2024/11/16

塩の力

 ステーキを焼くときに塩をあらかじめふるけど、それって実は、下味をつけるという意味だけではないみたい。
どうも、塩で表面を「ひきしめている」んだとか。
なので、塩を振る量や塩をふってからおいておく時間なんかも大事らしい。
ステーキみたいな料理は焼くというプロセスだけが大事なんだと思っていたけど、どうも、焼く前からもう勝負は始まっているらしい。

科学的にみると、肉の表面に塩をふると、その塩が肉表面の水分でかなり濃い水溶液になるんだよね。
そうなると、浸透圧の差で、肉表面の水分をさらに吸い上げるのだ。
どうもこの効果が大事らしくて、肉表面の水分が吸われていく過程で、肉の表面の筋組織が引き締まるんだとか。
でも、それはあくまでも表面だけの話というのがポイント。
肉の内部の水分まで奪ってしまうと焼いたときにじゅしーさが亡くなってパサついてしまうから。
なので、表面だけ塩に水分を吸われて引き締まっているのだけど、表面以外の内部にはさほど影響がない、という状況に持っていきたいわけ。
この作用を知っていると、どれくらい塩をふればよいのか、焼く前にどれだけの時間をあけて塩をふっておくべきなのかが決まってくるよ。
鉄板焼きなんかにいくと無造作に塩をふっているようにも見えるけど、おそらく長年の経験に基づくノウハウみたいなのがあるはずなのだ。

一方で、そうやって表面に塩をふるだけでなくて、塩水につけて肉を柔らかくする、というのもあるのだ。
それが最近時々ネット見かける「ブライン液」というやつ。
レシピによって濃度は変わるんだけど、塩と砂糖を混ぜた水だよ。
塩と砂糖をそれぞれ重量濃度で5%としているのもあるけど、これは相当あまじょっぱいなのだ。
モデレートなやつだと塩3%、砂糖2%でトータル5%の重量濃度。
生理食塩水は0.9%なので、十分に高張な液なので、長く漬け込んでおくとに気が内部から引き締まるはずなのだ。
ちなみに、海水は約3.4%の濃度なので、このモデレートなものでもそれよりも濃いよ。
人間は味覚的に生理食塩水に近い濃度のものをちょうどよい塩気と感じるので、から辛い液ということになるのだ。

で、なんでこんな甘辛い液につけると肉が柔らかくなるのか?
ネット上ではいろんなことが書かれているんだけど、おそらくこういうことだと思うんだよね。
まず、このブライン液の場合は表面処理ではなくて長時間漬け込むタイプなので、肉中の水分とこのブライン液の間で塩と砂糖の平衡状態になるのだ。
つまり、肉からは余計な水分が出てくる、漬け込み液からは塩と砂糖が浸透していく。
十分に長い時間が経過すると、漬け込み液と肉中の水分の塩・砂糖の濃度がほぼ同じになってバランスするのだ。
この状態を目指しているんだよね。
このとき、おそらく肉の方はもとより水分が抜けていて全体的にちょっと引き締まっているんだけど、一方的に水分を搾り取っているわけではないのでぱさぱさにはならないのだ。
さらに、塩だけでなくて砂糖も入っていて、加熱する過程でこの砂糖が保水効果を発揮して肉から水分が抜けにくくなるので、結果としてぷりぷりに仕上がると考えられるのだ。
これが鶏むね肉のようなパサつきやすい肉でもおいしくふっくらと仕上げられる、と言われている所以ではないかと思うよ。

さらに、筋原線維を構成しているミオシンとアクチンは、塩の存在下ではアクトミオシンという形で一つになって水ぬ溶けやすくなるのだ。
これは、ひき肉を練っていくとき、塩を加えると粘り気が出てくるのと同じ現象。
ハンバーグでも餃子の種でも、塩が存在していないとあの粘り気は出ないのだ。
ブライン液の場合は漬け込むだけなので練ったひき肉のおうに粘り気が出るわけではないけど、筋原線維のいち部は浸透していった塩分の濃い漬け込み液の効果で一部アクトミオシンが形成され、水に溶けやすくなっている状態になっているはず。
これは現象的には、筋原線維の一部が融解して肉が柔らかくなっている、ということにほかならないのだ。
なので、普通は加熱すると肉は固くなっていくけど、この効果で柔らかさがプラスされる、ということだね。
さっきの佐藤による保水効果と合わせると、やわらかくふっくらと仕上げるということなのだ。

