2025/09/20

果肉を食わせて種をまく

 シーズンに入ってしまった。
道に黄色いサクランボ様の実が落ちている。
見た目だけならかわいらしい。
問題は、においなんだよね・・・。
そう、ギンナンのあの独特のにおい。
踏んでいく人がいるから余計に広がる。

あんなにおいなので、サルやネズミはさけて食べないみたいなんだけど、一部の鳥やアライグマなんかは積極的に食べるようなのだ。
で、そのくさい実の中にある、硬い殻に包まれたギンナンの本体(発芽する部分)はふんと一緒に排出され、遠隔地に運ばれるわけだ。
においによって捕食する動物種を絞っているのには何か意味があるはず。
っていうか、進化論でいえば、少なくともどこかのタイミングでにおいが有利に働く場面があったからこそ、くさくないギンナンは現在残っていないのだ。

単純に考えれば、人間のように殻の中身を食べてしまうような動物には食べてほしくないわけだよね。
外側のくさい部分は食べるけど、あとはからごと飲み込んでそのまま出してくれる。
そういう動物が望まれるのであって、強い顎で殻ごと砕いてその中身を食べるような動物はお断りなわけだ。
強くにおいがそういう動物を排除するのにどう役立つかだけど、考え方は逆で、中まで砕いてしまうような動物を完全ン位排除するのではなくて、殻の外側しか食べない動物のうちどれかに食べてもらえればよい、ということなのだ。
これはオール・オア・ナンの世界ではなくて、殻ごと飲み込んでくれるような動物のすべてに食べてもらう必要がなくて、においを気にせずに食べる動物であれば殻ごと飲み込んでくれればよいのだ。
つまり、においで食べてくれる動物種を絞りに絞っても、それなりの数がいてくれれば繁殖戦略上は問題ないから、御供御数種類の動物にしか食べられなくても問題なし、ということだよね。

ところが、これはもう少し複雑な問題をはらんでいるのだ。
それは、イチョウという植物種が極めて古いものであるということ。
すなわち、イチョウの木が地上に登場して反寧したのは、まだ恐竜や大型爬虫類が闊歩する中生代という時代。
超原始的な哺乳類の祖先はいても、メジャーな存在ではないのだ。
小型の恐竜や爬虫類に実を食べてもらって、ということが必要だったはずなんだよね。
で、中生代から新生代に移り変わるあたり、ちょうど恐竜が絶滅し、被子植物が勢力を伸ばしていくタイミングにおいて、その捕食者が恐竜や爬虫類から鳥類や哺乳類に代わっていくことになるのだけど、それでももともとのイチョウの繁殖戦略はそこそこ有効だったからこそ今に続いているのだ。
そうなると、ひょっとすればだけど、あの独特のにおいは殻をかみ砕く捕食者に食べられないようにする、という消極的なものではなく、実は積極的に恐竜や爬虫類を引き付けるものであった可能性もゼロではないと思うんだ。
生物相の大転換を境にその役割は変わったんだけど、引き続き有効に機能した、というだけで。

世界最大の花と言われるラフレシアは獣肉の腐臭のような強烈なにおいで特定の昆虫を引き付け、繁殖にりようしているわけで、そういう戦略があってもよいのだ。
ただし、化石からわかることは、過去においてもイチョウの実を食べていた動物(恐竜は爬虫類)がいたということだけ。
なので、ジュラシック・パークのように、何らかの形で保存されていて中生代のイチョウの細胞からDNAを抽出して現世首都の違いを見る、というくらいまでやらないと、ギンナンのにおいが過去と現在において同じなのか、異なっているのかはよくわからないんだよね。
恐竜や爬虫類でなく、鳥類や哺乳類に食べてもらうようになったタイミングで初めてにおいが有効に自然淘汰に貢献した、ということもなくはないのだ。
なんかボク的にはこういうのはロマンを感じるんだよなぁ。
小学生クリアのころは本当に古生物学にも興味があったんだよね。

ちなみに、いわゆる「果実」というのは定義上は被子植物のもの。
受粉後に子房が発達していって種子を包むようになったもの。
リンゴでもモモでもミカンでも。
イチョウは裸子植物なので、厳密にいうと実としてのギンナンは果実ではないのだ。
たまたま一番外側の害表皮部分が肉質化しているだけ、という整理だそうで、同じような実をつける裸子植物は他にソテツくらいみたい。
イチョウと同じく生きた化石植物であるメタセコイアはマツにちかい針葉樹で、松ぼっくりに似た球果という丸くて硬い実をつけるのだけど、その鱗片には松の実のようなものがついていて、これがギンナンに当たるもの。
こういう球果は乾燥するとカサが開いてきて鱗片が剥がれ落ちていくんだけど、実の部分に膜状のものがついていて風で遠くに運ばれるのだ。
松ぼっくりも分解して一枚一枚硬い鱗片をはがしていくと、根元部分に松の実と半透明の膜があるんだって。

被子植物の果実は果肉部分を食べてもらうついでに種子は飲み込んでもらって、というイチョウと同じ戦略なんだけど、マツなんかの場合は、大事な種を食べられないように硬いもので覆っているのだ。
ただし、実施にはリスや鳥はそれをほじくって食べるのだけど、ネズミやリスなんかは食料を貯蔵する習性もあるので、ドングリと同じように食べずに埋められただけの松の実が発芽する場合もあるのだ。
風で自然に飛ばす以外に広げる手段にもなるので、さらに食べにくくする、というイタチごっこにはなっていないみたいだ。

0 件のコメント: