2013/07/27

何よりも安定を第一とする

参議院選挙は与党の勝利で終わったのだ。
第一次安倍政権の時に参院選で敗戦して以来、6年ぶりに自公政権で衆参両院で過半数を確保し、「ねじれ」が解消されたのだ。
安倍総理もそういう経緯があるから感慨もひとしおなんだよね。
で、この参院選の選挙結果のニュースでよく耳にしたのが「絶対安定多数の確保」という言葉。
調べてみるとなかなかおもしろいことがわかったよ。

もともと「安定多数」とか「絶対安定多数」というのは衆議院の議席数に使われる言葉で、与党が国会運営をしていく上での「やりやすさ」を示す指標なのだ。
本会議で可決するには定数の過半数があればいいわけだけど、日本の国会は基本的に委員会審議をすることとなっているので、各委員会で議案を可決し、本会議に持ってくる必要があるのだ。
委員会で否決されたのを本会議でひっくり返して可決することもなくはないけど、あんまり「安定的」な運営ではないよね・・・。
で、この委員会における審議を与党が思うがままに進めるには、各委員会で過半数を占める必要があるというわけ。
これが「安定多数」という概念だよ。

委員会への議員の割り当てについては、国会法第46条第1項で「常任委員及び特別委員は、各会派の所属議員数の比率により、これを各会派に割り当て選任する。」と定められているので、基本的には議席数に応じて比例配分されるのだ。
衆議院では17の常任委員会が設置されていて、その定数の総和は610。
全常任委員会で過半数を確保するとすると、320必要なので、320÷610=52.5%の議席数、すなわち、衆議院の議員定数480のうち252議席が必要ということになるよ。

委員会では委員長が選出されるんだけど、委員長は委員会での議決が賛否同数だった場合に裁決することになっているので、委員だけで議案を可決しようとすると、委員長の分を抜いて委員だけで過半数を確保する必要があるんだ。
これが確保できている状態を「絶対的安定多数」と言っていて、この状態だと、委員会での審議は与党の思うとおりスムーズに進むわけ。
各常任委員会で委員長ポストを確保した上で委員の過半数を得ようとすると、単純に必要な委員数だけなら324確保すればよいのだけど、このときは324÷610=53.1%で、このままだと定数25の議院運営委員会では25×53.1%=13.3で、委員長+過半数に必要な14が確保できないのだ!
で、この議院運営委員会でも委員長ポストをとった上で過半数を確保しようとすると、14÷25=56.0%が必要なので、絶対安定多数の議席数は、480×56.0%=268.8、小数点を切り上げて269議席が必要となるわけ。

ちなみに、衆議院の場合、参議院で否決された議案を再度議員総数の3分の2以上の賛成で再可決できることになっているけど、これに必要な320議席は「圧倒的多数」というそうなのだ。
ここまで議席があると参議院が何を言おうと、時間さえあれば衆議院だけで議案を可決することができるのだ。
そうなると、参議院の立場がないわけだけど・・・。
現在の衆議院の勢力では、自民党は294議席なので単独で過半数を突破しているのだ。
これに連立与党である公明党の31議席を加えると325議席になるので、圧倒的多数も超えているわけ。
ということは、たとえ「ねじれ」ていても、なんとかなる状態ではあるんだよね。

圧倒的多数はあまり参議院では言われないけど、安定多数や絶対安定多数は言われるのだ。
衆議院で再可決すればいいと言っても、実際に恐慌的にやると国会が不正常になって審議拒否なんかにつながるから、「伝家の宝刀」であってもなかなか抜けないんだよね。
なので、参議院でも安定多数や絶対安定多数を確保していることが望ましいのだ。
今回の参議院選挙では、改選のなかった分も含めて、自民党は115議席で単独過半数には届かず、公明党の20議席を加えると135議席で、安定多数は超えるのだ。
参議院の常任委員会の定数などは別表にまとめたとおり。





単純に委員の過半数を確保しようとすると必要な議席は、214÷402×242=128.8、小数点切り上げて129議席。
これに委員長ポストと委員の過半数の両方を確保しようとすると、222÷402×242=133.6、小数点切り上げて134議席。
実際に134議席だと、占有率は134÷242=55.4%になるんだけど、これで行くと、小数点以下を四捨五入すれば委員長+過半数が確保できていることになるのだ!
で、衆議院の場合は、四捨五入なしで各常任委員会で必要な数を満たす条件で絶対的安定多数が算出されているんだけど、そのまま当てはめると、一番条件のきつい懲罰委員会に引きずられて占有率60.0%が必要になるので、146議席になるはずなのだ。
ところが、一般には140議席と言われているんだよね・・・。
なおかつ、今回の選挙報道では、与党135議席で「絶対的安定多数を確保した」とか言われているのだ。
これはなんだ?