考えてみると、漬け込み型のから揚げなんかは実はこういう現象が起きていて、漬け込み液には塩分が含まれているし、砂糖やみりんを入れる場合もあるので糖分もあるのだ。
で、店によってはその漬け込み液に半日程度漬け込むとかいうので、まさにこのブライン液漬け込みとほぼほぼ同じ状況になっているわけ。
で、この唐揚げの漬け込み液は、鶏肉に味をしみこませる、という以上に、火を通してもふっくらジューシーというのにも「貢献していると考えられるのだ。
下味付けずに唐揚げ粉で、というのもあるけど、こういうメカニズムを知ると、じっくり漬け込むタイプのから揚げの魅力が増すね(笑)

2024/11/09

どちらに入れました?

 日本では衆議院総選挙、米国では大統領選挙がちょっと驚きの結果で終わったのだ。
選挙は水物、ふたを開けてみるまでわからない、とは言うけど。
日本の場合、投票率は低めだけど、注目度は高いわけで、マスコミは投票締め切り後すぐに開票速報を出し始めるのだ。
で、いきなり「当選確実」が出たりするんだよね。
これには「出口調査」のデータが重要なのだ。

出口調査はその名のとおり、投票所の出口で待ち構えて「どこに投票しましたか?」というのをアンケートで聞いて、その結果を集計したもの。
当落予想には、各マスコミが独自の基準を持っていていろんなデータを加味するようなんだけど、出口調査の結果は最重要なものと位置付けられているよ。
ボクも一度だけ聞かれたことがあるのだ。
でも、日本では、公職選挙法第52条で「投票の秘密保持」が定められていて、「何人も、選挙人の投票した被選挙人の氏名又は政党その他の政治団体の名称若しくは略称を陳述する義務はない。」ということなので、出口調査のアンケートには必ずしも答える必要はないよ。
で、そういう回答率が100%ではないということも踏まえて、おおむね実際の選挙結果を推定できるようにアンケートを行う必要があるのだ。
テレビの視聴率は統計学的にはけっこういい加減なところがあるというけど(サンプルの絶対数が少ない。)、こっちは当落予想をしていて大きく外すと問題になるので、各社工夫しているようなのだ。

一般的には、統計学でいうところの二段階抽出で、まずは対象の選挙区の中のどの投票所でアンケートするかを選ぶのだ。
このとき、統計学上必要なサンプル数は決まっているので、あまりにも小さい規模の投票所は最初から除外されるよ(例えば、東京都の選挙区の離党の投票所など)。
さらに、選挙の場合は特定の地域で特定の政党や候補の支持が異様に高いということがあるので(いわゆる組織票)、小規模投票所を除いて完全にランダムで投票所を選んでしまうと、確率的にこういう全体の分布より偏った分布を持つことが容易に想定される投票所が多く選ばれてしまう可能性も出てくるのだ。
なので、そこも補正が必要なんだよ。

そうして投票所を選んだら、そこに調査員を派遣して、投票所から出てきた人を無作為抽出で捕まえて投票先を聞くのだ。
だけど、ここでも完全にランダムにやってしまうと、年来や性別等が偏ってしまうので、そういうか頼りに配慮しながら声をかける人を調節するみたい。
てゃいえ、年代別でけっこう投票率は変わるので、実際には高齢者は多めに聞かないといけないはず。
なので、その辺はけっこう選び方が難しいはずなのだ。

それと、最近の傾向として、期日前投票がけっこう増えている、というのも重要な要素。
期日前投票についても時々出口調査をするんだけど、投票日だけ張り付けばよいのと違って、あまり人が来ない期日前投票に1週間以上も人を張り付けるわけにはいかないので、初日と中日と最終日と、とか日を決めて調査するみたい。
この間の総選挙でも期日前投票のデータでは・・・、と選挙速報で言っていたので、それなりの規模ではやっているみたい。
こっちは見たことないけど。

