2024/04/27

実は年2回

 衆議院の補欠選挙があるのだ。
今回は、島根1区(細田衆院議長が死去したため)、長崎3区(谷川議員が裏金問題で辞職したため)及び東京15区(柿沢議員が公選法違反で逮捕・起訴され、辞職したため)の3つ。
これってそこそこ数が集まってからやるものだと認識していたんだけど、それは当たらずも遠からじ。
実は国政選挙の場合はルールがあって、例外を除いて、原則として4月と10月の第4日曜日に実施することになっているのだ!
知らなかった。
9月16日~翌3月15日に補欠選挙の実施事由が発生した場合は4月、3月16日~翌9月15日に補欠選挙の実施事由が発生した場合は10月なんだそうだ。

まず、「補欠選挙の実施事由」とは何を指すか?
これにも明確にルールがあって、
①衆議院小選挙区(=議員定数1)は欠員が生じたとき
②参議院選挙区(議員定数が1~6)は定数の1/4を超える欠員が生じたとき(=東京・神奈川・埼玉・愛知・大阪の5選挙区は2名の欠員、それ以外の選挙区は1名の欠員)
③比例代表は再選挙が必要な当選人不足数と合わせて定数の1/4を超える欠員が生じたとき(ただし、参議院は全国比例で定数100なのでまず発生せず、衆議院は最大の近畿ブロックだと定数28で8名欠員が出た場合、最小の四国ブロックは定数6で2名欠員が出たとき)
ということになっているよ。
基本的には、多くの選挙区では一人でも欠員が出ると補欠選挙が行われるようになっているのだ。

このルールに従って行われる補欠選挙を「統一補欠選挙」と言うのだ。
これは衆議院に小選挙区制が導入されたため。
以前は補欠選挙の実施が必要な事由が発生してから40日以内という規定。
1996年に衆議院選挙に小選挙区制が導入されると、当選人が一人しかいないので、なんらかの事由で議員がいなくなるとすぐに補欠選挙をせざるを得ず、回数が増大したのだ。
選挙事務に係るコストも増したので、2000年の公選法改正で現在の年2回のルールができたそうだよ。

例外的に補欠選挙が行われる例としては、統一地方選と同時に行われる場合。
統一地方選は、4月7日~13日の間の日曜日に実施される前半戦で都道府県知事と都道府県議会議員、政令指定都市の市長と地方議会議員を選び、4月21日~27日の」間の日曜日に実施される後半戦で政令指定都市以外の市町村の首長と地方議会議員を選ぶのだ。
この統一地方選がある都市は、4月の補欠選挙は統一地方選後半戦と同時に実施されることになっているよ。
ま、ルール上決まる日程とほぼほぼ被るんだけど。
それから、参議院の場合は解散がなくて通常選挙が行われる日程が通例6月~7月になっているので、参議院通常選挙のある年は、10月の補欠選挙は参議院の通常選挙と同時に行われるのだ。
逆に、衆議院総選挙は解散があるのでいつ行われるか決まっていないから、たまたま投票日が重なることはあっても、合わせにはいかないみたい。
いきなり参議院の補欠選挙も一緒にやります、とかなっても準備も大変だしね。

このほか、「再選挙」と一緒にやる場合、というのがあるのだ。
再選挙は、公選法違反で当選が取り消された場合は、選挙したけどどの候補者も法定得票数が得られなかった場合、比例代表で名簿のリストが足りなくて繰上補充で当選人が確保することができなくなった場合などに行われるもの。
この再選挙も原則として補欠選挙と同じルールで日程が設定されるのだけど、例外的に統一ルールから外れる場合があって、その時一緒に補欠選挙もしてしまう、というもの。
国政選挙の場合は、当選人がいなかった、或いは、定数に満たなかった場合、選挙無効訴訟の結果選挙無効となった場合(「1票の格差」など)はその事由が発生した日から40日以内に再選挙することになっていて、その場合はその時一緒に補欠選挙もすると負いうことなのだ。
ちなみに、現在の選挙区制だと当選人が出ないとか定数に満たないことはまずまず想定されなくて、基本は選挙無効の場合が再選挙になるのだ。
しかも、通常は公選法違反等で逮捕・起訴されるとその訴訟を起こされる前に議員辞職するので、再選挙ではなくて補欠選挙になるんだよね。
最近の例で言うと、河合杏里参議院議員(当時)の場合は、公選法違反の刑事裁判で有罪判決が出るまで議員辞職していなかったので、有罪になった時点で当選無効になり、再選挙することになったのだ。

というわけで、わりと政治ニュースに着目していても知らないことが多いな、と思ったよ。
ま、こんな選挙日程の細かいルールを気にすることはないのだけど。
テレビでコメントしている「選挙のプロ」たちは大前提としてよく知っていることかもしれないけどね。

2024/04/20

ほうなんですか?

 日本の場合、奈良仏教(南都六宗)からはじまって、平安仏教の密教(天台・真言)、鎌倉仏教の浄土信仰(浄土宗・真宗)、日蓮宗、禅宗(臨済・曹洞)などなど、これまで国内で起こった仏教宗派がだいたい残っているのだ。
でも、実は中国ではそうではないんだよね。
というのも、中国では大きな仏教弾圧が何度かあって、その際に衰退、或いは、消滅してしまった宗派もあるから。
日本だと明治期の廃仏毀釈があるけど、宗派が消滅するまでには至ってはいないのだ。
中国の場合、「三武一宗の法難」といって大きな弾圧が過去に4度行われるけど、このときは、寺の財産を没収、強制的な僧の還俗などが行われたのだ。

では、なぜそんな弾圧が起こるのか?
仏教は中国の歴代王朝に反旗を翻したりしていたのか?
でも、そんな話は歴史で聞かなかったような・・・。
ということでちょっと調べてみると、やはり時の王朝の支配に支障が出るような場合に弾圧が起こるのだ。
仏教そのものが憎い、というより、仏教勢力が問題を起こすので、ということらしい。

例えば、中国の皇帝の中には仏教を手厚く保護する政策をとる人もいるわけだけど、そうすると仏教寺院の影響力が大きくなってくるわけ。
すると、他の勢力はこれを排除したいと思うわけで、皇帝の代替わりで弾圧する、という場合はあるのだ。
例えば、唐の時代は、仏教と道教が王朝の支持をめぐって対立をしていて、それが最大の仏教弾圧である「会昌の廃仏」につながったのだ。
完全に派閥争いであって、ポリティクスの世界だよね。
宗教の協議の中身の対立とか、仏教の信仰者が増えると政治に影響があるとか、そういう話ではないのだ。
また、一般に、僧籍に入ると租庸調や兵役が免除されるんだよね。
でも、これを各youして、得度して修業するのではなく、出家だけして「税逃れ」をするようなやからが出てきたので、それを取り締まる必要も出てきたのだ。
仏教弾圧の中で出て来る「強制的な還俗」というのはこういうところに本質があるのだ。


これは日本でも同じで、勝手に僧になられると困れるので、正式に僧籍に入るためのプロセスを用意する必要があったのだ。
それが戒壇の設立で、聖武天皇が唐から鑑真和上を招聘し、唐招提寺を作ったのもここに理由があるのだ。
これにより日本でも正式なプロセスで出家・得度ができるようになるんだけど、この時の整理では、僧になるためのプロセスは国家管理で、国が設置した東大寺、大宰府の観世音寺、下野の薬師寺の3つの戒壇のみに限定したんだよね。
加えて、全国に国分寺・国分尼寺を整理して、仏教の国家管理を進めたのだ。
とはいえ、奈良時代は朝廷への仏教勢力の影響が強すぎたので、平安遷都につながっていくわけだよね。
ここで仏教を弾圧して、とはならなかったのが日本的かもしれないけど、けっきょく、平安時代も密教を国家鎮護のために使っていたわけで、決別するまでではない、ということなんだろうね。
おそらく、大陸には仏教に変わる勢力としての道教があるけど、日本にはそこまでの仏教の対抗勢力がないというのが大きかったのかもね。

日本の朝廷は仏教と一定の距離を取りながらつきあっていくわけだけど、個別の宗派ごとに見ると、「法難」と呼ばれるような話はあるのだ。
例えば、宗派ごとの対立の影響もあって、法然は讃岐に、親鸞は越後に、日蓮は伊豆に入るになっているのだ。
また、日蓮宗のうち「不受不施派」は江戸末期まで弾圧され、強制的に回収させられて真言宗になった寺院などもあるよ。
でも、仏教コミュニティ内の対立なので、仏教自体がけしからん、とはならないのだ。
政治勢力と仏教勢力の対立としては、織田信長による叡山焼き討ちなんてのがあるけど、これも武力集団としての影響力を排除しようとしただけで、信仰を排除しようとしているわけではないんだよね。

なので、明治期の廃仏毀釈までは支配層とうまく付き合ってきたのが日本の仏教だったのだ。
ちなみに、一般的に「廃仏毀釈」とは言われるけど、明治政府が推し進めようとしたのは国家神道体制の確立で、そのために出したのが「神仏分離令」。
神道と仏教の分離というわけだけど、神仏習合が進んでいた日本ではこれはなかなか難しい話だったんだよね。
本地垂迹で日本の神様と仏教の神様がつながっているし。
でも、このとき、神職者の中で仏教に圧迫されてきたと考えている勢力が「廃仏」を言い出し、世間のムーブメントがそっちに移って行ってしまったんだよね。
なので、必ず寝所政府が意図したところではなかった、ということなのだ。
そこも中国のものとは少し毛色が違うんだよね。

