2012/10/24

混沌と雲を呑む話

最近、よくワンタンを食べるようになったのだ。
もともとワンタン麺はわりと好きなんだけど、それ以上に、マルちゃんのワンタンの存在が大きいよね(笑)
お弁当とかを食べるときにどうしても汁物がほしくなるけど、お値段も手頃だし、けっこうおいしいし、選びがちなのだ。
カップ味噌汁ってそんなにバリエーションがないんだよね・・・。

そんなワンタンだけど、中国の華北を代表する料理の一つ。
中国大陸の場合、温暖な南の地域(華南)では稲作中心で米食文化だけど、寒冷な北の地域(河北)では小麦中心で、麺や饅頭などの点心が発達しているのだ。
ワンタンもその一つで、一般には、小麦粉で作った薄めの皮で肉や魚介類からなる餡を包み、ゆでてからスープの具として食べるよね。
四川省の方では、ゆでたワンタンにラー油をからめて食べることもあるのだ。
そのほか、揚げワンタンなんてのもあるよね。

なんでも2000年以上の歴史があるそうだけど、もともと小麦粉の皮で餡を包むという意味において餃子とあまり区別されていなかったそうな。
それが、食べ方の違い等で分化していったみたい。
平安時代に日本に伝わってきたものでは、「饂飩」と書いて餅状の皮で具を包んだスープ料理が照会されていたみたい。
当時は唐代だから唐音で「ホントン」と呼ばれていたんだけど、これの呉音が「ウンドン」と読まれることから、うどんの起源ではないかとも言われているんだよ。
「ホントン」という音がほうとうやはっとに似ているというのもあるみたい。
途中で小麦だけになっちゃってるけどね(笑)

この「饂飩」が主に北に広まって定着したのが餃子。
丸い厚めの皮でたっぷりの具を包んで、蒸したりゆでたりして食べるんだけど、基本的には主食として食べるものなんだよね。
お祝いの席で食べる料理でもあって、縁起物だよ。
日本で主流の焼き餃子は戦後満州から引き上げてきた人々が広めた食べ方で、本場中国ではあまりやらない方法なんだよね。
ニラまんじゅうのようにそのまま蒸し焼きにするものもあるけど、餃子の場合はゆでるのが基本で、残り物をさらに焼いて食べることがあったみたい。

一方、南に広まってできたのがワンタン。
雲呑という表記は広州で生まれたもので、広東語だって。
ワンタンは四角い皮で少量の具を包み、ゆでてからスープの具にするのだ。
なので、北の餃子と違って主食ではないんだよね。
このワンタンが広州で麺と一緒に食されるようになってできたのがワンタン麺。
もともと麺の具としては鶏や豚のつみれ団子が入れられていたんだけど、その代わりにワンタンを入れてみた、ということみたい。
やがて、広州から香港へ人が流れると、香港料理としてのワンタン麺が発達するのだ。

香港のワンタン麺は、固めにゆでた細めの縮れ麺に丸いぷっくりしたワンタンが特徴。
ワンタンの上に麺を載せ、そこに熱いスープをかけて作るのだ。
麺がのびないように、ということなんだそうだけど、最初に香港で食べたときはワンタン麺を頼んだつもりが別のものが出てきたのかと焦ったよ(>o<)
スープは薄めで、ワンタンや麺の味そのものを楽しむんだそうだよ。
日本のワンタン麺はラーメンにワンタンが具として入っているのが基本なので、だいぶ趣が違うんだよね。

このワンタンは、中国から日本以外にも広まっているのだ。
ヴェトナムはもちろん、マレーシア、シンガポール、インドネシア、タイなんかにも似たようなものが。
音も「ホントン」に比較的近いものなので、やっぱりワンタン起源。
ワンタン麺的な料理として広まったものと、スープとして広まったものがあるみたい。
餃子・ワンタンのように餡を皮で包むという手法はシルクロードを経由して欧州まで至り、イタリアのラビオリになったと考えられているけど、それだけ人類に愛される料理法ということなんだろうね。
実はグローバルスタンダードの料理なのだ!

2012/10/20

正しく使おう!