実際に議案の採否にあまり関係のない懲罰委員会を別格として扱う場合、次に条件がきついのは定数が21の外交防衛委員会と経済産業委員会。
21のうち12が必要なので、占有率では57.1%が必要で、議席数では139になるはず。
ここでも数が合わないorz
なんかからくりがあるのかなぁ?
単純に参議院だからとまじめに計算していないのか、常任委員会の定数がどこかで変更になったけど計算が更新されていないのか。
ネットやウィキペディアの情報もまるまる信じてはいけないんだね(>o<)

実際には絶対的安定多数を確保していても野党に委員長ポストを譲ったりするので全部の常任委員会を与党がしきれるわけではないんだけど、それも考慮すると、すべての委員会で与党が過半数を確保できていることは確かなんだよね。
ということは、採決まで持ち込めれば与党の考えるとおりに議案を通せるということ。
これが安倍政権が長期化できるだろう、という予測の根拠なのだ。
ま、実際には与野党の駆け引きなんかもあるし、国民の目もあるから、あんまり無茶なことはしないんだけどね。
とにかく、これで「決められない政治」からは脱却するはずなので、しっかりと日本の行く末を議論し、よい国にしてもらいたいものだよ。

2013/07/20

ただ静かに上澄みをすする

先日、海外旅行のおみやげでコーヒー(豆を挽いたもの)をもらったのだ。
ここまではよくある話で、それが南米の豆だったり、アフリカの豆だったり、あるいはハワイの豆だったりするんだよね。
今回もらったのはインドネシアの豆。
バリ島のお土産だよ。

ところが、これがおどろきのコーヒーで、いわゆるペーパードリップで抽出するのではないのだ!
まるでまるであたかもインスタントコーヒーのようにスプーンで適量をカップに入れ、その上からお湯をじょぼじょぼと・・・。
よくかき回したらできあがり、じゃなくて(笑)、そこから数分静置するのだ。
すると、コーヒーの豆が沈むので、上澄みを飲むというわけ。
ものすごい簡便な抽出法だけど、これが意外といけてる味になるんだよね。
本場ではコーヒー豆と砂糖を一緒にカップに入れ、最初から甘くするんだって。
(熱帯であるバリでは冷蔵庫がない時代に生乳の扱いが難しかったので、伝統的には砂糖のみを入れるんだけど、たまにベトナムコーヒーのように練乳も足すみたい。)

植物としてのコーヒーノキの原産地はエチオピアあたりで、文化としてコーヒーを飲み始めたのはイスラム世界が最初と考えられているんだ。
カフェインを含むコーヒーは覚醒作用がある刺激物で、アルコールが禁止されているイスラム世界ではその扱いが長らく議論されていたようなのだ。
それまでは神秘主義の中で秘薬として興奮作用をもたらすもの、といった扱いだったみたい。
15世紀になって正式にイスラム法上の扱いが確定すると、一気にイスラム世界に広がっていって、オスマン・トルコ帝国を介して欧州にももたらされたのだ。
コーヒーは欧州から植民地だった米大陸や東南アジアに広まり、現在のコーヒーベルトと呼ばれるコーヒー栽培可能地域(北回帰線と南回帰線の間)に広がっていったのだ。

この経緯からいくと、一般的な嗜好飲料としてはトルコでの飲み方が古いわけ。
トルコでは、コーヒー豆を粉砕したものと砂糖を一緒に鍋に入れて煮出すのだ。
コーヒーと砂糖は同量というから、相当甘いはず。
これはアジア地域での茶の飲み方に近いよね。
日本茶や中国茶は茶葉に湯を加えて抽出するけど、モンゴルやチベットのバター茶やインドのチャイは茶葉を乳製品と一緒に煮出すのだ。
おそらく、質のよい茶葉が得られなかったからそういう飲み方になっているんだろうけど、そういう基本の上にこういう飲み方ができているような気がするんだよね。
コーヒーの場合、ゆっくりと抽出しないとあまり抽出できないので、工夫が必要なのだ。

