2015/10/31

基礎工事偽装はノーベル賞級の研究に影響を与えるか?

10年くらい前に、構造計算書のねつ造で「姉歯事件」というのがあったけど、それと同じくらいのインパクトのある建築偽装事件が起きているのだ!
そう、横浜のマンション傾斜事件。
基礎工事で固い岩盤まで打ち込まないといけない杭がそこまで届いていないことなどが着目されていて、文章マンションの売買にも大きく影響を与えているみたいだね。
で、この事件を起こした現場管理責任者の人が関わった工事が全国で41件あると言われているんだけど、そのうちのひとつが茨城県東海村にある「大強度陽子加速器(J-PARC)」のニュートリノ実験施設であることがわかったようなのだ。
そう、東大宇宙線研の梶田先生のノーベル賞受賞の時に少し話題になった、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の施設だよ。

この施設では、J-PARCのメインリング(陽子に磁場と電場をかけて回しながら加速しているトンネル)から陽子線を分岐させ、グラファイト(炭素)の標的に当てることでニュートリノビームを作っているのだ。
炭素に高速・高エネルギーの陽子が衝突すると、そこでパイ中間子が生まれるんだよね。
これは湯川秀樹博士がノーベル賞を受賞した中間子理論で予言されていたもので、電荷の有無で、π、π、πの3種類があるんだ。
πというのは電気的に中性(=電荷を持たない)なもので、πとπがそれぞれ粒子-反粒子の関係であるのに対して、πは自分自身が反粒子でもあるという変わり種。
でも、今回のニュートリノの実験には関係ないので、ここから先は無視(>o<)

「中間子」という名前は、できてもすぐに崩壊して別の粒子になってしまう性質から名付けられていて、荷電パイ中間子も26ナノ秒(約4千万分の1秒)で崩壊してしまうよ。
πは反ミュー粒子とミューニュートリノに崩壊し、πはミュー粒子と反ミューニュートリノに崩壊するのだ。
ここで出てくるミューニュートリノを岐阜県神岡鉱山跡にあるスーパーカミオカンデに発射し、そこでミューニュートリノが別の種類のニュートリノ(タウニュートリノ又は電子ニュートリノ)に変化する反応(ニュートリノ振動)を観測しているのが「T2K実験」。
「T」はJ-PARCのある「東海村」、「K」は「神岡」、「2」は「to」だよ。
もともと、つくばの「KEK」から神岡にニュートリノを打ち込む「K2K実験」というのがあって、それの後継計画が「T2K計画」なのだ。

標的に陽子が衝突したときに出てくるパイ中間子は前方向に散乱していくんだけど、電荷を持っているパイ中間子は磁場をかけると曲げられるので、集めてくることができるだ。
実際には、電磁ホーンと呼ばれる「角」型の電磁石でパイ中間子の流れを「しぼる」のだ。
パイ中間子がある程度まおまるので、そこから出てくるニュートリノもそれなりにまとまっているというわけ。
ニュートリノは電気的に中性で、ほとんど相互作用をしない素粒子なので、ニュートリノになってからはどうしようもないので、こういう工夫をしているのだ。
ちなみに、この電磁ホーンにかける磁場をスイッチすると、正の電荷を持つパイ中間子を集めたり、負の電荷を持つパイ中間子を集めたり、ということができるんだよね。
その結果、打ち出すニュートリノも、π由来のミューニュートリノと、π由来のミューニュートリノに切り替えができるんだ!
これまではニュートリノ振動を観測してきたけど、T2K実験では反ニュートリノでも同様の振動現象が起こるかどうかを確認することも目的としているんだよ。

でも、ここでまた少し問題があるんだよね・・・。
ミュー粒子・反ミュー粒子というのも非常に不安定な素粒子で、2.2マイクロ秒で崩壊してしまうのだ。
ミュー粒子は電子とミューニュートリノ、反電子ニュートリノに、反ミュー粒子は陽電子と反ミューニュートリノ、電子ニュートリノに。
で、この崩壊で余計なニュートリノが出てくると面倒なので、崩壊する前にトラップしてしまうのだ。
実際には、電磁ホーンでパイ中間子をしぼった後、ディケイ・ボリュームと呼ばれる空洞の中で崩壊が起こってミュー粒子とニュートリノができるのだけど、その終端にはハドロン吸収体という炭素製の壁があって、ニュートリノ以外の粒子を止めてしまうのだ!
これにより、ここから先はニュートリノだけが取り出されるわけ。
パイ中間子とミュー粒子の崩壊の時間スケールは100倍近いので、パイ中間子が崩壊してからミュー粒子が崩壊する前に止めてしまうことは十分に可能なのだ。