2024/04/13

においのもと

 テレビで見たのだけど、岡山県はトイレの消臭剤の年間消費量がナンバー1らしい。
その理由をインタビューでさぐっていたんだけど、番組の中で出していた結論は、洋式トイレで男性が小をする場合に座らず立ったままする人の割合が全国平均に比べて圧倒的に高いから、ということだったのだ。
つまり、まわりに飛沫が飛び散っていて、それがにおいのもとになっているというわけだ。
トイレ用洗剤のCMでも思ったより飛び散っている、みたいなのがあったよね。

でも、実は尿素のものが臭いわけじゃないのだ。
もともと腎臓の中で血液をろ過して老廃物を取り除いた廃液が尿になるわけで、基本的に膀胱から尿道を経て外に出るまでは無菌状態。
っていうか、膀胱や尿道にある時点で細菌が中にいる場合は、膀胱炎や尿道炎を起こしているのだ(>_<)
問題は体外に排出された後。
つまり、検尿の時などの出したての尿は臭いわけではないのだ。
でも、検尿カップから提出用容器に移した後、残ったのをそのままにしておくと臭いが出て来るよ。
残りのほとんどはお入れにそのまま流すと思うけど、検尿カップにこびりついて残ったものは後々臭いが出るので、水ですすぐとかしないとまずいわけだ。

では、なぜ臭いが発生するのか。
尿臭のメインはアンモニア臭。
もともとアンモニアは毒なので、体内で発生するアンモニアは尿素にして無毒化されるんだよね。
それが尿中に排出されるわけ。
でも、体外に排出された尿素は、まわりにいる最近に分解され、再びアンモニアが発生するのだ。
これがにおいの発生源。
特有の刺激臭が出て来るよ。

このほか、尿中には微量ながらタンパク質も含まれているので、それが分解されるとやはり腐敗臭のもとになるような物質もできているのだ。
卵や肉が腐ったようなにおい。
とはいえ、尿中のたんぱく質はごく微量なので、大量のアンモニア臭を押しのけてまで感じられるようにはならないんだよね。
犬なんかは人間より嗅覚が鋭くて、アンモニア臭の奥にある別の物質のにおいまで完治できるのでおしっこでなわばりをマーキングするんだけど、さすがに人でそこまでできる人はあまりいないはず。

でも、おしっこのにおいが強くなる、というのはあるんだよね。
これはむしろ病気の兆候。
なんらかの原因で普段は尿中に排出されない物質が大量に尿中に排出されることでにおいのもとになっているのだ。
わかりやすいのは、栄養ドリンクを飲むと大量の水溶性ビタミンのビタミンB2(リボフラビン)が尿中に排出されるので、尿が真っ黄色になって少し薬臭くなるのだ。
で、腎臓の病気とかで、血液のろ過機能が弱ってくると、本来は尿中に出てこないタンパク質が排出され、それがにおいのもとに。
健康診断の検尿も基本は尿中のたんぱく質を測定しているんだけど、これが多いと腎機能が低下しているというシグナルになっているんだよね。
ちなみに、泡だってその泡がなかなか消えない、というのもタンパク質が多めに排出されてしまっているシグナルの一つ。

では、臭い対策はどうするか。
単純に言えば、尿の飛沫が飛んでいるのが問題なので、それをきれいにふき取っておけば臭いは発生しないのだ。
でも、トイレを使うたびに毎回毎回掃除はできない・・・、となると、別のにおいが悪臭をごまかすしかないわけ。
いわゆる「ベルサイユ方式」。
昔のトイレの芳香剤はこれ。
「芳香剤」とはよく名付けたもので、より強い、でも、人にとっては良いにおいに感じるものでアンモニアを中心とした悪臭をごまかすのだ。

でも、現在普通に使われているのは消臭剤。
名前のとおり「悪臭の原因を消す」のだ。
では、どうやって除去するか。
代表的なものは、化学的方法と物理的方法。
化学的方法というのは、別の化合物と反応させて臭いのしない化合物に変化させてしまう、という発想。
トイレの場合はわかりやすくて、においの原因はアンモニアなので、このアンモニアに何かを反応させて悪臭の原因にならない化合物にしてしまえばよいのだ。
アンモニアは塩基性なので、多くの場合は何らかの酸性物質と反応させるよ。
ただし、なんでもいいかというか、そういうわけでもないのだ。
例えば、そこら辺にある二酸化炭素と反応させて炭酸アンモニウムにしても、炭酸アンモニウム自体が強い刺激臭を持つので意味ないのだ。
塩酸と反応させて塩化アンモニウムに変換すれば無臭になるけど、この物質は強い吸湿性があるので、べとつくのだ。
トイレでそれは使えないよね。
というわけで、ちょうどよいものというのを探すのは大変で、だからこそいろんな商品があるわけ。

物理的方法の方は、多孔性の単体に臭いの原因物質を吸着させるというもの。
素焼きの陶器や活性炭にアンモニアを吸着させるのだ。
冷蔵庫や靴箱用の消臭剤は主にこれだよね。
トイレのようなある程度の広さがある空間だとこれだけだと間に合わないので、トイレ用消臭剤の場合は上の化学的方法と組み合わせになることが多いよ。

2024/04/06

間違うと大変

 小林製薬の紅麹問題はなかなか収まるところを知らないね・・・。
プベルル酸というカビ毒の混入があったことは判明したけど、これってまだ原因と特定できているわけじゃないんだよね。
もともとあんまりよく知られていない物質で、そもそも腎毒性があるかどうかも不明。
仮に、今回の健康被害はこのプベルル酸が原因だったとしても、なぜ混入したのかがわからないと対処できないのだ。
まだまだ未解明なことが多すぎる。
でも、ここをおざなりにしてしまうと、あとで大変なことになるのだ。

歴史的有名な疫学上の大失敗は「脚気」の問題。
日清・日露戦争では多くの戦死者が出たわけだけど、陸軍は活計苦しんで亡くなった方も多いんだよね。
っていうか、神経がマヒして動けなくなるから、軽く症状が出ただけでも戦場では致命的。
当時からいかに脚気を克服するかが大きな課題だったんだけど、陸軍はその対応策を間違ってしまったんだよね。
その中心人物が軍医中将の森林太郎。
そう、「舞姫」の作者、森鴎外その人だよ。

「脚気」の症状は古代の文献にすでにみられるのだけど、広く認知されるようになったのは江戸時代から。
これは白米中心の食文化になったことが影響しているのだ。
主に都市部で発生していて、「江戸わずらい」なんて呼ばれたわけだけど、その本当の原因はビタミンB1の欠乏症。
江戸をはじめとした都市部では、大量の白米にごくごく少量のおかず、という食事スタイルだったので、欠乏症が発生しやすかったのだ。
箱根を越えると江戸わずらいが治るなんて言われていたけど、これは田舎では玄米や麦飯、雑穀などを食べていてビタミンB1を摂取できるようになるからなんだよね。
江戸時代にぬか漬けが普及したのも、ビタミンB1が補給できて脚気にかかりにくくなる、というのがあったと言われているよ。

明治になって、近代軍事組織が整備されると、またこの脚気が問題になるのだ。
というのも、軍人を募集する際に「腹いっぱい白米が食べられる」とアピールしたから。
江戸のような都市部を除いて白米はぜいたく品だったので、当時としてはこのコピーはすごく魅力的だったんだよね。
でも、その結果、軍隊で脚気が大量発生したのだ。
というのも、陸軍の場合だと、1日の食事として支給されるのが、白米6合+少量のおかず、という感じで、まさに脚気リスクがたまるメニューだったから。
で、どげんかせんといかん、ということになったんだけど、陸軍と海軍で対応が分かれるんだよね。

海軍の方は、英国軍では脚気が極めて少ないことに着目し、ひょっとすると日本式の食事が悪いのでは、ということで、兵食に洋食を導入することにしたのだ。
海軍軍医の高木兼寛は、おそらく炭水化物とタンパク質のバランスが悪い、もっとタンパク質を取らないとだめだ、と考えたんだよね。
でも、パンと肉の西洋食(例えばパンとシチュー)はあまり評判がよくなく、肉を使ったおかずにごはんという日本式の洋食スタイル(例えば肉じゃがとごはん)をとることに。
ただし、群で支給する食事に使える金額には上限があったので、肉多めのおかずにするとそっちにコストがかかり、高価な白米が使えず、安価な麦飯になったのだ。
でも、実際はこれが功を奏し、オオムギからビタミンB1が摂取できるようになって脚気が減ったのだ。