欧州にコーヒーが伝わると、この上澄みを飲む淹れ方から、沈殿物を濾す淹れ方に変わるんだ。
まずは布で濾過する方式がフランスで考案され、布ドリップの原型になるのだ。
布で濾すことでコーヒーがらをよけられるし、ゆっくりと淹れられるので、煮出さなくてもしっかりと抽出できるというわけ。
そこから1世紀ほど経つと、今度はサイフォンの原理を応用したサイフォン・ドリップが考案されるのだ。
ドリップ式だとお湯を注ぐ量や速さでぶれが出るけど、サイフォンだと条件さえそろえれば抽出の質が一定するのだ。
こぽこぽと見ていてもおもしろいよね。

20世紀初頭には、金属製のフィルターを使って圧力をかけて抽出するエスプレッソマシンが登場。
その後になってようやく紙で濾過するペーパードリップが確立するのだ。
絵数れっそよりはペーパードリップの方が簡単そうだけど、むしろ、濾紙を作る技術が問題だったんだろうね。
目詰まりせずちょうどよく抽出できる紙を作る技術はけっこう高度なのだ。
19世紀にフランスから入ったベトナムコーヒーなんかだとやっぱり金属製のフィルターを使うんだよね。
豆を粗めに挽いて、小さい穴からぽたぽたと5~10分かけて抽出するんだって。
高温多湿なベトナムなんかだと熱いコーヒーがマストではないから、こういう冷めてしまうようなゆったりとした淹れ方でも問題ないようなのだ。
エスプレッソは熱く淹れるために圧力をかけるけど、その必要はないんだね。

で、問題のバリのコーヒーはフィルターなど使わずかき混ぜるだけ。
物資的な問題もあったんだろうけど、原点回帰で粉をお湯に混ぜるだけなのだ(笑)
やっぱり熱いコーヒーは必ずしも必要ないから、数分置いておいて冷めてよい、ということでないとこれは広がらないよね。
ちなみに、沸騰したお湯で淹れれば、ちょうどよく冷めて飲みやすくなった頃に飲めるようになるよ。
ただし、バリコーヒーの場合は、よく抽出するために粉をものすごく細かく挽くのだ。
この技術は高いんじゃないかな?

こうして見てくると、コーヒーって本来は甘くして飲むものなんだよね。
おそらく、覚醒作用がほしいけど苦いのは・・・、ということで、飲みやすさのために甘くしたり、ミルクを入れるようになったはずなのだ。
チョコレートも同じように砂糖を入れて甘くすることで食べやすくした結果、今ではお菓子になったのだ。
ということで、ブラックはむしろ進化した姿なんだよね。

でも、南の地域では相変わらず甘いものが主流なのも事実。
紅茶なんかでも甘くして飲むよね。
米国南部のソウルドリンクであるスウィートティーなんて、限界まで溶かし込んでいるんじゃないか、と思われるほど砂糖をたくさん入れたアイスティーなのだ。
やっぱり暑いと甘いものが恋しくなるのかな?
ちなみに、日本で飲む分にはバリのコーヒーでもブラックで飲んでまったく問題ないよ(笑)

2013/07/13

命の水

関東でも梅雨が明けて夏の蒸し暑さが本格化してきた!
気温が30度を越える真夏日は当たり前で、35度を越える猛暑日なんてのも・・・。
で、テレビなどでは盛んに熱中症対策を訴えているのだ。
お年寄りや小さい子は特に危ないからね。
コンビニなんかでも、この時期には「塩○○」なんて塩分補給のためのお菓子が目立つのだ!

熱中症は、多量の発刊により体内の水分量が減りすぎたり、ナトリウムが少なくなってイオンバランスが崩れたり、水分と塩分も不足して脱水症状に陥ったりするもの。
けいれんや失神、意識障害などが出て、場合によっては死亡することも・・・。
体温のコントロールが不能になるから重度になるともうどうしようもなくて、助けてもらうしかないのだ。
なので予防が大事なわけで、日陰で休む、水分だけでなく、塩分も補給するなんてのが推奨されているんだ。

その中でも注目を受けているのが経口補水液。
大塚製薬のOS-1が有名だよね。
ボクはスポーツドリンクのポカリスエットとたいして変わらないものだろう、と勝手に思っていたんだけど、実はけっこう違うのだ。
ずばり、ポカリスエットでは脱水症状を起こしている状態では「薄すぎる」のだ。
ナトリウムが足りないんだって。
飲まないよりはいいような気もするけど、低ナトリウム血症になって水中毒になるおそれもあるので(特に乳幼児)、気をつけないといけないよ。
どうしてもスポーツドリンクしかないときは、さらにひとつかみ塩を加える必要があるのだ!