というようなことをやっているのがJ-PARCのニュートリノ実験施設で、この施設のうちのどこかの基礎工事に問題の人が関わっていたということのようなんだよね。
これまで安全上の問題や、実験場の支障がないようだけど、どうなんだろう?
でも、こういう施設って、一度動かすとなかなか止められないから、現場に行って問題があるかどうか確かめるっていうのも難しいような・・・。
そのために実験を止めるとまた実験再開までに時間とお金がかかるだろうしね。
日本の十八番のニュートリノ研究なので、変な影響が出ないことを祈るばかり。

2015/10/24

あのときの「未来」は来たか?

今年は、マイケル・J・フォックスさん主演の映画「Back to the Future Part2」の舞台となる2015年。
映画は1985年の設定で、第1作では30年前の1955年にタイムトリップし、第2作で逆に30年後の未来に行ったのだ。
しかも、その日付は10月21日!
まさに今週だったんだよね。
で、その映画の中に出てくる未来像がどこまで実現されているのかが話題になっているのだ。

空を飛ぶ自動車なんかは実現できていないけど、携帯型の大画面デバイスなんかはすでにタブレット端末として広まっているのだ。
ホバーボードや自動的に靴紐が締まる靴は技術的にはできつつあるんだけど、普及には至っていないから△くらい。
映画ではまだFAXが現役なんだけど、同時はパソコン通信がやっとくらいだったので、ここまで電子メールが普及するとは想像がつかなかったんだよね。
そんな中でボクが気になっているのは、タイムマシンでもある「デロリアン」の燃料。
第1作ではプルトニウムを使っているのでおそらく原子炉なんだけど、第2作になると改良が加えられていて、生ゴミをぽいぽいっと放り込むとそれが分子レベル・原子レベルで分解・再構成され、燃料になることになっているのだ。
さすがにここまでは実現できていないよね。

でもでも、ほぼ同時期に、自動車関連で大きな動きがあったのだ!
それは、トヨタのMIRAIがついに発売。
これまでも燃料電池車は作られてきたけど、MIRAIは世界で初めて量産・市販されるセダン型の年長電池車。
価格は700万円強で、そこまで高いとは思わないけど、すべて手作業で組み上げているので、現時点では1日に3台しか生産できないんだって・・・。
今後は夜も含めて24時間の生産体制を確立することを目指していて、6~9台にしたいそう。
2015年については、国内向け400台、米国向け200台でその他で年間700台を目指しているそうだよ。
プリウスが出たときも世界を震撼させたけど、それ以上のインパクトがありそうなのだ。
ちなみに、トヨタは水素を燃料とした燃料電池車を普及させるため、関連特許を無料公開までしているそう。

このMIRAIの燃料電池は固体高分子形燃料電池を採用していて、正負の電極の間に固体高分子の膜がはさまっている構造なのだ。
それがいくつも積層されて燃料電池を構成しているのだ。
しかも、耐圧強度と密閉度を強化して(700MPaなので、約700気圧に耐えるのだ。)、直接燃料となる水素を貯蔵できるタンクを搭載しているんだ。
これのおかげで水素ステーションから3分間水素を充填させれば、650km走行できるんだって(電気自動車だと充電時間がもっとかかるし、継続走行距離ももっと短いんだよね。)。
さらに、これまでプリウスで培ってきたハイブリッド技術も採用されているんだよ。
ブレーキのエネルギーも熱損失ではなく、再び電気として貯められるのだ。
水素を燃料として使うので、水しか排出しないというのも大きな特徴だよ。
まさに名前のとおりの未来の車の姿なんだよね。