で、こうして投票先の動向を予測するんだけど、実際に当落の予想をするときは、他にもいろんな要素を加味するんだって。
そのひとつが、あらかじめ行っている世論調査。
支持する政党だとかなんだとか聞いておいて、全体のトレンドをつかんでおくのだ。
投票の動向とは完全一致しないけど、どの政党が人気で、どの政党がそうでないかはわかるよね。
実際には、各選挙区にすべての政党が立候補者を立てるわけではないので、入れる先がない、ということで必ずしも指示していない政党に投票するケースもあるので、そのあたりも考慮に入れる必要があるよ。

さらに、開票が始まると、まずはな目だけ確認して各候補者ごとに投票用紙の山を分けるんだって。
で、いくつかの山に分けた後で、一票一票名前をさらに確認しながら集計していくのだ。
マスコミはこの作業を見ていて、その山の大きさで、圧倒的な差がついているのか、僅差で接戦になるのかを判断するとか。
これができると数分以内で「当選確実」が打てるんだよね。
でも、t表締め切り直後に出ているものもあるような・・・。
どうも、そういうのは世論調査などの結果で明らかに「圧倒的有利」になっていて、かつ、出口調査でも問題なく大きく優勢、ということみたい。

こんな感じでデータを集め、あとは各社の判断で「当選確実」を出していくんだけど、選挙特番をはしごすると、微妙にずれているのがよくわかるのだ。
これは、世論調査や出口調査は各社の独自データであるため(世論調査はニュース配信会社のものを使う場合もあり。)。
まさに腕の見せ所なわけだけど・・・。
大きく間違うと責任問題になるので、けっこう大変みたい。
ま、当選確実をいつ出すかで大きく視聴率が変わるとも思えないので、早い、よりは、より確からしい、方が大事なんだと思うけど。
でも、投票結果が数十票差で当落が分かれる、なんて大接戦も過去にはあったようで、なかなか難しい作業なのだ。

それと、最近は比例との重複立候補で「復活当選」もあるので、さらに難しいんだよね。
「復活当選」するかどうかは、選挙区での惜敗率(当選者の獲得した票数に対してどれだけ迫っていたか)が関係するので、やはり「票読み」が大事なのだ。
(比例の順位は同率が認められているため、惜敗率が高い方から当選になっていくのだ。)
この辺は開票が進まないとなかなか全容がつかめないものではあるんだけどね。
だれが当選するかはそうなんだけど、比例で何人当選しそうかは票数に依存するので、選挙後の各党の勢力図変化はわかるのだ。
今回も「与党は過半数割れしそう」、「立件民主党や国民民主党が躍進しそう」というのは締め切り直後から出ていたしね。

2024/11/02

指名No.1

 衆議院の解散総選挙があったので、まもなく新たな内閣総理大臣の指名が行われるんだよね。
今回は任期満了前の解散だったので、召集されるのは特別会(マスコミは「特別国会」と呼ぶよ。)。
基本的には内閣総理大臣の指名を行うことだけを目的にしていて、今回は11月11日召集、会期は4日間を見込んでいるみたいだね。
解散総選挙後30日以内に国会を召集しないといけないのだけど、今回は自公の議席が伸びず、「少数与党」という微妙な状況になっているので、わりとゆっくり目に召集されるのだ。
与党側も野党側も連立する市内とかの駆け引きがあるからね。
で、せっかくなので、改めて内閣総理大臣が指名されるプロセスについて調べてみたよ。

内閣総理大臣の指名は日本国憲法第67条第一項に「内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。」と定められていて、これに基づいて行われるのが内閣総理大臣指名選挙。
通称「首班指名」と呼ばれるもの。
同条項の後段で「この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。」となっているので、最優先で審議される議題なんだけど・・・。
今回のように解散総選挙後に改めて特別会が開催される場合、改めて議長・副議長の選任や議席の確定などの議事進行上必要不可欠なことを決めないといけないので、それが終わった後に首班指名が行われることになるよ。
例えば、すでに国会の海中で、首相が病気などを理由に内閣総辞職した場合は、他に審議中の法案などがあっても、それは差し置いてまず首班指名をする、ということなのだ。
第一次安倍政権のときは臨時会での所信表明演説後に総辞職だったからそんな感じだよね。

国会における首班指名の選挙は、予算のように衆議院先議などのルールもなく、それぞれ独立して行うことができるのだ。
このとき、この「指名」という議事は特別の定めのあるものではないので、日本国憲法第56条第二項「両議院の議事は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。」に従うのだ。
でも、実際には、最初の指名投票では、連立を組んでいる場合を除いて、各党は自分のところの代表者(多くの場合は党首)を指名するので、ここで過半数を超える候補がいきなり出てくることはまれなんだよね。
選挙前のように自民党が一党で過半数を越えている場合はそこで終わりになるんだけど。

