宇宙の食事情
たまたまネットでおもしろいニュースを見つけたのだ。
それは、オーストラリアの醸造会社が、世界で初めて宇宙用のビールを製造・発売を開始した、というもの。
日本でもかつて「宇宙ビール」というのはあったけど、それは宇宙空間に持って行った酵母で発酵させたビール。
今度のビールは実際に宇宙空間で楽しむために開発されたビールなんだとか。
なんだこりゃ、ということで、少し調べてみたのだ。
もともとこの宇宙ビールを開発したいきさつは、宇宙空間では無重力(より正確には微少重力)の環境であるため、炭酸飲料が飲みづらいということなのだ。
炭酸飲料を飲むとゲップが出やすくなるけど、これが問題の本質。
地上では重力があるので液体部分は胃の中に残り、気体だけがゲップとして口から出てくるのだけど、宇宙空間では重力が希薄なために液体は下に残り、気体は上に出ていく、という「常識」が通用しないのだ!
液体も気体もまぜこぜで口から出てしまうというわけ・・・。
なので、ゲップが出にくいように炭酸を抑え、でも、ビールの風味は残して、というコンセプトで開発されたそうだよ。
宇宙での試飲はまだみたいだけどね(笑)
ちなみに、このビール、世界初の有人宇宙船にちなんで「ボストーク」と名付けられているのだ。
宇宙での食事はこのビールに限らず、宇宙空間という特殊な環境に適応するために特別なものが開発されてきたのだ。
重力というのがひとつのキーワードだし、宇宙に持って行く重量には制限があることもポイント。
さらに、国際宇宙ステーション(ISS)のような宇宙での居住空間は閉鎖空間なので、そこにも配慮しなくてはいけないのだ。
そんな条件から、一般的に宇宙食の条件とされているのは、以下のようなものだよ。
まず最初に、長期保存できること。
宇宙と地上の間はそんなに頻繁に行ったり来たりできないので、長期保存できないと困るのだ。
宇宙食から広がった技術としては、食品のフリーズドライこの技術が確立したのは米国のジェミニ計画のころ。)やレトルト技術(これはアポロ計画から生まれたのだ。)なんかがよく知られているよね。
フリーズドライなら水分量の分だけ軽量化でき保存性も高まるし、缶詰だと缶の重量だけ損してしまうけどレトルトなら袋の重さだけですむのだ。
すでに出てきているけど、次に重要なのは軽いこと。
宇宙に持って行ける重量には制限があるので、できるだけ軽くしていろいろなものをたくさん持って行きたいわけ。
水なんかはかなり再生利用できるようになっているので、フリーズドライのように水分を飛ばすとそれだけ軽くできるよね(。
科学系の博物館の売店とかで売っている宇宙食シリーズはだいたいフリーズドライだけど、その軽さにびっくりするよ。
中身が入っていないみたい(笑)
それから、なかなか気づきにくいことだけど、強い臭気がないこと。
ISSのような空間は閉鎖的で、かつ、換気も十分にできないので、においがいつまでも残ってしまうのだ・・・。
かつて毛利さんがスペースシャトルに納豆を持ち込もうとしたときも断られたし、韓国人宇宙飛行士がISSにキムチを持ち込もうとしたときも断られたんだ。
でも、カレーは宇宙食として一般的になりつつあるので、においの種類にもよるんだろうね。
みんながおいしそうと感じられたり、不快に思わないようなにおいであればOKなのだ。
さらに、重要なものは飛散しないこと。
宇宙では重力がほとんど働かないので、液体や粉末が飛散すると下に落ちることなく、全方向に拡散していくのだ!
なので、液体の飛沫なんかが飛んでいって機器に影響を及ぼさないように、とろみをつけたりとか工夫するわけ。
最初の宇宙食のチューブ状の古典的な宇宙食はかなりの粘度だし、宇宙でCM撮影もされた宇宙用カップヌードルも麺は小さく丸く固められていてその回りにとろみのついたスープがまとわりつくというもので、飛沫が飛散しないようになっているのだ。
実はこれがもっとも大事かもしれないのが、栄養価が高いとともに、食事として楽しめること。
他に栄養の取りようがないので必要十分な栄養がとれないといけないんだけど、かといって味気ないものでは困るのだ(>o<)
ただでさえ閉鎖空間で気が滅入るし、地上との交信もネットや電話が使えるとは言えそんなに頻繁にはできないので、やっぱり食事は楽しみなんだよね。
顔を合わせるメンバーもそんなに変わらないし、食事くらいは楽しめないとストレスが貯まる一方ということで、最近ではいろんな食事を持って行けるようになっているみたい。
日本からは焼鳥やカレー、肉じゃが、たこ焼き・お好み焼きなどなどが持ち込まれたことがあるんだけど、これが海外の宇宙飛行士にも人気らしいのだ(野口さん用の日本食宇宙食がロシア人宇宙飛行士に食べられちゃった、なんて話もあったよね。)。
最近ではフリーズドライのものだけじゃなく、こういう宇宙食もおみやげとして手にはいるよ。
最後に、実用面で大事なのが、特別な調理を必要としないこと。
宇宙ではそのまま食べるか、お湯でふやかすか、温めるかくらいしかできないので、基本はインスタント食品なんだよね。
このあたりは軍隊のレーションと一緒なのだ。
宇宙では電気オーブンで温められるので、だいぶましだとは思うけど。
ちなみに、電子レンジはマイクロ波を放射して温めるんだけど、他の電子機器に悪影響を及ぼしかねないため、宇宙では電熱器のオーブンを使うみたい。
以上の条件を満たせばすぐに宇宙食になるかというと、実はそうでもないのだ。
まだくわしくは解明されていないんだけど、宇宙では味覚が鈍るらしいんだよね。
なので、宇宙食は通常よりも味付けを濃いめにしてあるそうなのだ。
でも、水を自由にがぶがぶ飲める環境でもないので、のどが渇くようでは困るので、かなり難しい塩梅。
日本食が人気なので、もともと甘辛いものが多くて、味を感じづらい宇宙空間でもしっかりと味がするからなのかも。
カレーが人気なのも香辛料のおかげかもね。
加えて、食品としての安全管理にも最大限の注意を払っているのだ。
宇宙からはすぐにもどれないから、食中毒なんてしゃれにもならないしね。
そこで米国で生まれた管理技術がHACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)、いわゆる「ハサップ」なのだ。
様々なリスクを科学的に分析した上で、そのリスクごとに管理を行うという手法で、ようは一つ一つリスクをつぶすように管理を行う手法なんだ。
この方法では各工程ごとに管理できるので、最後にランダムで抜き取り検査をするだけよりもはるかに高い安全性で管理できるんだ。
この手法は一般の食品なんかにも広まっていて、マクドナルドでも使われているんだよ。
ただし、これは安全管理であって、品質の管理ではない点に注意なのだ。
品質を管理するには、環境要件で加熱時間を変えたり、素材の質で扱いを変えたりなんてことをする必要があるので、画一的に工程管理をするハサップとはまた別の話なんだそうだよ。
というわけで、だいぶ宇宙食についてわかったのだ。
オーストラリアの宇宙ビールが本当にこれだけの条件をクリアしているかはわからないけど、ゆくゆくは宇宙空間に出て丸い地球を見ながら冷たいビールでいっぱい、なんてこともできるのかも。
でも、宇宙は無重力なので、体を固定しないとくるくる回転するし、もともと全身がむくむ傾向にあるので、なんだか悪酔いしそう・・・。
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