2011/10/22

夜に光る

世田谷で相当古いラジウムを使った夜行塗料が見つかって大騒ぎになっているのだ!
最初は「すわっ、都内でもホットスポットか?」と話題になったわけだけど、ふたを開けてみると、民家の軒下から放射性物質が「わきだし」たんだよね(管理下にない放射性物質が発見されることを専門用語で「わきだし」と言うらしいよ。)。
で、そのラジウムが入った瓶に「日本夜光」とかかれていて、どうもむかし使われていた夜光塗料ではないか、ということまでわかっているみたいだね。
もともと線量が高いことがわかってすぐ、出ている放射線のスペクトルを調べてセシウムではなさそうだ、というのがわかっていたようだけど。

で、この事件でわかってきたことは、けっこう最近まで放射性物質が入った夜光塗料が使われていたという事実(>o<)
ま、たいした線量ではないので、その夜光塗料が文字盤に使われた時計を身につけていても健康には影響がないはずだけど。
それでも、関心は一気に高まったよね。
家にある文字盤が光る時計を見て不安を覚えている人も多いかも、なのだ。

もともとレントゲン博士がX線を発見したときのエピソードは、目には見えないけど感光紙に反応する謎の照射がガラス管から出ている、というものだったんだよね。
それでよくわからないから「X線」と名付けたのだ。
さらに、ノーベル賞も受賞したキュリー夫人は、ウラン化合物からそのX線に似た透過力を持つ謎の光線が出ていることを発見。
これが人類による放射線の発見で、その放射線を出す能力を放射能と定義したんだよね。
目には見えないけど、フィルムを感光させるなど間接的に存在がわかったというのがみそなのだ。

今回見つかったラジウム化合物の場合、壊変するときに出てくる放射線で自ら励起され、蛍光を持続的に発するのだ。
いわば自然に発光するわけ。
この特性を利用して、夜光塗料として使われていたんだ。
最初は原因不明だったんだけど、この夜光塗料を使う人の中にがんになる人が頻発したことから、どうも塗料に含まれる放射性物質ががんに関係しているとわかってきたのだ。
よくよく調べると、職人さんたちが夜光塗料を塗る際に筆をなめていて、それで体内にラジウムなどの放射性物質を取り込み、内部被ばくをしていたという事実が判明。
ラジウムはカルシウムに似ているため骨に取り込まれ、けっこう長い間内部被ばくの原因となるのだ。
夜光塗料として使われ始めたのが1900年代初頭、がんの発生が認められ始めたのが1910~1920年代、世界中で使用が禁止されるに至ったのは1990年代なんだって。
もともと低線量だから、使い方に気をつければいいだけではあるんだけど。

それに代わって出てきたのが蓄光する夜光塗料。
事前に光を当てておくとエネルギーをためて、暗くなるとぼわっと淡く光るのだ。
最近では時計の文字盤だけでなく、照明器具にも使われているよね。
いきなり暗くならず、しばらくちょっとだけ明るいので便利なのだ。
電源がなくても光るので、避難経路を示す避難誘導板にも使われ始めているらしいよ。
そのほか、キーホルダーやアクセサリーにも使われているのだ。
放射性物質を使った自発光型夜光塗料と違って、時間がたつにつれて発光は弱まっていくのが特徴。
自分の時計の夜光塗料が気になる人は、しばらくながめていれば区別できるというわけ。

この蓄光型の夜間塗料が光るのは燐光が出ているため。
燐光というのは、物質に光などのエネルギーが当たって励起(エネルギー準位が高くなった状態に遷移すること)された後、より波長の長い(=エネルギーとしては弱い)光を出す現象の一つ。
もっと有名なのは蛍光だよね。
蛍光灯はその名のとおり蛍光で光っていて、水銀などから出てくる紫外線がガラス管の内部に塗られた蛍光物質を励起し、そこから蛍光として可視光が出てくることが光るのだ。

蛍光と燐光の違いはなかなかむずかしいんだけど、端的に言うと、外から光などでエネルギーを加えられてからすぐに光(=エネルギー)を放出して基底状態にもどるか、徐々に光を放出して基底状態にもどるかの違いなんだ。
図で示すと以下のようになるんだけど、蛍光の場合は励起された電子のスピンが対になっているので(一重項状態)、すとんとすぐに基底状態まで落ちることができるのだ。
一方、燐光の場合は、励起された電子のスピンが同じ向きにそろっているので(三重項状態)、すぐに基底状態まで落ちることができず、徐々に落ちていくんだ。
このため、蛍光は反射的にぱっと光って、燐光は持続的にぼわっと光るのだ。
この燐光の時間差を利用したのが蓄光というわけ。



ほかに光るものと言えばホタルの光や露点で見かけるサイリューム(これは登録商標で、一般名はケミカルライト)が有名かな。
ホタルの場合はルシフェリンという発光物質がルシフェラーゼという酵素の作用で光るんだ。
下村博士がノーベル賞を獲得した緑色蛍光タンパク質(GFP)の場合は、GFPとイクオリンというタンパク質が複合体を作っていて、それがカルシウム濃度の変化によって光るものだよ。
これはエネルギーとしてATP(アデノシン三リン酸)を消費して光らせているんだ。
こういうのは生物発光と呼ばれるよ。
ちなみに、ネコの目が夜に光って見えるのはこちら側の光を反射しているだけで、発光しているわけでないんだ。
道路にある反射板と一緒。

ケミカルライトの場合は、シュウ酸ジフェニルと過酸化水素を混ぜることで発光させるのだ。
チューブに入った状態では混ざってなくて、ぽきっと仕切りを折って外して混ぜると光り始めるよ。
シュウ酸ジフェニルが過酸化水素と反応すると過シュウ酸エステルになって、それがさらに酸化を受けると1,2-ジオキセタンジオンというとても不安定な物質(四員環化合物)が生じるんだ。
これはすぐに2つの二酸化炭素に分かれるんだけど、このときに出るエネルギーがまわりにある蛍光色素を励起させることが光るんだ。
蛍光色素を変えることで色も変えられるのが便利なんだよね。
使うときに熱も出ないし、持ち歩けるし、最近では軍隊や災害対策でも使われているよ。

というわけで、夜間に光るものもいろいろあるのだ。
太古のむかしは月明かりや星明かりしかなくて本当に暗かったんだろうけど、現代は身の回りに光があふれているんだねぇ。
中には今回のラジウムのようにちょっと心配なものもあるけど、電気がなくても光るものが意外と身の回りにあるよ。

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