2018/11/24

ブランドを守る

フランスのレストランに行くと、ワインやチーズのところに「AOC」というのが書いてあることがあるんだよね。
これは「原産地呼称統制(Appellation d'Origine Contrôlée)」と呼ばれるもので、その産地で生産された「正規」のものであることを保証するもの。
フランスでは法律によって規制がされていて、こういう地域ブランドが守られているのだ。
フランスではむかしから地域ごとのワインやチーズに特色があって、それぞれがもてはやされてきたんだけど、そうなると当然「偽物」が出てくるわけで、これを排除するために、特定の地域で特定の製法によって作られたものだけが正規のブランド名を名乗れるようになっているんだ。
一番有名なのはシャンパンだよね。
シャンパーニュ地方以外のものはスパークリングワインと呼ばなければいけないのだ。

フランスではロックフォール・チーズのブランドを保護するために、早くも15世紀には原産地呼称制限が議会の布告で定められていたとか。
そうした制度が近代になって法規制となったんだって。
ちなみに、AOC第一号もロックフォール・チーズ。
最初がチーズで、その次がワイン、そしてバターなどにも拡大されていったのだ。
ワインの中でも高級で有名なロマネ・コンティなんかは、特定の畑で栽培されたブドウを使っていないと名乗れないんだよ!
それが法律で守られているところがすごい。

同じような制度は欧州の他の国にもあって、EU全体でも「保護原産地呼称」という制度になっているのだ。
フランスのようにすでに独自の制度を持っている国はその制度を使えば良いのだけど、ない国はこの制度に基づいて地域ブランドの保護を行っているよ。
チーズ、ワインほかの農産物・食品が規定されているみたいだよ。
旅行で行った場合なんかは、そのロゴマークが入っているかどうかを見た方がよいのだ。

でも、日本ではこういった地域ブランドを法律で保護する仕組みはないんだよね。
農産物・食品について一定の品質を確保するための枠組として「日本農林規格」というのがあるけど、これはそうめんの太さとかそういう世界なんだよね。
播州手延べそうめんとか半田そうめんとか三輪そうめんとか、そういう地域ブランドの名称使用の制限はしていないのだ。

でも、地域ブランドを守る仕組みとしては、商標法に定められた地域団体商標というのはあって、これだと、農協や商工会、商工会議所等の団体が地域名と商品名を組み合わせた商標を登録できる制度があるのだ。
例えば「草加せんべい」、「比内地鶏」、「江戸切り子」など。
商標なので独占的な使用ができるよ。

さらに、事業者団体が公取に協議して定める自主的なルールとして、公正競争規約というのもあるのだ。
「和牛」の例なんかが有名だけど、コーヒーやチョコレート菓子でもよく見かけるよ。
例えば、缶コーヒーに表示されている「コーヒー」、「コーヒー飲料」、「乳飲料」の区別、チョコレート菓子の「チョコレート」と「準チョコレート菓子」の区別はこの自主ルールに基づくものなのだ。
このほか、乳製品だと乳等省令という食品衛生法に基づく厚生労働省令もあるんだよ。

網羅的な法律ではないけど、日本でもそれなりの制度はあるんだね。
ただ、いろいろとありすぎてわかりづらいなぁ。
これは生産者の側から見るとどの枠組を使ったらいいのかわからないかもね。

2018/11/17

今年のできばえは?

ボジョレー・ヌーヴォーが解禁されたのだ。
日本にいたころは、それこそすっごく盛り上がっていたし、スーパーやコンビニも含めて街中ボジョレー一色になるのでわかりやすかったけど、フランスではそんなに盛り上がらないんだよね。
スーパーなんかに売ってはいるけど。
ちなみに、毎年11月の第3木曜日が解禁日なんだって。

ボジョレー・ヌーヴォーは、ブルゴーニュワインの一種。
でも、普通のワインとは異なり、ブドウの収穫後すぐに急速醸造され(数週間でできあがり!)、その年のうちに出荷されるというものなのだ。
もともとは、その年のブドウのできを判断するために試飲用として作られたものが広がったもの、なんて言われているよ。
ブドウは日照時間や気温によって年ごとにかなりできにばらつきがあるので、さっとワインにしてみて確かめてみよう、ということみたい。
今年は当たり年でワインのできが良い、なんていうのがワインの出荷前から目星がつけられるのだ。