経口補水液の主要成分は、水とブドウ糖と塩化ナトリウム(食塩)。
発展途上国なんかだと、コレラなどの感染症による下痢や嘔吐による脱水症状に対して、沸騰させた水にひとつかみの塩と砂糖を入れたもので対応することもあるのだ。
水1Lに食塩小さじ1/2、砂糖大さじ4と1/2を加えると簡便に作れるそうな。
売られているものにはさらに塩化カリウムや(低カリウム血症もこわいので)、硫酸マグネシウム。
重炭酸イオンがあると水の吸収率がさらに高まるそうで、その前駆体になるクエン酸なんかが入っていることも。
OS-1の場合は乳酸が入っているね。

実は、これって日本の伝統の病食である重湯に近いものがあるのだ。
重湯はおかゆをかなり柔らかく炊いて上澄みをとったものだけど、ブドウ糖が重合したデンプンがのり状になっているのだ。
これに塩を加えて味を調えてやると、あら不思議、経口補水液と同じような成分に!
しかも、これにむかしながらの塩辛い梅干しを加えてやると、塩分が追加されるだけでなく、クエン酸も入ってくるのだ。
今でも術後の最初の流動食で重湯が使われたりするけど、優れものだったというわけだね。

人間は大腸で最後のの水分を吸収し、硬い便を作っているのだけど、大腸での水分吸収がうまくいかなくなると下痢になるのだ(>o<)
これは主に感染症による症状だったりするわけだけど、すでに脱水症状を起こしていても、大腸での水分吸収はうまくできなくなってしまうんだって。
そこで注目されたのが、小腸での吸収。
小腸は水分を吸収する役割を持つ器官ではないけど、ブドウ糖やナトリウムなどの塩を吸収する際に水分を一緒に吸収することが知られているのだ。
これは共輸送系と呼ばれるもので、浸透圧の関係で糖やイオンが移動すると水分子もついてくるということなのだ。
で、これをうまく使ってやろうというのが経口補水液で、水にブドウ糖と塩分を加えることで、象徴から水分をすばやく吸収させよう、という発想なわけ。
あまりにもひどい熱中症の時は欠陥に輸液を入れて無理矢理水分を補給するわけだけど、そこまで行かないような脱水症状に使える便利な方法なのだ!

けっこう甘く見ていたんだけど、経口補水液っていうのはよくできているんだねぇ。
これだけ暑いと過信は禁物だから、予防に努めるとともに、こういう知識を身につけておくとよいのだ。
その場に経口補水江木がなくても、砂糖と塩くらいならある場合があるからね。
お世話にならないに越したことはないけど(笑)

2013/07/06

海藻ペーパー

暑い季節になってきた!
こんなときにはさっぱりしたものが食べたいもの。
で、コンブですよ(笑)
おでんとか昆布巻きじゃなくて、とろろ昆布。
醤油と鰹節を加えてお湯を注げば簡単にお吸い物になるので便利に使っているんだけど、冷たいそばやうどん、そうめんの具としてもさっぱりおいしいよね♪

とろろ昆布に似たものにおぼろ昆布というのがあるけど、この2つの違いは削り方なのだ。
どちらもコンブを酢漬けにして柔らかくした後に削るんだけど、とろろ昆布はコンブを重ねてプレスしてから、側面から糸状に削っていくのだ。
なので、できあがりは細い繊維がからまったようになるわけ。
一方、おぼろ昆布は一本のコンブを延ばし、特殊な包丁を使って表面を面的に削っていくのだ。
刃を当ててすっと引くと鉋のように薄いシート状のおぼろ昆布ができあがるのだ。
こちらは削るのに手間がかかるので、とろろ昆布より高級品なんだって!