で、最初の投票で過半数を越える候補者がいなかった場合、上位2名による決選投票になるのだ。
これは各議院の議院規則で決まっていて、例えば、衆議院の場合は、第18条第三項で「 投票の過半数を得た者がないときは、第八条第二項の規定を準用して指名される者を定め、その者について指名の議決があつたものとする。」としていて、これのもととなる第8条第二項では「投票の過半数を得た者がないときは、投票の最多数を得た者二人について決選投票を行い、多数を得た者を当選人とする。但し、決選投票を行うべき二人及び当選人を定めるに当り得票数が同じときは、くじでこれを定める。」となっているのだ。
日本の法律だとわりとよく出てくるけど、同数で決められない場合、最後はくじ引きなんだよね・・・。

ここで重要なのが、決選投票の票の数え方。
ここでも過半数を取らないとダメ、というルールになると、いつまでの指名を一本化できなくなる恐れがあるよね。
でも、実際にはそんなことにはならないようになっているんだ。
ここで着目すべきは、衆議院規則の規定ぶり。
「決選投票を行い、多数を得た者」となっているのがポイント。
この書き方だと、白票などの無効票を除外し、一番投票数の多かった人、ということになるのだ。
なので、第一党と第二党の代表で決選投票になった場合、他の党は双方とも応援したくなくて無効票にしても、第一党の代表が指名されるような仕組みになっているのだ。
おそらく、今回も「野合」が成立しない以上は、自公連立の候補者が決選投票で選ばれることになるはず。


このプロセスでそれぞれの議院で指名する者が決まるのだけど、衆参で指名者が一致しない場合があるのだ。
今回も「野合」が起こると数の上では衆議院は野党代表を指名することもできるので、与党が過半数を占めている参議院とは確実に指名者が異なることになるのだ。
報道で「野合」にはならなさそうだけど。
このときは、他の議案と同様に、両院協議会が開催されることになっていて、そこでの話し合いで一本化できればその人が最終的な指名者になるよ。
ここでも議論が分かれる場合、決を採って、両院協議会の出席者の2/3以上が指示した人がいればその人が指名されるんだ。
それもかなわない場合は、「衆議院の優越」により衆議院で指名された者が最終的に選ばれるよ。
※日本国憲法第67条第二項「衆議院と参議院とが異なつた指名の議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が指名の議決をした後、国会休会中の期間を除いて十日以内に、参議院が、指名の議決をしないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。」
ま、プロセスはともかく、基本的には衆議院での指名者が次の首相になるのだ。
過去に「ねじれ国会」となったときには両院協議会でも調整つかず、ということはあったけど、ルール上プロセスは規定されていても、それだけの話になっているのだ。

ちなみに、先も出てきた憲法第67条第一項の規定では、内閣総理大臣は国会議員の中から選ぶとだけ規定されているので、参議院議員でもいいはずなんだけど、実際には衆議院議員から選ぶことが通例となっているのだ。
理論的にはOKだとしても、首相は衆議院の解散権を持つので、自らの職を賭さずに解散権と持つのはどうかというのが根底にあるのと、憲法では何かと衆議院の優越性を認めているので、というのもあるらしい。
過去に指名投票では参議院議員の名前があがったことは何度もあるわけだけど(そもそも党首が参議院議員である場合など)、実際に指名されているのはみな衆議院議員なのだ。

2024/10/26

パンを先に食べるにあらず

 今更ながら、という気がしないでもないけど、さんざんあれだけ推奨してきた「ベジファースト」が否定され始めたのだ。
厚生労働省の作成している「食品摂取基準」にも、「野菜から食べるとよい」という記述があったんだけど、それが最新版では削除されたことがきっかけ。
実は、意味がないことではないんだけど、言葉の独り歩きと拡大解釈で「デマ」が蔓延してしまったという不幸な話なんだよね・・・。
問題は、きちんとその効果を理解することなのだ。

