2020/06/25

本物のシャリ

お釈迦さんの遺骨や遺髪は「仏舎利(ぶっしゃり)」といって信仰の対象になっているんだよね。
キリスト教で言うところの「聖遺物」なのだ(イエス・キリストの場合は復活後に昇天していてしたいが残されていないので、当然遺骨はないよ。)。
そして、聖骸布や聖十字架の信憑性が怪しまれているのと同じように、「仏舎利」も怪しいのが多いのも事実。
そもそも、世界中にある「仏舎利」といわれるものの総量はゾウ何頭分もあるとも推測されているのだ。
釈迦牟尼にはいろんな身体的特徴があって、常人とはかなり異なるんだけど、そこまでの巨人とは言われていないのだ(笑)

日本には仏教伝来初期から仏像があるのでいまいちイメージがわきづらいのだけど、世界三大宗教はどれも「偶像崇拝」はしないのが基本なんだよね。
今でも偶像崇拝の禁止が徹底されていることで有名なのはイスラム教で、そのために幾何学模様が発達したのだ。
原始仏教においては、釈尊は明示的に仏像を作ることを禁じていたわけではないのだけど、もともとバラモン教でも神像を作る習慣がなかったこともあり、仏の似姿を作って信仰の対象にする、という教えはなかったのだ。
ところが、古代インドで仏教が広まって行くに従って、ヘレニズム文化の影響を受けたガンダーラなどで「バタ臭い(=西洋っぽい造作)」の仏像が作られはじめ、ここにヒンドゥー教由来の神様なんかも混ざって、多種多様な仏像が作られるようになるのだ。
日本に伝来しているのは基本は中国でフォーマットが確立されたものだけどね。

仏像以前の世界では、お釈迦様の教えである言葉が仏典として伝えられ、それが信仰の対象になっていたわけど、これは無体物なので、深く教義を理解していない信者には信仰の対象として扱いづらいのだ。
そこで、目に見えるものとして、お釈迦さんの遺体や遺髪があがめられるようになるんだ。
それが仏舎利信仰の起こり。
当然数に限りがあるので、このほかにも、仏典を仏塔に入れて「見える化」したものや、お釈迦様の足跡を刻みつけたもの(仏足石)なんかが信仰の対象になるよ。
仏像が出てくるとそっちがメジャーになるんだけどね。

インドから東南アジアくらいまでは仏舎利も足りていたんだけど、中国まで広がるとそうもいかないわけで・・・。
そこで、仏舎利が納められた仏塔(ストゥーパ)の前で、仏舎利の代替品となるものを供養して持ち帰り、それをあがめる、という方式が編み出されたのだ。
多くの場合宝石などが代替品に選ばれたみたいだよ。
当然、日本仏教は中国仏教から来ているわけで、この方式が踏襲されているのだ。
法隆寺の五重塔には仏舎利の代替品であるダイアモンドが心礎の中に納められていたというよ。

で、代替品であることがきちんと認識されているうちはいいんだけど、いつしか「仏舎利を納めている」というところだけが残って、それが代替品なのか本物なのかがわからなくなるようになってくるのだ。
そんな状況で、もともと代替品を納めていたところからさらに仏舎利が分けられたりすると・・・。
瞬く間に仏舎利が増殖していくんだよね。
おそらく、世界中に巨人に相当するような仏舎利があるのはこのため。

でも、実は本物の仏舎利といわれるモノがあるのだ。
それは、19世紀の終わりに英国人ウィリアム・ペッペさんがインド・ネパール国境付近で発掘したもの。
非常に古い水晶の壺になにやら仏舎利らしきものが収められていて、その壺に書いてある古代の文字を解読したところ、釈迦及びその一族の遺骨である、と記されていたことがわかったのだ。
すでにインドでは仏教が廃れていたので、英国政府はこの遺骨を当時の随一の仏教国であるシャム(タイ)の国王に寄贈するのだ。
シャムの王様も立派で、その一部をさらにビルマ(ミャンマー)、セイロン(スリランカ)、日本などの仏教国に分けたんだよね。
で、日本にも来ているわけ。
ちなみに、本当の本当の仏舎利は、釈迦の入滅後その所有を巡って争いが起き、8等分されてしまうんだけど、古代インドのアショーカ王はそのうち7つを集め、さらに細分化してインド中の寺院に配ったと言われているんだ。
とすると、発見されたのはアショーカ王が手に入れられなかったやつ?