関東だとあまり見かけないけど、関西だと海苔の代わりにおにぎりに巻いたり、うどんの具になったりする結構メジャーなものなのだ。
起源はあまり定かでないものの、鍛冶職人が多く、刃物の街でもあった大坂・堺で生まれたと言われているよ。
もともとコンブには少し渋みがあるので、湿気のあるところで貯蔵することで甘みを出していたんだって。
大阪(当時は大坂)はそれに適していたので、大坂にはたくさんのコンブがあったのだ。
ところが、保存状態が必ずしもよくなく、表面がかびてしまうことも・・・。
そこで、酢に漬けて柔らかくしてから表面を削る、なんてことを考え出したみたい。
この手法は北陸地方に伝わり、北陸では郷土料理にも取り入れられるほどコンブの加工が盛んになったんだそうだよ。

酢に漬けると肉でもなんでも柔らかくなるけど、一般的には、酢で漬けると液性が酸性になるので、もともと持っている酵素による加水分解が進むから、と考えられているのだ。
肉なんかは放っておけば徐々にタンパク質の加水分解が進んで柔らかく、というか、どろどろになっていくんだけど、腐敗させずにタンパク質の加水分解を加速しようというのだ=3
これは柑橘系の果物の果汁やヨーグルトで肉を軟らかくするのと同じ。
(パイナップルやパパイヤの場合は、果物側に含まれるタンパク質分解酵素を利用しているので別だよ。)
牛肉なんかは熟成させるといって吊しておくけど、これもゆっくりと自分の酵素でタンパク質の加水分解をさせ、うまみ成分であるアミノ酸を作らせているのだ。

ちなみに、サバやコハダを酢締めにするのは肉質を柔らかくする、というよりは腐敗防止。
酢に含まれる酢酸にはけっこう強力な殺菌作用があるので、塩をして余計な水分を抜いた後に酢に漬けるんだよ。
すると、身の表面は酢のタンパク質凝固作用で少しかたくなり(同時にちょっと白くなるよ)、身の中には酢が染み通って抗菌仕様になるのだ。
青みの魚なんかは足が速くてすぐに腐敗するから、酢で肉質を柔らかく、というより、殺菌作用で保存できるようにする方が重要なんだよね。
なので、しめ鯖なんかは刺身に比べるとむしろ肉質が少しかたくなるというわけ。

肝心のコンブはどうかというと、よくわからないんだけど、おそらく細胞同士を接着しているようなタンパク質が変成て柔らかくなるんじゃないかなぁ?
一度乾燥させているので内在性の酵素が働くとも思えないから、酢のタンパク質凝固作用によってタンパク質の高次構造が失われて、結果として構造が柔らかくなるんじゃないかと思うのだ。
コンブはそのまま煮ても実はなかなか柔らかくならず、弱火でじっくりと長時間煮るか、圧力鍋で煮ないとダメなんだよね。
ところが、酢と一緒にすると一気に柔らかくなるのだ。
食物繊維の本体であるセルロースは酢や熱でそうそう分解しないから、やっぱり間をつないでいるようなタンパク質が関係しているんだろね。
熱分解するのは大変だけど(これは肉を軟らかく煮るのと同じ)、酢の化学作用を使うと早いというわけ。

で、おぼろ昆布に話をもどすと、柔らかくなったコンブを削っていくんだけど、この課程で3種類の加工品ができあがるのだ。
まずは、削りはじめのコンブ表面が薄くなったもの。
色が黒いので黒おぼろと呼ばれるんだけど、ここは酢がよく浸透しているので酸味が強いのだ。
さらに削っていくと白い部分が現れるんだよね。
あんまり酢が染み込んでいないので、酸味はあまりなく、むしろコンブ独特の甘みが強いのだ。
ここが太白おぼろや白おぼろと呼ばれる部分。
高級品だよ。
で、削れないところとして残る芯のの部分が白板昆布。
バッテラなんかに載っているやつだよ。
で、副産品としてコンブの両端(削るときに固定する部分)が残るのだ。
ここは爪昆布と呼ばれ、お菓子として食べられたり、煮込むと出てくる粘り(はやりの「フコイダイン」)であく取りに使われたりするそうだよ。
さすがにむかしの日本人だけあって無駄がない!

というわけで、コンブは出汁をとるだけじゃなく、佃煮にするだけじゃなく、酢コンブとしてしゃぶるだけのものでもないのだ(笑)
とろろ昆布はちょっと酸っぱいにおいがするので苦手な人もいるのかもしれないけど、汁ものの具にするのもよし、削り節のように使うもよしで意外といろん
な料理に使えるのだ。
コンブを愛し、食してきた日本人が生み出した伝統の技術の成果をしっかり味わおう!