これに対し、陸軍は最近原因説をとるんだよね。
森林太郎をはじめとする陸軍軍医はドイツ留学組が多く、ちょうどそのころドイツでは多くの感染症の原因が最近によるものであるというのが盛んに研究されていたから。
また、実際に海軍では食事を変えて脚気が減っているのだけど、そういう経験則的なことではなく、理論的に脚気を駆逐したかった、という対抗心もあったみたい。
で、衛生環境の向上などの取組を始めるわけだけど、食事は依然のままの、脚気の高リスク食・・・。
結果として、日清戦争で数千人、日露戦争では3万人弱が脚気でなくなったといわれているよ(>_<)

当時の技術力では限界もあるのだけど、このように原因を見誤るとかえって被害が拡大したりするのだ。
なので、今回の紅麹の件も、プベルル酸が悪い、と短絡的に考えてはだめで、慎重にじっくりと検証することが必要なんだよね。
そうしないと、また次に同じようなことが起きてしまいかねないのだ。

2024/03/30

紅の衝撃

 小林製薬の紅麹の件がすごいことになっているのだ。
まだまだ正確なところはわからないけど、現実問題として、100名を超える人数が健康被害で入院していて、死亡例まで出ているわけだからね。
事案を認知してからの小林製薬の対応の遅さも指摘されているよね。
かつ、水から売っているものだけじゃなくて、原料として他社製品に使われている例が多いと言いうのだから大変だ。
でも、ネットを見ていると、けっこう勘違いに基づくコメントなんかもあるのだ。
そこで、現時点で分かっていることを頭の整理のためにもまとめてみるよ。

まず、今回問題になっているのは、紅麹のサプリで、健康食品としてこのサプリを飲んでいた人のうち、腎臓に悪影響が出ている人がいる、というのが問題の根幹。
腎臓は機能がダメになると基本は回復することはなくて、悪化すると人工透析になったりするわけだけど、そういう事例も報告されているばかりか、死亡例もあるのだ。
ただし、この時点では「関係がありそう」というだけで、直接的な原因かどうかはまだ調査中、というステータスだよ。

じゃあ、何が悪さをしているのか?
もともと紅麹はカビ毒のシトリニンというのを賛成する菌株があることが知られていて、これは腎毒性を持つ物質なのだ。
そのせいで、欧米では紅麹の食品等への利用に制限がかかっているのは報道されているとおり。
一方、アジア文化圏では、台湾では紅酒の醸造に、沖縄では豆腐ようの発酵に使われるなど、紅麹が伝統的に食品分野で使われてきているんだよね。
仮にカビ毒を産生する菌株でも、そんなに大量に紅麹を摂取するわけでないので、「ただちに健康に影響するレベルではない」ということで使われてきていたわけ。
ところが、この紅麹を調べていくと、どうもコレステロールを下げる働きのある物質も作っていることがわかり、健康食品としての利用につながっていくんだけど、今回問題になっているサプリのように、一度の大量に摂取するような使い方になると、産生量が微量であってもシトリニンを産生すること自体が問題になるのだ。
そこで、小林製薬は、シトリニンを産生しない菌株を開発し、安全に使える紅麹として製品化していたのだ。

ところが、今回こういう事案が発生したので、すわっ、やっぱりシトリニンが混ざっているのか、ということになったんだけど、どうもそれは違うみたいなんだよね。
今回健康被害が報告されている製品(サプリメント)を後から調べてみても、シトリニンは検出されていないのだ。
こはファクトとしてそう。
なので、健康被害の原因はシトリニンではない、ということ。
これにより、突然変異の先祖返りで小林製薬の紅麹の菌株が再びシトリニンを産生するようになった、というのは否定されるのだ。
では、何が原因なのか?

よくよく調べてみると、今回の健康被害が報告されている製品は、特定のロットに偏っているようなんだよね。
つまり、その時その工場で筑われた製品が問題である可能性が高いのだ。
そうなると、いくつか可能性が絞られてくるわけだ。
製造プロセスに問題があって、まだよくわからないけど、何か腎臓に悪影響を及ぼすような毒物が混入してしまった可能性。
この場合、どこからどうやってそれが混入したのか、というのが次の問題になってくるよね。
逆に言うと、これだと対策はしやすいのだ。
これとは別の可能性としては、このロットの製造過程において紅麹の菌株に突然変異が起こって(有意に表現型が変わるかどうかは別として、遺伝情報的には一定の確率で常に変異は入っているよ。)、シトリニンと似たような腎毒性を持つ新たな未知の物質が作られるようになってしまった、というのも考えられなくはないのだ。

こっちは影響がさらに拡大する可能性があって、他社製品の製造過程でも同じような突然変異が起こる可能性があるので、小林製薬だけの問題ではなくなってしまうのだ!
もともとそんなピンポイントで変異が入る確率は極めて低いのだ他の製造会社では発生していないんだと思うけど、小林製薬の製造ラインでそういう事象が起こったのであれば、他社の製造ラインでも同様のことが起こる確率はゼロではないのだ。
この場合は、その未知の物質に対するスクリーニングを横展開していくことが求められるよ。
すでに、一部紅麹関連製品を扱っている企業で、「当社の紅麹は小林製薬のものではありませんので安心してください」みたいなアナウンスをしているところもあるけど、そういうことではなくなってしまうのだ。
ちなみに、紅麹から抽出した色素はシトリニンの有無を確認しているので、色素だけしか利用していない場合は安全、という情報もあるけど、仮に未知の物質が原因だった場合、それは式粗抽出の過程で紛れ込んでいないのかどうかは未確認なので、これも否定されてしまうんだよね・・・。

いずれにしても、まずは原因の究明が待たれるのだ。
風評被害にもつながりかねないから、かなりの確度を持ったものでないとだめだけどね。
そういう意味では、この騒動はまだまだしばらく続くだろうなぁ。

(追記)
厚生労働省が小林製薬の大阪工場に立入検査に入ったけど、どうも、問題のロットに青カビが作るカビ毒の「プベルル酸」というのが混入しているのがわかったみたいだね。
この天然化合物自体の身体への毒性はまだよく分かっていないみたいだけど、これが真犯人とすると、紅麹の問題ではなく、製造過程の問題ということになるね。

2024/03/23

ただ純粋に

 最近かなり減ってきたけど、昭和レトロブームで取り上げられている飲食店で、「純喫茶」というのがあるのだ。
「純」があるからそうでないのもあるわけで。
それが「特殊喫茶」。
こちらは大きく業態が異なるんだよね。
なにしろ、「風俗営業」なのだ。
ちなみに、ほかにも「歌声喫茶」とか「名曲喫茶」なんてのもあるけど、これは「純喫茶」のバリエーション。
「歌声喫茶」ではみんなで合掌し、「名曲喫茶」ではクラシック音楽に耳を傾けるのだ。

今でいう喫茶店のような業態は開国前から「茶店」や「茶屋」と呼ばれる携帯で存在していたんだよね。
水戸黄門でうっかり八兵衛がお茶の身ながら団子を食べているところ。
日本茶と軽食を提供していたのだ。
これは完全に現代の喫茶店に近いよね。

明治になって、海外の文化が入ってくると導入されたのが「カフェ(喫茶店)」というもの。
パリなんかでは芸術家が集まってサロンとして文化の中心として機能していて、それを持ってきたかったみたい。
でも、最初キハコーヒーを飲む文化がまるでなかったので、牛乳や清涼飲料、軽食を出す業態として「ミルクホール」ができたのだ。
牛乳を飲み始めるのも明治以降だから、それだけでも十分ハイカラだったわけだ。

最初にコーヒーを提供した店と言われているのが、上野黒門町にあった「可否茶館(かつひーさかん)」。
どら焼きで有名なうさぎやのすぐそばだよ。
今でも喫茶店発祥の碑があるのだ。
でも、「カフェー」の名を関する店が出てくるのは明治も終わり。
銀座に3軒のカフェーがほぼ同時にオープンするのだ。
プランタン、パウリスタ、ライオンの3つ。

パウリスタはわりとガチンコスタイルで、本場パリと同じように男性給仕(ギャルソン)がコーヒーと歌詞を提供するスタイル。
震災後に一時撤退したけど、1970年に銀座店は復活しているよ。
「銀ブラ」は「銀座でブラジルコーヒー」の略だなんて説もあるけど、このブラジルコーヒーを提供したのがパウリスタなのだ。
プランタンとライオンはコーヒーだけでなく、アルコールや養殖も提供していたみたい。
それ以上の違いが、女給さんがいたこと!
まさに茶屋の看板娘同様、それ目当てにくるお客もいたとか(洋装の女性自体が珍しい時代だしね。)。
ちなみに、ライオンは今もある銀座ライオンのことで、プランタンは震災後に移転して戦中に営業停止しているのだ。

で、お客を帯び寄せようと、女給さんにサービスさせる店が出てくるわけで。
となりに座ってお酒をお酌したり、会話をしたり、という感じになってきたのだ。
これが震災後くらいのこと。
まさに現代のスナック的な感じかな。
キャバクラとかだと給仕は男性がやっているからね。
で、こうなってくると取り締まりが必要だ、ということになって、戦前には「特殊飲食店」として警察による取り締まりの対象になるよ。
これが戦後の風営法第1号営業の取り締まりにつながるのだ。
※風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第2条第1項第1号「キヤバレー、待合、料理店、カフエーその他設備を設けて客の接待をして客に遊興又は飲食をさせる営業」

