2011/05/07

甘い汁

ペプシが新製品として甘くないコーラを発表したのだ。
コーラというと、あの独特の甘みとフレーバー(これが秘密なんだよね。)が特徴だけど、その甘みを取り除いた、というのだ。
これまでも人工甘味料を使ってカロリーを0にした製品はあったけど、画期的ではあるよね。
ちょっと興味があるので、一度は飲んでみたいのだ。
そのままではきつくても、アルコールを割るものとしてはそれなりに需要はあるかも。

で、その抜かれたコーラの甘さのもとは「異性化糖」という液糖(シロップ)。
成分的に見ると、単糖のブドウ糖と果糖が混ざったものなんだけど、これが清涼飲料水に最適なすっきりとした甘さになるんだって。
砂糖(しょ糖)だとちょっと甘さが口の中に残るし、何より、冷たい飲料を作る場合に粉状の砂糖は溶かしにくい、という問題もあるようなのだ。
ブドウ糖は砂糖の7割程度の甘さで、果糖は逆に1.5倍前後の甘さ。
砂糖より甘くないブドウ糖と砂糖より甘い果糖が混ざることで、砂糖と同じくらいの甘さだけど、すっきり感がある甘味料になっているんだそうだよ。
ちなみに、低温では砂糖の甘みは感じにくいけど、ブドウ糖や果糖では低温でもしっかり甘みを感じるので、やっぱり冷たいものに合っているようなのだ。

この異性化糖、いかつい名前だけど、それは生産方法から来ているんだよね。
一般に家庭で消費されている砂糖はサトウキビやテンサイから抽出された糖液から抽出するわけだけど、異性化糖の場合はデンプンに酵素を反応させて作るのだ。
麦芽糖も麦芽に含まれる酵素でデンプンを分解するんだけど、この場合は二糖である麦芽糖までしか分解できないので、そんなに甘くならないんだよね。
異性化糖の場合は主にトウモロコシ由来のデンプンを使うので、米国では「コーン・シロップ」なんて呼ばれるとか。

異性化糖の場合は、まずαアミラーゼを加えて95℃くらいまで加熱し、デンプンを小さく断片化することでよく水に溶けるようにするのだ(液化)。
次に、55℃くらいまで冷却してから、今度はグルコアミラーゼという酵素を加えて、さらに分解していくのだ。
αアミラーゼで分解すると、デキストリンなど、ブドウ糖がいくつか連なったオリゴ糖になるのだ。
このオリゴ糖をはしから分解していってブドウ糖にするのが今回の反応(糖化)。
これでデンプンののり状のどろどろがとろっとした甘い糖液になるのだ。
さらに、このブドウ糖液にグルコースイソメラーゼという酵素を反応させ、ブドウ糖を果糖へと変換するのだ(異性化)。
分子式を変えずに分子構造を変えることを「異性化」と呼んでいるので、一連の工程でできた液糖が異性化糖と呼ばれるわけ。



途中で異性化させて果糖に変換しているので、ブドウ糖液だと甘さがたりないため。
なんとか砂糖に近い甘さにしようとした結果で、最終的には、水分を飛ばして濃縮し、ブドウ糖と果糖の比率が一定になるように精製して製品となるのだ。
果糖が多ければより甘い異性化糖になるよ。
ちなみに、ブドウ糖が多い異性化糖はブドウ糖果糖液糖、果糖が多い異性化糖は果糖ブドウ糖液糖と呼ばれていて、それぞれ、果糖が42%、55%のものが一般的みたい。
果糖42%だと砂糖より少し甘くなくて(でも、低温では甘く感じることがあるよ。)、果糖55%より砂糖より少し甘くなるのだ。

最終的にシロップの形で出てくるので、冷菓や清涼飲料水の材料として使いやすいんだよね。
タンクローリーなどで運搬も比較的楽だし、工場で計量するときも液状なので量りやすいのだ(粉だと空隙があるから体積では量れないので、いちいち重量を量らないといけないからね。)。
でも、高温にするとメイラード反応が起きて茶色くなってしまうので、熱を加えるものには使いにくいという欠点も。
それに、水分を完全に除去して粉状、固形状にはできないので(その前にメイラード反応が起こってカラメルになってしまうのだ・・・。)、一般消費者向けにはほとんど売られていないのだ。

むかしはサトウキビやテンサイという植物が限定的にしか栽培できなかったから甘い糖は非常に貴重だったわけだけど、今ではこうしてそこらじゅうにあるデンプンからも作ることができるようになったのだ。
口の中でお米をずっとかんでいると甘くなるけど、あれも唾液中のアミラーゼでデンプンが分解され、麦芽糖ができるから甘いわけだけど、そこからシロップにはつながらないよね(笑)
また、お酒の醸造では、デンプンを麹で糖化し、酵母でそこでできた糖を発酵させてアルコールにしていたので、酵素を使った糖化はずっとやってきたわけだけど、せいぜい甘酒を造るくらいで、砂糖の代用になるほどの糖液は作ってこなかったんだよね。
おそらく、最後の異性化の工程が重要で、砂糖並みに甘くできたところが成功の秘訣のような気がするよ。

ちなみに、かつては酸分解でデンプンをブドウ糖にしていたらしいんだけど、それだと甘みも少ないし、副産物で色がついていたらしいのだ。
ここに日本の技術が搭乗し、糖化するところに酵素を使ってきれいにブドウ糖液にすることを可能にし、さらに、酵素を使って異性化をすることで甘みも増強させたのだ。
日本が醸造技術なんかで培ってきた技術力が生きているんだね。
そう思うと、たまに飲む甘い清涼飲料水もありがたみがでるかな?

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