2011/01/29

プロラタで議席も配分

与謝野大臣の入閣でにわかに問題になっているのが、「自民党の比例代表枠を使って復活当選したのに民主党政権で大臣になるのはいかがなものか」というもの。
でも、この話を本当に理解するには日本の選挙制度の比例代表制について少しは知らないとわからないことも多いので、ちょっと調べてみたのだ。
これがまた複雑なんだよね。

比例代表制は選挙制度の一つで、候補者個人というよりも政党ごとに投票して、その得票率に応じて議席を配分する方法だよ。
日本ではかつては参議院だけだったけど、衆議院でも、一つの選挙区から複数の当選者の出る中選挙区制から、一つの選挙区からは一人の当選者しか出ない小選挙区制に移行したのに伴って導入されたのだ。
これは、小選挙区制の場合、接戦だった場合に「死に票」が多く出る弊害をカバーすることが目的なのだ。
候補者が多くてどんぐりの背比べの得票になると、3~4割の得票率でも当選することがあるんだよね。
逆に言うと、6~7割の選挙民はその人のことは支持していないのだ!
これだと民意がきちんと国政に反映されるか、という点で疑念があるので、比例代表制が導入されることとなったんだ。

参議院の場合は全国区比例で、特にブロックは定めずに日本全国の国民は横並びで政党名又は立候補者名で投票するのだ。
かつては「拘束名簿方式」というもので、あらかじめ政党ごとに候補者の順位リストがあって、そのリストの上位者から当選していくという方式。
平成13年からは「非拘束名簿方式」というもので、あらかじめ順位は決めておかず、政党として獲得した票数と各立候補者が獲得した票数で政党ごとの議席を配分し、個人名での得票数の多い立候補者から当選させていくのだ。
事実上の全国区制(日本全体を一つの選挙区として行われる選挙)の復活と言われることもあるけど、個人での得票が少なくても政党の得票が多ければ当選できるので、必ずしも個人で票を稼ぐ必要はないんだよね。
個人での得票数は党内での順位決めだけなので、全国区制ほどは大きくきかないよ。
逆に、「客寄せパンダ」的な圧倒的に知名度と人気のある候補者がいると、その人の得票の「おこぼれ」で他の候補者が当選できるのだ。

衆議院の場合はブロック制で、全国をいくつかのブロックに分け、そのブロックごとに議席数を割り振っているのだ。
さらに、衆議院では「単純拘束名簿方式」を採用していて、あらかじめ政党が候補者の順位を決めていて、その順位に従って当選者が出ていくんだけど、複雑なのは、ここに復活当選の仕組みが組み込まれているのだ。
具体的に言うと、衆議院の比例代表の場合、小選挙区の立候補者を比例代表の名簿にも載せることができるのだ(ただし、公職選挙法に定める政党の要件を満たしている政党からの立候補者に限る。)。
このとき、重複して立候補している人は同一順位でリストに掲載することもできて、その場合、小選挙区での「惜敗率」に応じて当選順位を決めるんだ。
惜敗率というのは、選挙区における最下位の当選者の得票に対する当該候補の得票の割合で、要は当選までどこまで迫っていたかを数値化した指標。
現在は小選挙区制なので、その選挙区でどこまで接戦できたかの指標になっていて、上記の「死に票」をできるだけ少なくするための工夫になっているんだよ。
接戦で負けた重複候補者は比例復活できるというわけ。
与謝野大臣の場合、選挙区の東京1区では海江田国土交通大臣に負けたんだけど、比例代表の東京ブロックで重複立候補していたので、自民党の議席の枠で復活当選したのだ。

もともと公職選挙法では第87条で重複立候補の禁止を定めていて、同法第86条の2第4項で衆議院の比例代表の場合は第87条の規定にかかわらず重複して比例名簿に重複立候補者を入れることができると規定されているんだ。
イメージは敗者復活戦だよね。
比例復活は恥ずかしいからと重複立候補しない人もいるけど、従来中選挙区制で票を分け合ってきた人が小選挙区制になってあまり強くない地域に割り振られた場合の優遇措置としては機能するのだ。
そもそも森元首相が導入した「コスタリカ方式」で小選挙区と比例で交互に出てもらう、という方法もあるんだけど、これも不人気で最近はあまり採用されないよね(笑)