こうなると、純粋にコーヒーを楽しみたい人が行く店とすみわけがなされてくるわけで。
そこで生まれた概念が「純喫茶」。
基本は女給が接待せず、アルコールを提供しないことが多い業態だよ。
で、うちは健全な店ですよ、ということをアピールするために、自ら「純喫茶」と名乗るわけ。
現在では「カフェー」という響きに風俗営業のイメージが伴わなくなったのもあってすたれてきているわけだけどね。
むしろ、接待を伴わない店なんだけど、女給さんなどの従業員とコミュニケーションが楽しめて触れ合える店、という、風俗営業ではなく飲食業だけどなんかちょっと不健全な店も出てくることになるのだ。
その代表例がガールズバーやコンセプトカフェ。
どちらも従業員が隣に座ったりしたらアウトなのだ。
ガールズバーなら基本はカウンター越しに会話しないといけないし、コンカフェの場合は飲食物の提供や食器を片付ける際に「ついでに」軽くコミュニケーションをとる、というのが基本。
ずっと張り付いて相手をしちゃうと「接待」になっちゃうので、風営法にひっかかるのだ。

2024/03/16

いわゆる一般的な

 最近ちょっと話題になっているけど、来年から、いよいよキラキラネーム(旧DQNネーム)が規制されるようになるのだ!
世の中はだいぶポジティブに受け止めているみたいだよね。
これでかわいそうな子は減るんだ・・・。
「泡姫(ありえる)」とか「金星(まあず)」とかはさすがに問題あるしね。
「悪魔ちゃん」以来くすぶっていたこの問題もやっと決着しそう。


これは、戸籍法の改正によるもので、令和7年6月8日施行で、戸籍法第13条が改正され、これまで戸籍上は必須ではなかった氏名の振り仮名を記載しなくてはいけなくなったのだ(第一項)。
しかも、この読み方は、「氏名として用いられる文字の読み方として一般に認められているものでなければならない」とされているよ(第二項)。
具体的には、「氏名の振り仮名に用いることができる仮名及び記号の範囲は、法務省令で定める」となっているので(第三項)、今後しめされていくことになるはずだよ。
この改正自体は、マイナンバー法等の一部改正法(令和5年法律第48号)による戸籍法の改正。
マイナンバーカードには戸籍上の指名が記載されることになっているけど、これにより、その振り仮名も合わせてマイナンバーに記載されるようになるのだ。

で、この経過措置として、現在いっさい振り仮名が記載されていない戸籍に振り仮名を追加する必要があるのだ。
これはこの施行日から1年以内ということになっていて、基本は「一般的な読み方」で記載されることになるんだけおd、現時点で、「一般的でない読み方」をしていて、それを継続したい場合は、個別に振り仮名を届出できる、という仕組みになっているよ。
つまり、「光宙(ぴかちゅう)」君の場合、「光」で「ぴか」は一般的な読み方ではないので、放っておくとこの振り仮名は登録できないのだ!
なので、令和8年6月7日までに「ぴかちゅう」という振り仮名を登録する必要があるよ。
その際、「光宙」で「ぴかちゅう」と呼びならわしてきた実績を示す書類が必要なんだって。
これは、既得権益は保証するけど、このついでに新たに変な読み仮名を登録させないため。

逆に言うと、漢字は普通だけど読み方だけが変な場合は、このときに「一般的な読み方」に直せるわけだね。
「太郎(まいける)」なんて例があるみたいだけど、これは「まいける」にこだわらず、「たろう」でよいということなら、この際「たろう」を正式な読み方として登録できるようになるわけだ。
漢字の字面からしてシャイニングな場合はそうもいかないわけだけど。
ちなみに、いったん読み仮名が正式に登録されると、その変更には、これまでの氏名変更の手続きと同様の家庭裁判所の許可がいつyouになるので、注意が必要。
普通とちょっと読み方が違うんだけど、気に入っている、みたいな場合は、きちんと読み仮名の届け出をしておかないと危ないよ。
(最初の1回だけはミスもあるので許可なしで訂正できるようにはするみたい。)

この作業、膨大な作業が発生しそうだけど、届け出の受付は郵送のほか、マイナポータルでもできるようにするらしい。
この、ほぼほぼ使わないアプリをまた使う日が来るとは。
マイナンバーカードの普及率を考えれば、郵送や窓口受付が殺到しそうだから、デジタルにできればその方が安心な気がするなぁ。
まだちょっと先の話だから、忘れないようにしておかないと。

2024/03/09

漏れ注意

 いよいよ、日本でも4月から肥満治療薬が一般販売されるのだ。
まさに話題になっているのは、大正製薬が一般用医薬品(OTC)として製造承認を受けたアライ(薬品名はオルリスタット)。
ガスターと同じで、薬剤師がいないと売ってもらえないタイプだよ。
一応適用に条件があって、薬剤師から確認を受けたうえで販売されるようなのだ。
でも、飲むだけで痩せる薬と言われると魅力的だよね。
ところが、そうそううまい話がころがっているわけはないはず・・・。

この薬の作用機序は、腸管での脂肪の吸収阻害。
脂肪の多くはグリセロールに3つの脂肪酸が結合したトリグリセリドの形で摂取されるんだけど、これは膵臓から分泌されるリパーゼ(脂肪分解酵素)によりグリセロールと脂肪酸に加水分解され、それぞれが小腸から吸収されるのだ。
この薬は、そのリパーゼの分解を阻害し、体外から摂取した脂肪の吸収を抑えるというもの。
ということは、そもそも糖質は関係ないので、デンプンなどの糖質については自分で節制しないといけないわけだ。
でも、それだけならまだよいのだけど、この作用はほかにも影響してくるのだ。

ひとつは、ビタミンA(βカロテン)やビタミンD、ビタミンEなどの脂溶性のビタミンの吸収率が下がること。
この薬を服用中は気を付けて多めに摂取しないといけないんだけど、これらの脂溶性ビタミンはもともと過剰摂取の弊害もあるので、その辺のバランスをとることが必要だよ。
まあ、OTCで売られる場合はそこまで有効成分が多いわけじゃないから欠乏症が出るほどではないと思うけど。
なので、これは気にしておけばいいくらいの話。

もう一つの方が、けっこうクリティカル。
それは、便がゆるくなる、ということ。
吸収されない脂肪がそのままにゅるっと出ることになるのだ。
よく、深海魚のアブラソコムツやバラムツを食べると、人間に消化できない脂(ワックス)のせいで無意識で大きい方をもらSぢてしまう、という話を聞くけど、それと似たようなことが起きるらしい。
なので、服用当初は、おむつシートの利用も含めて気を付けた方がいいんだって。
おならだと思ったら、の危険性もぐんと上がるようなのだ!
これは人間の尊厳として危険。

なので、購入時には薬剤師から、あまり脂肪の多いものは食べないように、という注意喚起があるんだって。
でもでも、その脂肪の吸収を抑制して痩せる原理なわけで、脂肪の摂取を抑えられるくらいの人ならこのくすりにそこまで頼らなくてもいいんじゃないのか、という気はするよね(笑)
それに、脂肪を抑えて糖質を増やすとけっきょく太るし。
なので、実は販売の条件で、もともと運動や食事制限など生活習慣改善の取組を行っていること、というのが入っているのだ。
ずぼらな、だらけた生活でも、この薬さえ飲めば、ということではないらしいよ。
ま、「漏れ」さえ気にしなければ、いくらでも脂モノを食べられる、ということかもしれないけど・・・。

ちなみに、1日3回1錠ずつで90カプセル入りが8,800円。
年10万円くらいの負担なのだ。
けっこうそそる値段設定ではあるよね。
購入に向けてのチェックシートや生活習慣記録シートなどを記入したうえで薬剤師に確認を受ける必要があるそうなので、購入したい場合は今から用意しておく必要があるよ。
https://brand.taisho.co.jp/alli/

2024/03/02

うるおいを測る

 冬の乾燥に弱いボクとしては、天気予報の湿度情報が非常に大事。
乾燥してくるとすぐに手がカサカサになるんだよね。
指先はざらざらになる。
なので、乾燥しそうな日は、よくよくハンドクリームを塗りこむのだ。
今のお気に入りは馬油入りクリーム。
これがしっとりするんだなぁ。

で、ふと思ったんだけど、デジタルの湿度計ってどうやって計測しているんだ?、ってこと。
小学校高中学校の理科で習ったのは、緩急温度と湿球温度の温度差から湿度を求めるもの。
普通の温度計と、常に水にぬれている状態の温度計の温度差を比べることで、湿度=水の蒸発のしやす=気化熱の奪われやすさがわかるんだよね。
湿球温度の温度が低めに出れば出るほど乾燥しているのだ。
これはわかりやすい。

ちょっと調べてみると、思い当たるのがあった。
それは、髪の毛などの湿度によって伸び縮みするものの長さを測定して湿度を測るもの。
そう、博物館や美術館で展示ケースの中に入っているやつだ!
これは機械式測定器というらしい。
常にぴんと繊維を引っ張っておいて、その引っ張りに要する力で湿度を計測するのだ。
湿度の経時変化を用紙に記録できるのも便利なんだよね。
これもわかりやすいっちゃわかりやすいけど、伸び縮みと湿度の変化を較正(キャリブレーション)するのが大変そうだよね。
ピアノの調律みたいに放っておくとずれてくるんじゃないのかなぁ?

