2011/01/15

歌と勉学のハジメ

今週は宮中行事として、12日(水)に講書始の儀、14日(金)に歌会始の儀が執り行われたのだ。
どちらも1月の恒例の宮中行事で、わりとよく報道されるよね。
仏滅の日に異例の内閣改造かなんていう話もあったけど、内閣改造に伴う認証式なんかの国事行為よりもこういう行事の方が日本国の象徴たる皇室の行事としてはふさわしい気がするよ。
で、このふたつの行事は皇室の公務として行われているわけだけど、それぞれ歴史があるのだ。

講書始の儀というのは、年初に3人の学者・有識者からそれぞれ15分ずつ天皇陛下が皇后陛下と皇太子殿下等の皇族の方々御列席の下で御進講を受ける行事。
もともと天皇陛下が学者から御進講を受けられる機会というのは多々あるわけだけど(中には南方熊楠翁のように神島という無人島に昭和天皇を連れ出してしまうというような荒技もあったのだ!)、学問奨励のために明治2年(1869年)に明治天皇が恒例行事として始められた「御講釈始」が起源なんだって。
当時は、国書(日本書紀など)及び漢書(論語など)についての御進講が行われていて、少し時代が下ると文明開化のために洋書(いわゆる洋学)が加わるようになったそうだよ。
戦後になるとこれが改められ、昭和28年(1953年)からは人文科学、社会科学、自然科学の三分野の学者が選ばれて御進講を行うのだ。

この講書始の儀には皇族や宮内庁長官、侍従長だけでなく、学術を所掌する文部科学大臣(かつては文部大臣)や日本学士院会員などが陪席し、一緒に傍聴するんだ。
今回は仙谷官房長官や衆参両院の議長なども同席したみたい。
その人選に当たっては、日本学士院の会員などの当代一流の学者(だけど、現役というよりすでに大御所となっている人)の中から文部科学省と宮内庁が調整するみたい。
御進講の分野は政治学、国際関係学、社会哲学、美術史、医学・生物学、化学、物理学等々多岐に及ぶんだけど、選ばれた人たちは、自分のこれまでの業績をたった15分に凝縮してレクチャーする必要があるのだ。
すっごい緊張するそうだけど、両陛下や皇族方は熱心に話を聞かれ、鋭い質問もされるそうだから、ますます緊張感が高まるね。
皇族は学術研究をされている方が多いというのもあるんだろうけど、やはり御熱心に聞かれているようなのだ。
ちなみに、今回は立本成文さん(人間文化研究機構総合地球環境学研究所長)が「海洋アジア文明交流圏」、佐々木毅さん(学習院大教授m前東京大学総長)の「政治の精神」、竹市雅俊さん(理化学研究所発生・再生科学総合研究センター長)が「動物組織の構築」をそれぞれ御進講したそうだよ。
過去の一覧を見てもそうそうたるメンバーなのだ。

一方、歌会始の儀は、国民参加型の文化行事になっていて、あらかじめテーマを決めて短歌を募集し(今年は「葉」)、選ばれた人たち10名が宮中に招かれ、天皇・皇后両陛下、皇太子殿下をはじめとして皇族の方々の御列席の下で歌を披露するんだよ。
このとき、両陛下や皇族の方々も歌を詠まれるんだけど、一般から選ばれた人、選者(著名な歌人)の代表、召人(めしうど、特別に皇室から呼ばれる参加者で通常1名)、皇族の方々の歌が披露され、皇后陛下の御歌(みうた)があって、天皇陛下の御製(ぎょせい)で締めくくられるのだ。
ここにも宮内庁長官や侍従長、文化・芸術を所掌する文部科学大臣、日本芸術院会員などが同席するんだけど、その人たちの歌はないのだ。
ちなみに、このときは独特に節をつけて歌が読み上げられるんだよね。
披講所役と呼ばれる人たちで、司会やそのまま読み上げる人、節をつけて読み上げる人などいろんな役割が人がいるみたい。
よくニュースなんかでも映像が流れるからチェックしてみるとおもしろいかも。

こっちはかなりの歴史のある行事で、起源は必ずしも明らかでないものの、古くは鎌倉中期にさかのぼれるのだとか。
年初でない歌会自体はそれこそ万葉の奈良時代からあったようだけど、宮中の年中行事として確認できるのが鎌倉時代以降ということだよ。
当時は「歌御会始(うたごかいはじめ)」と呼ばれていて、基本はお公家さんしか参加できなかったんだよね。
これは江戸時代を通じてずっと続けられていたんだけど、維新後の明治になって変革が起きるのだ。
明治7年(1874年)から一般の詠進が認められるようになり、国民が参加できるようになったんだ。
このときに国民参加型の文化行事としての根幹が築かれ、大正15年(1926年)になると式次第も整備され、名前も「歌会始」とされたのだ。
※実際には大正天皇の喪に服していたので、最初の歌会始は昭和2年(1927年)から。

戦後になると、これまで宮内省で歌会始を司っていた御歌所が廃止されたので、在野の歌人に選歌が委嘱されるようになり、民間人が詠んだ歌を民間人が選ぶという完全に国民参加の文化行事としてのスタイルが確立するんだ。
お題も平易なものとなり、選ばれた人々は両陛下や皇族の方々と懇談の機会まで与えられるようになったのだ。
さらに、テレビも入るようになり、まさに戦後の国民に開かれた皇室の行事となったわけ。
今では海外からの応募もあるようだよ。
最近の詠進歌数をみると25,000程度で、選ばれるにはかなりの倍率なんだよね。
ちなみに、この歌会始の儀で詠まれる天皇陛下の御製や皇后陛下の御歌にはそのときの心情が表れるので、毎年注目を集めているんだよ(どういう点に御関心、御心配をお持ちかなどがわかるのだ。)。

というわけで、この二つが新年恒例の宮中行事なのだ。
普通に皇室関係のニュースを聞いているだけだとそんなのもあるんだ、と聞き流してしまうけど、なかなか奥が深いし、いかにも皇室らしいよい行事だと思うよ。
今後はもっと注目してみるとよいかもね。

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