ちなみに、比例代表は基本的には政党に対して配分された議席なので、当該議員がその政党を離れたときは議席がなくなるのだ。
でもでも、公職選挙法の第99条の2第1項の規定では、当選時に当該比例区に存在した他の政党に移籍する場合に当選が無効になるとなっているので、無所属になったり、新党を設立したり、その比例区には立候補者を出していなかった政党に移る場合は対象外でやめなくてよいのだ。
それが今回問題になっている「法の抜け穴」と言われる与謝野大臣の離籍の方法なのだ。
最初は新党「立ち上がれ日本」を設立するので自民党を離れたので議員はやめなくてOKだし、現在も無所属議員として民主党会派に合流しているだけなのでやっぱり議員を辞める必要はないのだ。
ただし、あくまでも法令上の話であって、道義的にどうか、というのが問題になっているのだけど。

ついでに、比例代表制でよくわからないのが議席の配分方法。
ニュースなんかでは「ドント方式」と聞くけど、これがまたわかりづらいんだよね。
公職選挙法では、第95条の2で衆議院の比例代表の配分方法を、第95条の3で参議院の比例代表の配分方法を定めているけど、これが難解!
例えば、第95条の2の第1項は「衆議院(比例代表選出)議員の選挙においては、各衆議院名簿届出政党等の得票数を一から当該衆議院名簿届出政党等に係る衆議院名簿登載者(当該選挙の期日において公職の候補者たる者に限る。第百三条第四項を除き、以下この章及び次章において同じ。)の数に相当する数までの各整数で順次除して得たすべての商のうち、その数値の最も大きいものから順次に数えて当該選挙において選挙すべき議員の数に相当する数になるまでにある商で各衆議院名簿届出政党等の得票数に係るものの個数をもつて、それぞれの衆議院名簿届出政党等の当選人の数とする。 」と書いてあるんだけど、まったくわからないよね(笑)

簡単に言うと、1、2、3・・・と順次割っていって、その商が大きい順に議席を割り振っていくのだ。
表で考えるとわかりやすいんだけど、例えば、以下のようになるわけ。





































議席数の配分例

うさぎさん党日本たぬき党新党アロワナコウモリの会
÷1400300200100
÷2200150100
÷3133100
÷4100


この例だと全体で1,000の有効投票があった場合に6つの議席を配分しているのだけど、当落の基準は100で、「うさぎさん党」は3で割ってもまだ100を越えているので3議席、「日本たぬき党」は2までなので2議席、「新党アロワナ」は1以外では100を割り切るので1議席、「コウモリの会」に至ってはすでに100票しかないから議席なしになるのだ。
ちなみに、この例で配分すべき議席数が半分の3の場合は当落の基準が200になるんだけど、「うさぎさん党」の「÷2」と「新党アロワナ」の「÷1」が並んでしまうんだよね。
こういうときは、公職選挙法の規定に従って「くじびき」で当選者を決めるのだ。
小選挙区でも同じ得票数だとくじ引きになるのと同じだよ。

また、あまりないんだけど、、思ったより得票が伸びてリストに掲載した人数以上に議席が割り振られることもあるんだよね。
特に衆議院は重複立候補があるので、小選挙区で当選が増えるとそういう事態が生じるのだ。
その場合、次に割ったときの商が大きい政党に議席が割り振られてしまうんだよね・・・。
上の例だと、「うさぎさん党」は小選挙区との重複が多く、比例の名簿にはすでに2名しか残っていなかったとすると、第7位で並んでいる「うさぎさん党」の4人目、「日本たぬき党」の3人目、「新党アロワナ」の2人目、「コウモリの会」の1人目からくじ引きで当選者を決めることになるのだ。
実際には、小泉政権下で衆議院員総選挙に大勝したときに、自民党は候補者が不足して、1議席社民党に割り振られたのだ。

というわけで、比例代表というのはかくも難解で奥が深い制度なんだよね。
他の国ではまた違う方式の比例代表制があって、まだまだ広がりがあるのだ。
よりよく国民の声を政治に反映させようと工夫されてきた跡なんだよね。
そう考えると、よくぞここまで考えた!、ともちょっとだけ思うね(笑)

2011/01/22

みなさまお誘い合わせの上・・・

お正月のおせちでにわかに注目を集めた共同購入型クーポン。
ネットなんかに載っている情報だとトラブルも多いみたいだけど、うまく賢く使えば得するということで利用者も多いのだ。
通信販売と一緒で、「見極める」力がいるのかもね。
で、この手法って、よくよく考えてみると、いわゆる団体割引や大量購入の割引と同じなんだよね。
一定規模での物品又はサービスの購入をすることで、一部の利益を還元してもらう仕組みなのだ。

