自動回復
水道管の破裂事故なんかでけっこう明るみに出てきたことだけど、バブル時代に大量に施工された建築物・構造物が耐用年数的に限界を迎えつつあるのだ。
架空だから割とすぐに交換・メンテできる電線と違い、地中に埋めてしまっているライフラインの水道管やガス管なんかは劣化が見えづらいんだよね。
さらに、これも素人目にはほぼわからないけど、橋梁やトンネル、高架道路なんかも危険と言われているのだ。
打鍵検査というたたいた時の反響音で中にひびが入っていないかなんかを確認する技術はあって、いまはそこにAI技術も駆使して調べられるようにはなっているけど、直す方はそう簡単にはいかない。
お金もかかるし、その橋なりトンネルなり、道路なりを一定期間止めないといけないし。
非常に大きな問題なのだ。
こういうインフラの老朽化の大きな要因の一つがコンクリートの劣化。
鉄筋コンクリートの場合は内部のの鉄の錆もあるんだけど、現代のコンクリートのばあ、振動などでひびが入ってそこに水がしみこむとどんどん劣化していってしまうのだ。
ところが、二千年前にローマ帝国が築いたコロッセオや水道橋はまだきちんと形をとどめているんだよね。
で、その構造物には当時のコンクリートが使われているのだ!
ローマン・コンクリートと呼ばれているんだけど、現代のコンクリートよりもはるかに長期間の耐用年数になっているんだよね。
すでにこの技術は失われていて、長年謎と言われていたんだけど・・・。
2023年になって、その耐久性の高さの秘密の一つが、ローマン・コンクリートの中に入っているライムクラストという白い消石灰(水酸化カルシウム)のつぶつぶではないか、という説が出たのだ。
コンクリートの中に微小な消石灰が含まれている場合、ひびができて水がしみこんでくると、その場で水と反応するのだ。
その場に非常に強力なアルカリができるんだけど、今度はそのアルカリが空気中の二酸化炭素を取り込んで、石灰(炭酸カルシウム)として再結晶化するのだ。
つまり、ひびができて水がしみこんでくると、そこにいったん強アルカリのどろどろのペースト状のものができて、それが二酸化炭素を捕まえると固まってひび割れをふさぐのだ。
これがローマン・コンクリートの自然回復と呼ばれる現象で、長持ちする大きな要因の一つ。
仕組みが分かっているなら再現できそうだけど、実際はそうもいかないみたいのは少し不思議なんだよね。
配分とか混ぜ方とかそういうそうハウみたいなところで失われているものはありそうだけど。
で、こうして科学的には仕組みが推定できたんだけど、すぐにそれで決まり、というわけにはいかなかったのだ。
古代ローマの偉大な建築家で、当時の建築技術の知識の粋を集めて書き記した「建築十書」の著者でもあるウィトルウィウスさんの存在。
そう、ダ・ヴィンチのウィトルウィウス的人体図でおなじみのウィトルウィウスさん。
その「建築十書」の中のコンクリートの調整法について、まずは水と消石灰を混ぜてペースト状にして、と書いているらしいのだ。
でも、この方法だとコンクリートの中に粒上の消石灰は残らない!
先に水と混ぜるんじゃなくて、消石灰と生石灰(酸化カルシウム)などの材料と一緒に混ぜる方法でないとダメなのだ。
この混ぜ方をすると、混ぜる過程で消石灰や生石灰が水と反応して発熱するので「熱混合(ホットミキシング)」と言われるんだけど、火山灰中のケイ酸塩がその熱で他のものと反応したりと、コンクリートを強化するほかの作用も出てくるみたい。
また、最初に丁寧に消石灰だけ水と混ぜてペーストにするのと違って、融け残りの消石灰がコンクリートの中に分布する、「よい状態」になるのだ。
で、建築の大家のウィトルウィウスさんとの関係でこうだろうな、と思っていたやり方が否定されてしまう形になっていたのだけど、火山噴火により一夜にして埋もれたポンペイの遺跡を調査する過程で、やっぱり「熱混合」が行われていた証拠が出てきたんだって。
それがつい最近の話。
古代ポンペイの町はいきなり火砕流に襲われて埋もれてしまったので、そこには時間停止された当時の状況が保存されていたのだ。
コンクリートを使う建築現場もあったようで、まさに消石灰と生石灰をまぜてコンクリートを作ろうとしているという状況が埋もれていたというのだ。
なんでウィトルウィウスさんはそのように書いてたのか不明だし、ひょっとしたら現場で適当に作業していて結果的にローマン・コンクリートができていたのかもしれないけど、科学的な推測と考古学的証拠が見事に合致したんだよね。
考古学ってときどきこういう面白い結果が出てくるよね。
そうなると、次の興味はローマン・コンクリートを現代に再現できないか、ということだよね。
で、どうも技術的には再現できるらしい。
ただし、同じコンクリートでも現代のコンクリートとはそもそも別物なので、使い方を変えないといけないんだって。
例えば、ローマン・コンクリートでは薄い壁は作れない、骨組みに生コンを流し込むみたいな広報も取れず、レンガを積み上げて手作業でコンクリートを塗りこめていかなくちゃいけないなどなど。
歴史的建造物の修復には使えそうだけど、大型構造物をローマン・コンクリートで、というのが現代ではなかなか現実的ではないみたいだ。