もともとこの話は、とある実験結果に由来するのだ。
それは、食べる順番が血糖上昇にどういう影響があるかを調べるもので、野菜を食べてから10分後にお米を食べた場合と、お米を食べてから10分後に野菜を食べた場合の血糖値の刑事変化を調べたもの。
お米から先に食べると一気に血糖値が上昇し、その後インスリンが分泌されて急激に血糖値が下がっていくんだよね。
一方、野菜から食べると、血糖値の上昇が緩やかで、乱高下がない、ということがわかったのだ。

血糖値の急激な上昇にひどいものは「血糖値スパイク」と呼ばれ、ぐんと上昇した後にがくっと下がるんだけど、、この時反動で下がりすぎてしまい、低血糖状態になることがあるのだ。
こうなると、急激なふらつき、眠気などの症状が出てくるよ。
ネットでは「ドカ食い気絶部」なんてのがあるし、最近話題の漫画「ドカ食いダイスキ! もちづきさん」は大量に食べた後に恍惚の表情を浮かべているけど、その原因がまさにこれ。
サウナの「ととのう」以上にやばい状態なので、本当は避けなければいけないんだよ。

一般に血糖値の乱高下は体に負担があると言われていて、特に血管系にダメージを与えるので循環器系の生活習慣病のリスクを高めると考えられているのだ。
なので、できるだけ血糖値の上昇を穏やかにするために食べる順番を工夫しましょう、という話だったわけ。
もちろん、一口目に野菜、二口目にお米、というのではあまり意味がないわけで。
コース料理や懐石料理のように、料理ごとに多芯たーばるを開けて食べる場合において、まずは炭水化物があまり入っていない、野菜中心のメニューから食べるといいよ、ということ。
日本では給食をはじめとして「三角食べ」が推奨されているので、実は本当の意味での「ベジファースト」はやりづらいのだ。

この「ベジファースト」は、野菜に含まれる食物繊維が糖の吸収を抑制するので急激な血糖上昇を抑える、と説明されてきたんだよね。
これが単純化されて独り歩きし、かつ、拡大解釈されたのが、「ベジファースト」は「やせる食べ方」という受け止め。
難消化性デキストリンなんかを含むトクホ製品でも「糖の吸収をだやかにする」と書かれているけど、量的に糖の吸収を大きく減らすわけではないのだ。
っていうか、糖尿病の治療に使われるSGLT2阻害薬は実際に腎臓での糖吸収を阻害するんだけど、そこまで作用の強い薬なので当然処方せん薬。
それと「同等の効果が食べ方の工夫や普通に誰でも買えるトクホで実現されるわけはないのだ。

なんだけど、血糖値スパイクを防いで生活習慣病リスクを下げる、というのは忘れ去られ、糖の吸収をyるやかにする=>糖の吸収を抑える=>食べても糖が吸収されないから太りにくくなる、とどんどん拡大解釈が広がっていったわけ。
で、町医者なんかも、厚生労働省の指導もあって、生活習慣病リスクを下げる効果があって、非常に単純にできること、ということで、「ベジファースト」を勧めることが多かったのだけど、最近では、医師であっても「ベジファーストはやせる食べ方」という認識を持ってしまっている場合があるようなだよね・・・。
きちんと理解したうえで実践するのはよいのだけど、さすがにこの状況は看過できず、ということで、厚生労働省は食品摂取基準から記述を削除したようなのだ。

で、この「ベジファースト」のほかにも、わりと簡単にできる血糖値スパイクを抑える食べ方というのはあるのだ。
もっとも単純なのはゆっくりよく噛んで食べる、ということ。
もう少し気にしたい人は、GI値ことグリセミック指数の低い食品を積極的に食べる、ということ。
このGI値というのは、食後どれだけ血糖を上昇させるかの指標になっていて、野菜や豆類、肉類は低く、でんぷん質の白飯、パン、うどんなんかは非常に高いのだ。
なので、白飯ではなく玄米、食パンではんく全粒粉パン又はライ麦パン、うどんではなくそば、とすることで、けっこう血糖値スパイクは避けられるよ。
若いうちはあまり気にしなくてよいのだけど、ある程度の年齢になったらこういうのを気にしないといけないんだよね。

