2017/10/28

赤い香辛料

先日、ハンガリー料理を食べる機会があったのだ。
ちゃんとしたレストランじゃなくて、レセプションに並んでいた料理なんだけど。
でも、どの料理もみんな赤いような・・・。
それもそのはずで、ハンガリー料理の特徴は、香辛料のパプリカを多用することなんだって!

日本ではパプリカというと大きくて肉厚のピーマンを思い浮かべるけど、その野菜のパプリカと、香辛料に使うパプリカは別なんだとか。
もう少し小さいもので、鮮やかな赤い色をしているものを、乾燥させ、粉末にしているようなのだ。
日本ではパプリカ・パウダーというとまったく辛みがないけど、いろんな料理に多用するハンガリーにおいては、少し絡みのあるパプリカも存在するみたい。
日本で言うシシトウみたいな?

ちなみに、野菜のパプリカも、香辛料のパプリカも、ハンガリーで品種改良されたものなんだそうだよ。
スペインが新大陸から持ち帰った唐辛子やピーマンを改良したのだ。
「パプリカ」というのもハンガリー語から来ているんだって!
知らなかった。
ハンガリーの研究者により、パプリカには大量のビタミンCが含まれていることが発見され、そのビタミンCを抽出した功績でハンガリーの研究者、セント=ジェルジ・アルベルト博士が医学・生理学賞を受賞しているのだ。
そこかたパプリカ人気が高まって、料理にも積極的に取り入れられるようになったとか。

ハンガリーの名物というと、パプリカの入ったシチューのグヤーシュ。
でも、ハンガリーでは味噌汁のような扱いで、他国のシチューと違ってメインという位置づけにはないみたい。
でも、毎日のように飲むスープがもうパプリカ入りなんだよね。
どれだけ好きなんだか。

パプリカの色素は主にカプサンチンと呼ばれるエステル(脂肪酸とアルコールが脱水結合したもの)。
これは油によく溶ける性質があるので、パプリカを使う場合は、油があると色が鮮やかになるのだ。
また、この色素は熱に安定なので、焼いたり煮たりしても大丈夫。
天然色素だし、赤やオレンジは食品に彩りを与えるから、けっこう添加物としても使われているよ。
ソーセージとかハムとかの加工肉も赤みを増すために入れたりするのだ。
風味も加わるし、その方がおいしく見えるからね。

新大陸の野菜が食文化に深く食い込んでいるのは、イタリアやスペインのトマト、イギリスやドイツのジャガイモなんかが有名だけど、パプリカも中欧にはけっこう食い込んでいるんだねぇ。
中欧の料理はあまり食べる機会がないので気づかなかったよ。
他にも探してみると、もっとおもしろい発見があるかも。
それにしても、中世のころのこのあたりの人たちは一体何を食べていたんだろう?
きっと色味も風味もよくないものだったから、パプリカがはやったんだろうね。

2017/10/21

フライには・・・

先輩がパリに出張に来ていたので、一緒にカフェレストランで食事をしたんだよね。
で、まったくフレンチじゃないんだけど、ついつい気になっていた「フィッシュ&チップス」を頼んでしまったのだ(笑)
フランスのやつはフライドポテトとタルタルソースがおいしいから!
実際、イギリスのより洗練されている気がする。
この白身魚のフライには、レモン汁や酢、タルタルソースが合うよね。
でも、どうしても、日本式のソースも恋しくなるのだ。

米国にいたときは、スター・ソースという揚げ物用のソースがあって、見た目は日本のウスターソースそのものなんだけど、ものすごく酸っぱい!
欧米ではフライは酸味で食べるみたい。
日本式のちょっと甘めのソースがいいんだよなぁ。
もちろん、自宅でフライの時は中濃ソースさ。

いわゆる「ソース」の発祥はイギリスのウスター・シャー。
19世紀初頭に、とありう主婦が、食材のあまりと調味料を一緒に入れて保存していたら、ソースが出来ていたんだって。
って、どれだけ保存していたんだろう・・・。
現代の冷蔵庫の奥地にあるミイラ食品のようだね・・・。
それはそれとして、工業的に作られ始めたのは19世紀前半。
インドのソースの作り方が伝えられ、イギリス式に改良して、ちょっとスパイスのきいた黒いソースが作られるようになったのだ。
これがウスターソースのはじめ。

イギリスのウスターソースのレシピでは、モルトビネガーに漬けて発酵させたタマネギ、ニンニクに、タマリンド、アンチョビなどを加え、そこに各種香辛料を入れたもの。
日本ではアンチョビは入れず、スパイスも抑えめ。
イギリスのソースはフライにどばどばかけるものではなくて、シチューやスープに数滴垂らして隠し味に使うものだとか。
コクを加えるということかな。