一般には、永遠に在庫を抱えきれないし、サービスの提供には一定以上の人数が必要なので、コストにおける原価計算にはマージンが含まれるんだよね。
商品だったらすべてを売り切れるわけではないので、どれくらい在庫を抱えるかを考えて売れなかった場合のリスクをあらかじめコストに載せておかないといけないのだ。
サービスの場合も、一人でもサービスを受けたい人がいれば提供しないといけないから、どうしてもサービスの提供者の手が空いている時間(アイドルタイム)ができてしまうんだけど、その間も人件費は発生しているわけで、サービス提供の非効率性をリスクとしてコストに載せておく必要があるのだ。
電車だったら乗車率だし、映画館だったら空席率なんかがその指標だよね。

で、大量購入する場合、その在庫リスクをおさえることができるので、その分を利益還元して割引に使うというわけ。
米国から来たコストコのような一気に大量にものを売るスーパーや、10個買うと1個無料でついてくるなんていうキャンペーンがそれだよね。
生協(生活協同組合)なんかは組合員が一緒になって購入することで大口購入者となって価格交渉力を上げるとともに、大量に仕入れるので仕入れ価格がおさえられるので、組合員が買うときにその分が価格に還元されるのだ。
家電量販店の場合は、メーカーから大量に商品を買うことで仕入れ価格をおさえているんだけど、こっちはリスクをとって商売をしているだけで、一気に売り切らなくちゃいけないんだよね。
街の電気屋さんに比べれば多くの商品が売れるからよいのだろうけど。
端的なのは共同購入で、注文が入った分だけ仕入れればよいのでリスクを見込まなくてよくなるんだけど、当然仕入れるときにある程度の量を注文しないといけないので、共同購入する仲間を増やさないといけないんだよね。

サービスの場合もそうで、電車の団体割引なんかは想定されている乗車率を超えて多くの人が利用するので、リスクとして想定していた分を還元できるのだ。
これは博物館や美術館、映画館なんかでも同じだよね。
団体が来たときだけ開館する展示施設や、希望者が一定規模以上になると好きな映画を上映してくれる映画館のようなサービスも言わば共同購入なのだ。
ただし、厳密にどれだけサービス提供の効率性が上がるかなんて評価できないので、実際には50円引きとか100円引きとか均一的な割引が多いのだ。
でも、そういう割引を設定することにより、団体で利用した方がお得なので、団体の利用が増えるというわけ。
そうすると自然とサービスの提供の効率性が上がり、利益率もよくなるのだ。

で、これを利用したのがグルーポンをはじめとする共同購入型クーポンなのだ。
大量に物品なりサービスが消費される仕組みとして、はじめから存在している団体を対象にするのではなくて、任意で集まってもらうわけ。
お店の側からすれば、安定的に消費されることが確実ならリスクは下げられるわけで、その分安く提供できるようになるんだ。
必ずしも安くする必要はないわけだけど(笑)、価格競争力は出るよね。
物品の場合は在庫を抱えなければ常に新鮮なもの、流行のものを売ることができるし、サービスの場合も効率的な人員配置で人件費が抑えられるよ。
ぐるなびとかホットペッパーのクーポンでも何名様以上なら幹事様無料なんてのがあるのもこれなのだ。

これだけだと、大勢お客が集まればよいだけなので、乗り合いバスとか、最少催行人数が決まったパック旅行、お米や野菜の共同購入と同じなのだ。
でも、グルーポンなどが画期的なのは、ここにフラッシュ・マーケティングと呼ばれる手法を組み込んだこと。
人数や申込時間に制限を設けて、その条件がクリアされたときのみクーポンが利用できるようになるんだ。
これのねらいは、一時的なクーポンなのでお店側の協力が得られやすいことと、条件をクリアするためにクーポンをほしい人たちが短時間で情報を広めてくれること。
最近口コミという宣伝媒体が注目を集めていて、ブログやツイッターで宣伝してくれたら広告費を払います、なんてのもあるけど、その広告費を払う代わりにクーポンで還元するのだ。
自主的にどんどん広めてくれるというところがポイントだよね。
書かされているよりは自分で書きたいと思っている方が心がこもるだろうし。

