2011/11/19

1秒間に1京回!

先日次世代スパコン「京」がまたまたスパコン世界ランキングで1位になったのだ!
その直前にLINPACKというプログラムを使った速度測定で10ペタフロップス(1秒間に浮動小数点演算を1京回する、という速さだよ。)という速度を達成したのだ。
LINPACKというのは、いろいろな機能のあるスパコンの早さを比較するために使われるベンチマークプログラムで、これで世界トップ500を決めているんだ。
それで2回連続1位を獲得したわけ。
中国が追い上げてきているし、米国はスペック的にはもっと上を目指したスパコンを開発中なので抜きつ抜かれつだけど、うれしいのはうれしいよね♪
やっぱり2位より1位がよいのだ!

国が民間企業と共同でスパコンを世界最速のスパコンを開発した最初は航研スパコンこと「数値風洞(NWT)」というもの。
これは流体シミュレーションを行うもので、それまで大型の風洞実験施設でモデルを使って実験していた流体実験をコンピュータ上で再現するんだ。
このときはこういうスペックで流体シミュレーションをしたい、というのがあって、それに見合うスパコンを作ったら世界最速に躍り出たというわけ。
これは関係の研究者に非常に評判がよくて、このスパコンを所有していた航空宇宙技術研究所(現在は統合して宇宙航空研究開発機構)はこの分野のCOEとなったのだ。

その次は有名(?)な地球シミュレータ。
これは海洋研究開発機構が持っているよ。
これは地球規模で大気の動きなどをシミュレーションするために開発されたスパコンで、できた当時は温暖化予測などで話題になったのだ。
もちろん、世界最速というところも注目されたし、世界最速の座から転落されたときはもっと大きく報道されたのだ(>o<)
ま、マスコミとしてはそっちの方がおもしろいんだろうね。
ちなみに、世界最速の称号は2年半にわたって維持したのだ(5期連続)。

これは航研スパコンの成果を引き継いで、さらにバブル崩壊で落ち込んだ日本の産業基盤を活性化するため、高性能・高速のスパコンを開発が目指されたという経緯があるのだ。
で、それをどの分野に使うか、ということになったとき、それまでは計算量が多すぎてなかなか精緻なシミュレーションができなかった大気の動きや気候変動予測などの分野が選ばれたんだ。
全地球規模で同時にシミュレーションができるので、その名も「地球シミュレータ」になったわけ。
ただし、このときはすでに世界最速のスパコンを作ることが大きな目的になっていて、「やりたいこと」が先にあったわけでもなかったのでアプリケーションが弱いとの批判があるのだ(ToT)
確かに、十分に使い切れないのか、地球シミュレータを使った研究を公募する事業も文部科学省の補助で行われているんだ(他に大学等の大型研究施設も共用の対象だよ。)。
とは言え、国が税金を使って整備した最先端機器だから、それを広く共用しようという意味が強いんだろうけど。

そして、第3世代となるのが、次世代スパコンとして開発された「京」。
ここに至っては、我が国のフラッグシップとして世界最速のスパコンを作ること自体が目的になっているので、「コレ」というアプリケーションは特に想定して折らず、「汎用型」となっているんだ。
それゆえに批判もあるんだけど・・・。
ちなみに、どういう分野で使えそうかは当然わかっているので、今はアプリケーションの開発に向けた予算投入も始まっているのだ。
せっかく瞬間風速だとしても世界最速になったのだから、よいアプリケーションを作って活用してもらいたいよね。

で、この「京」には生みの苦しみもあったのだ。
それは途中で開発主体のひとつだったNECが撤退したこと。
航研スパコンを開発したのは富士通、地球シミュレータはNECで、その両者がタッグを組んで開発に取り組んでいたのだ。
でも、このNECが途中で採算が合わない、と撤退し、富士通のみが残ったのだ。
それでも、開発計画を見直した上で、所期の目的の10ペタフロップスという計算速度は実現したわけ。

富士通とNECの役割分担は、スカラー計算を行う部分を富士通が、ベクトル計算を行う部分をNECが担当、というもの。
スカラー計算というのはひたすら単純な計算を繰り返し行うもので、まさにLINPACKやら円周率計算やらを早く正確に行うのに向いているのだ。
一方、ベクトル計算というのは、複数の計算を同時並行的に行うもので、複数のパラメータを同時に変えなくてはいけないような複雑な計算が得意。
地球シミュレータではまさにそれなわけ。
実はこれは日本の強みでもあったんだ。

でも、単純に一般のパソコンのCPUをどんどん高度化して行くイメージのスカラー型に比べ、ベクトル型は特殊なので、開発にもよりお金がかかるというデメリットがあるのだ。
さらに、省電力性能でもスカラー型はかなりよくなってきているのに比べ、ベクトル型にはどうしても限界があるみたい。
さらに、最近では並列処理計算といって、ひとつの計算機の中でスカラー型のCPUを複数個同時に動かしてひとつの計算をすることで、これまでスカラー型が苦手としていた複数変数の同時計算がかなりよくできるようになってきたのだ!
2009年には長崎大の助教が3,800万円という破格で地球シミュレータを越える計算速度を持つスパコンを組み上げたんだけど、これは市販のCPUを760個使って並列処理をするものなんだ(ちなみに、CPUを同期させて一つの計算をさせるところが難しいのであって、単純にCPUを多く使えばいいってものでもないんだよ。)。
これによりベクトル型にはこの先限界が見えてきた、ということみたい。
で、けっきょく「京」ではスカラー型に絞ることにしたんだけど、並列処理により複雑な計算もできるようにはなっているのだ。
さらに、他のスパコンとネットワークでつなぐことで、さらに計算能力を高めようとしているわけ。
これがハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)と言われる計画だよ。

もともと一つの計算を複数のコンピュータで分担して計算するという手法(分散コンピューティング)は前からあって、グリッド・コンピューティングとしてそれぞれが持っている計算資源(スパコン)の能力を持ち寄って、より高い計算環境を実現しよう、というものがあるのだ。
例えば、大学や研究機関のスパコンをつなぐ、ナショナル・リサーチ・グリッド・イニシアティブ(NAREGI)というものがあるよ。
HPCIの場合は、並列処理で計算能力を上げたスパコンをネットワークでつないでグリッド化し、さらに計算能力を高めようという魂胆だよ。
これにより、単独のスパコンとしては能力を抜かれても、総合力では勝てる可能性があるのだ。

というわけで、けっこうスパコン界も大変みたい。
「2位じゃダメなんですか?」なんてのもあったけど、本来は「やりたいこと」を実現するためのツールなんだよね。
でも、逆にツール側の技術力向上で新たにできるようになることも出てくるわけで、その意味では高性能スパコンの開発を進めることにも一定の意義はあるのだ。
なかなか難しい問題だけど、税金が投入されるプロジェクトなので、これからも「関心を持って見ていくことが大事なのかも。
個人的には勝てる分野ならフラッグシップ的なものも「あり」のような気もするけどね。

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