日本にこのウスターソースが伝わったのは明治になってから。
当初は受け入れられなかったものの、日本人の舌に合わせたものが開発され、徐々に広まっていったみたい。
戦後になると、粘度を高めてとろっとさせた「とんかうソース」が出回るようになり、定番になっていくのだ。
中濃ソースはウスターソースととんかつソースの間で、どちらにもいける、ということで更に後になって開発されたみたい。
俗に、東日本ではブルドックの中濃ソースが好まれ、西日本では、カゴメやイカリのとんかつソースが好まれると言われているのだ。
もちろん、広島はオタフクソースじゃけん!

現在では、日本農林規格(JAS)で分類がきちんとされていて、粘度が0.2パスカル秒未満のものがウスターソース、0.2~1.9パスカル秒の間のものが中濃ソース、2.0パスカル秒以上のものが濃厚ソースとなっているんだ。
濃厚ソースというのがいわゆるとんかつソースだよ。
デンプンを加えて粘度を高めているのだ。
このほか、個別にお好み焼きソース、焼きそばソース、たこ焼きソース、どろソースなど用途別のソースが生み出されたそうだよ。

しかしながら、歴史を見ると、世界的にも出てきたのはほんと200年ほど前で、それがけこうすぐに日本にも来ているんだね。
でも、一般家庭に常備されるようになるのは戦後からというのもまたおどろきなのだ。
当初は洋食屋さんのものということだったのかな?
今ではソース味のものは「和」という感じだけどね。

2017/10/14

混ぜるな、危険?

この前はじめて知ったんだけど、コンビニやスーパのレシートでもらう感熱紙は、リサイクルに回しちゃいけないんだって。
古紙回収の注意書きにも、感熱紙やのりのついた紙、防水加工された紙(紙皿、紙コップなど)、印画紙などなどは、「禁忌品」とされているのだ。
普通にもらったレシートは紙の資源ゴミに混ぜていたんだけど、実は混ぜちゃいけなかったのだ!
普通に燃えるゴミにしないといけないみたい。

感熱紙は、印刷面に特殊な物質が塗布してあって、独特の光沢をもっているのだ。
熱をかけたところだけ変色して、それが字として浮き上がるようになっているんだよね。
インクカートリッジやトナーがいらないので、印刷機が小型化できるのだ。
スーパーのレジでいちいちインクの交換とかは大変だよね。
感熱紙ならロールだけを交換すればよいのだ。
また、熱源だけなので、インク詰まりとかそういうトラブルも少ないよ。

表面に塗布された物質の熱による発色を使っている関係で、長期間保存すると劣化してきて、使えなくなるのだ。
基本的には冷暗所で保管し、消費期限内に使わないとダメみたい。
劣化したものは黄ばんでくるみたいだよ。
そして、感熱紙の印字は、時間が経つと薄れてきたり、全体が黒くなってきたりして、不鮮明になるのだ。
財布にレシートをためる人なら、古くなって何が書いてあるかわからなくなった、黄ばんだレシートを見たことがあるはず(笑)

かつては、ファックスやワープロによく使われていたんだよね。
やっぱりインクやトナーを使うと小型化できないから。
でも、印刷した紙の耐久度の問題もあるし、最近は小型のプリンタも技術的に可能になったので、減ってきているみたい。
見たらもうその場ですぐ捨てるような用途のものであればよいのだけど、長期間保存しておくための印刷には向かないんだよね・・・。
所得税の確定申告にはレシートを貼り付ける必要があるけど、あれはせいぜい2年持てばよいから。

感熱紙に印字を行うプリンタは、熱源を使うプリンタということでサーマルプリンタと呼ばれるのだ。
一方で、インクリボンを使用して、熱をかけてそのインクリボンの塗料を紙に転写する熱転写プリンタもサーマルプリンタに分類されるんだって。
ようは、熱を使って印字するプリンタということなのだ。
ちなみに、感熱紙プリンタは、熱源があるヘッドを直接紙に当てるので、ダイレクト・サーマルプリンタという言い方もするらしいよ。
簡単な形状で小型軽量化しやすく、コストも安いので、レジスターみたいな機械に向いているんだよね。

