2019/02/23

○○は突然に

なんか流行り物があって、それによくわからずのってしまう人を「にわか」とか言って馬鹿にする風潮があるよね。
でも、かつてのサッカーのように、ライト層であってもそうやって裾野が広がっていくと全体のレベルが上がることもあるから、軽視はできないのだ。
そもそもが流行り物であって、そういう人がいるから流行ったんだろうけど、昔からそのことに関心を持っているそうにすれば、「ぽっと出の素人が!」という思いがあるのかもね。
で、まさにその「ぽっと出」というところが「にわか」なんだよね。

「にわか」、形容動詞では「にわかだ(古語は「にわかなり)」の本来的な意味は、
(1)物事が急に起こるさま、だしぬけ、突然
(2)かりそめであるさま、臨時的、一時的
(3)病態が急変するさま
の3つ。
(1)の「突然」という意味が前面に出ているのが「にわか雨」だよね。
この流れで、即興で突然始まる芝居を「にわか芝居」と呼んでいて、多くは素人の人が祭礼の場などで突然始めるものだったので、「にわか」には素人による即興芸のニュアンスが加わったようなのだ。

一方(2)にあるように、「かりそめ」という意味もあって、一時的なものであって本来のものではない、的なニュアンスもある言葉。
これが「にわかファン」といった言葉につながっていくのだ。
「にわか仕込み」という言葉は「付け焼き刃」とほぼ同意だけど、「その場しのぎでかりそめに仕込んだ」というネガティブな意味を持っているんだよね。
で、この二つのニュアンスが合わさると、「素人」+「かりそめ」となって、現代のネットでよく見られる罵倒語の意味につながっていくようなのだ。
考えてみると意外とちゃんとした流れがあるものだ。

現代での「にわか」は、「にわかブーム」のような使い方だと、「かりそめ」の「一時的」な「ブーム」という意味もあるけど、むしろ「突然降ってわいた」といったニュアンスもあるよね。
本来の「ブーム」というのはそういうものでしかないような気もするけど・・・。
少しだけ否定的なニュアンスが弱まると、「突然」の意味が強くなってくるみたい。
「にわか雨」のような「ブーム」は意味が通るけど、「にわか雨」のような「ファン」というのは少しわかりづらいから、やっぱり「突然」「と「かりそめ」が融合している中にグラデーションがあるんだろうなぁ。

ちなみに、(3)の意味は古語でしか使われないようだけど、「にわかになる」と言うと、「危篤状態に陥る」という意味になるんだって。
これはおそらく(2)からの派生で、「残りの生命ももうかりそめのようなもの」というところから来ていると思われるよ。
こっちの場合は否定的なニュアンスというよりは、「はかない」といったものさみしいイメージだけどね。
このイメージも更に追加して、間もなく消え去りそうなものに対して「にわか」という言葉を使うのもありなのかも。
「あの人は今」的な芸能人を「にわかタレント」と呼ぶとかね(笑)
だれかが使い始めれば広がるかもしれないなぁ。

2019/02/16

光あれ

フランスに来て2回目の歯医者にかかっているのだ。
東京で作った高級な歯のクラウンが割れてしまったんだよね(>_<)
なかなかこわれない、というから高い買い物をしたのに・・・。
でも、割れてしまったものは仕方ないので、現在修復の最中。
で、こういうことがあると、いろいろと歯科治療について調べちゃうんだよね。

そこで気になったのが、レジンによる修復法。
日本では公的保険適用なんだけど手間がかかるということであまりつかわれないみたいなんだけど、欧米では一般的のようなのだ。
いわゆる「銀歯」はアマルガム合金を歯の穴につめたものだけど、その詰め物をプラスチックに代えたもの。
見た目が白くできるので、修復の跡が目立ちにくいんだ。
それで好まれるみたい。

