往復する世界最古の自転車レース「パリ・ブレスト・パリ」の開催を記念して作られたものが広がったんだそうだよ。
このレースの開催は1891年で、なんと130年近く前。
けっこう歴史があるお菓子なんだね。

ブレストは、ブルターニュ半島の西端にある港湾都市で、フランスの最西端。
よくフランスの国の形は六角形にたとえられるけど、その左上の角にあたるところ(笑)
パリとの往復で1,200km。
その昔はプロのためのロードレースだったらしいけど、今では一般参加型になっていて、しかも、自転車と呼べるものなら、ロードレーサーでなくても、リカンベント(寝そべってこぐタイプの自転車)や三輪車、タンデムの二人乗り自転車なんかでもよいんだって!
日本からも年々参加者が増えているみたい。

ちなみに、パリブレストというお菓子は、リング上のシュー生地を使っていればほかには特に決まりはなく、大きさも自由、間に挟むものも自由なんだって。
確かに、めちゃくちゃ大きいのを切り分けているのもあるし、小さなわっかをそのまま出すのもあるよ。
中のクリームはナッツの風味のきいたプラリネが基本だけど、カスタードや生クリームも入っていることがあるし、フルーツを挟んでもよいのだ。

さらに、パリブラストからの発想で、お店によってパリ○○と似たようなお菓子を出す場合もあるよ。
ボクが行ったことのあるお店にあったのは、パリ・カルカッソンヌ。
そこは南仏料理のお店なので、フランス南端のカルカッソンヌの地名を使っているみたい。
リングじゃなくて、団子が3つくっついたようなくびれのあるシュー生地。
これもなんかイメージするものがあるのかな?
ちなみに、ヘーゼルナッツはカルカッソンヌの名物だって。

2018/05/05

フランス人はなぜ傘を持たないのか

パリに来てからびっくりしたのは、雨が降っていても傘を差している人が少ない!
っていうか、傘を持ってなさそうな人もいる・・・。
傘を差しているのはたいてい外国人なんだよね。
特にアジア系が多いような。

最初にこっちの人から聞いた説明では、パリの天気は変わりやすく、雨は降ってもすぐやむので、ちょっと雨宿りすればいいだけなので、傘を持ち歩く人が少ない、というもの。
確かに、雨がざーっと降ってきても、ちょっとカフェでコーヒーでも飲んでいるとやむことが多いのだ。
ま、そういう時間を勝手にとれる余裕があるっていうのがまたフランスらしいんだけど(笑)
でもでも、雨が降ってきたときに、みんながみんな雨宿りをするわけではないんだよね。
っていうか、普通にそのまま歩いている人もいる。
パーカーのフードをかぶったりするのは気を遣っている方なのだ。

で、つい最近知ったのだけど、これは子供の頃からの習慣の影響が多いのではないか、という話。
なんと、フランスの小学校では、傘を校内に持ち込むことが禁止されているんだって。
先がとがっているし、振り回すと危ないからって。
マフラーも首を絞めるおそれがあるという理由で禁止らしいから、とりあえず危険分子は排除する、という思想なんだろうね。
で、どうしているかというと、雨がひどいときはレインコート。
小降りの時はそのままなんだそうで。
これにより、雨にぬれることに慣れてしまい、傘を差さなくても平気になるというのだ!
ちなみに、小学校のうちは保護者が送り迎えをしないといけないので、傘を差してきても保護者が持って帰ればOKだよ。

フランスは空気も乾燥しているし、日本の梅雨のように長雨が続くこともそんなになから、多少ぬれてもすぐ乾く、気にしない、って考えかができあがるんだって。
日本では雨にぬれると風邪引く、って言われて、傘がない婆は、できるだけぬれないように軒下から軒下へ渡るように走って帰ったりするし、少しでもぬれるとすぐにタオルで水気を拭き取るよね。
これは大きな習慣の違いなのだ。
なので、最初はびっくりしたよ。

おそらく、このことは傘の歴史もちょっとは影響しているはずなのだ。
もともと「傘」というものは、日差しをよけるために考案されたもので、「日傘」が基本。
基本は王族・貴族とか偉い人が使うものだったのだ。
ところが、これが雨を防げるとわかって、「雨傘」の用途も出てきたわけ。
ここで洋傘と和傘で道が分かれるんだよね。

和傘の場合、竹と紙で安価に開閉可能な傘を作ることができたので、庶民の間にも広まったのだ。
その昔は蓑や笠を使っていたんだろけど、江戸時代には和傘がかなり使われているんだよね。
そのため、少なくとも都市部では、雨の日には傘をさす、というのが当たり前のことになっていたのだ。
一方で、洋傘の場合、イタリアで開閉可能な傘が開発されたようなんだけど、まだまだ高級品。
でも、最初は日傘で、主に女性が使うものとされていたのだ。
英国において「雨傘」の用途が広まってきて欧米でも雨の日に傘をさす習慣ができはじめるんだけど、工業化されて大量生産されるまでは高級品だったので、庶民にまで広がるようなものではなかったみたい。
なので、今でも欧米では傘はそれなりに値段のするもので、いいものを長く使う、という思想なんだって。

一方で、和傘の時代から傘は安価な道具として扱ってきた日本。
昔こそものを大事に使ったけど、大量消費の時代になると、傘もより安価なものが求められてくるのだ。
そこで出てきたのが、世界にも例を見ない「ビニール傘」。
使い捨てとは言わないけど、長期使用には耐えない代わりに非常にリーズナブル。
これが欧米人には信じられないようなことなんだって。
日本人がパリに来て傘をさす人をあまり見ないことに驚くのと同様に、欧米の人は、日本でビニール傘を見ると驚くらしいのだ。