塩の力
ステーキを焼くときに塩をあらかじめふるけど、それって実は、下味をつけるという意味だけではないみたい。
どうも、塩で表面を「ひきしめている」んだとか。
なので、塩を振る量や塩をふってからおいておく時間なんかも大事らしい。
ステーキみたいな料理は焼くというプロセスだけが大事なんだと思っていたけど、どうも、焼く前からもう勝負は始まっているらしい。
科学的にみると、肉の表面に塩をふると、その塩が肉表面の水分でかなり濃い水溶液になるんだよね。
そうなると、浸透圧の差で、肉表面の水分をさらに吸い上げるのだ。
どうもこの効果が大事らしくて、肉表面の水分が吸われていく過程で、肉の表面の筋組織が引き締まるんだとか。
でも、それはあくまでも表面だけの話というのがポイント。
肉の内部の水分まで奪ってしまうと焼いたときにじゅしーさが亡くなってパサついてしまうから。
なので、表面だけ塩に水分を吸われて引き締まっているのだけど、表面以外の内部にはさほど影響がない、という状況に持っていきたいわけ。
この作用を知っていると、どれくらい塩をふればよいのか、焼く前にどれだけの時間をあけて塩をふっておくべきなのかが決まってくるよ。
鉄板焼きなんかにいくと無造作に塩をふっているようにも見えるけど、おそらく長年の経験に基づくノウハウみたいなのがあるはずなのだ。
一方で、そうやって表面に塩をふるだけでなくて、塩水につけて肉を柔らかくする、というのもあるのだ。
それが最近時々ネット見かける「ブライン液」というやつ。
レシピによって濃度は変わるんだけど、塩と砂糖を混ぜた水だよ。
塩と砂糖をそれぞれ重量濃度で5%としているのもあるけど、これは相当あまじょっぱいなのだ。
モデレートなやつだと塩3%、砂糖2%でトータル5%の重量濃度。
生理食塩水は0.9%なので、十分に高張な液なので、長く漬け込んでおくとに気が内部から引き締まるはずなのだ。
ちなみに、海水は約3.4%の濃度なので、このモデレートなものでもそれよりも濃いよ。
人間は味覚的に生理食塩水に近い濃度のものをちょうどよい塩気と感じるので、から辛い液ということになるのだ。
で、なんでこんな甘辛い液につけると肉が柔らかくなるのか?
ネット上ではいろんなことが書かれているんだけど、おそらくこういうことだと思うんだよね。
まず、このブライン液の場合は表面処理ではなくて長時間漬け込むタイプなので、肉中の水分とこのブライン液の間で塩と砂糖の平衡状態になるのだ。
つまり、肉からは余計な水分が出てくる、漬け込み液からは塩と砂糖が浸透していく。
十分に長い時間が経過すると、漬け込み液と肉中の水分の塩・砂糖の濃度がほぼ同じになってバランスするのだ。
この状態を目指しているんだよね。
このとき、おそらく肉の方はもとより水分が抜けていて全体的にちょっと引き締まっているんだけど、一方的に水分を搾り取っているわけではないのでぱさぱさにはならないのだ。
さらに、塩だけでなくて砂糖も入っていて、加熱する過程でこの砂糖が保水効果を発揮して肉から水分が抜けにくくなるので、結果としてぷりぷりに仕上がると考えられるのだ。
これが鶏むね肉のようなパサつきやすい肉でもおいしくふっくらと仕上げられる、と言われている所以ではないかと思うよ。
さらに、筋原線維を構成しているミオシンとアクチンは、塩の存在下ではアクトミオシンという形で一つになって水ぬ溶けやすくなるのだ。
これは、ひき肉を練っていくとき、塩を加えると粘り気が出てくるのと同じ現象。
ハンバーグでも餃子の種でも、塩が存在していないとあの粘り気は出ないのだ。
ブライン液の場合は漬け込むだけなので練ったひき肉のおうに粘り気が出るわけではないけど、筋原線維のいち部は浸透していった塩分の濃い漬け込み液の効果で一部アクトミオシンが形成され、水に溶けやすくなっている状態になっているはず。
これは現象的には、筋原線維の一部が融解して肉が柔らかくなっている、ということにほかならないのだ。
なので、普通は加熱すると肉は固くなっていくけど、この効果で柔らかさがプラスされる、ということだね。
さっきの佐藤による保水効果と合わせると、やわらかくふっくらと仕上げるということなのだ。
考えてみると、漬け込み型のから揚げなんかは実はこういう現象が起きていて、漬け込み液には塩分が含まれているし、砂糖やみりんを入れる場合もあるので糖分もあるのだ。
で、店によってはその漬け込み液に半日程度漬け込むとかいうので、まさにこのブライン液漬け込みとほぼほぼ同じ状況になっているわけ。
で、この唐揚げの漬け込み液は、鶏肉に味をしみこませる、という以上に、火を通してもふっくらジューシーというのにも「貢献していると考えられるのだ。
下味付けずに唐揚げ粉で、というのもあるけど、こういうメカニズムを知ると、じっくり漬け込むタイプのから揚げの魅力が増すね(笑)