この共同購入型クーポンの場合、回避できた分のリスクに相当するコスト分だけ利益還元してくれるのならビジネスモデルとして安定的なんだけど、実はそうでもないのだ。
多少「赤」が出ても宣伝効果に期待してその分を広告費として飲み込む場合があるのだ。
これはセールで目玉商品を用意してそれで客を呼び込むのと同じだよね。
まずはお試しセットで、ということだけど、それをドモホルン○ンクルとかプロア○ティブ自分で宣伝するのと、共同購入型クーポンを用意して口コミで広めてもらうのには大きな差があるのだ。
宣伝費がかかるかからないの差だけじゃなく、口コミで広まっていくと強いというのがあるんだよね。
けっこう自分で広告を出すとなると大変だけど、グルーポンのような会社がそういう枠組みを用意してくれていて、そこにのるだけでよい、というのも楽だし、敷居が低いよね。

ただし、やっぱりそんなうまい話ばかりでもないのだ。
お正月に問題になったおせちの場合は、とても用意できないような数の注文を受けてしまったために起きたもので、もともとお正月シーズンに品薄になりがちな数の子などの材料が確保していないままやってしまったところに問題があるんだ。
申し込み上限が多すぎたことともあいまってああいう結果になってしまったんだよね(ToT)
また、ウラでよく言われるのは、もともとの値段からいったん価格をつり上げて、そこから値下げして「偽装」しているというもの。
例えば、前から3,000円で提供していた宴会コースを「定価6,000円」とした上で、共同購入型クーポンが成立すると「半額の3,000円」で提供する、といったもの。
ここまで露骨でなくても、どうも底上げ疑惑があるクーポンもあるみたいだよ。
さらに、注文したけど商品が来ない・遅れた、というような通販にありがちなトラブルもあるのだ。

こうしたことからいろいろとトラブルが起きていて、自分の目で見極めないとダメなんだよね。
うまく利用できれば賢い選択だけど、そこには罠も待っているかもしれないから手放しで安いから飛びつくという姿勢はまずいのだ。
安いには安いなりに理由があるので、そこについてちょっと考えてから購入しないとね。

2011/01/15

歌と勉学のハジメ

今週は宮中行事として、12日(水)に講書始の儀、14日(金)に歌会始の儀が執り行われたのだ。
どちらも1月の恒例の宮中行事で、わりとよく報道されるよね。
仏滅の日に異例の内閣改造かなんていう話もあったけど、内閣改造に伴う認証式なんかの国事行為よりもこういう行事の方が日本国の象徴たる皇室の行事としてはふさわしい気がするよ。
で、このふたつの行事は皇室の公務として行われているわけだけど、それぞれ歴史があるのだ。

講書始の儀というのは、年初に3人の学者・有識者からそれぞれ15分ずつ天皇陛下が皇后陛下と皇太子殿下等の皇族の方々御列席の下で御進講を受ける行事。
もともと天皇陛下が学者から御進講を受けられる機会というのは多々あるわけだけど(中には南方熊楠翁のように神島という無人島に昭和天皇を連れ出してしまうというような荒技もあったのだ!)、学問奨励のために明治2年(1869年)に明治天皇が恒例行事として始められた「御講釈始」が起源なんだって。
当時は、国書(日本書紀など)及び漢書(論語など)についての御進講が行われていて、少し時代が下ると文明開化のために洋書(いわゆる洋学)が加わるようになったそうだよ。
戦後になるとこれが改められ、昭和28年(1953年)からは人文科学、社会科学、自然科学の三分野の学者が選ばれて御進講を行うのだ。

この講書始の儀には皇族や宮内庁長官、侍従長だけでなく、学術を所掌する文部科学大臣(かつては文部大臣)や日本学士院会員などが陪席し、一緒に傍聴するんだ。
今回は仙谷官房長官や衆参両院の議長なども同席したみたい。
その人選に当たっては、日本学士院の会員などの当代一流の学者(だけど、現役というよりすでに大御所となっている人)の中から文部科学省と宮内庁が調整するみたい。
御進講の分野は政治学、国際関係学、社会哲学、美術史、医学・生物学、化学、物理学等々多岐に及ぶんだけど、選ばれた人たちは、自分のこれまでの業績をたった15分に凝縮してレクチャーする必要があるのだ。
すっごい緊張するそうだけど、両陛下や皇族方は熱心に話を聞かれ、鋭い質問もされるそうだから、ますます緊張感が高まるね。
皇族は学術研究をされている方が多いというのもあるんだろうけど、やはり御熱心に聞かれているようなのだ。
ちなみに、今回は立本成文さん(人間文化研究機構総合地球環境学研究所長)が「海洋アジア文明交流圏」、佐々木毅さん(学習院大教授m前東京大学総長)の「政治の精神」、竹市雅俊さん(理化学研究所発生・再生科学総合研究センター長)が「動物組織の構築」をそれぞれ御進講したそうだよ。
過去の一覧を見てもそうそうたるメンバーなのだ。