でも、これが通過点にしか過ぎないのも事実。
まだまだ解決すべき点があるのだ。
まずは燃料となる水素。
水素ステーションが圧倒的に少ないんだよね・・・。
というのも、水素は最も小さな原子である水素原子が二つ結合して分子を結合している最小の分子なので、密閉度を高くしないとどんどん漏れていくのだ。
しかも、酸素と反応すると爆発的な反応をするんだよね。
その爆発力を水力として使っているのが、日本のH-IIAロケットや米国のスペースシャトルのメインエンジンのロケット推力だったんだけど、それだけの爆発力があるというわけ。
自動車のモーターとしては、その反応をマイルドに進め、爆発力としてではなく、電気としてエネルギーを取り出すようにしているわけ。
だけど、そういう危険な可燃物が街中に大型タンクで貯蔵されている必要があるわけで、社会的なインフラ整備が必要なのだ。
ガソリンや軽油なんかの既存の自動車燃料も可燃性ではあるし、爆発性はあるけど、タンクからしみ出しては来ないから、その点の扱いが大きく異なるのだ。

さらに、水素をどうやって作り出すかも問題。
今は天然ガスなどを原料にして水素を取り出しているけど、この方法だと水素を製造するのにかなりのエネルギーを要するんだよね。
このため、水素を燃料とする燃料電池車は、全体としてはエネルギー効率がよくはないのだ(>o<)
今後技術が進歩して、もっと容易な、エネルギーを消費しない方法で水素が取り出せれば、さらに水素燃料が普及するはずなのだ。
映画の世界では生ゴミから水素を取り出しているのかな?
炭水化物でもタンパク質でも、有機物はたいてい水素を含んでいるので、そこから取り出せればうれしいのだけど。

また、価格が安くなったとはいえ、大衆車レベルとは言えないよね。
これは、燃料電池と水素タンクがどうしても高価になうrからなんだよね。
燃料電池については、触媒として白金などの貴金属が使われるので、どうしても価格を押し上げる原因となるのだ。
もっと安価な金属で代替できないか研究は進められているけど、実用化まではほど遠いんだよね。
水素タンクについても、量産できるレベルまではこぎ着けてはいるものの、どうしても水素を高圧で封入しなければならないという要件があるので、まだまだ技術革新が必要なんだ。
MIRAIの発売はここが許容レベルまでクリアされたところが大きいんだよ。

というわけで、映画の世界ほどではないけど、自動車の世界はものすごく進歩しているんだよ。
プリウスも最初に出てきたときはここまで普及するとは思わなかったけど、MIRAIもそうなるのかな?
今は生ゴミからバイオエタノールを作って燃料にする研究が進められているけど、あと30年後には、生ゴミをぽいぽいっと入れると燃料にできる世界が来るかもしれないね。

2015/10/17

背番号は12桁

マイナンバー制度が始まって、各自治体から通知が開始されているのだ。
簡易書留で届くらしいけど、我が家はまだ。
っていうか、東京都からの防災マニュアルも届かない・・・。
ちゃんと管理して送っているのかな?、と不安になるけど、それもマイナンバー制度がうまくいけばかなり解消されるはずなんだよね。

マイナンバー制度はもともとは国民総背番号制なんて言われていて、どちらかというと国家による国民の管理だ、とかいう否定的なニュアンスがあったんだよね。
確かに、納税者番号と自動車の運転免許証番号、社会保障関係の受給者番号などが統一化されると、今まで縦割りで処理されてきた様々な行政手続きが横串で「見える化」され、一元的に管理できるようになるんだよね。
マイナンバー制度はそういう意味では、今の時代の社会システムに合わせた、管理システムの導入なのだ。
管理強化に見えるけど、国民からしても、行政手続きの効率化だったり、社会保障サービスの公平化だったり、メリットはあるはずなのだ。
むしろ、複数の毛色から所得を得ていた人が脱税しにくくなったり、不正に社会保障サービス(特に生活保障関係)を受給していた人ができなくなったりと、悪いこともしにくくなるのだ。
やっぱり運用が大事ということだよね。

