2025/03/15

聞かない力

 ネットで見た情報なんだけど。
精神疾患の症状の一つである幻聴がノイズキャンセリングのイヤホンで軽減するということが報告されているのだ。
え?
実際には音が聞こえていないから「幻聴」なんじゃないの?
それが雑音を消して音をクリアに聞きやすくするノイズキャンセリングでなくなる?
これだけ聞くと意味不明だよね。
ちょっとずつ解きほぐして考えた方が良さそうなのだ。

まず、ノイズキャンセリング技術から。
これは理論的にはそうなんだけど、本当にそんなことができるのか、と個人的に思う技術の一つなんだよね。
音が波の英室を持っているのは周知のとおり。
実際には空気の振動が進行方向に振動する粗密波という波なのだ。
で、波という性質を持つ以上、周期と位相があるわけで、同じ周期で逆位相の波を重ねると、山と谷がそれぞれ打ち消し合うので波がキャンセルされるのだ。
なので、ノイズの音の波の成分を分析し、それを打ち消す波を出してあげればよいわけ。
理屈はそうなんだけど、リアルタイムで音波の成分を分析して逆位相の音波をぶつけるってすごいよね。
実際には完全一致しなくてもある程度打ち消せればノイズは小さくなるので、ある程度予測できればできなくもないとは思うけど。

次は「幻聴」について。
本来的な意味として、聞こえないはずの音が聞こえたと脳が錯覚している状況を指すわけだよね。
聴覚信号については、
 音刺激が耳に入ってくる
=>鼓膜を介して音刺激が生体内信号に変換される
=>聴覚神経から脳の聴覚野に音刺激が来たという情報が伝わる
=>脳内で情報処理をしてその音刺激を「音」として認識する
という流れ。
このうち、特に重要なのは認識の部分で、人間の脳の処理は立派なので、「聞きたい」音は増幅されて、そうでない雑音(虫の声、外を走るトラックのエンジン音などの環境音)は減衰させて認識しているんだよね。
集中してくるとまわりの雑音が気にならなくなる、というやつ。
確かに、いろんな人の話し声が混ざり合った雑踏の中で会話をしていても自分が会話している相手の声だけははっきり聞こえるけど、その背景にある他の人の会話は通常あまり認識されないよね。


精神疾患は「心」という概念を無視すれば、聴覚に関する脳が機能不全に陥っている状態。
この場合、脳内の音刺激の情報処理がおなしなことになると、聞こえていないはずの音が聞こえたように誤認してしまうのだ。
ただし、どうもそれにもさらにサブタイプがあるようで、
・全く何も聞こえていないのに音が聞こえると錯覚している
・本来雑音として「あまり聞こえない」ように処理すべき音が意味のあるような音(多くの場合他の人の話し声、しかも、自分を罵倒や嘲笑するような声)に誤認している
というような場合があるのだ。

後者の場合、ノイズキャンセリングできるとトリガーになる雑音が減るのでこうかはありそうだよね。
でも、実は前者の場合でも、ノイズキャンセリングで雑音は聞こえないんだ、という安心感と言うか、プラセボ効果により、そういう錯覚をしなくなる、というケースがあるようなのだ。
音がしない部屋に入れても自分をののしる声が聞こえる、という症状を訴える患者さんであっても、ノイズキャんセリングのヘッドホンを装着させると落ち着くことがあるんだって。
こうなると、機能不全とはいいながら、精神的な状態が機能に影響を与えているということになるので、また「心」という問題に戻ってくるんだよなぁ。
なかなか脳の高次機能と言うのは難しい。
とはいえ、器質性ではない耳鳴りなんかの場合は精神的な原因かもしれないので、その場合はノイズキャンセリングヘッドホンがおすすめだよ、ということ。

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