一方、歌会始の儀は、国民参加型の文化行事になっていて、あらかじめテーマを決めて短歌を募集し(今年は「葉」)、選ばれた人たち10名が宮中に招かれ、天皇・皇后両陛下、皇太子殿下をはじめとして皇族の方々の御列席の下で歌を披露するんだよ。
このとき、両陛下や皇族の方々も歌を詠まれるんだけど、一般から選ばれた人、選者(著名な歌人)の代表、召人(めしうど、特別に皇室から呼ばれる参加者で通常1名)、皇族の方々の歌が披露され、皇后陛下の御歌(みうた)があって、天皇陛下の御製(ぎょせい)で締めくくられるのだ。
ここにも宮内庁長官や侍従長、文化・芸術を所掌する文部科学大臣、日本芸術院会員などが同席するんだけど、その人たちの歌はないのだ。
ちなみに、このときは独特に節をつけて歌が読み上げられるんだよね。
披講所役と呼ばれる人たちで、司会やそのまま読み上げる人、節をつけて読み上げる人などいろんな役割が人がいるみたい。
よくニュースなんかでも映像が流れるからチェックしてみるとおもしろいかも。

こっちはかなりの歴史のある行事で、起源は必ずしも明らかでないものの、古くは鎌倉中期にさかのぼれるのだとか。
年初でない歌会自体はそれこそ万葉の奈良時代からあったようだけど、宮中の年中行事として確認できるのが鎌倉時代以降ということだよ。
当時は「歌御会始(うたごかいはじめ)」と呼ばれていて、基本はお公家さんしか参加できなかったんだよね。
これは江戸時代を通じてずっと続けられていたんだけど、維新後の明治になって変革が起きるのだ。
明治7年(1874年)から一般の詠進が認められるようになり、国民が参加できるようになったんだ。
このときに国民参加型の文化行事としての根幹が築かれ、大正15年(1926年)になると式次第も整備され、名前も「歌会始」とされたのだ。
※実際には大正天皇の喪に服していたので、最初の歌会始は昭和2年(1927年)から。

戦後になると、これまで宮内省で歌会始を司っていた御歌所が廃止されたので、在野の歌人に選歌が委嘱されるようになり、民間人が詠んだ歌を民間人が選ぶという完全に国民参加の文化行事としてのスタイルが確立するんだ。
お題も平易なものとなり、選ばれた人々は両陛下や皇族の方々と懇談の機会まで与えられるようになったのだ。
さらに、テレビも入るようになり、まさに戦後の国民に開かれた皇室の行事となったわけ。
今では海外からの応募もあるようだよ。
最近の詠進歌数をみると25,000程度で、選ばれるにはかなりの倍率なんだよね。
ちなみに、この歌会始の儀で詠まれる天皇陛下の御製や皇后陛下の御歌にはそのときの心情が表れるので、毎年注目を集めているんだよ(どういう点に御関心、御心配をお持ちかなどがわかるのだ。)。

というわけで、この二つが新年恒例の宮中行事なのだ。
普通に皇室関係のニュースを聞いているだけだとそんなのもあるんだ、と聞き流してしまうけど、なかなか奥が深いし、いかにも皇室らしいよい行事だと思うよ。
今後はもっと注目してみるとよいかもね。

2011/01/08

福を呼び込む漬け物?

お正月と言えばお節料理。
そして、最近では見なくなったけど、「おせちもいいけどカレーもね」ということで、お節料理やお雑煮に飽きてくるとカレーなんかの味の変わったものが食べたくなるのだ。
そろそろそんな頃合いだよね(笑)
カレーと言えば外せないのが福神漬け。
なんだか縁起のよい名前だし、お正月に食べるにはもってこいの付け合わせかな?