こういうものにたよらないのが、空気の熱伝導率で測る方法。
湿度が高くなる(=空気中の水蒸気量が多くなる)と、熱伝導率が少し下がるんだって。
湿った空気の方が熱を伝えづらいのだ。
熱は赤外線によって伝えられるけど、この赤外線を水分子が吸収してしまうんだよね。
同じように、赤外線よりもう少し波長の長いマイクロ波(電子レンジで使う周波数帯)も吸収されるのだ。
なので、赤外線やマイクロ波の吸収度合い(=空気中でどれだけ減衰するか)を見ると、空気中の水蒸気量がわかるのだ。
人工衛星の中には地球の大気中の水蒸気量を計測しているものもあるんだけど、それはこの方法だよ。


でもでも、さすがにこの方法ではスマホやスマートウォッチで湿度を測れないのだ。
中に髪の毛が入っているわけじゃないし、熱伝導率や赤外線・マイクロ波の減衰も計測するのにそれなりの装置がいるからね。
どうしているかというと、湿度センサというものがあるらしい。
大きく分けると抵抗式と容量式で2種類だって。
これらは素子化できるので、小型電子機器に組み込むことも可能。
やっと計測できる!

抵抗式は、セラミックや高分子の素材で、吸湿・脱湿により抵抗値が変化するものを使う方法。
まわりの水蒸気を吸うと抵抗値が変わるのだけど、ばらつきが大きく精度に欠ける点があるのと、どうしても応答性が悪く、リアルタイム計測できないみたい。
大量に安く作れるんだけどね。
もうひとつの容量式は、吸湿・脱湿により静電容量が変化する高分子膜を使う方法。
こちらは薄い膜なので応答性もよく、静電容量と水蒸気量がきれいに相関しているので、センサとして優秀みたい。
当然、コストは少しお高めとか。

というわけで、デジタルの湿度計はきっとこういうセンサを使っているのだ。
これらセンサだと電気的に計測できるから出力もしやすいしね。
iPhoneの中に温度計が二つ入っているわけではなかった!

2024/02/24

高菜、食べてしまったんですか?

「高菜、食べてしまったんですか?」と言えば、有名な意識高い系のラーメン屋さんコピペ。
スープの味を大事にしているから、まずはスープから飲んでほしい云々。
で、ラーメンを待つ間にテーブルに置いてあった高菜をつまんでしまったお客は食べさせてもらえず帰されるのだ。
高菜を食べてしまうと、繊細なスープをきちんと味わえないからとか。
で、同じような話として、寿司屋ではまず淡泊な白身から初めて、トロやウニのような濃厚なものは後、穴子なんかは最後、みたいなのがあるよね。
先に濃厚なもの、味の濃いものを食べてしまうと、鯛や平目のような白身の魚の味のうま味は感じられなくなる、ということらしい。

確かに、その間に何も口の中に入れな蹴れればそうかもしれないけど、鮨の場合は途中にガリやお茶を口に入れるからねぇ。
ガリはショウガの辛味で口の中をすっきりさせるとともに、ショウガの辛味で唾液の分泌を高めるのだ。
もともとは殺菌効果を狙ったものだろうけど、口の中がさっぱりするよね。
寿司屋特有の熱いお茶も、口の中の前のネタの味を洗い流すため。
脂ののったネタの場合、それが口の中に残っていると次のネタの味に混ざるからね。
これを熱いお茶で洗い流すのだ。
もともと水に溶けにくい物質なので、熱いお茶がいいというわけ。

いわゆる魚の生臭みの下は、腐敗の過程で出てくるトリメチルアミン。
これは水によく溶けるので、水分を拭き取ってあげるとかなり軽減するのだ。
塩を振って水分を表面に出し、それを拭き取ると臭みがとれるよ。
口の中が生臭くなったなぁ、と思ったら、とりあえず水を飲めばいいわけだ。
今ほど冷蔵技術や流通が発達していなかった頃は、どうしても鮮度が落ちたネタしかないので、この腐敗やそれに伴って出てくる臭み対策が重要だったわけだよね。

なので、塩や酢、昆布で締めたりして水分リョを減らして腐敗を進みにくくする。
或いは、塩分濃度の高いタレに漬けることで腐敗を防ぐ。
こういうのがネタの基本。
トロみたいなネタはすぐに腐るので江戸時代は食べずに捨てていたとか。
ウニなんかも新鮮な状態で長距離運べないので、山地から遠いところでは塩ウニとかにしないとダメなのだ。
ま、江戸時代はウニの寿司はないだろうけど。

で、この頃は寿司は軽食、ファストフード扱いで、基本は立ち食い。
おにぎりくらいの大きさの寿司を包丁で二つに切ってもらって食べていたらしいよ。
なので、寿司は一皿2貫が基本と言われるよね。
で、そういう食べ物なので、お酒とともにゆっくり楽しむ、というものでもなく、さっと来てさっと食べる、みたいなものだったらしい。
なので、寿司に合わせるのは、簡単に出せる粉茶が基本で、ネタもそんなに鮮度がよくないのもあって、口の中に残る臭みを洗い流すのだ。
食べた後はのれんで指先を拭くのが基本だったので、はやりの寿司屋はのれんが汚れていたとか。

というわけで、もともとはそういう食べ物なので、あんまり順番とか考えるようなものでもなかったんだよね(笑)
好きなものをつまめばいいだけ。
なので、こういう味が濁るみたいな話は、寿司が高級化してからの話なのだ。
そういう意味では、このコピペはラーメンが高級化する過渡期なのか。
たしかに、海外ではラーメンってけっこう高級な食べ物なんだよね・・・。

2024/02/17

リリース&キャッチ

 ネパールの地元政府は、エベレスト(チョモランマ)の登山者に対し、排泄物の持ち帰りを義務付けることにしたそうなのだ。
ちなみに、登山前に、中で排泄物を固形化・無臭化する特殊な袋を渡し、ベースキャンプまで持って帰ってもらうのだとか。
これまでもゴミの持ち帰りを求めてきたけど、今回はさらにその上を行く話。
プラスチックのような生分解性でないものについての持ち帰りは当然と思うけど、なぜ排泄物も持ち帰らないといけないのか?
ちょっと穴を掘って埋めておけばかえって肥料になるようなきもするけど・・・。
これには、8,000mを越える高さを誇る高山であるが故の理由があるのだ。

そもそも、エベレストの山頂付近のような超高度の場所だと、ものが非常に腐りにくいのだ。
バクテリアやカビがいないということはないけど、年中低温なので腐敗反応が進みづらいんだよね。
なので、生ごみのような放っておけばくさるようなものでも、エベレスト山頂付近ではほぼほぼずっとそのまま残って、水分だけ抜けていくんだよね。
昆虫の類もいないので、かじられたりすることなく、しぼんでいくだけ。
冷蔵庫の奥の方で見つかる、数年前の食材のように・・・。

つまり、し尿についても同様で、穴を掘って埋めておいても冷やされた、或いは、氷漬けになったし尿のままなのだ!
臭いはとんでいるだろうけど、自然に帰るわけではないわけ。
実際、エベレストのような高山の場合、山頂付近で人がなくなると、担いでは下りられないケースも多く、そのまま放置するしかないんだよね。
でも、その死体は腐らないので、そのまま残るのだ。
エベレストの場合は年中氷点下なので氷には覆われるらしいけど、近年は温暖化の影響で再び露出してきた死体もあるみたい。
っていうか、死体の中には「グリーンブーツ」よ言われるもののように目印になっているものとあるんだって。
天然にミイラができちゃうわけだよね。
アルプスの氷河で見つかったアイスマンのように。

地上で死体を放置した場合は、仏教で諸行無常を説くために使われる九相図(くそうず)にあるように、徐々に腐敗していくのだ。
内臓から腐り始めて発生するガスでおなかが膨らみ、肉や皮膚がボロボロになって溶解しだすのだ。
その後、ウジがわき、鳥獣がついばんで骨についた肉もこそげていき、最後は白骨が残る、という感じ。
こういう過程が進まず、そのまま少しずつ水分だけ抜けていくんだよね。
エベレストの場合は、そもそも近年になってからしか登山者の事故死が発生していないので、ミイラと呼べるほどには乾燥はしてなくて、普通に氷漬けの死体があるみたい。
アルプスのアイスマンの場合は、数千年の時を経て乾燥して自然ミイラになっているのだ。
おそらく、エベレストの死体もこのままだと数千年後にはそうなる感じ。

エベレストくらいの高度になると、空気が薄すぎて浮力が得られず、ヘリコプターが使えないそうな。
なので、重いものでも人力で運ぶしかないのだ。
そうなると、なかなか死体を下ろす、という感じにはならないんだよね。
ボランティアでゴミを持ち帰る運動はしているみたいだけど、今のところは死体には手つかず。
ばらしたりしたらひょっとしたらが運べるかもしれないけど、それはそれで死体の尊厳の話が出てくるよね。
そんなこんなでそこは手を付けないみたい。