つめものに使うのは、コンポジットレジン(複合材合成樹脂)で、とろっとした液体状のものを穴に流し込み、その後、紫外光を当てると固まるという仕組み。
光を当てるまではかたまらないし、熱などをかけて乾燥させる必要もないので、わりと簡便に固められるのだ。
それも魅力の一つ。
ただし、紫外光を当てる装置が届かないところだと使えないんだよね。

ここで使われるレジンは光で固まる光硬化樹脂。
特に紫外線で固まるものなので、紫外線硬化樹脂というものが使われているよ。
固まる前はモノマー(一つ一つの分子が独立した状態)で、光を当てると重合してポリマー(多くの分子がくっついて大きな構造を作っている状態)になるのだ。
多くの場合、不安定な炭素・炭素二重結合があって、そこにエネルギーの比較的強い紫外線が当たると、その二重結合のうちの一本がきれ、となりの分子の同じようにきれたところと新たな結合を作ることでつながるのだ。
もちろん、もとのように自分の中で二重結合が復活することもあるけど、確率的に、まわりにいっぱいフリーの結合の切れている分子がいるので、他の分子とくっつくことが多くなるよ。
こうして一つの大きな分子につながっていくのが重合反応。

紫外線硬化樹脂の場合、この結合の切れ方に大きく分けて二通りあるのだ。
一つは、両方の炭素がそれぞれ電子を一つずつ持って電気的な中性な状態できれるもの。
これはラジカル型と言うよ。
電子対になっていない中性的な電子は非常に不安定で反応性が高く、似たようなラジカルを見つけるとすぐに反応するのだ。
もう一つは、片方が電子を持っていってしまって、2:0の割合で電子が分かれてきれい場合。
つまり、電子対をそのまま持って行ってしまうのだ。
切れ方として、真ん中できれいに切れるのか、片方は端から切れてしまうのかの違いかな。
この場合、電子対がある方はわりと安定的で、まわりの水素イオンと水素結合して電気的に中性になるんだけど、電子を全てとられてしまった方はとても不安定。
負の電荷を持っているものとすぐに反応しようとするのだ。
で、たまたまとなりに別の分子で電子対ごと持っていった切れ端が来ると、そこに新しい結合を作ってしまうわけ。
このときは、反応の中心が正の電荷を帯びているので、カチオン(陽イオン)型と呼ばれるよ。

いずれにしても、二重結合のうちの一本が切られ、そのままでは不安定なので、近くにいる同様に切れたものとくっつくという寸法。
紫外線を当てるとどんどん切れていって、すぐにまわりの同じようにきれたものとつながっていくのだ。
歯の修復に使うレジンの場合は十数秒ほどで固まるよ。
歯の型を取るときよりもはるかに楽なのだ。

でも、このレジンにも弱点はあるんだよね。
それは、割れやすいことと着色しやすいこと。
つまり、もろくてすぐに見た目が悪くなるのだ・・・。
でも、高くないものなので、定期的に入れ替えればいい、という意見もあるよ。
あまりに詰め物が固すぎると歯のかみ合わせに悪いから、詰め物の方が摩耗する方がいいんだよね。
それと、銀歯(アマルガム修復)の場合、どうしても水銀を使っていてそれが唾液中に微量に溶け出すという問題があるし、それ以外の金属イオンも溶け出して金属アレルギーの原因にもなるから、レジンの方がその点でも優れているのだ。
でも、日本だと高価なセラミックのクラウンを勧めてくるんだよね。

2019/02/09

オオカミに一番近いイヌ

パリの街中では、雨の日だろうが、風の日だろうが、犬を散歩させているんだよね。
しかも、リードを外して。
そう、ほとんど放し飼い。
でも、イヌの方がおりこうさんで、ちょっと飼い主から離れると後ろを振り返ったりするのだ(笑)
そのまま逃走したりはしないみたい。
で、そんな中、けっこう柴犬を見かけるんだよね。
欧州でも人気なんだって。
こっちで買うと日本以上に高いらしいけど。