このため、当初はワイン業者向けの商品だったそうだよ。
ところが、初物が特定の時期に解禁される、っていう点に目をつけた日本の流通業界が日本でブームを巻き起こしたのだ。
もともと初鰹などの初物が大好き、バレンタインデーなどの特定の日の食べ物がらみのイベントが大好きな日本ではこれが大当たり!
かなり広く浸透したよね。
今では恵方巻きやら七夕そうめんやらいろいろあるけど、そういうのの走りでもあるね。
で、それを見て、フランスでも一般消費者向けに売られるようになったんだけど、もともとおいしいワインが好きなフランス人からしたら、急速醸造の若いワインであるボジョレー・ヌーヴォーにはそんなに興味がないようなのだ・・・。
売ってはいるから一定の需要はあるんだろうけど。

このボジョレー・ヌーヴォーに使われるブドウはガメ種というもの。
よく聞くのはピノ・ノワールだとかカルベネ・ソーヴィニヨン、シャルドネだけど、それらに比べて大粒なのが特徴。
ボジョレー地方以外ではワインに使われることはまれのようなのだ。
ワインにすると、色調は明るめで、タンニンが少なめ、酸味が強いので、さわやかな飲み口の良いものになるみたい。
ワインが好きな人は重めの深みのあるのが好きとかいうけど、いわゆるライト・ユーザー層には飲みやすくてよいのかも。
それが日本で成功したひとつの要因かもね。

当初は解禁日の設定はなかったようなんだけど、各ワイナリーが競って素早く仕上げて売ろうと競争した結果、きちんと醸造できていないような粗悪品まで出回るようになったので、解禁日が定められたそうだよ。
そうなると、ワイン業者向けとは言え、それなりに人気の商品ではあったんだね。
ま、ブドウのできを確かめる目的なら、ちゃんとワインになっていないと困るわけで、正しい判断ではあるね。
それが日本人の心をつかむとは思わなかっただろうけど(笑)
ちなみに、一般的なワインとは醸造方が違っていて、出荷時のタイミングでもうそれ以上熟成しないものとなっているので、セラーに寝かせても無駄なのだ。
原則としては年内に飲みきるもの。
なので、ヴィンテージなんてものも存在しないよ。
これは一期一会の精神だね。

そして、この解禁の時期になるとやはり話題になるのがキャッチコピー。
日本ではたいてい「最高の出来!」みたいなのが毎年踊るのだ。
100年に一度のでき、だとか、ここ10年で最高、だとか。
それだけ見ていると毎年右肩上がりにおいしくなっていりょうに錯覚するほど。
でも、そんなことあり得ないよね。
フランスの地元の評価というのもあって、そちらではもう少し謙虚な表現になっているのだとか。
ま、ワイン業者を主なターゲットにしている人の評価と、一般消費者向けのキャッチコピーじゃ違いがあって当然なんだけどね。
ちなみに、今年の地元の評価は「複雑かつなめらかで味わい深い。心地よい渋みもある」というものらしいんだけど、どうも2018年はブドウのできはよいらしく、全体的に2018年のワインはヴィンテージになる可能性が高い、と考えられているようだよ。
ということは、「乗るしかない、このビッグウェーブに」ってことかな?

2018/11/10

前は寒気、後は痛み

体調を崩してカゼっぽくなったのだ(>_<)
いやあ、突然来たからびっくりした!
いきなりおなかが痛くなって、その後に寒気・・・。
これは熱が出るかなぁ、と思っていたら、ちょっと微熱っぽくて(図らなかったからよくわからないけど)、その後全身のだるさと筋肉痛。
完全にカゼの症状だぜ。
ちょっとこらえきれなかったので、薬局で非ステロイド性消炎鎮痛剤のイブプロフェンを買って飲んだのだ(フランスだと単剤で打っているからね。)。
そうしたら、効果覿面、その症状はすっとおさまったよ。