一方で、山頂付近で発生するごみや糞尿は、もともと登山者が持ってこられたほどの重量のものなので、当然持って帰ることができるもの。
だからこそきちんと持ち帰りましょう、ということなんだよね。
この山からのごみの持ち帰りはエベレストのような高山の話だけではなくて、日本では富士山でも問題になっているんだよね。
富士山では入山料(任意)をとってバイオトイレを整備したりもしているけど、世界遺産登録されてから観光客も増えてごみ問題が大きくなってきているみたい。
さすがに富士山は山頂付近にもトイレはあるみたいだけど、せめてごみは持って帰らないとね。

2024/02/10

草を食む

 ドンキで安売りしていたので「ヴィーガン・グミ」というのを買ってみたのだ。
完全植物由来原料なんだって。
味はというと・・・。
なんかちょっと固くて、もそっとしてる。
普通のグミの方がおいしいと思うけど、グミの主成分であるゼラチンは、塗擦された家畜の食肉に加工されなかった部分(牛豚の骨や皮、鶏の足とか)を原料にしているので、ヴィーガンには食べられないのだ。
なので、グミは食べたいけど、というニーズに基づいた商品なんだよね。
とはいえ、あまり売れなかったからドンキで安売りされているんだろうけど。


ヴィーガンは完全菜食とも呼ばれるけど、単に、その思想の根底に、「人間が生きるために動物を犠牲にするのに反対する」というコンセプトがあるので、牛乳やハチミツもだめなのだ。
動物から搾取してはいけないんだって。
毛皮や革製品もだめ。
むかしなら到底生きていけないようなライフスタイルになるけど、合成皮革とかもある現代だと何とかやっていける感じだね。
で、そういう思想だからこそなのか、自分がそういう生き方をするというだけでなく、まわりの人にも「啓蒙」しようとしてくるのだ。
これがネット上とかでヴィーガンが嫌われる原因でもあるんだよね。
欧州では肉屋さんを集団で襲ったりもするらしいから本当に過激なんだけど。

で、どの世界にも「行き過ぎ」は出てきて、ヴィーガンの例で言うと、赤ちゃんや子供に親がヴィーガン食を強制することで、栄養失調になったり、場合によっては亡くなったりする例が知られているよ。
牛乳もだめな中で植物しか食べないと、どうしてもタンパク質が不足するのだ。
これは子供には痛い話。
大人であっても、ヴィーガン食では必須脂肪酸(特にω3系)やビタミンB12、ビタミンDが不足しがちだと言われているよ。
なので、現代のヴィーガンはこれらの栄養素をサプリで補給するとか。
一応、そのサプリの原料も動物由来でないことを確認しているそうな。

で、ふと思ったんだけど、日本の禅宗における精進料理って、ヴィーガン食なんだよね。
もともと牛乳を食材としていないからそこもOK。
でも、けっこう禅宗のお坊さんって長い間修行しているけど栄養失調になったみたいな話は聞かないような・・・。
隠れて食べている、なんてことを言う人もいるけど、日本の精進料理の場合は、大豆加工食品を大量に使うことで、タンパク質の不足問題は解決しているのだ。
豆腐や油揚げ、がんもどき、湯葉は豆乳を加工して作る食品で植物由来食品としてはタンパク質が豊富。
今でいう代替肉の大豆ミートみたいなものだからね。
さらに、味噌やぬか漬けのような発酵食品をとることで、ビタミン類も補給しているのだ。
わりとキノコもよく食べるので、シイタケからビタミンDも摂取できるのだ。

問題はビタミンB12。
これは動物性食品だとわりと含まれているのだけど、逆に、植物性食品にはほとんど含まれていないのだ・・・。
そんな中、」植物性で比較的多く含んでいるのが海苔。
禅宗の精進料理で海苔がたくさん出てくるようなイメージはないけど、食材として使わないわけではないよね。
おそらくはこれが鍵だと思うのだ。
それでも、不足しがちにはなるんだろうけど、重篤な欠乏症にはならない程度じゃないかな。

精進料理の方が欧米式のヴィーガン料理より栄養学的には優れているようにも見えるけど、そうでないところも当然あるわけで。
欧米式では生野菜や果物を摂るので、ビタミンCは全く問題なく摂れるのだ。
ところが、日本には生野菜を食べる習慣がほとんどない。
精進料理の野菜はゆでたり煮たりされている!
なので、実は緑茶でビタミンCを補給しているんだよね。
禅宗で常にお茶を飲むのには合理的な理由があるわけだね。

2024/02/03

100億年の孤独

 仏教には、弥勒菩薩(マイトレーヤ)という仏様がいるのだ。
現在は兜率天で修業中の身だけど、釈迦牟尼の次にブツになることが約束されている「未来仏」。
なんと、釈迦の入滅後56億7千万年後にあらわれるとか!
っていうか、地球が誕生したのが46億年前、地球に原始生命が現れたのが40億年前と考えられているので、これまでの地球の歴史以上の長さののちにやってくるのだ。
100億年単位の話だよ!
その前に太陽の膨張によって地上に人類はいないような気がする・・・。

一応これには計算があって、弥勒菩薩が修業をされている兜率天での寿命は4千年。
兜率天での1日は地上の400年に当たるので、4,000兜率天年×400年/兜率天日×360兜率天日/兜率天年=576,000,000年となって、5億7千6百万年になるのだ。
ところが、途中で記載ミスがあって伝承されたのか、一桁上がって7と6が入れ替わり、56億7千万年になったらしい。
インド人はそういう細かいところは気にしないんだよ(笑)
気の遠くなるような永遠の時間の果てにやってくる、というイメージなんだろうなぁ。

もともと、古代インドの伝統的なコンセプトとして、輪廻転生(サンサーラ)というのがあって、今の人生を終えても次にまた別の生命として生まれ変わる、今の人生の前も別の生命として生を全うしていて、それが繰り返される、とされているのだ。
はじまりがどこかはよくわからないけど、前世と来世が今世とセットになっているわけだよね。
でも、どの世界にどんな生命で生まれて来ようとも、六道(天・修羅・人・地獄・餓鬼・畜生)はすべて苦しみのある世界であって、そこから抜け出すこと(=解脱)でのみ苦しみから解放される、ということになっているんだよね。
そのために修業する必要があって、抜け出せた人は悟りを開いた人(=仏陀)になるのわけ。
でも、実はこの輪廻転生の考え方って、おそらく「死」というものへの恐怖、漠然とした不安の裏返しなのだ。

生命活動の終わり=死であるならば、死んだらそこで終わり、その先は何もないわけ。
そもそも意識が途切れるので、死は無になることなのだ。
これが「怖い」わけで、死んだらそこでぷっつりと何もかもが切れてしまって、自分というものが無になる、これが受け入れがたい。
なんとか死んでから先も自分というものが保持できないか。
そんな思想から、生と死を繰り返すみたいなアイデアが出てきているはず。
であれば、このサイクルから抜け出すことは恐怖で、死を避け、生に執着すればするほどこの輪廻転生サイクルを意識してしまって、出ることはできないのだ。
だからこそ、その執着を捨て、すべて、すなわち、無になることを受け入れないと、解脱はできない、という考え方にもなるのだ。

で、いつかは抜け出したいんだけど、それはまだいまではない、みたいになるわけで。
救済が来ることが分かっているからこそ苦しみに耐えられる、でも、その過程で生も謳歌する、ということ。
そうなると、ゴールは設定するんだけど、それは意識の外にあるような遠くにある方が都合が良いわけで、こういう途方もない数字、現実的に想像できないような遠い未来に設定してしまうんだよね。
最終的にはそこで救われることが確定しているという安心感と、今すぐに無に帰するわけではないというもうひとつの安心感を同時に得たいわけなのだ。
こういう考え方をしてしまうことこそが煩悩の塊なのかもだけど。

釈迦を中心とした原始仏教集団ができる前からこの思想は古代インドにあったらしいので、相当古いというか、人間の根源的なところに根差している考え方かもしれないのだ。
でも、もう少し時代が変わっていると、もっと近くに救済があってほしい、と思う人々が増えてくるのだ。
それはきっと戦乱とか飢饉とか社会不安が大きくなって、現世の苦しみがより耐え難いものになってきて、すぐにでも救いが欲しい、ということなんだよね。
そうして出てくるのが浄土思想。
阿弥陀如来の主催する西方浄土に生まれ変わって、弥陀の導きで解脱したい、というもの。
これは末法思想が広まってからのことのようなので、やはり社会不安が増大している時期に出てきた考え方だと思うんだよね。

浄土思想では、弥勒仏の到来を待つことなく、ただひたすら阿弥陀仏にすがって、他力本願で極楽浄土を目指すのだ。
今世は何とか我慢するにしても、もう我慢できない、次は苦しみから逃れたいう、という切なる願いだよね。
しかも、ポイントは、自分でどうこうできるレベルを越えているので、ひたすら弥陀の力にすがる、ということなのだ。
そこまで追い詰められていて、ただただ救われたいと願うのみ、もうほかにしようがない、というくらい。
その最たるものが「補陀落渡海」で、南方にある浄土、「補陀落」に行くため、南方に臨む海岸から死出の船旅に出るのだ・・・。
今の人生を生き切って弥陀に巣くってもらうのも待ちきれない、ということなんだよね。

さて、令和の今も社会には大きな不安があるよね。
特に今年になってすぐにいろんなことが起きているのだ。
こういう時代に心の安寧を保つためにはどうするのがよいのか。
気長に待つか、ちょっとがまんするか、もうがまんできないとすぐに逃げ出すか、考えどころだよね。

2024/01/27

朝の定番も脂がのってきた

 日本の朝ごはんの定番と言えば、塩鮭、納豆、海苔、生卵なんかだよね。
さすがにこの御時世にこれらをフルセットで食べている家庭は少ないけど、外食の朝食セットでは良く見る顔合わせ。
ちょっとした旅館の朝ごはんはこんな感じで、少し豪華になると、朝から鍋とか出てくるんだよね(笑)
でもでも、世代的に、朝食べる魚と言えば、塩鮭がまず思い浮かぶのだ。
でも、おそらくボクが子供のころに食べていた塩鮭と、現在スーパーで普通に売られている塩鮭は異なるものなのだ。
なにより、塩分量が違う!