2024/10/19

柳の上に猫がいる、だからネコヤナギ

 外国の女性が神社の鳥居で懸垂をしている動画をインスタグラムにアップしたことが炎上しているらしいのだ。
日本人にとってみると鳥居は神社と一体不可分に結びつくもので、つまりは神聖なものなので、そんな不敬は許されない、という内容。
程度の差こそあれ、異文化交流ではこういうことがよくあるよね。
郷に入っては郷に従えで、やはり現地の文化を尊重し、そういう失礼と思われるようなことがないようにするのがベストなのだ。
で、思ったんだけど、そうは言っても、実はそこまで鳥居について知っているわけでないんだよね。
神社にある、形状はわかる、というくらいじゃないかな。
というわけで、少しだけ調べてみたのだ。

とはいえ、起源や由来が詳細に判明しているわけではなくて、諸説はあるみたい。
そんな中で、いくつか拾ってみると、おおよそこんな感じ。
まず、鳥居は神域の境界を示すもので、鳥居の先は神聖な場所という扱いで、一種の門になっているのだ。
どうも、鳥居は神社建築より古くから存在しているようで、何か神聖な場所やモノがあった場合、その周辺の神聖な区画(結界の内側)を示すものとして使われていたみたいなのだ。
現代の神社は本殿の中に御神体があって、その手前に参拝や儀式をするための拝殿があるよね。
で、神社の境内の境界や拝殿・本殿の前に鳥居が置かれるのだ。
つまり、神聖な区画である境内の境界を示すとともに、神社の中でも特に神聖レベルが高い拝殿や本殿の前にも二十バリアのように置かれているわけ。
鳥居をくぐるために神聖レベルが上がっていくイメージだね。

でも、古い振興においては、自然物や自然現象を神聖視して、崇めていたようなのだ。
岩石や樹木、山、海、川、池などの自然物の場合は、それを神聖なものと示すために注連縄や鳥居が使われたのだ。
古い神道の進行形態を保存しているといわれている、奈良の大神神社や京都宇治の宇治上神社は山体そのものが御神体なので、本殿を持たず、その山のふもとに拝殿だけが置かれていて、その一帯の神域の境界を示すためのものとして鳥居が置かれているのだ。
拝殿が必要になるのは、そこで参拝をしたり儀式をしたりするからで、そのもっと手前、ただただ山に畏敬の念を抱いて拝む、捧げものをする、みたいなもっと原始的な進行形態の場合は、拝殿も不要で、神域を示すもの=鳥居や注連縄だけあればよいはずなのだ。
これが鳥居が神社建築より古くからあると考えられてる理由だよね。
で、時代が下ってくると、鳥居が神聖な場所・モノと切っても切れなくなて、立小便禁止のために鳥居のマークを塀に書くみたいな風習も生まれてくるのだ。
これは主客が逆転してしまっているけど、応用編だね。

なぜ鳥居というのか、というのも諸説あるようだけど、ボクが個人的に気に入っているストーリーは、字のごとく、「鳥の居る場所」という意味。
記紀神話の天岩戸から天照大神を誘い出す際、常世長鳴鳥(とこよのながなきどり)を鳴かせ、天鈿女に躍らせて騒ぐわけだけど、それにちなんで、神域の前に鶏の止まり木を置いたことに由来する、というもの。
八幡神社の場合は神使が鳩だからちょうどよいし、実は、伊勢神宮などでは鶏が神使なんだよね。
熊野神社の場合は烏。
古代日本では鳥は魂に例えられたりもするけど、空を飛ぶという行為が、人間の世界である地上と神々の世界である天井(高天原)を結ぶものと直感的にとらえられていたんじゃないかな。
なので、神使としての鳥は素直なもので、鳥の止まり木を神社に置くのは自然な流れになるのだ。

止まり木なのかどうかは別としても、鳥居と言われると代替イメージする形はあるのだ、
「形」の地の左側だよね。
でも、実は鳥居の形には様式があって、伊勢神宮や全国の天祖神社・神明宮にある神明鳥居、鹿島神宮の鹿島鳥居、八幡神社の八幡鳥居、街中で見かける稲荷神社の明神鳥居などなど。
実は、鳥居の形状を見ただけで大体の御祭神の区別がつくのだ!
ちなみに、安芸の宮島の厳島神社のような「支え」がついた鳥居は両部鳥居という名前だよ。
あれは地面に埋まっておらず、自立しているという点でも特徴的なんだよね。

2024/10/12

金のひび

 なんでも鑑定団とかを見ていると時々出てくるけど、陶磁器の修復方法で「金継ぎ」というのがあるのだ。
割れたかけらをくっつけるのだけど、そこの境界部分が金色になっているやつ。
目立たないように修復するのではなく、それもまたひとつの「味わい」として楽しむ、というものなんだよね。
千利休がそういう考え方を打ち出したらしい。
ものを大事にしつつ、さらにそこに新たに芸術性を加えるというのはすごい発想なのだ。
日本発で「モッタイナイ」の次に広めたいよね?