柴犬は、言わずとしれた代表的な日本犬。
秋田犬や甲斐犬に並んで6大日本犬種のひとつなのだ。
あまり大きくならないこともあって、一番の人気種で、飼育頭数も多いんだよね。
飼い主にはなれるけど、見慣れぬ人には警戒心を持つので、番犬にも適していると言われるのだ。
日本人が犬と聞くと真っ先に思い浮かべるのは柴犬のイメージだよね。

ところが、あなどるなかれ、実はオオカミに一番近いイヌが柴犬だったのだ!
イヌの起源についてはずっと研究されていて、見た目からオオカミだろうとは思われていたんだけど、なかなか確たる証拠がなかったんだよね。
他に似たようなイヌ属の動物(ジャッカルやコヨーテなど)もいるし、何より、プードルからゴールデンレトリバーまで、イヌと言っても幅広いからね。
で、最近になった、ミトコンドリアのDNAの変異で系統樹のどのあたりで分岐したのかをさかのぼる研究が行われたのだ。
その結果、タイリクオオカミ(ハイイロオオカミ)がおそらく起源で、柴犬はかなり初期の方で分岐した犬種。
かなりオオカミの遺伝子を色濃く残す古代犬種だったのだ!
日本は島国で他と交雑しにくかったのがよかったのかな?

はっきりとしたことはまだわからないようだけど、おそらくイヌの家畜化が始まったのは東アジアで、それが広まっていったみたい。
日本でもすでに縄文時代にはイヌが人と一緒に埋葬されているそうだから、その頃にはもう狩りのお供だったのだ。
今でもイヌはオオカミと交配可能なんだけど、この広がっていく過程で、アラブや欧州に行く際に、その地方のオオカミの血も混ざったりして、さらに複雑に系統樹が分岐していったみたい。
系統樹をまともに作ろうとすると、どうしてもオオカミとイヌが混ざってしまうというのはそういうことなのだ。

その結果、一見一番オオカミに近そうに見えるシベリアンハスキーは、実は柴犬ほどはオオカミに近くはないのだ!
途中で他のオオカミの血とかが入っているのかな。
それでも、かなりオオカミに近い方の犬種ではあるんだけどね。
他にオオカミに近い犬種(=オオカミに近いDNAを持っている犬種)としては、チャウチャウ(赤犬)、アフガン・ハウンド、シャー・ペイ(中国原産のしわしわ犬)、秋田犬、ペキニーズなどなど。
シャー・ペイやチャウチャウのような中国犬種もわりと早い時期に分岐したもののようなので、そのときの古い血(遺伝情報)が残っているのかもね。
その中国犬から派生しているからペキニーズみたいなのもオオカミに近いとされてしまうのだ。
逆に言うと、欧州犬種は途中でいろんな血が混ざっているんだろうね。

最近では豆柴なんてのもあるけど、これは正式な犬種ではないんだよね。
比較的小型の柴犬同士を交配させたもので、小柄な柴犬というだけなのだ。
なので、突然大きくなったりもするんだよ。
豆柴だから大きくならないというのはあまり当てにならないのだ。
まだ小型になるという遺伝的形質が固定化できていないんだよね。
これもオオカミの血のなせるわざか?

2019/02/02

雨水を吐く怪物

パリの街ではカサをさす人が少ないんだよね。
さーっと降ってすぐにやむことが多いのもあるんだけど。
なので、基本は雨宿りか、フードをかぶるか、そのまま歩くか。
ボクはカサを持っていればさす方が多いけど、小雨ですぐやみそうなときなんかは、軒下から軒下へと雨宿りしつつ移動しようとするんだけど・・・。
思わぬところから水が降ってくる!
これは、雨粒ではなくて、バルコニーなどからしたたってくる水滴なのだ。