このカゼの時の寒気や筋肉の痛みの主な原因は自分の防御反応なんだよね。
ウイルス性にせよ、細菌性にせよ、多くの感染症の場合、免疫機能を高めるために発熱という選択肢がとられるのだ。
実際、平熱の36~37度よりも、高熱の38~40度くらいの方が免疫反応は活発になるので、それだけウイルスや細菌を駆逐できるのだ!
でも、たまに熱が上がりすぎて42度を越えると危険なんだよね。
というのも、それ以上の熱だとタンパク質が変性してしまうので、体自身が壊れてしまうのだ(>_<)
なので、寝て休んでいられる場合は、40度未満の熱ならそのまま寝て過ごした方が治りが早くて、40度を越えるようだとまずいので、その時点で解熱するのがいいと言われているよ。
でも、実際には休めないから、熱でつらいと薬で下げたくなるよね。

この発熱に一役買っている生体内物質がプロスタグランジンというもの。
細胞膜の中にあるアラキドン酸という脂から作られるんだよ。
プロスタグランジンを作る酵素がシクロオキシゲナーゼと呼ばれるもので、この酵素の活性を阻害するのが非ステロイド性消炎解熱鎮痛剤(NSAIDS)と言われる一群の薬。
有名なところだと、よく総合感冒薬に入っているアセトアミノフェン、ボクの服用したイブプロフェン、頭痛薬によく使われるエテンザミド、筋肉痛の薬としてメジャーなインドメタシンなどなどだよ。
そして、最も有名なのは、アスピリン。
もともとアスピリンは商品名で、化合物名ではアセチルサリチル酸というんだけど、第一世界大戦でドイツが負けて、バイエルが持っていたアスピリンの証票が取り上げられたので、それが一般名称にもなっているのだ!

このプロスタグランジンにはいろんな種類があって、それそれいろんな作用があるんだ。
血管拡張、血圧低下、血小板凝集、発熱、胃粘膜保護などなど。
で、選択的な薬もあるんだけど、多くの場合はいろいろな作用に影響を及ぼしてしまうのだ。
その結果、NSAIDSの有名な副作用として、胃腸へのダメージというのがあるんだよね。
なので、空腹時には飲まないで下さい、必ず食後に、と書いてあるんだよ。
胃粘膜保護作用が弱まるので、どうしても胃腸にダメージが行くのだ。

ちなみに、風邪を引いたときなんかに起こる炎症反応に関与しているのは、シクロオキシゲナーゼでも2型と言われる方で、炎症が起こると増えてくる誘導型の酵素。
マッチポンプで炎症反応をまさに「炎上」させるんだよ。
一方、胃粘膜保護作用を司っているのは1型。
こちらは通常の体のメンテナンスの機能を担っているので、炎症を抑えようと1型にも2型にも作用する薬を使うと、そっちに影響が出るというわけなのだ。
これはたいていの薬で似たり寄ったりがあることで、それが副作用の根本原因なんだよね。

発熱に関与していると言われているのはプロスタグランジンの中でもE2と言われるもの。
全身の筋肉に作用し、筋肉を細かく収縮させることで発熱させるんだ。
この前段階で多くの場合「寒気」を感じているよ。
寒気を感じるとぶるっと震えるのは筋肉を動かして発熱するため。
鳥肌は立毛筋という筋肉が収縮して起こるけど、これも同じ。
人間が発熱する際には筋肉を動かすのだ。

そうすると、これがだるさや痛みの原因にもなるんだよね。
しかも、プロスタグランジンE2の主な作用の一つに、痛覚の伝達を増強する、というありがたくないものがあるのだ!
痛みそのものの原因ではないんだけど、少しでも痛みがあるとそれを増強してしまうわけ。
なので、余計に痛みを感じるんだよ。
歯痛や頭痛にNSAIDSが使われるのはこの作用を弱めるためで、痛みという感覚自体を取り除いている麻薬性鎮痛剤や麻酔とは異なるメカニズムなのだ(麻薬や麻酔の場合は痛覚自体を遮断しているよ。)。

なので、カゼなどで発熱していて体がだるかったり、痛かったりするとき、NSAIDSは非常に良くきくのだ。
特に、高熱が出るインフルエンザの時にはそのありがたみがわかるよ。
最近はウイルス自体を撃退する抗ウイルス剤(いわゆる「タミフル」など)が使われることが多いけどね。
でも、対症療法として解熱や鎮痛が必要な時にはNSAIDSは非常に有効なのだ。
抗ウイルス剤はウイルスの増殖を阻害する薬なのですぐには効果が出ないんだよね。