そんな金継ぎなんだけど、これははんだのように金属を溶かして間をつないでいるわけではないのだ。
当たり前だけど、陶磁器と金属ではそこまできれいに接着しないし。
ここの接着で重要なのは、「うるし」なのだ。
うるしは一度固まってしまうと水にも油にも酸にもアルカリにも強いので、食器として使う場合でも安心。
漆器は木地物のそういう弱点を克服するものだしね。
一方で、極度の乾燥や継続的な湿気、それから紫外線が大敵。
陶磁器はこういうのには強いけど、金継ぎが修復した場合は気を付けないといけないよ。

で、具体的な方法だけど、一般に公開されているものはあるのだけど、細かなコツや美しく仕上げる手法などは師弟関係の中でのみ伝達されるので、よくわからない部分が多いのだ。
ま、職人仕事だからそういうものだろうけど。
ただ、そういう一般レシピでよいのであれば、金継ぎ体験なんかもできるみたい。ちょっと興味あるかも。
そういうのの公開されているプロトコールを見てみると、次のようなものなのだ。

(1)接着したい断面にうるしを塗り、よく乾燥させる(これは後で接着剤をつけやすくするため)。
(2)小麦粉を水で練って作ったのりと生うるしを混ぜて「麦うるし」を作り、これを接着剤としてくっつける。
(3)(一般的な漆器の場合と同じように)高温多湿の室の中に入れてうるしを固める(~2週間)。
(4)修繕した部分にさらに黒うるしを塗り、乾燥させた後磨く、という固定を数回行う。
(5)仕上げとして修繕部分に金粉(金箔を粉にしたもの)を赤うるしと一緒に塗り、乾燥させる。
(6)最後の仕上げとして透うるし(水分の多い生うるしから不純物をろ過して除いた透明度の高いうるし)をコーティング剤として塗り、乾燥させる。

うるしはウルシオールという成分がラッカーゼという酵素の作用により周辺の水と反応して重合し、固まるんだよね。
なので、「乾燥」と言いつつ、高温多湿のところにおいておく必要があるのだ。
で、固まったとき、少しだけ体積が減って縮むのだ。
コーティング剤として使う分にも気にする必要はないのだけど、金継ぎのような修復に使う場合は、そのままにしておくと修復部分が少しだけへこんでしまうんだよね。
人間の触覚はなかなかすぐれたもので、割とそういうのを知覚してしまうので、さらに修繕部分にうるしを重ね塗りし、平たんにしていく作業が必要なのだ。
これが(4)以降の作業の意味。
で、修復部分をひびが目立たないようにすることもできるけど、最後に金色にしてむしろ新たな味わいを出す、という工程になっているよ。
ここで金粉を使わず、陶磁器の地の色と近い感じの色合いで塗ってあげれば日々を目立たなくすることもできるのだ。

接着剤に使っている「麦うるし」も特徴的なもので、これはのりの成分にもなるでんぷんをあえてすべて取り除き、(麺のコシのもとである)グルテンだけを残して使っているのだ。
でんぷんのりだと一度固まっても水気があるとすぐにふやけてしまってはがれてしまうので、高温多湿な環境で固める必要のあるうるしと相性が良くないのだ。
グルテンのりの場合は、もともとの接着力も強く、固まった後も水気で柔らかくはなるけど接着力は強いままなのでちょうどよいわけ。
こういうのも昔の職人さんが工夫しながら見つけたんだろうね。

2024/10/05

みんなで、朝食に、食べよう

 最近、MCTオイルというのをよく見かけるのだ。
体脂肪の燃焼を助け、ウエストを補足する効果がある、ということで、機能性表示食品になったので、よく宣伝しているかららしい。
CMでもよく見かけるよね。
でも、けっきょくよくわからないので、ちょっと調べてみたのだ。

