こまい話
進次郎農相の機動力で、放出された備蓄米が店頭に安価に並ぶようになった。
なんだかすごいセクシー。
これを受けて、テレビなんかでは「古米のおいしい食べ方」みたいなのを特集しているよね。
古米くらいならさほど問題ないし、むしろ寿司屋さんなんかは好んで古米を使ったりするんだけど(水分含有量が少ないから寿司酢を混ぜるのに向いているらしい。)、今回の放出は古古米や古古古米といった2~3年前のお米。
テレビに出てくる(自称)専門家は、「普段であれば家畜の飼料用に回していたようなもので、臭くて食べられたものではない」とか言っているけど、進次郎大臣は報道陣の前で食べて「どれもおいしい」と言っていたね。
もともとお米のにおいが苦手な人がいるから、そういう人にはきついんだろうけど、あまり気にせずに食べられる人も多いということかな?
この古いお米の臭み、「古米臭」の主成分はヘキサナールというアルデヒド。
米ぬか中の遊離脂肪酸が酸化されることで出てくる物質で、草いきれや大豆の「青臭さ」のもとなんだそうだよ。
米ぬか中には「米油」が搾り取れるほど多くの油脂が含まれているんだけど、菜種や綿実なんかとは違い、そこに同時に脂肪分解酵素のリパーゼもたくさんあるらしいのだ。
普通は子房の形にしてエネルギーを蓄えるので、分解酵素はえんるぎーを取り出すときに出てくると思うんだけど、米ぬか中には最初から多くの分解酵素が含まれているみたい。
玄米の状態って本来は温度と水分で発芽の条件を待っている状態なわけだけど、条件が整い次第ロケットスタートでエネルギーを取り出して発芽するぞ、ということなのだろうか?
とはいえ、実際にリパーゼが多く含まれているので、玄米は保存中に脂肪が分解されて遊離脂肪酸というのが出てくるのだ。
その遊離脂肪酸のひとつがn-ヘキサン(ノルマル・ヘキサン)で、これが酸化されるとアルデヒドのヘキサナールができてくるのだ。
さらに酸化されるとカルボン酸のカプリン酸というのになるんだけど、これはヤギの臭みだって。
イメージしづらいけど。
炭素数が4~6くらいのアルデヒドやカルボン酸(C4のブチナール/酪酸、C5のペンタナール/吉草酸、C6のヘキサナール/カプリン酸)はどれも悪臭で知られているんだよね。
この悪臭の鯨飲となるカルボン酸もアルコールとエステル結合するとフルーツ系の方向成分になるから不思議。
逆に言うと、よい香りを持つものは裏腹にこういう悪臭成分も併せ持つということなのだ。
これらの物質は揮発性があるので熱をかけるととんでいくわけだけど、これは炊飯という調理方法とはいまいち相性がよくないんだよね・・・。
つまり時間をかけて加熱しながら水分を浸透させていくわけだけど、通常二をするなどしてちょっと加圧するので、この悪臭成分が焚いている最中のお米にも映ってしまうのだ。
最初にふたを開けておいてにおいを確認しながら臭くなくなったらふたをする、とか、リゾットやピラフのように先に生米を炒める、みたいなやり方だとましになるかな?
よく知られている方法に、少しお酒を入れて炊くとよい、というのがあるけど、これはアルコールが一緒に混ざっていると、共沸という現象でアルコールと揮発性のある子^る成分がまだ温度が高くない状況で先にとんでくれるのでにおい移りしない、ということみたい。
「共沸」というのは沸点が異なるもの同士が混ざっているときに分留できずに一緒に混ざったまま蒸発していく現象のことだそうだよ。
もうひとつの解決策としては、炊く前に氷を入れておく、というのがあるのだ。
こうすることで、釜(又は鍋)の中があたたまるのに時間がかかる、つまり、悪臭成分は蒸発していくけど水分はさほど蒸発していかないという温度状態がちょっと長くなるので、においが移りづらくなるみたい。
けっこう簡単な方法だよね。
もちろん、悪臭成分をとばさなくても、そこから取り除くのでもよいわけ。
活性炭で吸着してしまう、というのがスタンダードで、お米と混ぜて炊くと嫌なにおいが取れる活性炭(竹炭など)や素焼きのプレートなんかは市販されているよね。
でも、氷を入れておけばいい、とか、日本酒をちょっとたらせばいい、と言われるとそっちの方が楽なような。
というわけで、仮に放出備蓄米を食べる場合は、そんな工夫を少しするとおいしく食べられるようなのだ。
前にコメの大不作でタイ米を緊急輸入したときは、食べ方を間違えて「おいしくない」という評判になってしまったけど、その二の舞は避けないとね。
古いお米にはにおいがある、というのはあらかじめわかっていることなので、それをちょっとの工夫で回避すればよいだけなのだ。