2010/12/18

渋く決めるぜ

いよいよ冬に突入して、ボクの好きな柿の季節も終わろうとしているねぇ(>_<)
果物の中では断然柿が好きなので、残念だよ。
でもでも、その一方で、この時期の楽しみは干し柿。
日本伝統のドライフルーツだけど、ボクはこの干し柿も好きなのだ。

柿はかなり早い時代の弥生時代には梅や桃、杏などとともに大陸から日本に渡来して、以来栽培が始められているようなのだ。
実を食べるだけじゃなく、木質が固いことから柿の木は家具などに使われるし、あの渋みのもとを抽出した柿渋は防腐剤や防水剤として利用されてきたのだ。
まさに日本の民俗に密着した植物なのだ。

柿は果物の中でも糖度が特に高いんだけど、これは貴重な甘味だったのだ。
サトウキビやテンサイからとれる砂糖は超希少品・高級品で、一般的には発芽玄米や麦芽から作られる水飴が主要な甘味料だったんだよね。
それも主要成分は麦芽糖なのでそんなに甘くないのだ。
それ以前、平安時代なんかはツタなんかの少し甘い樹液を煮詰めて作る「あまづら」くらいしか甘味料がないので、柿の甘さは格別!
甘味を求める日本人にとってあこがれの存在だったのだ。
(サツマイモも甘いけど、これは江戸時代中期、八代将軍吉宗公が栽培を奨励して広がったのでだいぶ遅いのだ。)
で、現在も和菓子の甘さは干し柿の甘さが基本になっているとも言われているよ。

柿にはご存じのとおり甘柿と渋柿があるんだけど、甘柿は突然変異でできたもので、たまたま渋みがなくてそのままでも生食できるようになったもの。
これ幸いと品種改良を重ねて今ではいろんな栽培種(富有柿や次郎柿など)ができているんだよね。
一方、渋柿でも、なんとか渋を抜いて食べてきた歴史があって、むしろ渋柿から渋を抜いたものの方が好き、なんて趣向もあるのだ。
干し柿にするのは一般に渋柿だよ。
ま、渋を抜くために干しているので当たり前なんだけど・・・。

渋柿の渋み成分はタンニン。
タンニンには水に溶ける可溶性タンニンと水に溶けない不溶性タンニンがあって、渋柿には可溶性タンニンが多く含まれるので渋く感じるのだ。
甘柿の場合はほとんどが不溶性タンニンになっているので渋みを感じないわけ。
で、渋柿でも、可溶性タンニンを不溶性タンニンに変えられれば甘く食べられるのだ。
そのための「渋抜き」の工夫が連綿と考案されてきたんだ。

その最たるものが干し柿で、乾燥させることで水分量を減らし、果実中に含まれるタンニンを凝集させることで不溶性にするのだ。
渋柿に含まれるタンニンはもともとポリフェノールの一種がいくつも結合してできている縮合型タンニンなんだけど、結合している数が少ないと水に溶けるのだ。
逆に、結合している数が増え、分子量が増えると水に溶けなくなって、同時に渋みを感じなくなるわけ。
水分量を減らすことでタンニンの分子が近づき、縮合が進むということだよ。
さらに、干し柿の場合は乾燥させることで保存食にもなっていて、流通にも便利になるんだよね。
これで日本の甘味の代表選手が干し柿になったのだ。

渋抜きには他にもいくつか方法があって、一番簡単なのはそのまま放っておいてとろとろになるまで完熟させること(リンゴと一緒に密閉して、リンゴから放出されるエチレンガスで熟成を進めるという方法もあるよ。)。
まだ固い、しゃりしゃりした状態で食べたいときは、別に渋抜きする必要があるのだ。
有名なのはアルコール(焼酎)につけるもの(樽柿)で、エタノールが入ることで水素結合が弱まるためにタンニンが水に溶けづらくなり、縮合が進むんだ。
同じ原理でアルコールを振りかけて密封しておいておく、という方法もあるよ。
それからお湯につける、米ぬかにつけるなんて方法もあるのだ。
工業的には、二酸化炭素の超臨界流体(高温・高圧下で液体時対の中間のような性質を示す状態)に通して二酸化炭素中にタンニンを抽出する、という方法もあるのだ。
これだと大量の柿を一気に渋抜きできるのだ。

干し柿は乾燥が進むと黒く、固くなり、表面には糖分が析出してきて白い粉が吹いてくるよね。
柔らかいうちならそのまま食べられるけど、固くなってくると刻んで料理に使ったりするのだ。
時代が下ると干し柿の製法も進み、大正時代に福島県で考案されたのがあんぽ柿。
硫黄で燻蒸してから干すことで、半生で柔らかく、ジューシーになるのだ。
これは海外で柔らかい干しブドウを作るときに硫黄燻蒸することにヒントを得たそうだけど、干しているうちに硫黄は飛んでいくので、食べる段階では硫黄臭はないのだ。
戦後になると、同じような方法で長野県名産の大きな柿を使った市田柿も登場するのだ。

ちなみに、干し柿は自分でも簡単に作れるよ。
渋柿の皮をむいて、少し表面を乾燥させてからへたのところをひもでしばり、風通しのよいところにつるしておけばよいだけ。
ただし、直射日光が当たるとかぴかぴになるので、陰干しで徐々に乾燥させていくのがみそ。
それと、湿度が高いとカビが生えたり腐敗したりするので、冬のような乾燥した時期に作るのがよいのだ。
むかしは秋に収穫した渋柿を冬に干し柿にしたわけだよね。

最後に、何かと嫌われる柿の渋だけど、むかしの人はわざわざ柿渋を抽出していろいろな用途に使っていたのだ。
防腐作用があるので即身仏に塗布したり、防水作用もあるので漁網や釣り糸に塗ったり、独特の茶に染める染料として柿渋染めに使ったりなどなど。
乾燥すると固く頑丈にもなるので、うちわや傘にも塗っていたのだ。
さらに、タンパク質凝固作用があるので、清酒を造るときに入れて余分なタンパク質を除去するのにも使われているんだって(今ではこの用途が一番多いらしいよ。)。

柿渋をとる場合は、まだ未成熟な青い果実を粉砕し、二昼夜ほど発酵・熟成させてから圧搾するんだとか。
そのまま圧搾した絞り汁が「生渋」で、その上澄みをとったのが「一番渋」。
一番渋をとった残りに水を加えてさらに発酵させ、そこから圧搾してとるのが「二番渋」と呼ばれるらしいよ。
これを数年保存して、熟成させてから使うんだって。
途中で発酵させるのでかなりの悪臭だとか。
こっちも簡単に作れそうだけど、干し柿と違ってあまり作りたくないね(笑)

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