MCTは中鎖脂肪酸トリグリセリド(Medium Chain Triglyceride )のこと。
炭素数が6~12の中鎖脂肪酸3つとグリセリンが結合したもの。
食用油の中に含まれているオレイン酸やリノール酸はともに炭素数が18の長鎖脂肪酸(炭素数が13~21)だから、それよりも小さな分子。
具体的にはココナッツオイルやパーム核油に含まれるラウリン酸(炭素数12)のような脂肪酸のこと。
当たり前だけど、炭素数が少ないということは分子も小さい。
でも、それ以上に、脂肪酸は炭素数が増えるほど疎水性が増すので、炭素数が少ない脂肪酸は比較的水と混ざり合うのだ。
なので、炭素数の多い長鎖脂肪酸は水の中で油としてまとまっちゃうのだけど、中鎖脂肪酸くらいだとうまいこと分散してくれるよ。

この効果は絶大で、長鎖脂肪酸から構成されるトリグリセリドは界面活性剤として作用する多重産で入荷されないとリパーゼで分解されないのだけど、MCTだと胆汁酸がなくてもリパーゼで脂肪酸とグリセリンに分解されるのだ。
しかも、分解されて出てくる脂肪酸も、長鎖脂肪酸と中鎖脂肪酸で扱いが変わるのだ。
血液中には基本的に低分子のものしか入り込めないので、長鎖脂肪酸は腸管で吸収された後、いったんリンパに入り、そこから静脈に入っていくんだって。
で、すぐに大差されることはなう、中性脂肪としてエネルギー貯蔵に回されるのだ。
腸管から脂肪をたくさん吸収した琳派は白く濁っていて、「乳糜(にゅうび)」と呼ばれるんだけど、確かにこんなどろどろのものが血液に入ったら大変だ・・・。
一方、中鎖脂肪酸は糖やアミノ酸とともに門脈(腸管から吸収した栄養を肝臓に運ぶ静脈)からすぐに肝臓に運ばれて代謝されるんだよ。
これがMCTは消化・吸収が早く、すばやくエネルギーになるといわれる所以。

将来のエネルギー源として蓄えられてしまうと、信望はなかなか燃焼されないんだよね。
瞬発的な運動の場合はグリコーゲンが優先的に使われるので、じっくりと継続的にエネルギー消費をする有酸素運動でないと脂肪は減らないのだ・・・。
これが一度ため込んでしまうとなくすのが大変な理由なんだよね。
その意味では、MCTは非常に魅力的なものだけど、全部これでよい、というわけでもないんだって。
やっぱり摂取量には限界があるし、必須脂肪酸はみんな長鎖脂肪酸なんだよね。

とはいえ、同じ脂質を摂取するにしても、MCTの方が脂肪として貯まりにくく、すぐにエネルギーになって効率的、ということ。
また、胆汁酸を必要としないで消化・吸収できるので、その点では「もたれ」にくいのだ。
というわけで、当初は病院で効率的な脂質吸収のために使われていて、その後、スポーツの分野でエネルギー補給用の脂質として活用され始めたらしい。
で、そうやって使っていくうちに、どうもMCTを摂取すると、脂質の代謝自体が高まったり、食欲が抑えられたり、という効果が報告され始めたんだって。
今でも詳細のそのメカニズムは解明されてはいないのだけど、そこに目を付けたのがダイエット業界というわけで、それで一気にはやり始めたのだ。

中鎖脂肪酸を燃焼させてエネルギー源にする場合、いわゆる「ケトン体」が出てくるのだけど、ケトン体はインスリンの分泌を抑制するなどの効果があるので、そういうのが絡み合ている可能性はあるのだ。
現象として見えていることはプラセボ効果(「思い込み」)でもないようなので、おそらく何か複雑なプロセスできいてる可能性はあるのだ。
でも、機能性表示食品だと、実際に効果が認められればOKなので、詳細な作用機序は不明のままでもよいのだよね。

MCTの利点としては、脂である割にはさらっとしていていろんなものに混ぜやすいこと、そして、それ自体が強い風味があるわけでもないので、味をこわさないことがあげられるよ。
なので、とりあえずなんにでもかけちゃえ、という感じで宣伝されているよね。
飲み物やヨーグルトに入れたりもするのだ。
そうでないとサラダのドレッシングとか用途が限られるから、これも重要な特徴だよね。
もうちょっと評価が固まってきたら、この新たなアブライフに手を出してみてもよいかも。