そして、日本に来ることになったその仏舎利だけど、当然国内でも誘致合戦になるんだよね。
特定の宗派の所有にすることもできなかったので、最終的には、超宗派で名古屋に覚王山日暹寺というお寺を作り、そこに納めることにしたのだ。
「覚王」とは「釈迦」の別名で「暹」は「シャム」のこと。
シャムが対に国名を変えてからはお寺の名前も「日泰寺」に変更されているよ。
その仏舎利(真舎利)は奉安塔の中に納められているんだけど、取り出すにはこの塔を取り壊すしかないらしいよ。
ま、こういうのは見ないに越したことはないのだろうね、たとえ本物であっても。

2020/06/20

まとめて処罰

先の参議院選挙における選挙違反事件が大きな展開を見せたのだ。
最初はウグイス嬢への法定上限を超える報酬が支払われた、という話だったんだよね。
ところが、さらに事件の捜査が進むと、地元有力者への金銭をわたしていたのではないか、という買収事件になったのだ。
地検特捜部がいまもっとも力を入れている政治スキャンダルなんだよね。
で、今般、ウグイス嬢への違法な報酬の件で担当秘書に実刑判決(懲役1年6月、執行猶予5年)が出たので、次の焦点が、連座制の適用の有無になってきたんだ。
とはいえ、この「連座制」というのがいまいちよくわからないので、少し調べてみたよ。

一般的に「連座制」というと、罪を犯した本人のみならず、その関係者も合わせて処罰することのようなのだ。
でも、近代の罪刑法定主義の世界では、原則的に行為者の恋又は過失があった場合のみ犯罪が成立するものとしていて、関連する集団に属していると言うだけでその周りの人が処罰されることはないのだ。
日本国憲法でも、第31条で「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」と罪刑法定主義の大原則を掲げていて、法律上定められている罪を犯さない限りは処罰されないのだ。
なので、関係者だからといってついでに処罰なんてもってのほかで、共犯であることがきちんと証明され、当該犯された犯罪に対して一定の責任を持って何らかの行為が行われた、という認定が必要なのだ。

このため、一般的に日本の刑法の世界には連座制の適用はなく、あくまでも共犯かどうかという観点で見るんだよ。
ただし、明確に法律上監督責任が定められていて、その責任を十分に果たし切れていなかったという責任に対して刑法上の罪に問われる場合はあるよ。
これも法律上定められているものなので、民法で言う一般監督義務とか善管注意義務とは少し経路が違うのだよ。
例えば、会社の部下が強盗をしたからといって、その上司は形状上の責任は問われないよね。
詐欺集団の組織的犯罪における上司部下関係だったら別だけど、これは上司も罪を犯しているのだ。

そんな中、公職選挙法だけは連座制が適用されるのだ。
候補者本人だけでなく、その塩田で選挙運動を取り仕切る人や、会計・出納の責任者、親族、秘書などが買収などの違反行為をした場合、党外候補者も罪に問われ、当選が無効となるとともに一定期間の立候補禁止などの罰が与えられるよ。
これがニュースでよく言われている連座制で、秘書に有罪判決yが出た場合、連座制が適用されれば当選が無効になるので、ここが正念場になるというわけ。
でも、国政選挙の場合、そこまで連座制が適用される例は多くないのも事実。
今回は検察が頑張っているので、「くび」をとろうとしていると思うけど。

公職選挙法上、連座制が適用される場合については第251条の2から第251条の4に規定されているんだ。
で、これに該当するような事件が発生した場合、一定の手続きを経て、連座制の適用の可否について判断が行われるのだ。
具体的には、次のようになるそうだよ。
①秘書等に有罪判決が出る。
②当該有罪判決について控訴・上告がない、或いは、控訴/上告があったが棄却されて裁判手続きが終了し、刑が確定する。
③検察が刑に処する旨の通知を申し立てる。
④最後に審判を行った裁判所が、有罪判決が出た旨を候補者に通知する。
⑤候補者は通知の費から30日以内に、「違反者は公職選挙法に定める連座制適用の範囲には該当しないこと」又は「公職選挙法に定める免責事項に該当すること」を理由に、立候補禁止や当選無効に当たらないことの確認を求める訴訟を高裁に提起する。(提起しなかった場合は自動的に連座制が適用される。)
⑥高裁で候補者の敗訴が確定すると連座制が適用される。

今は①に来たわけだけど、その後上告されればもう一度秘書の裁判をするし、そうでない場合も、候補者(現議員)が訴訟を起こして裁判所の判断を仰ぐことになるのだ。
つまり、まだまだ時間はかかりそう。
今回のケースでは、離党はしても議委員辞職はしないみたいだから、連座制が適用されることになるとしても、まだしばらく議員では居続けられることになるよ。
参議院であれば人気が6年なのでさすがに次の選挙まで引っ張ることはないんだろうけど、衆議院の場合は、連座制の適用を争っているうちに次の選挙に突入なんてこともあり得るんだよね・・・。
なんて考えていたら、議員本人の買収疑惑がいよいよ濃くなって逮捕、という流れになったね。
もはや連座ではなく、本人の罪が問われることになるよ。
こっちが検察の本命なんだろうけど。

