2010/07/03

緑黒い卵

職場の歓送迎会で中華の食べ放題に行ったんだけど、事前にメニューが配られていたので、行く前からみんなで何を食べるのかけっこう盛り上がっていたのだ。
中でも、なぜか人気があったのが皮蛋(ピータン)。
苦手な人も多いけど、好きな人は「絶対食べたい!」っていう意見。
においにくせはあるけど、納豆やくさやと同じように人気があるところには人気があるのだ。
でも、ピータンってなんなんだっけ?、ということがよくわかっていなかったので、ちょっと調べてみたよ。

ピータンがアヒルの卵から作られていることは割と知られているけど(鶏卵に比べて少し大きいよね。)、一般には発酵しているかのように受け取られているように感じるのだ。
ところがどっこい、ピータンは「熟成」させているだけで「発酵」させていないのだ。
微生物の力を借りているわけではないんだよ。
魚の干物やハムなどの熟成に近い感じかな?

ピータンの作り方は変わっていて、石灰を混ぜた泥をアヒルの卵の表面に塗り、卵同士がくっつかないように籾殻をその上にまぶし、冷暗所において2~3ヶ月熟成させるのだ。
泥を落とすと殻も黒くなったピータンができあがっていて、殻をむいても黒いのだ(笑)
うまくいくと、白身(だった部分)の表面には白い針状の結晶が浮き出ているんだけど、それは熟成の過程で出てきたアミノ酸の結晶。
でも、殻をむくと強烈なアンモニア臭と硫化水素臭(いわゆる卵の腐ったにおい)がするので注意!

実際にこの熟成の過程で何が起こっているのかというと、タンパク質の変性と加水分解が進行しているのだ。
石灰中のアルカリ成分が徐々に卵の内部に浸透していくと、卵の中のタンパク質が変性して固化してくるんだよね。
ゆで卵が熱によるタンパク質の変性で固まるのと同じ。
変性の仕方が違うので、ゆで卵に比べて少し過多さが違うのだ(ピータンだと白身の部分がゼリー状だよね。)。
で、編成と同時に加水分解も起きていて、タンパク質がペプチドに、ペプチドがアミノ酸にとどんどん分解されていくよ。
このとき、卵の中の水分が使われるので、少し中身が減ったように(殻から浮いているように)見えるわけ。
ちなみに、ここで溶けきれなくなったアミノ酸が析出したのが殻をむいた時に見られることがある結晶なのだ。

酸性条件下での加水分解だと、ペプチドからアミノ酸になるくらいで止まるんだけど、アルカリ性条件下だとさらに加水分解が進んで、アミノ酸も分解されてアンモニアも発生してくるのだ。
これがにおいの原因その1。
さらに、システインやメチオニンなどの硫黄を含むアミノ酸が加水分解されると硫化水素が出てくるんだ。
これが腐卵臭と言われるもので、においの原因その2だよ。
アンモニアも硫化水素もしばらくすると空気中に拡散していくので、においが苦手な人は殻をむいてしばらく置いてから食べるとよいのだ。

さらに、硫化水素はにおいだけでなくて独特の色の原因にもなっているんだよ。
ピータンの黒い色の主な原因は硫化鉄の色。
ゆで卵もゆですぎると黄身のまわりが緑~黒色に変わることがあるけど、それは熱分解で発生した硫化水素と卵の中の鉄分が反応してしまっているのだ。
それがもっと進んだのがピータンで、白身は主に硫化鉄の色なので黒~褐色、黄身はもともとの黄色と混ざるのでもっと深い色になるというわけ。
微量に含まれている亜鉛や銅の硫化物の色も混ざるので、もっと複雑な色になるんだけどね。

さらに、生の状態ではもう少し黄身は透明感があってつやつやだけど、ピータンの黄身はゆで卵と同じように不透明なくもっと感じになるのだ。
これは、リン脂質のレシチンとタンパク質がうまくまざって乳化して、水の中にきれいに分散していたものが、タンパク質の変性のせいで脂質が分散できなくなって浮き出てしまうため。
マヨネーズを作るのに失敗して油分と水分が分離してしまっているような状態なのだ。
でも、リン脂質や脂肪分がアルカリ性条件下で加水分解されると、いわゆる「けん化」という現象が起こって、界面活性剤ができるんだよね。
すると、この界面活性剤が水と油を結びつけて入荷させるのだ。
なので、ピータンの黄身は固まっている部分ととろとろの部分があるんだよ。
ゆで卵の場合は熱変性が進めないうちに取り出してしまうのが半熟で、ピータンの黄身のとろとろとはちょっと様相が違うのだ。

というわけで、意外とピータンって科学的に考えてみるとおもしろいんだよね。
それと味の好みはまた別だけど(笑)
鶏卵で同じように石灰入りの泥を塗りつけてみて、経時的変化を追ってみるなんていうのも、ピータン好きの家庭では夏休みの自由研究としておもしろいかも。

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