こういう国家による国民管理の仕組みというのは、古代から形を変え、品を変えて導入されてきた経緯があるのだ。
国民一人一人の顔と名前がわかるくらいの規模の小国家なら問題はないのだけど、地方ごとの小国家が統合され、中央集権体制になるとそうも行かなくなるので、管理のためのシステムが必要となるのだ。
特に、国家財政をまかなうための税の取り立てには不可欠なんだよね。
古代日本でも、大化の改新(今は「乙巳の変」と言うのかな?)直後に、中国にならって初めて国家的な管理システムである戸籍が作られたのだ。・
それが「庚午年籍」というもの。
租庸調の徴収に当たって必要な情報として、どこの地にどれくらいの年齢の人間が居るのかをまとめたのだ。
これは6年おきに更新するシステムだったみたい。

でも、平安時代になって、私有地である荘園制度が発達すると、朝廷が一括して戸籍を管理する必要は薄れ、むしろ荘園ごとの管理になったため、国家的な戸籍は衰退していくのだ。
同じようなシステムが復活するのは江戸時代前後。
太閤秀吉公が検地を全国的に行った際、農民に夫役を課すために人別改が行われたのだ。
すなわち、労役を課せる成人男子がどの地域にどれくらいいるかを調べるわけ。
こうして、領地ごとに人別改帳が作成されたんだ。
さらに、江戸時代になってキリスト教が禁止されると、寺請制度ができて、士農工商の全ての民はどこかのお寺の檀家になっていないといけなくなったのだ。
誰がどの宗派に属しているのかを調べるためにまとめられたのが宗門改。
これを作るとき、先行していて人別改に宗派の別を記載する形式を基本としたので、宗門人別改帳となったのだ。

江戸中期には、もはや宗教調査的な目的よりも、人口動態を確認して、徴税などの基礎資料として活用されるようになり、事実上の戸籍の役割を果たすようになるのだ。
享保の改革以降は全国的な調査のとりまとめが行われるようになり、幕府は諸藩に6年ごとに更新するよう命じているよ。
これでいったんは廃れてしまった戸籍制度がほぼ復活した形になったのだ。
ただし、この宗門人別改からは漏れている人たちがいたことにも留意が必要なんだよね。
偉い人たちはいいとしても、狩猟を生業として山で暮らしていた、いわゆる「山の民」とか、修験者のような定住せずに全国を渡り歩く宗教者、大道芸人や巡業の一座、田畑を放り出して逃げたした農民(「無宿」)などは記載がないんだよね・・・。

明治になってからは、近代国家となるべく欧州の制度にならって新たな戸籍制度が法律の下にスタートするのだ。
もちろん、そのときの基礎的な資料は江戸時代の宗門人別改帳なわけだけど(笑)
このときに、士族以外にも名字が認められたので、各人が思い思いに戸籍上に名字を登録することになるのだ。
今でも戸籍専用の字があったりするけど、この登録の際の誤字だったりするんだよね・・・。
で、この戦前の戸籍は、家族制度を基本としたもので、戸籍上も戸主(家長)やら嫡出子・庶子などが明記されたものだったのだ。
当時の民法では、嫡出子であるか庶子であるかで遺産相続の権利が違っていたんだよね。
さらに、華族、士族、平民、新平民などの身分事項も記載されていたんだって。

戦後になると家族制度は廃止され、夫婦を基本単位とする戸籍制度に改められたのだ。
これが今の日本の戸籍制度。
戦前では、戸籍に住所の登録も行っていて、住民票の役割も果たしていたんだけど、戦後の住民登録制度は戸籍制度とは別にされ、戸籍と住民票は分離されたのだ。
江戸時代までは出席地から遠く離れて暮らす人なんていうのはわずかだったけど、近代化以降人の移動が多くなって住民登録が必要となったんだよね。
逆に言うと、むかしは自由に引っ越しとかができかなったのもあるんだけど。
さらに人の移動が激しくなると、いちいち戸籍で管理するのが大変なので、地方自治体ごとに住民登録させる制度になるのだ。
それが住民登録制度で、それを基に発行されるのが住民票。

これが住民基本台帳制度になると、戸籍と住民登録情報がリンクされるようになり、戸籍の附票を見ると住民登録の変遷がわかるようになるのだ。
やっぱり戸籍で本籍地しかわからないんじゃ不便だからね。
平成の御代になると、コンピュータによる管理が一般的になり、戸籍も住民基本台帳も電子化されてくるのだ。
で、また法改正が行われ、戸籍も住民民基本台帳もオンライン化されるんだよね。
戸籍は騒がれなかったけど、住民基本台帳ネットワークシステム(いわゆる「住基ネット」)はいろいろと話題になったのだ・・・。
セキュリティとプライバシーの問題なんだけど、これはまさに今、マイナンバー制度で問題になっているよね(>o<)