むかしの塩鮭はとにかくしょっぱかったよね。
身もぎっしりとしまっていて、脂もあんまりのっていないイメージ。
その塩辛い鮭で白ごはんをいっぱい食べるのだ。
お茶漬けなんかにも合うんだよね。
っていうか、戦前までの日本式の食事は、とにかく塩辛いおかずで大量の白飯・米を食べるんだよね。
佃煮でも漬物でも、今よりはるかにしょっぱかった記憶があるのだ。
最近は健康志向で減塩が流行っているし、そもそも糖質を取りすぎないようにとか言って白飯・米を食べる量が減っていて、塩味が薄れているのだ。

でも、鮭の場合はそれだけではないのだ。
っていうか、モノが違うのだ。
むかしの塩鮭は、天然物の白鮭。
産卵期に川に遡上してきたもの、或いは、川に遡上しようと河口付近に来たものを獲って塩漬けにしたものが塩鮭だったのだ。
わかりやすいのはお正月の新巻鮭。
もともと保存性を高めるために内臓をとってそこに塩を詰め込んでいるんだけど、脂がのりすぎていると腐敗しやすくなるので、冷たいオホーツク海を回遊している脂がのっている状態よりは、川の手前まで来るくらいで適度に脂が落ちている方がよかったのだ。
そもそも、かつては脂がのりすぎていない方が好まれていたしね。

しかし、ここで転換期が訪れるのだ。
それは、養殖鮭の登場。
一般に養殖鮭は銀鮭が多いけど、これは本来は千島列島以北のカムチャッカやアラスカの川で生まれた鮭。
成長が早く、脂ものりやすいのが特徴で、塩鮭にしてもよいけど、完全養殖の場合は寄生虫フリーなので生食できるのだ。
つまり、刺身や半生の状態でも食べられるというわけ。
もともとサーモンの生食はタイヘイヨウサケを養殖したノルウェーサーモンから始まっているけど、国産では、養殖の銀鮭が食べられるようになってきていて、国債のサーモン刺身と言ったらこれだよ。
それまでは、アイヌ伝統のルイベのようにいったん冷凍して寄生虫を殺してからじゃないとだめだったのだ。

養殖物の銀鮭の場合、その特徴はとにかく脂がのっていること。
養殖マグロは全身がトロと言われるけど、基本的に、いけすの中であまり運動せずとも十分な餌が与えられるので、肥満状態になるのだ。
で、その身は、刺身やスモークサーモンに向いているんだよね。
焼く場合も、そのままソテーなんかにするのは脂がのっている方がおいしいのだ。
でも、塩鮭の場合は、あんまり脂がのっていると向いていないんだよね・・・。
ところが、塩鮭に塩をきかせなくなったので、今度はこういう脂がのったものを甘塩でふっくら焼く焼鮭が増えてきたんだよね。
牛丼チェーンの朝食メニューに出てくるようなやつ。

なので、スーパーで売っている甘塩の塩鮭はたいてい銀鮭。
ソテーやフライ用の大ぶりの切り身はアラスカ産のキングサーモン(マスノスケ)。
高齢者向け(?)に売られている、塩味がきつい、昔ながらの塩鮭は白鮭なのだ。
そういう目で巣商品をきちんと見てみると面白いよ。
鮭も適材適所で別種が選ばれているのだ。

個人的には、健康には悪いと言いながらも、塩鮭は塩がきいている、ちょっと固いくらいの鮭がいいんだよなぁ。
脂がのっている鮭はときどき生臭いやつがあって苦手なのもあるけど。
これはもう別物なので、きちんと選びましょうってことだね。
ただし、なかなか塩がきいた塩鮭は見なくなってきているけど。
売れないんだろうなぁ。

2024/01/20

食い止める

 東京も冬になってかなり乾燥してきた。
この時期は火事が怖いよねぇ。
特に、東京の下町は木造建築が密集しているから、被害が拡大しやすいんだよね。
うちの近所もそうなので、街全体で気を付けないといけないのだ。
で、江戸時代なんかはもっと状況がよくなかったわけで、しょっちゅう大火事が発生して、広範囲に被害があったようなのだ。
特に、歴史上最大規模の被害をもたらしたともいわれる、明暦の大火(振袖火事)は、本号で火事が起こって江戸市中に延焼し、ついには江戸城の店主まで燃えたんだよね・・・。
それだけ江戸という年は火事が燃え広がりやすいところだったのだ。

この明暦の大火の教訓を生かし、江戸では防災対策が進むのだ。
ひとつは、隅田川の架橋。
都市防衛上の理由で、もともと隅田川には千住大橋しかかかっていなかったんだよね。
でも、火で追れながらも隅田川を渡れずに亡くなった人が多く出たので、綱吉公の生母の桂昌院殿の進言もあり、隅田川に橋がかけられることとなったのだ。
それが両国橋(当時の名称は「大橋」)。
その後、その少し下流に新大橋、さらに下流に行って永代橋、最後は浅草の吾妻橋と江戸時代中に5つの橋がかけられることになったんだ。
永代橋は花火の見物客が多く載りすぎて落ちて大惨事になることもあったけど、江戸市中で火事があっても本所・深川の方に逃げられるようになったわけ。

江戸初期は隅田川を渡った先は下総だったけど、こうして橋がかけられ、人口の増えた江戸市中の新市街として本所・深川が都市開発されていくと、町奉行支配の「御府内」に組み入れられたんだよね。
いわゆる江戸市中である「御府内」は今の23区よりもう少しせまくて、東側は山手通りくらいまで。
つまり、中山道の板橋宿、甲州街道の内藤新宿、東海道の品川宿の手前までで、これら歓楽街を含めて「大江戸」になるのだ。
本郷や目黒がだいたい境界だよ。
なので、王子の飛鳥山は江戸をちょっとだけ出た行楽地になるのだ。
西側は明治通りくらいまでで、水戸街道の千住宿や行楽地だった亀戸からは江戸じゃない、という感覚。
かつては浅草は江戸の端だったので、明暦の大火後、日本橋付近にあった遊郭が移され、江戸随一の歓楽街になったのだ。
江戸の刑場があった南千住(小塚原)や品川(鈴ヶ森)はさらに端っこということだね。

で、旧江戸市中が手狭になったのは、人口問題だけではないんだよね。
都市計画の問題で、町家で起こった火事で江戸城が燃えるなんてのは問題外な分けで、延焼が広がらないように、「火除地」というのを設けたのだ。
わかりやすい例で言えば、ドミノを並べているときにわざと3~4個抜いておいてどっか倒れても全体が倒れないようにするのと同じ。
そこに空き地があれば燃えるものがないので火事がその先まで広がらない、ということ。
そのため、江戸城の内堀と外堀の間の町家は再整理され、一部は新田開発が進んでいた東部に移住させられるのだ。
それが見たカヤ吉祥寺、小金井の当たりの村。
吉祥寺はもともと本郷のお寺で、その門前町が移動した先が今の吉祥寺。
神田連雀町(今の須田町・淡路町あたり)の人が明暦の大火で焼け出されて移住した先が三鷹市の下連雀のあたりだよ。

さらに、江戸城の外側の大きな街区や隅田川の橋のまわりも火除地にされたんだ。
それが「広小路」と呼ばれるもので、銀座線の上野広小路駅に名前が残っているよね。
上野広小路(下谷広小路)には露天商なんかが多数出店していてにぎやかだったようなのだ。
建屋は垂れられないけど、原状復帰可能な仮設店舗はOKなので、そういう店が並んだみたい。
両国橋の周りも広小路になっていてこっちも大盛況だったらしいよ。
こっちは見世物小屋とかもあったとか。
もう一つは吾妻橋のたもとの浅草広小路。
北側は歓楽街の新吉原、南側は浅草寺の門前町として栄えていて、そこにさらに広小路があったというわけ。