山中教授のノーベル生理学・医学賞受賞のすぐ後で、大問題が発生したのだ。
そう、iPS細胞研究の臨床研究に関するねつ造疑惑・・・。
まだ調査中というのが公式スタンスなんだろうけど、限りなく黒に近いグレーだよね。
本人はウソをついているうちに、自分でも本当だと信じ始めちゃっているのかな?
前には韓国の研究者がES細胞でねつ造した事件があったけど、そのときは世界中でES細胞研究が止まる事態にもなったんだよねorz
今回は断罪すべきところは断罪するとして、そういう「伸び盛り」の分野に負の影響を及ぼすことがなければいいけど。

で、この人、社会的制裁はあるとして、研究者としては他にもペナルティがあるのだ。
というのも、国から研究費をもらっていたんだよね。
虚偽申請で研究費を獲得していたり、研究費の成果として虚偽の実績報告をしていると処罰の対象になるのだ(>o<)
例えば、国の研究費のほとんどを持っている文部科学省では、研究活動の不正行為についてガイドラインをまとめているんだよね。
よく話題になるのは研究費の不正使用で、空出張やら預け金やら横領やら、信じられないような話が出てくるけど、それは研究費の使い方の話なのでこのガイドラインの対象外。
むしろ、今回のようなねつ造・でっち上げ、盗用・ぱくりなんかも対象だよ。

研究費の使い方の方は、基本的に個別の制度ごとに会計・経理の仕方が違うので、それぞれで定めているんだ。
ただし、結果的に正しくない使われ方をしていたとしても、「故意」と「過失」があるので、切り分けるのが普通なのだ。
例えば、研究費の使用については、知らずにやってしまった、或いは、手続き上のミスがあった場合で結果的に研究費が正しく使われなかったものについては「不適正経理」という扱いにあるんだよね。
悪意を持って研究費を不正に使う「不正使用」とは峻別しているのだ。
当然過失でも許されない部分があるのでペナルティはかかるわけだけど、故意のものに比べれば相対的に軽くなるのだ。

今回は文部科学省の科研費をもらっていたようだけど、科研費の場合は「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」の対象になるので、法令による罰則も適用される可能性があるのだ。
不正な手段により補助金の交付を受けた場合は罰金だけでなく懲役刑もあるんだよ!
「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律施行令」で対象となる国の補助金や委託費が定められていて、その経費についてはこの法律が適用されるのだ。
科研費もその一つだよ。
で、不正などがあった場合は、第17条の規定で「交付決定の取消」が行えることになっていて、さらに、その次の第18条でその場合に「補助金等の返還」を求めることができるようになっているんだ。
今回は事実関係を調査した上で、不正行為が認められれば、交付されていた科研費の一部又は全部の返還が求められることになるよ。

具体的な手続については、科研費の交付要綱科研費取扱規程に定められているよ。
交付要綱は適正化法とあまり変わらない表現ぶりだけど、重要なのは取扱規程。
不正行為が発覚した場合、ペナルティとして以降2~5年間は科研費が申請できなくなるのだ。
いわゆる「みそぎ」だね。
取扱規程の細則で、不正行為の内容に従って定めるけど、規定ぶりはあいまいなので、個別に判断しているみたい。

ちなみに、文部科学省の場合は、「水平展開」ということで、科研費で不正行為をした研究者は、他の文部科学省の研究費をもらえないルールになっているそうだよ。
その期間にもよるけど、研究者としての生命線である研究費が止められることになるので、相当つらいよね・・・。
ま、それだけのことをしてしまった、ということだけど。
今回のように大々的に報道されずとも、そういう制裁は受けることになるのだ。

さすがに今回の人はもう研究者としてはやっていけないだろうね。
一時の過ちでで一生がダメになってしまうのだ(ToT)
国民の税金を使っているということを意識して、正しく使ってほしいね!

2012/10/13

アップルがプレイステーションを買収したわけじゃない

めでたいことに、今年は日本人のノーベル医学・生理学賞が出たのだ!
1987年の利根川進博士以来の快挙♪
もちろん、京都大学の山中伸弥教授だよ。
受賞理由は言わずとしれた「iPS細胞」。
最初の研究発表から6年という短期間で、50歳という若さでの受賞はその成果がすばらしさを物語っているのだ。

このiPS細胞というのは、成体の体の細胞に細工をしてあげると、体中の様々な種類のどの細胞にも分化できる能力を持つ細胞になるというもの。
induced Pluripotent Stem cellsの略で、日本語では「人工多能性細胞」とも呼ばれるのだ。
これまで再生医療の研究に使われていたのは受精卵由来のES細胞(Emryonic Stem cells)。
受精卵が細胞分裂を始めてから16細胞~32細胞くらいになったとき、単に細胞がくっついている桑実胚から中空の胚盤胞呼ばれる形状になるんだけど、球状の細胞の層の中にぽつぽつと細胞が転がっているイメージなんだよね。
その中の細胞を取り出して培養してできるのがES細胞で、受精卵を使わないと作ることができないのが難点だったのだ(実際的にも、倫理的にも)。
一方、iPS細胞は体の細胞を使って作れるので、その点はクリアできるし、何より、自分と遺伝情報が全く同じクローンの細胞が作れるのが魅力なんだよね。
ES細胞の場合は、どうしても核移植などをしないとクローンにできないのだ・・・。