この福神漬け、一般には7種類の野菜を漬け込んでいるので七福神にあやかって名付けられているのだ。
オーソドックスなものとして、(1)ダイコン、(2)ナス、(3)カブ、(4)レンコン、(5)ウリ、(6)シソの実、(7)ナタマメの7種類なんだけど、他にもショウガやキュウリ、ゴマ、ゴボウ、ニンジンなどなどいろいろな野菜が入ることがあるのだ。
多くの種類の野菜を少し甘めの醤油だれで漬け込んだ発酵していない漬け物の総称なんだよね。
かつては色素も入れてきれいに赤くしたこともあったけど、今では自然の色の茶色のままのものが増えているよね。
ボクなんかはどちらかというと茶色い方がおいしく見えるのだ。

この中で気になるのはナタマメだよね。
ちょっと固い、十字状のさやの輪切りがそれ。
今では福神漬けに入っているものくらいしか見ないけど、熱帯のアジア又はアフリカの原産で、清経由で江戸時代に渡来したものだって。
食用としてだけでなく、薬用や健康茶にも使われ、今ではむしろそっちが注目されているみたい。
独特の食感があるので、漬け物や炒め物に使われてきているらしいよ。
今度食べるときはちょっと注意して探してみるとおもしろいかも。

この福神漬け、歴史はそんなに深くなくて、考案されたのは明治時代。
今でも上野にある酒悦の15代野田清右衛門さんが考案したというのだ。
この人は新しい商品を作るのに長けた人で、幕末にはのりの佃煮も発明したんだとか。
かつてはのりの佃煮と福神漬けが酒悦の二枚看板だったのだ!
江戸時代までは発酵させない漬け物は塩漬けくらいしかなかったようで、どうしても醤油漬けを作りたかったのだとか。
(ぬか漬けや味噌漬けは発酵させているのだ。同じく茶色い奈良漬けは酒粕に漬け込んだものだよ。)
試行錯誤の結果、明治10年頃になって、醤油にみりんを加えた少し甘みのあるたれに上野近郊でとれた野菜を漬け込む福神漬けが完成したんだって。

このときに七福神にちなんで「福神漬」としたんだけど、酒悦の近くの不忍池には弁財天があるのと、この福神漬けは大変美味で他におかずがいらないからお金が貯まるというのをかけたそうだよ。
この名前を考案したのは流行作家の梅亭金鵞さん。
今でも通用しているんだからしゃれた名前だよね。

発売当初から好評だったんだけど、福神漬けが一気に全国区に躍り出たのは日清・日露の両戦争で兵隊さんの携帯食に採用されてからなんだって。
当時の携帯食ではおかずなんてほとんど持って行けないから、福神漬けは貴重でとてもおいしく感じたようなのだ。
「福神漬」という名称は酒悦の登録商標だったんだけど、これで一気に類似商品が全国に出回ることになったのだ。

さらに、明治も後半になると、日本郵船の欧州航路の一等客席の食事のカレーの付け合わせに採用されたのだ(大正時代説あり。また、帝国ホテルや資生堂パーラーが最初に付け合わせに採用したという説もあるみたい。)。
本場インドのカレーのチャツネにヒントを得て、少し甘みのある福神漬けが選ばれたみたい(この理由はらっきょうの甘酢漬けも一緒だろうね。)。
すると、これも一気に広がり、カレーの付け合わせには福神漬けが定番となっていくのだ。

さらに時代が下って戦後になると、日本の一般家庭にカレーが広まるのだ。
それまでは「ハイカラ」な料理だったカレーを、従軍していた人たちが家庭に持ち込んだからだよ。
軍隊で食べたのがおいしくて、家庭でも、ということになったのだ。
で、当然福神漬けとの組み合わせも家庭にも広がっていくことに。
逆に今では福神漬けはカレーの付け合わせでしか見なくなってしまったけどね・・・。

ネットで調べてみると福神漬けはわりと簡単に家でも作れそう。
自然派志向の人が多いから自分で作っているのかも。
塩漬け又は醤油漬けした細かく切った野菜をみりんや砂糖で甘みを漬けた醤油だれに漬け込むだけ。
ただ漬け込む場合と、一度煮てから冷ます場合があるようだけど、仕上がりのしゃきしゃき感とかが変わってくるのかな?
また、上野には今でも酒悦があるので、そこで元祖の福神漬けを買ってもよいね。
通販でも缶入りのものなどが売っているようなので、上野に行けない人でも帰るのだ!