ちなみに、むかしの人別宗門改だと職業もわかったんだけど、現在の戸籍や住民基本台帳では職業はわからないので、別に「国勢調査」を行うことになっているんだよね。
これは5年に一度だけど、むかしの戸籍の更新年度とあまり変わらない(笑)
今後は、これらの情報が全てマイナンバーによりひもつけられるのだ!
相当便利になるはずだけど、ここを崩されると全て終わりなので、住基ネットの時以上にセキュリティには気をつけないといけないんだよね。

2015/10/10

見えないものを見る

見えないものを見るというと「心眼」みたいな世界に入るけど、ノーベル・ウィーク第二弾で物理学賞を受賞したニュートリノの研究はまさにそういうものなのだ(笑)
日本人が受賞したノーベル賞のおよそ半分は物理学で、その中でも素粒子物理学は日本の十八番なんだよね。
今回受賞した東京大学宇宙線研究所の梶田隆章教授は、かつてニュートリノを世界で初めて観測した功績によりノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊博士の教え子なのだ!
指定でノーベル賞受賞という快挙だよ。

もともと小柴博士がやっていたのは、ものすごくまれにしか起こらない(と考えられている)陽子崩壊という現象の観測実験だったのだ。
そのために、岐阜県の神岡鉱山跡にカミオカンデという実験施設を作ったのだ。
地下に巨大な水槽を設置し、その中に純水を満たして、陽子崩壊が仮に起きた場合に発生するごくごく微弱な光(チェレンコフ光)を水槽を取り囲む超高感度の光センサー(光電子増倍管)で検知しよう、という計画なのだ。
でも、チェレンコフ光が発生するのは何も陽子崩壊が起きた場合だけじゃなくて、水中を光より早い速度で荷電粒子が動くと発生するのだ。
つまり、荷電粒子が水に飛び込んでくるとひどいノイズになるので、そうならないように地下深くに水槽を置く必要があるんだ(地層により宇宙から振ってくる荷電粒子が遮断できるのだ。)。

でも、それでもバックグラウンドのチェレンコフ光はゼロにはならないんだよね。
なぜなら、宇宙から降り注ぐ強い放射線である宇宙線が大気中の空気の分子と反応して発生するニュートリノが水槽の中の水とごくごくたまに反応してチェレンコフ光が出るため。
宇宙線と空気分子が反応すると、酸素原子や窒素原子からμ粒子というのが出てくるのだ。
でも、このμ粒子はすぐに崩壊して、電子と電子ニュートリノ、ミューニュートリノになるんだ。
この2つのニュートリノが大気ニュートリノとして地上にものすごい量で降り注いでいるんだ。
ちなみに、ニュートリノには電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノと3種類あるのだ。

でも、このニュートリノは幽霊粒子とも言われるように、ほとんど他の素粒子と反応しないので、基本はどんどんすり抜けていくのだ。
これは、この世界を構成する4つの力のうち、電磁気力と強い相互作用の影響を受けず、弱い相互作用と重力の影響しか受けないため。
ところが、全く反応しないわけではなくて、例えば、水中で水分子中の酸素原子の原子核のすぐ近くをニュートリノがすり抜けようとする場合、反応するのだ。
ニュートリノが陽子に衝突した場合、陽子が中性子と陽電子に分かれるんだけど、この陽電子は荷電粒子なので、チェレンコフ光を発生させることになるのだ。
つまり直接ニュートリノを見ることはできないんだけど、ニュートリノが反応した痕跡としてのチェレンコフ光を検知することで、ニュートリノが来ていることがわかるというわけ。
これが小柴博士がノーベル物理学賞を受賞した成果だよ。