よくよくバルコニーの構造を見てみると、日本のような雨樋がしっかりと着いていないことが多いんだよね。
屋上に水がたまらないようにする雨樋はついていることもあるけど、バルコニーに至っては、何もないか、あってもそのままバルコニーから水を吐き出す管が出ているかだけ。
パイプで地面近くまで導くような雨樋はないのだ(>_<)
このため、雨が降ったいる最中や、雨がやんでからのしばらくの間は、建物の突起部分から水がしたたってくるんだよね。
これは地味にいらつくのだ。

どうも、ローマ時代には雨樋(rain gutter)はすでにあったそうだよ。
雨水を効率的に集めたいというニーズと、壁面や柱に自由に雨にぬれると傷みが早くなるので、それをさけるために「雨の通り道」を作りたいというニーズがあったようなのだ。
ところが、問題となったのはデザイン性。
どうしてもとってつけたようなものになるので、それをいかに工夫するか、ということで発達するみたい。
解決法は二つで、壁の内側に見えないように作る、というのと、開き直って装飾的に作ってしまう、というもの。
ま、フランスの場合は、鉄筋コンクリートなら雨で痛むこともないからいっそのことつけない、という選択肢があるようだけど・・・。

そんな流れで出てきたのが、大聖堂と呼ばれるようなよく大きな教会などで見る「ガーゴイル」。
あれは水の吐き出し口に悪魔のような形の像をつけ、その口から雨樋で集めた水が吐き出されるようになっているのだ!
出てきたのは12世紀のゴシック建築の時代。
なんと、フランス発祥だって。
ま、この「ガーゴイル」は地面まで水を導くわけではなく、かなりの高さのところから水を吐き出すだけなので、建物の近くに行くと思わぬところから水が降ってくる、というのは変わらないのだけど(笑)

ガーゴイルはフランス語ではガルグイユ(gargouille)。
これはラテン語の「のど(gurugulio)」から来ていて、もともとは水が流れるときのゴボゴボ言う音から来ている言葉なんだって。
「うがいをする」の「gargle」もここから来ているそうだよ。
ゴボゴボと集めた雨水をはき出すからガーゴイルなのだ。
ゴシック様式の建物とともにこの装飾が欧州十に広がったそうだよ。

ところが、ルネサンス期になってゴシック様式が廃れると、ガーゴイルも作られなくなってくるんだって。
これが復活するのは18世紀後半からの「ゴシック復興期」の時代。
ちょうどパリのノートルダム大聖堂の修復のときに活躍した、フランスの建築家のヴィオレ・ル・デュクさんなどが大きな役割を果たしたのだ。
こうして、18世紀~19世紀にかけては、中世の教会を修復したり、新しい教会を作るときにゴシック風に建造されたんだ(これを「ネオ・ゴシック」と言うよ。)。
さらに、いつしかガーゴイルは雨樋の水の吐き出し口という機能も失われ、塔の四隅にある、デザインにアクセントを与える突起状の装飾物になってしまうのだ!
これは米国に建てられた高層ビルなんかに見られるそうだよ。
っていうか、やっぱり欧米人はまじめに雨樋を作って雨水を集める気はないのか・・・。

ちなみに、「ノートルダムの鐘」に出てくる「ガーゴイル」は本当はガーゴイルではないのだ。
あれは単なる彫像で、雨樋の吐き出し口にはなっていないんだよね。
これはガーゴイルの意匠から発展した装飾物だよ。
19世紀の修復の時に加えられたもので、フランス語では「シメール(いわゆる「キメラ)」とか「グロテスク」と呼ばれているのだ。
形から「ガーゴイル」と呼ばれてしまっているけどね。
これもヴィオレ・ル・デュクさんが付け加えたもの。

というわけで、ゴシック様式で雨樋は装飾に進化したのはいいんだけど、いつしかその機能が失われ、ただの装飾品になってしまったのだ・・・。
やっぱりフランス人には雨樋の必要性というのがいまいちぴんときていないのかなぁ。
でも、建物の近くによれば上から水が降ってくるし、建物から離れればイヌの「落とし物」がいたるところにあるし、パリの街は歩きにくいところだ(>_<)