明暦の大火以降は、火消も整備されていって、江戸中期の享保年間には、吉宗公が町火消を置くようにしたのだ。
暴れん坊将軍でもよく「め組」に新さんが出入りしているよね。
江戸の火消は、基本的には「破壊消防」で、それ以上火事が広がらないように、燃えるもの=建物を壊して火を食い止めるのだ。
火消のシンボルの纏は、ここまで壊せ、という目印だよ。
けっきょく、高圧放水のできるポンプ車があるわけでもなく、化学消化もできないから、延焼を食い止めるのが一番大事だったのだ。
なので、まずは火除地でもともと都市設計上隙間を開けておいて、さらに、実際に火事が起こったら火元付近の周りの建物を破壊して延焼を食い止める、ということだったんだよ。
乱暴な気はするけど、それでも、火事が無限に広がるよりはましなのだ。
実は、今でも森林火災なんかの場合は火を消しようがないので、周辺の気を伐採して燃え広がらないようにしつつ、あとは自然に消えるのを待つ、なんて感じなんだよね。

2024/01/13

無敵理論

 今回の能登半島の大地震で、やはりというか、あーあというか、SNSで「人工地震だ」という陰謀説が出回っているようなのだ。
トランプ氏が大統領に返り咲かない限りはDS(ディープステート)によってこういう人工的な災害が世界中で起こされるらしい。
きっと、フリーメーソンとイルミナティも関与していて、ロスチャイルド家がお金を出しているはずなのだ!
SNSが発達してからはよくこういう発言を見かけるようになったよね。
もとからいた人が「見える化」されただけなのか、SNSにより拡大再生産されているのか・・・。
けっこう本気っぽい感じなのでそこが怖い。

この手の陰謀論は社会が不安になってくると活発になってくるらしいんだよね。
陰謀論の特徴の一つは、いろんな不幸なこと、都合の悪いこと、いやなことの原因をすべて外に求めることができること。
そりゃそうだみたいな自業自得なものについても、「実は・・・」とできてしまうのだ。
そして、これに真っ向から反論しても無駄なんだよね。
これこれこういう証拠、事情があるのでそれは違う、と言ってみたところで、それも含めて工作されていて、世の人々は洗脳されている、真実を知っているのは自分だけ、と聞く耳を持たないのだ。
まさに「信じたいものを信じる」スタイル。
でも、そこまで巧妙う王策しているのにSNSとかで情報が駄々洩れのように流れてくるのか、というところには思い至らないのもミソ。
おそらく、「自分だけが真実を知っている」という優越感もくすぐっているからだと思われる。

もともと、人間は「よくわからないこと」っていうものにたいして漠然と不安を持つんだよね。
なので、間違っていてもいいから、何か理屈をつけて納得したがるのだ。
そうやってできてきたのが世界創生神話だったり、神話による物事の起源の説明や現象の理解なんだよね。
特に自然災害のような現代においても人の力ではどうしようもないようなものは「神の御業」で、祈念するしかないわけで、盛大にお祭りをしたり、人身御供をしたりとかしてきたわけ。
それが、現代は陰謀論にすり替わってきているんだよね・・・。

欧州では、古代ギリシアの大哲人たちは現代の科学から見れば間違っているかもしれないけど、理論構築をして世界を一定の法則の中で理解しようと努力していたんだよね。
それが古代ローマでキリスト教が国教化され、世界を理解する軸が聖書に移ったキリスト教世界になると一変するのだ。
すべては聖書に書いてあるとおりと。
イスラム教はもっと厳格にコーランを神聖視しているよね。
で、近代への移行の過程で、ガリレオ・ガリレイやコペルニクスは教会から、社会からたたかれるという憂き目にあうわけだ。
そうは言いながらも、すべてを聖書にゆだねるだけではもうにっちもさっちもいかなくなって、聖書というものが徐々に相対化され、科学という新しい視点で世界を見るようになって近代になるのだ。

それでも、やっぱり聖書が大事と思う勢力もいるわけで、それが米国なんかにはわりと多い、進化論の否定者。
現在ではID(インテリジェント・デザイン)理論という隠れ蓑も用意していたりするけど、この世界は神(或いは人街の領域の極めて知的な存在)により完璧に創造・調整されている、と信じているようなのだ。
そういうように神を信じる、宗教に根差す、というとそうなるんだけど、宗教が相対化されていった結果、宗教以外の軸で同じような考え方を持つ人たちが出てくるんだよね。
人類は宇宙人がクローン技術で想像した、神や天使は古代人類が宇宙人を表現したものだ、みたいな主張もあるよね。
その中で、世の中のよくわからないこと、理解できないことの裏側には、この世界を動かしている団体・組織があって、その意向ですべて動かされている、みたいなのもあるわけ。

世界はロスチャイルド家の財力により支配されているとか、米国政府はフリーメーソンの傀儡だとかそういうやつ。
で、そういう超越団体の中には、世の中の悪いことを一手に引き受けるような、ショッカー的な存在もいるようで、それがイルミナティだったり、DSたったりするみたい。
ま、そういう悪の組織が悪事をたくらんだ結果悪いことが起きている、と単純に考えた方が理不尽さがなくなるのは確かなんだけど、これってただの思考停止ではあるんだよね。
上でみたように、無敵理論で反証可能性もないし。
で、世の中は不安定になってくると、自分のせいではない、或いは、自分のせいとは考えたくないようないやなこと、不都合なことが増えてきて、それを悪の組織に責任転嫁していくのだ。
それでいったんは心の不安は取り除かれるかもしれないけど、それはアルコールで不安を一時忘れるようなもので、よくないんだよなぁ。
全く解決にはつながらないからね。

2024/01/06

一般人でも歯は大事

 お正月の和菓子に「花びら餅」というのがあるのだ。
紅色の菱餅(またはそれに代わるもの、求肥など)と味噌餡、蜜煮にしたゴボウを白くて柔らかい餅で包んだお菓子。
しおりお持ちに赤い色が透けるんだよね。
裏千家で明治以降に「初釜」で出されるようになって広まったのだとか。
そこまで古い伝統ではないけど、お正月になるとたいていどの和菓子屋さんでも見かけるよね。
日本人はこういう伝統食みたいなの好きだから。まだコンビニには目をつけられていないけど。

その起源をさかのぼると、平安時代に行われていた「歯固めの儀」という宮中行事らしいんだ。
おそらく大陸からの輸入ものなんだろうけど、正月三が日に固いものを食べ、長寿を願い儀式だとか。
年齢の「齢」の字に表れているように「歯」は年齢を表すものと考えられていて、それを固いものを食べて丈夫にする=長生きする、というコンセプトらしい。
確かに、動物の中には歯で年齢を推定する場合もあるよね(哺乳類全般で使える方法みたい。)。
冬にはエナメル質の形成が進まなくなるので、木の年輪のように歯のエナメル質の層の数を数えると何回冬を越したかがわかるらしい。

近代化されるまでは、虫歯はけっこう致命的な病で、それこそ抜くしか治療法しかないんだよね。
なので、歯を大事にすることは健康上重要だったのだ。
特に、むかしは固いものを多く食べていて、歯の摩耗も激しかっただろうし、歯を丈夫にして健康を願うのは一定の理屈があるのだ。
江戸時代になると、木で作った入れ歯やら、ふさ楊枝と言われる歯みがきも存在していてシカ領域の技術はけっこう発展していたと思うけど、さすがに平安時代はね・・・。
塩で歯を磨いたり、幼児みたいな細い棒で歯の隙間に詰まった食べかすをとるくらいはしたかもしれないけど。

で、この「歯固め」の行事では、固くなった餅(菱餅)や押鮎(鮎を塩漬けにした後に重しを載せて固く乾燥させたもの)、搗栗(栗を干してから臼で軽く搗き、殻と渋皮を除いたもの)、鹿肉・猪肉(干し肉)、大根(おそらく干し大根?)などを膳に乗せて食べたんだそうだよ。
時代が下って江戸時代になると、薄く伸ばした白い餅の上に赤い菱餅を載せ、さらにその上に押鮎を載せたものが出されていたとか。
実は、それをかたどったのが今の花びら餅で、ちょうど折りたたんだ形になっているのだ。
ゴボウは押鮎の代わりみたい。
この和菓子が公家に配られるようになり、さらにはそれが民間のお茶にも使われるようになった、ということのようなのだ。

では、なぜ「歯固め」で長寿を願うのは正月なのか。
これは「数え年」では元日を迎えるために一歳増える数え方だったから。
日本で実年齢を普通に使い始めたのは明治期に西暦を採用して以降で、それまでは基本は数え年。
生まれた時点で1歳で、以降はお正月のたびに歳を重ねるのだ。
だからこそ、お正月には「あけましておめでとう」なんだよね。
そういう年を重ねるタイミングだからこそ、長寿を願うのは自然なことなのだ。

ちなみに、現代で「歯固め」というと新生児の「百日祝い」の「お食い初め」にその残滓が残っているのだ。
「お食い初め」自体は、一生くいっぱぐれないように、と一汁三菜の膳を用意するんだけど、そのときに「歯固め」もするのだ。
神社からいただいてきた「歯固め石」をかませるのが一般的なようだけど、地域によっては大根や栗をかませるようで、これは宮中行事の名残だよね。
赤ちゃんの健やかなる成長を祝い、歯が丈夫になるように、という願いを込めているわけで、考え方は同じなのだ。
コンセプト自体はこうして残って、宮中での形式は和菓子の形で残されているというのがなかなか興味深いね。