2020/06/13

あぶらっけのぬけたやつ

高級な醤油で、「丸大豆醤油」というのがあるよね。
ボクはてっきり、「丸大豆」という大豆の高級品種をつかっているのだと思っていたのだ。
普通の大豆より球体に近い形状なので「丸大豆」みたいな。
ところが、これは「まるごと」とか「まるのまま」の「まる」で、大豆全部を使ってと言う意味だったのだ!
逆に言うと、「丸大豆」と書いていない醤油は何を原料にしているのか?
それは、「脱脂加工大豆」というやつだったのだ。

音的な響きだと「脱脂乳(スキムミルク)」に似ているよね。
脱脂乳は生乳を遠心分離して乳脂肪の多いクリームを完全に取り除いたもの。
じゃ、大豆からはどんな油脂をとるのか、というと、そのままの「大豆油」。
日本で使われている食用油の4割くらいは大豆油だって。
ごま油なんかは香りを楽しむものだけど、大豆油は色も透明で香りも薄いので、いわゆる「サラダ油」に向いているそうなのだ。
ただし、江戸時代から日本の油の主流である「菜種油」にはかなわないみたい。

ゴマや菜種は油分が多いので、圧搾法と行ってそのままぎゅっと締めて油を搾り取るのだ。
低温で絞った方が油が酸化せず、香りも飛ばないのでよいとされいるよ。
「玉締め」なんてのが有名だよね。
一方、大豆は同じように圧搾して油がとれないわけじゃないんだけど、もともとそこまで油が多くないので、極めて効率が悪いのだ。
そこで、現在採用されているのが、抽出法という方法。
原料を砕いたりした後に揮発性のある溶媒(大豆油の場合はヘキサンが使われるみたい。)とまぜ、そこに脂分を溶かしこむのだ。
溶媒と混ざった油はこの後に蒸留装置に通すんだけど、溶媒は揮発性なので、ここで分離できるのだ。
で、残った液体の油が大豆油というわけ。
この後も食用油としては生成過程があるんだけど、今回注目したいのは、溶媒に脂分を溶かした後によけられた「かす」の方。

これは「大豆粕」と呼ばれるのだけど、これこそが「脱脂加工大豆」なのだ。
確かに脱脂加工は受けているよね・・・。
脂分の抜けた、おからのようなものなんだけど、これと小麦や麹、塩などの他の原料を混ぜて発酵させて醤油や味噌が醸造されるよ。
この「大豆粕」を使わず、そのままの大豆を原料にして醤油を作った場合、「丸大豆醤油」となるのだ。
でも、もともと脂分を取り去った「大豆粕」で醤油ができるくらいで、醤油の醸造過程ではこの脂分は必要ではないのだ。
すると、「丸大豆醤油」の醸造過程ではどうなっているかというと・・・。

発酵させて「醤油粕」を取り去った後の「生揚げ醤油」にこの脂分が含まれていて、これを整地しておくと油の層が醤油の表面にできるんだ。

これは「醤油油(しょうゆあぶら)」と呼ばれるもの。
って、「油」の時が重なってる!
これは醤油として出荷するときには不要なものなので、副産物として取り去るんだけど、古くはこの油が行灯の燃料に使われたりしたんだって。
行灯の油には魚油なんかも使われたらしいけど、燃料の油によって行灯からはいろんなにおいがしたんだろうなぁ。
醤油はけっこう香ばしくてよい方だよね。
魚油はすっごいくさかったと言うから。
現在は、石けん原料や機械油に使われるほか、カーボン/ニュートラルなバイオ燃料としても使われているらしいよ。

「丸大豆醤油」の場合は、そもそも原料に大豆そのものを使うのでそこで少しコストが高くなり、さらに、醸造過程で後で油を取り除く手間が課かかるので、さらにコストが増すのだ。
これが「丸大豆醤油」が高級な理由。
後で除去するんだから最初から取り除いた大豆を原料にしても同じような感じはするけど、風味とかは変わってくるんだろうね。
それと、やっぱり「大豆粕」と言われると産業廃棄物的なイメージがあるから、「低級」という受け取られ方なってしまうよね。
そういうのもあって、「大豆粕」ではなくて「脱脂加工大豆」と呼んでいるんだろうけど。」
最後に、大豆油の生成過程では、脂肪酸だけを残して、リン脂質が取り除かれるのだ。
このリン脂質が「大豆レシチン」で、今では健康食品としてありがたがって買ってもらえるようになっているよ。
ビールの絞りかすのビール酵母がけっこう高い値段で売られているのと同じように・・・。
醤油を絞った後の「醤油粕」は古くから燃料や肥料、家畜用飼料なんかになっていて、これは今もあまり変わっていないみたい。
けっこう栄養にトムものなので、家畜用飼料としては優秀らしいよ。