で、いろいろとそうやって大気から来るニュートリノを観測していたとき、変な現象が起きたのだ。
大気ニュートリノの発生原理はわかっているので、降ってくるニュートリノの量はおおよそ検討がつくのだけど、電子ニュートリノがほぼ予想どおり観測できたのに対し、ミューニュートリノは数が少なかったのだ!
これは途中で何か起きているに違いない、と考えられたわけ。
素粒子物理学における「標準モデル」では、ニュートリノというのは質量がゼロと仮定しているのだけど、逆に、その仮定が間違っていて、ニュートリノがわずかばかりでも質量を持つと仮定すると、ニュートリノは飛行中に別の種類に変換する現象が発生すると想定できるんだって。
これは非常に難解な話なので、ここでは単純に、質量を持てば飛行中にニュートリノの種類が変わってしまう「ニュートリノ振動」という現象が起こるし、質量がない場合はニュートリノの種類は何があっても不変ということだけわかればよいのだ。

こういう前提の中でカミオカンデのグループが考えたのは、ひょっとしたら、ニュートリノの質量はゼロではなくて、ニュートリノ振動が起きているので、ミューニュートリノは少なくしか観測できないのではないか、という仮説。
カミオカンデの観測装置では、タウニュートリノのは観測できないので、大気ニュートリノ中のミューニュートリノが地上に届くまでの間にタウニュートリノに変わってしまっていたとしたら、この現象が説明できるかもしれない、ということ。
でも、カミオカンデではそこまでの感度がなかったので、より水槽が巨大化した、後継のスーパーカミオカンデを使った実験でその仮説が確かめられることになるんだよ。
ちなみに、巨大化させても陽子崩壊の方はやっぱり観測できないので、もっと大きな水槽にするハイパーカミオカンデ計画というのが構想されているのだ。

梶田博士がやったのはこの研究で、スーパーカミオカンデを使って詳細に大気ニュートリノを観測してみると、確かにミューニュートリノの数が減っていることがわかって、しかも、エネルギー分布もずれていることがわかったんだって。
このことから、ニュートリノが質量を持つ可能性が出てきたのだ。
さらに詳細な分析を行うため、今度はつくば市にある高エネルギー加速器研究機構(KEK)の陽子サイクロトロンから出る陽子線をターゲットに当て、そこから出てくる人工のニュートリノを神岡に向けて発射して、その飛行中にニュートリノ振動が起きているかどうかを確認する実験が行われたのだ。
これがK2K(KEKから神岡)実験。
この実験では、あらかじめ既知のニュートリノを打ち込んでいるので、より詳細に分析ができるのだ。
こうした実験を通じて、ミューニュートリノがタウニュートリノに変化する現象は確認できたんだ。
ちなみに、今回の共同受賞者のマクドナルド博士は、SNO実験という太陽から来るニュートリノを使った実験で、電子ニュートリノがミューニュートリノやタウニュートリノに変化する現象を観測しているのだ。

K2Kに続く実験として日本がやっているのが、東海村にある大強度陽子加速器(J-PARC)の大強度の陽子線を使って大強度のニュートリノビームを発生させ、それをスーパーカミオカンデに打ち込むというT2K(東海から神岡)実験。
この実験では、東海村から発射する段階でもニュートリノの量を計測していて、さらに詳細な分析が可能なのだ。
この実験により、これまで観測できていなかったミューニュートリノが電子ニュートリノになる現象が実験的に確認されたみたい。
現在は、ニュートリノの反粒子である反ニュートリノで振動が起きるのかどうかを実験していて、ニュートリノと反ニュートリノで振動現象に対称性を超えた違いがあるかどうかを確認する実験をしているのだ。

ものすごく難しい話だけど、宇宙がビックバンでできたときには粒子と反粒子がほぼ同数で存在したはずなんだけど、現在の宇宙はほぼ粒子のみにより構成されているんだよね。
仮に、粒子と反粒子が完全に対称性を持つ場合は、両方あるか、両方ないかしかないので、どこかで対称性に「破れ」があって、反粒子が消え、粒子だけが残ることになったはずなのだ。
その証拠となる現象を実験的につかんだのが、KEKにある加速器のKEKBで、やはりノーベル物理学賞を受賞した小林誠・益川敏英博士の理論を裏付ける実験結果を出したんだよね。
このKEKB加速器は電子と陽電子の衝突実験をしていて、電子と陽電子の間の対称性の破れを見ているんだけど、それと同じような対称性の破れがニュートリノの世界でもあるんじゃないか、というのをT2K実験で狙っているのだ。