ES細胞は受精卵から取り出して培養するだけなんだけど、iPS細胞の場合は細胞に処理をしないといけなくて、それが「induced」と呼ばれる所以。
2006年に山中教授がマウスでiPS細胞を樹立したときは、4つの遺伝子を導入することで実現しているのだ。
ES細胞に特異的に発言している遺伝子を導入すれば、幹細胞になるんじゃない?、という発想の下、そういう遺伝子を洗い出し、さらに組み合わせ実験で絞り込みをして、これだ!、という4つの遺伝子を突き止めたのだ。
その後、これは薬剤をうまく使えば3つの遺伝子でできることもわかったんだけどね。
この成果の後、世界で大競争が起こってヒトのiPS細胞の樹立が行われることになるんだけど、ここでも山中教授は実際に患者さんの細胞を使って樹立するという偉業を成し遂げるのだ。
今のところ、本当の意味で世界No.1の実力なんだよ。

iPS細胞やES細胞の「万能性」というのは、体に存在するどんな種類の細胞にも分化できる可能性を秘めている、という意味。
この先駆的な実験を行ったのが、今回の共同受賞者のジョン・ガードン博士なんだ。
ジョン・ガードン卿は、腸の細胞の細胞核を卵細胞の細胞核と交換する、という実験を行ったところ、腸細胞の細胞核を入れた卵細胞は普通の卵細胞同様に発生の過程を経てオタマジャクシになった、という発見をしたんだ。
これは、成体の体細胞であっても、発生の過程に必要な遺伝情報のすべてを持っていて、うまく発生という場に送り込めればひとつの個体を形作る「全能性」を獲得できる、ということを意味しているんだ(「全能性」という場合には個体まで発生できるポテンシャルを指し、すべての細胞に分化できるポテンシャルは「万能性」と呼ばれるのだ。)。
すなわち、どの細胞も基本的には遺伝情報は同じで、遺伝子の発現制御などの遺伝情報の使い方(こういうのを「エピジェネティック」というのだ。)で発生というプロセスがコントロールされていることを示したわけ。
(後に利根川博士は免疫細胞ではDNAの組替えをすることで多様性を確保している、という発見をし、すべての細胞が同一の遺伝情報を持っているわけではない、ということが証明されるのだ。)
ちなみに、ガードン卿のこの発見が論文になったのは1962年で、なんと山中教授が生まれた年の成果だよ!

で、このガードン卿の発見から、どうやったら成熟した細胞がいろんな細胞に分化する能力を取りもどせるか、という研究が始まるのだ。
イモリなんかは手がちぎれても再生するけど、ヒトではそうもいかないからね。
しかも、がんという病気は、もともと分化して成熟していた細胞が未分化な状態になり、制御不能な状態で勝手に増殖して起こるものなんだよね。
すると、逆に身勝手に増えるこの未分化の細胞を、うまく分化させ、成熟した細胞にもどしてあげれば治すことも可能なのだ。
その意味でも、ES細胞やiPS細胞の研究は重要なんだよ。
現在は、いろんな種類の細胞に分化させることには成功し始めているけど、一方で、中途半端な状態で人体に移植してしまうと、けっきょくそれががん細胞のようにアンコントローラブルに増殖してしまうおそれもあるので、その安全性の確保も急がれているんだ。
特に、iPS細胞は遺伝子導入をしているので、注意が必要だと言われているよ。

とにかく、また日本からノーベル賞が出たのは喜ばしいことなのだ。
これで19人目。
臨床応用まではもう少し時間がかかると思われるので、タイミング的には少し早いような気もするけど、この世界は日進月歩であっという間に進捗があるのもまた事実だから、これを機にまた一気に実用化に近づくかも。
まだ50歳だし、まだまだ最前線で活躍してもらいたいね

2012/10/06

揚げたら別物

ボクはもともと豆腐が好きなんだけど、その加工品も好きなのだ。
そう、厚揚げとか、油揚げだよ。
夏の暑い間は冷や奴がいいし、冬の寒い時期は湯豆腐がうれしいけど、春や秋なら少し焼いて温めた厚揚げなんかは最高なのだ。
生姜醤油で食べるとおいしいよね。