というわけで、NSADISはけっこういろんな副作用がある薬なんだけど、解熱や痛みの緩和という点では重要な薬なのだ。
日本では単剤で打っていることはまずなくて、総合感冒薬や頭痛薬などなどの形で他の薬剤(副作用を軽減するためのものや他の症状に対応したもの)と混ぜられた形で市販されていることが多いよ。
本当は余計なものが混ざっていない方が使いやすいんだけどね。

2018/11/03

似ているようで違う

フランス語ではレモンは「citron(シトロン)」なんだけど、よくよく見ると、「citoron vert)」であることがあるんだよね。
「vert」は「緑の」という形容詞で、そのままだと「緑のレモン」ってことなんだけど、これは「ライム」を指しているのだ。
日本にいたときはライムとレモンをあんまり比べて考えることはなかったけど、確かにいろ意外は似ているような・・・。
というわけで、ライムとレモンの違いを調べてみたのだ。

実はどちらもインド近辺を原産とする柑橘類でミカン科ミカン属。
レモンはヒマラヤ東部原産で、ライムはインドからミャンマー、マレーシアにかけての熱帯地域の原産だって。
ちなみに、レモンの近縁種で原酒とも言われるシトロン(クエン、クエン酸の「クエン」だよ。)はインド東部のガンジス川上流部の高地。
どれも酸味の強い果汁が特徴なのだ。
古代インドに酸っぱい柑橘類が自生していたってことだね。

レモンやシトロンは早くも紀元前の時代に古代ローマや古代中国に伝来していたんだ。
イタリアではシチリアレモンが有名だけど、地中海地域での栽培が始まったのも相当古い時代みたい。
ライムはいつの時代かはっきりしないけど、アラビア人により西洋世界に持ち込まれたんだって。
どれも寒さに弱いので、比較的あたたかい地域で育てられるようになったみたい。

レモンやライムが世界的に広まるのは大航海時代。
ビタミンC不足による壊血病を予防するため、レモンは重要な果実だったのだ。
で、同じように酸味の強いライムも採用だれたんだけど・・・。
なんと、ライムはレモン以上にビタミンC含有量が低く(半分くらい)、壊血病予防にはあまり役に立たなかったのだ!
英海軍はライムジュースを予防用に正式採用していたんだけどね(>_<)
でも、このおかげでレモンやライムは新大陸にも伝わり、栽培されるように。
大航海時代にそのままでは酸っぱい果汁をおいしく飲むために、お酒に混ぜられることが多かったみたいなんだけど、その名残が各種のレモンジュースやライムジュースを使ったカクテルだよ。

ちなみに、ライムもレモンもその酸味はクエン酸によるもの。
よく酸っぱい=ビタミンC含有と誤解されるけど、違うのだ。
ビタミンCだけならイチゴとかの方が含有量が多いよ。
でも、柑橘類は果物の状態でもわりと日持ちがするし、果汁を搾ってジュースがたくさんとれるしで、大航海時代に携行するには非常に便利だったのだ。
キャベツを発酵させたザワークラウトともに海の旅の必需品だったんだよ。

ライムも完熟すると果皮が黄色くなるようなんだけど、そうなると酸味がなくなってしまうんだって。
そのため、青いうちに収穫するのだ。
レモンも最初は青いんだけど、黄色くなっても酸味が残るし、その方が香りが強いので、黄色くなってから収穫するんだ。
ボクは最初「シトロン・ヴェール」は青いうちに収穫したレモンかと思って思っていたんだけど、そんなわけじゃないんだよ。

ライムには大きく分けて二種類あって、タヒチライム、ペルシアライムと呼ばれる大きめのもの(それでもレモンよりは小さい)と、より小ぶりのメキシカンライム、キーライムと呼ばれるものがあるのだ。
キーライムってよくお菓子のフレーバーなんかにあるやつだよね。
日本に輸入されている多くはタヒチライムだそうで、キーライムはあまり見かけないみたい。
キーライムは酸味が強く種があるんだけど、タヒチライムは酸味がまろやかで種がないそうなので、日本にとってはそっちの方が使いやすいのかもね。