2025/02/08

断末魔はドナルド・ダック

 
最近話題になった報道で気になる点があったのだ。
ヘリウムで自殺?
ヘリウムガスって何か毒性があったっけ?
仮に毒性があるなら、声がドナルド・ダック化するみたいな感じで使わないよね?
と、頭が混乱したのだ。
よくよく見てみると、ほぼ純正ヘリウムで酸素が混入されていないと酸欠を起こすらしい。
といっても、これは窒素でもなんでも同じで、ようは、酸素濃度が低すぎるガスを吸うとやばい、ということのようなのだ。

これは人間の肺におけるガス交換の仕組みに由来するんだって。
肺という臓器では、機能性ユニットである肺胞の中で、吸い込んだ空気と肺に張り巡らされた血管との間でガス交換を行うのだ。
このとき、ヒトの血液側の酸素濃度はおよそ16%。
空気中の酸素濃度は21%なので、濃度勾配により吸い込んだ空気の中の酸素が血液に取り込まれていくのだ。
すごいシンプルなメカニズム。
でも、これがあだとなるのだよね。

逆に、吸い込んだ空気が16%より低い酸素濃度だった場合、酸素は血液中から吸い込んだ空気の方に流れてしまうのだ。
水は常に高きより低きに流れるから。
一方で、血中酸素濃度が低下すると、延髄での反射でさらに空気を吸い込もうとしてしまうんだよね。
でも、その時周りの空気の酸素濃度が低いままだと・・・。
府のスパイラルでどんどん血中酸素濃度が下がっていくことに!
これが酸素濃度の低いガスを吸い込むことによる酸欠の仕組み。
ヘリウムで酸欠というのもこの類で、ドラルド・ダック声にするヘリウムガスのスプレーには酸素が20%ほど混ざっているのだけど、今回のものは酸素が混ぜられていないものだったようなのだ。
これは気体の種類は問わないので、無味無臭で、それ自体には毒性のないもの(まさにヘリウムガスのようなもの)でも起こり得る、というのは知っておかないと危ないのだ。

で、高地で息苦しくなるのは、酸素濃度はそんなに変わらないんだけど、空気が薄くて吸い込んだ空気中の酸素量自体は少なくなるので、酸素が少し足りない状態になるのだ。
その状態の症状が「高山病」。
これは徐々に体を慣らしていくしかないんだよね。
アスリートがやっている「高地トレーニング」みたいなのをやると、血液中のヘモグロビン(赤血球の中で酸素を運ぶもの)の量が増えることが知られているのだ。
それにより、低酸素状態への抵抗力がついて、無酸素運動系の競技では効果があるんだよね。

一方で、この話と一線を画するのが一酸化炭素中毒。
これは酸素の量の問題ではなく、一酸化炭素の毒性の問題なのだ。
ストーブの不完全燃焼で一酸化炭素が発生した場合は、十分な酸素濃度があろうが酸欠になるのだ。
その初期症状は高山病とも似ているんだよね。
体の中で酸素が足りない状態に強制的になるわけ。
これが起きるメカニズムは単純で、一酸化炭素は酸素に比べてヘモグロビンと結合しやすく(200倍以上)、一度くっつくと離れないので、そのヘモグロビンはもう酸素を運べなくなるから。
つまり、体の中での酸素の運び手が次々と一酸化炭素に取られてしまうので、いくら酸素を吸っても酸欠になるというわけなのだ!

中毒が発生してしまうと高濃度の酸素を吸わせるしかないんだけど、回復するまでにけっこうな時間がかかるので、酸欠状態は続くんだよね。
そのため、酸素の消費量の多い脳などは障害が残りやすく、非常に危険なものなのだ。
なので、とにかく予防が大事。
燃焼系の暖房器具の場合は定期的に換気が必要だよ。
また、密閉度の高い屋内の火事なんかだと、火が出て燃え上がってしばらくすると屋内の酸素の消費が進んで火勢がいったん弱まるのだ。
この状態でドアや窓を開けると一気に空気が流入して酸素が供給されるために爆発的に火勢が強くなる「バックドラフト」が起こるよ。
なので、不用意にドアや窓を開けて背景のだけど、そのままの状態だと不完全燃焼が進んで一酸化炭素が出てくるのだ。
一酸化炭素の比重は空気と同じくらいなんだけど、燃焼で出てくる一酸化炭素は熱いので上の方にたまりがちだから、姿勢を低くして一酸化炭素をできるだけ吸わないようにすることが大事。
でも、そのままだと一酸化炭素中毒に加えて低酸素による酸欠も近づいてくるので、誰も助けに来ないのであれば、少し窓から離れたところから物を投げて空気の通り道を作るしかないよ。
火は勢いを増すけど、酸欠や一酸化炭素中毒は防ぎやすくなるのだ。

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