感熱紙って何かにイメージが似ているな、と思っていたんだけど、これって「あぶり出し」なんだよね。
紙にミカンの汁で絵や文字を書いて乾かした後、火であぶって熱を加えると茶色い絵や文字が浮かび上がってくるのだ。
まさに、熱で発色しているわけ。
紙の全面にミカンの汁を塗っておいて、温めた金属の棒で絵や文字を書けば、感熱紙と同じ原理なのだ(笑)
ミカンの汁を塗ったところは、何も塗っていないところに比べて発火点が低くなるので、より低い温度で焦げるんだって。
なので、何も塗っていないところは焦げず、塗ったところだけ焦げるような熱をかけてやると、あぶり出しになるのだ。
もともと感熱紙プリンタは米国で開発されたみたいだけど、日本にも同じような原理は庶民の遊びの中にあったわけだね。

2017/10/07

冷やして、固めて、電子で見る

今年もノーベル賞の季節がやってきたのだ。
残念ながら、自然科学三賞については日本人受賞者なし。
ま、毎年出るというものじゃないからしかたないけどね。
でも、やっぱり日本人がイルかもしれないと注目しちゃうよね。
で、今年の自然科学三賞のうち、ボクが気になったのは、ノーベル化学賞の「極低温電子顕微鏡法による液中の生体分子の高解像度構造決定法の開発」というもの。
物理学賞のLIGOによる重力波の間出というのは難しすぎるからね(笑)

この方法の画期的な点は、電子顕微鏡により、液中のタンパク質などの生体高分子の構造決定ができるようになったこと。
電子顕微鏡でのタンパク質の構造決定はむかしから行われていたんだけど、伝統的な方法だと、いったんタンパク質を結晶化させないとダメだったのだ。
なので、どうやって安定的な結晶を作るかが大きな課題だったんだよね。
その際、膜貫通型受容体については、生体膜の構成成分であるリン脂質と一緒に結晶化させるという方法が生み出され、その高次構造が分析されるようになったりしたのだ。
でもでも、やっぱりリジッドに固まった状態のタンパク質の構造決定しかできなかったんだよね。

一方で、実際の酵素や受容体などのタンパク質は、水溶液中でその機能を発揮しているのだ。
つまり、溶液中でどういう構造をしているのか、その構造がどのように機能に関係しているのか、が知りたいわけ。
そこで、核磁気共鳴法(NMR)を使った解析法なんかも出てきたんだけど、NMRだと、あまりに大きな分子量のものは解析できないんだよね。
情報量が多すぎて処理できず、高次構造が決定できないのだ。
なので、タンパク質の一部分だけを取り出して構造を見るとか、そういうやり方をしていたのだ。

そこで出てきたのが、極低温電子顕微鏡法という手法。
平たく言うと、液中のタンパク質を、液体ヘリウムや液体窒素で凍らせ、固めてしまって、それを極低温環境下で電子ビームを当てて解析するというもの。
透過型電子顕微鏡と同じように、試料に電子ビームを当てて、その影(射影)を見ているのだ。
そのままだ二次元情報なんだけど、角度・方向を変えて像をとり、それをまとめてコンピュータで処理してあげると三次元情報が復元できるのだ。
もちろん、その復元にもものすごいコツがあるみたいだけどね。
こうして、氷の中で、そのタンパク質がどういう立体構造をしているのかがわかるようになったわけ。

この方法のすごいところは、液中であってもリジッドな構造体の部分と、液中ではフレキシブルに動いていて、おそらく機能に関係していると思われるところが分けて見られるということ。
可動部分はぶれて見えるので、そこがまさに目をつけるべきところということになるのだ。
コンピュータによる解析は必須だし、直接見られるわけではないんだけど、かなり光学顕微鏡に近い感覚でタンパク質などの生体高分子の観察ができるようになったんだよ。
グラフィックスで三次元モデルが作れて、それを動かしたりもできるしね。
タンパク質の機能に関係している部分を研究することは、病気の解明や薬の開発に直結しているので、非常に重要な成果なのだ。

ただし、この方法だと、立体的な輪郭はわかるんだけど、どのアミノ酸残基がどういうように相互作用して・・・、という情報までは当然得られないんだよね。
立体的な形がわかるのみ。
なので、伝統的な結晶化による構造決定も必要で、例えば、突然変異である特定のアミノ酸残基が変わったときにそのタンパク質にどういう影響があるか、というような研究をしようと思ったら、まず立体的な構造が維持されているのか、変な形になってしまうのかを観察した上で、実際に分子レベルでどういうことが起こって形状が変わってしまうのか、といったことを突き詰めていく必要があるわけだよね。
そうなると、両方の解析法が必要になるので、これができたから従来の解析方法に取って代わる、というものでもないんだ。

それにしても、技術の進歩はすごいよね。
見えなかったものを可視化し、検知できなかったものをとらえられるようにし、それで更に謎が深まっていくのだ(笑)
人類の知的好奇心ていうのは果てしがないのかも。
ま、ここから先はないよ、というのも夢がないけどね。