ものすごく難しい話だけど、とにかくすごいことが日本から発信されてきたし、これからも発信できるかもしれないってこと。
今は物理学を志す学生が減ってきているみたいだけど、ずっと日本が強みを持ってきた分野なので、何とかしたいよね。
数学がわからなくて物理から逃げ出したボクの言うセリフではないかもしれないけど(笑)
それでも、まったく実用性がない分野なんだけど、日本はずっと世界をリードしてきているのは確かなので、このまま火が消えるようなことがないようにしてもらいたいものなのだ。

お宝は土の中にある

今年も日本寺のノーベル賞受賞者が出たのだ!
まずはノーベル・ウィーク初日の生理学・医学賞。
利根川進博士、山中伸弥博士に続いて三人目の受賞となったのは、北里大学特別栄誉教授の大村智さんだったのだ。
抗寄生虫薬の発見がその受賞理由だよ。

大村博士は、長年にわたって、微生物が作り出す天然有機化合物の研究に従事してきたのだ。
具体的に何をするかというと、いろんなところの土をとってきて、その中にいる微生物がどんな有機化合物を作っているのか、その有機化合物は何か有用な成分になるのかどうかを調べていたんだ。
今回受賞のきっかけになったのは、静岡県のゴルフ場近くの土壌からとった放線菌が作り出す抗生物質で、帰省中の駆除に効くものだったんだ。
それが最初は動物用医薬品として広く使われるようになり、やがてヒトにも有効で、特に中南米・アフリカで問題になっていた線虫による熱帯地方の風土病「オンコセルカ症」の特効薬だったので、多くの人を失明から救ったのだ。
こういう業績が評価されたわけ。

っていうけど、ひとつひとつの言葉がわかりづらいので(笑)、ちょっとずつ解説。
「放線菌」というのはバクテリアの一種で、菌糸を伸ばしながら放射状に広がって増えていくことから名付けられたもの。
今ではDNA解析をもとに分類するので、必ずしもそういう形態的特徴を持たないものも「放線菌」に分類されるらしいけど・・・。
ま、バクテリアであることがわかればいいのだ。

バクテリアやカビ(真菌)は、自分が増殖しやすいように、自分以外の微生物の増殖を阻害する物質を作ってまき散らすんだよね。
それが抗生物質。
よくテレビとかでこんなところにも雑菌が、とかいって、綿棒とかでこすって培地にすりつけて培養すると、丸い塊(コロニー)がいくつか出てくる、とかいうのをやっているけど、このとき、複数の菌が混ざってしまわず、それぞれがコロニーを作るのはこういう抗生物質で他の菌の増殖を抑えているからなんだ。

世界で最初に見つかったのは、青カビの作り出すペニシリンで、これは結核の特効薬として当時の医学を大きく前進させることになったのだ。
その次に見つかった抗生物質がバクテリアが作り出すストレプトマイシン。
これは放線菌由来の物質だよ。
腎毒性があるのと、重大な副作用で難聴にあんるというのがあるので今はあまり使われなくなったけど、やはり結核に著効を示したのだ。

抗生物質を薬として使う場合、ヒトの細胞にはあまり影響なく、バクテリアやカビなどの微生物にだけ増殖を阻害する効果を示す方がよいのだ。
そういうのをスクリーニングで選び出すんだよね。
で、そういう物質の中には、微生物だけじゃなくて、ウイルスや線虫などの寄生虫にも効果があるものがあったんだ。
今回は寄生虫となってヒトの疾患の原因となっている線虫に対して効果がある抗生物質で、そういうのは抗寄生虫薬と呼ばれるのだ。
イヌに飲ませるフィラリアの薬も抗寄生虫薬だよ。

ちなみに、抗生物質を少し化学的にいじると、増殖が特に早いヒトの細胞の増殖を抑える効果を持たせることができるのだ。
こうして作られたのが抗生物質系の抗がん剤。
ただ単に微生物の増殖を止めるだけでなくて、そういう拡張性もあって、かつては製薬会社・化学会社が競って新しい抗生物質を探索したものなのだ。
そういった世界的な潮流の中で、大村博士は金字塔とも言うべき成果を出したということだよ。