厚揚げと油揚げって、単に揚げる前の厚さの違いだけと思っていたらさにあらず!
厚揚げは水切りをした豆腐を一丁そのまま、又は半丁に切ってから、表面がきつね色になるまで揚げたもの。
仲間で火を通すことはせず、外はかりかり、中はなめらかな豆腐のまま、というものなのだ。
豆腐の食感が残ったまま香ばしくなっているのがポイントで、だからそのまま食べてもおいしいんだよね。
江戸時代には、厚揚げを網で焼いて縞状に焼き色を付けたものが酒の肴の定番で、青ネギをちらした「竹虎」、大根おろしをそえた「雪虎」として親しまれていたそうだよ。
表面を揚げてあることで煮くずれしづらく、味もしみやすいので、煮物にも使われるんだ。
しっかりと煮込まなくても表面に味が染みこむので、小松菜と炒め煮にしたりしてもおいしいよね。

一方、油揚げは専用の豆腐を作ってから、それを薄く切って揚げたもの。
仲間でしっかり火が通っていることがポイントで、独特の食感が出るのだ。
豆腐とはまったく違うよね。
厚揚げが高温の油でさっと揚げるのに対し、油揚げは低温で揚げて膨脹させてから、高温の油でもう一度揚げてかりっとさせるんだって。
よく膨脹するように、揚げる前の豆腐はもともと薄めの豆乳でしっかり堅めに作るようなのだ。
よく揚げることで中までスポンジ状になって、味がしっかりと染みこむわけ。
いなり寿司やきつねうどんの揚げなんかはおいしい汁を吸ってなんぼだからね(笑)
袋状に開くことができるのもミソで、それでいなり寿司や巾着などが作れるのだ。
でも、厚揚げに比べると油がよく染みこんでいるので、しっかりと油抜きをしないとしつこいよ。
ここで手を抜くとおいしくないのだ(>o<)
ちなみに、新潟名物の栃尾揚げは油揚げと厚揚げの中間のように感じるけど、中までしっかり火が通っているので、分厚い油揚げという位置づけなのだ。

豆腐の伝来自体は奈良時代と古いけど、食材として広く使われ始めるのは室町時代の終わりから。
実際に庶民の食卓に並ぶようになるのは江戸時代からで、そこから全国的に普及したみたい。
肉食をあまりしなかった江戸時代の人にとっては重要なタンパク源で、納豆や豆腐といった大豆加工品は重要な食材だったのだ。
油揚げはすでに江戸時代初期の文献にも登場しているそうで、同時期に料理として発達した天ぷらからの着想ではないか、という説も。
おそらく、もともとは豆腐をそのまま揚げてみて厚揚げが生まれて、その後、薄切りの豆腐をしっかり揚げて油揚げができたんじゃないかと思うのだ。

油揚げと言えばおいなりさんの好物だけど、もともとキツネが好きだったのはネズミを油で揚げたもの。
でも、そんなものはお供えしづらいので、精進ものの豆腐を揚げた油揚げが供えられるようになったんじゃないかと考えられているのだ。
さらに、そこから油揚げがキツネの好物に変わり、それで市にメタ油揚げが入ったうどんはきつねうどんとなっていくのだ。
でも、本当は稲荷神はインドの荼枳尼天(だきに)天なので、乗っているのは野干(やかん)。
野干は野狐などとも言われるけど、本来はジャッカルのことなのだ。
日本にはジャッカルが生息していないので似ているキツネが当てられただけ。
そういう意味では、稲荷と油揚げは実はそんなに関係していないのだ。

また、油揚げで巻いたものを信田(しのだ)巻き、きつねうどんの別名をしのだうどんなどと呼ぶことがあるけど、この信田というのは「葛の葉」伝説から来ているのだ。
平安時代に安倍保名(やすな)が信田の森を訪れた際、猟師に追われていた白狐を助けるのだ。
実はこのキツネを年を経て妖力を持つに至ったキツネで、「葛の葉」という女性に変じて、その際にけがをした保名の見舞いにやってくるのだ。
やがて二人は結ばれ、生まれた子どもが後の安倍晴明。
安倍晴明が5歳になる年に保名に正体を気づかれ、葛の葉は森へと帰っていった、という話だよ。
天下に名だたる陰陽師の安倍晴明の力の源を空かすエピソードとして有名なのだ(けっきょく人外の力、という整理なんだけど。)。
で、その連想で、キツネ=>信田、となるわけなのだ。

こういった言葉遊び的な名前が付けられるのも、それだけポピュラーな食材だったという証拠なんだろうね。
肉を食べるのもよいけど、たまには揚げでヘルシーにすますのもよいことなのだ♪
ただし、豆腐って意外とカロリーが高いし、油揚げや厚揚げは油で揚げた分さらに高いので、そんなにダイエット効果は期待できないよ(笑)
コレステロールなんかはだいぶ抑えられるけどね。