2020/06/06

古代小麦

日本でも「古代米」というのが健康食品として注目を受けているけど、欧米でも「古代小麦」というものが同じように健康食品として注目されていると聞いたのだ。
「スペルト小麦」と呼ばれるもので、日本でもネットなどで買えるみたい。
これらは完全な野生種というわけではなくて、かつては主要穀物として栽培されていたんだけど、その後に現在栽培・流通が主流になっているコムギ種にとってかわられたもの。
もちろん、そうなる理由はあるんだよね。

いわゆる「コムギ」として流通しているものの主流は、パンコムギとデュラムコムギ。
パンコムギは名前が示すとおり、パンに使われるコムギなんだけど(笑)、一般に「コムギ」と言えばほとんどこれ。
他のコムギ種よりも耐寒性に優れて冷寒地でも栽培でき、かつ、脱穀がしやすいという特徴があるのだ。
これらの特徴は農業上は極めて重要なアドバンテージなので、現在主流になっているのだ。
スペルトコムギはパンコムギの近縁なんだけど、比較的脱穀しづらいので、食べるのに手間がかかるのだ。
デュラムコムギは言わずと知れたパスタに加工されるコムギ種。
タンパク質が青くて粘りが少ないのが特徴。
イタリアでは、乾燥パスタはデュラムコムギから作らないとダメなんだよね。
逆に、このコムギはあまりパン作りには向いていないのだ。

スペルトコムギの場合は、パンコムギと同じように、粉にしてから使われるんだけど、パンコムギとは少し性質が違うんだよね。
大きく違うのはグルテンの質。
時々「スペルトコムギはグルテンフリー」なんて書いてあるけど、それは嘘で、グルテンの質が違うので、いわゆる「グルテンアレルギーが出づらい」ということはあるみたいだけど、それ以上でもそれ以下でもないようなのだ。
スペルトコムギの場合は、グルテンが水になじみやすく、水と混ぜるとそんなにこねなくてもグルテンができる一方、ちょっとだれたような生地になるとか。
ふっくらしたパンにはなりづらいので、工夫が必要らしいよ。
その他、お米と同じように粒のまま食べることもあるみたい。
イタリアでは、中粒のスペルトコムギは「ファッロ」と呼ばれていて、それをゆでたものがスープの具や付け合わせに使われるようなのだ。
ぷつぷつした食感がおいしいみたい。

健康食品として注目されたのは、パンコムギより少しアミノ酸スコアがよく(必須アミノ酸の含有量が高い)、ミネラルも多いとか。
パンコムギが主要穀物として選ばれ、品種改良されていく過程では、カロリーベースで栄養価が高いことが重要だったんだよね。
つまり、炭水化物として食糧不足だから、そっちが大事で、実際にスペルトコムギはもみ殻が厚く、同じような大きさの粒でも胚乳(=デンプンの貯蔵庫)が少ないのだ。
より小麦粉が多くとれるもの、と選んでいくと、胚乳が大きくなるものが選ばれるわけ。
逆に、そこから取り残されることで、必須アミノ酸やミネラルが豊富、という特徴が残るのだ。
これって実は日本の古代米でも同じような話なんだよね。
カロリーベースの栄養価や食味を考慮するとどうしてもデンプン質が多いものが選ばれていってしまうのだ。

ほかには、独特の風味があるとか、消化によい、というのもあるのだ。
風味は雑味成分でもあるので、パンコムギからは消えてしまったものが残っているというもの。
これは好き嫌いが分かれるけどね。
消化によい、というのは、どうもグルテンの質の違いから来るものみたい。
グルテンアレルギーではなくとも、グルテンを摂取しすぎると消化しきれなくいておなかを壊すことがあるんだよね・・・。
いつもうどんを食べているうどん県の住人なら問題ないのかもしれないけど。
上にも書いたように、スペルトコムギのグルテンは水に親和性が高いので、より消化しやすいみたい。
かつ、デンプンの分解とその後のブドウ糖の吸収を緩やかにすることも知られていて、いわゆる「低GI」というやつなのだ。
これって健康食品が好きな人が求める性質だよね。

というわけで、ボクはあんまり認識していなかったんだけど、日本でもけっこう広まってきているみたい。
今度「意識高い系」のスーパーとかに行ったときに探してみようかな?
フランスにいた頃は見た覚えはなかったんだけど、ひょっとしたら健康食品などを扱う店なんかにはあったのかも。
でも、フランス人はとにかくバゲットにこだわるから、あまり普及はしていないだろうけど(笑)