特に今回言及されている「オンコセルカ症」という病気は、らせん状に巻いている「回線糸状虫」という線虫が規制することで起こる病気で、ブユによって媒介されるんだ。
川の近くにいるブユにより感染し、やがて失明に至るので「河川盲目症」という日本語明があるのだ。
アフリカや中南米に患者さんがいて、大村博士が発見した抗生物質を米国の製薬会社のメルクが商品化したイベルメクチンが特効薬になっていて、多くの人が救われたんだって。
日本ではあまり寄生虫による病気というのはぴんとこないけど、発展途上の熱帯地域ではけっこう大きな問題なんだよね。

北里柴三郎博士の薫陶を受け継ぐ北里研究所出身で、野口英世博士のように、熱帯地域の風土病の克服に大きな貢献があった、ということで、日本としては感慨深いものがあるよね。
大村博士のすごいところは、動物用医薬品として実用化されて得た富を使って自分で研究費をかせいでいたことと、ヒトの病気に使えるとわかったところで特許を放棄し、世界保健機関(WHO)が無償でアフリカ・中南米の患者さんに提供できるようにしたことなのだ!
研究者としては変わり種なのかもしれないけど、日本が世界に誇るべき研究者だったわけだね。

2015/10/03

超月

今年の中秋の名月は、翌日にスーパームーンが観測されることもあって注目されていたのだ!
確かにいつもより大きいような気がするし。
なんだか月の大きさや明るさが変化するというのは違和感があるけど、大きさについては最大で1.14倍の直径に、明るさは3割増し程度になるんだって。
これは計算上で出てくる数字なんだけど、NASAの観測でも確かにそうであることがわかっているのだ。

なぜ月の大きさが変わるのか?
もちろん、月そのものの大きさが変わっているわけでは当然なくて、地球から見た月の「見かけ上の大きさ」が変わっているんだよ。
この見かけ上の大きさは月と地球との距離に比例するはずなので、月と地球の距離に変動がある、ということなのだ。
この答えは簡単で、月が地球の周りを回る軌道は、円軌道ではなくて楕円軌道だから。
かなり真円に近いんだけど、ちょっとゆがんでいるんだよね。

理科年表の数字で言うと、最も地球に近づく近地点で362,600kmの距離。
最も遠ざかる遠地点では405,400km。
月の見かけ上の大きさはこの距離に反比例するはずなので、405,400÷362,600=1.118・・・
って、あれ?
1.12倍にしかならない!

実はこれにはさらなるからくりがあるのだ。
月が地球を周回する楕円軌道は一定ではなくて、太陽の引力の影響を受けてゆがむのだ。
すなわち、長径方向に太陽がある場合は、月は太陽に引っ張られるのでより楕円が扁平になるし、逆に、短径方向に太陽がある場合は、その楕円軌道はより円に近づくのだ。
これが無視できないくらいの差で現れてくるんだよ。
最も扁平になるときが、月と地球の距離の差が最大になるんだけど、そのときは、近地点が356,400km、遠地点が406,700km。
その比を見ると、406,700÷356,400=1.141・・・
そう、これが最大で1.14倍の正体なのだ。

次に明るさについて。
一般に星の明るさは地球とその星との距離の二乗に反比例するのだ。
すなわち、距離が、356,400÷406,700=0.876・・・で、0.88倍(=1/1.14倍)に縮まっているので、明るさは、(1/0.88)2倍=(1.14)2倍=1.2996倍にはるはず。
すなわち、3割増しということなのだ!

いわゆる星の明るさの話をするときは、一般には自分で光っている「恒星」なんだけど、月の場合は太陽の光を反射しているだけなので、事情が異なる、みたいな感じで書かれているものもあるのだ。
見かけ上の大きさの直径が1.14倍で、月の反射する光の量は月の見かけ上の大きさ(面積)に比例するから、その二乗で1.3倍の明るさ、としているんだ。
でも、これは実は間違い。
確かに反射光の量はそうなのかもしれないけど、明るさというのは単位面積当たりの光の量のことなので、面積が変わっても不変なのだ。
反射光だろうがなんだろうが、光源と観測点との距離こそが明るさには影響するんだよ。
月そのものの大きさが変われば明るさにも影響があるけど。