2011/06/04

リキッド・メタル

最近歯医者に通っているんだけど、それは小学生くらいの時に治療した歯のつめものがとれたから・・・。
それはいわゆる「銀歯」。
むかしはキャラメルみたいな粘性の強いものを食べているとときどきとれたりしたよね(>o<)
ボクの場合は知らないうちにとれていたようなのだ。

この「銀歯」の正体は、銀錫アマルガムと呼ばれる合金。
銀と錫の合金に亜鉛や銅を添加した粉末を水銀で練ったものなんだよ。
それ自体は粘着性はないんだけど、しばらくすると膨張しながら固まるので、やわらかいうちに歯の隙間につめ、時間がたつとそこにしっかりはまって固まるのだ。
なので、むかしは歯につめものをした後はしばらくものを食べられなかったのだ。
簡単かつ手軽に患部をふさぐことができ、しかも安価なのでむかしはよく使われたんだけど、最近ではほとんど見られないんだ。
見た目的に目立って美しくないのと、つめものに含まれる水銀や銅などの金属が溶け出すおそれがあるからなのだ。
口中に溶け出したこれらの金属イオンが金属アレルギーの原因になることもあるので、このごろはチタンやセラミックスを使うんだよね。
セラミックスだと見た目も歯と同じようにきれいに仕上がるのだ!
保険がきかないから高価だけど。

水銀と言えば、むかしは体温計でも水銀を使っていたのだ。
水銀は熱に対する膨張率が一定で、体積が温度にほぼ線形に比例して増加するので、その性質を使って水銀の体積膨張を目盛りで刻んで温度計にしたわけ。
かつては気圧計も水銀を使っていて、mmHgなんていう単位もあるよね(1気圧は、760mmHgで、これは1013mb=1013hPaなのだ。)。
これは1気圧というのは、76cm分水銀を持ち上げるだけの力がある、という意味なんだよね。
今はあんまり使われないけど。

現代ではその強い毒性から使われることが少なくなった水銀だけど、近代までは工業技術的に非常に重要な金属だったのだ。
それは、金や銀などの金属を溶かし込んでアマルガムと呼ばれる合金を作る性質から来るんだ。
まるで水が塩を溶かすように、水銀の中には金属を溶かし込むことができるんだよね。
この液体の合金を作る性質を利用していたのが、メッキや鏡を作る技術。
これは古代から使われていた技術なのだ!

水銀は自然界では、辰砂(又は丹砂)と呼ばれる赤褐色の鉱石か、自然水銀と呼ばれる液体金属の形で算出されるのだ。
ほとんどは辰砂でそのまわりに自然水銀はあるみたい。
この辰砂は硫化水銀で、半透明から透明な赤い鉱石なんだけど、その色から、血が固まったもののように見えるんだよね。
そこから、古代中国では不老長生の霊薬として用いられていて、中国では王族が飲んでいたこともあるんだよ。
中国では不老不死の妙薬を作る技術を練丹術と呼び、その薬を金丹などとして服用していたんだけど、かえって水銀中毒で毒性があったんだよね(>o<)
水俣病で問題になった有機水銀ほど水溶性が高くないので毒性は相対的に低いとは言うけど、あまりよくないのだ。
また、その色が鮮やかなので粉にして顔料に使われていたけど、毒性があるので今はあまり使わないのだ。

この辰砂を数百度まで加熱すると水銀蒸気と亜硫酸ガスが出てくるのだ。
この水銀蒸気を集めて冷やしてあげると液体金属の水銀が得られるわけ。
ただし、この水銀蒸気は有毒なので、この作業は非常に危険なんだよ。
むかしはそれを人力でやっていたんだよね・・・。
で、こうして得られた水銀に金や銀を溶かし込んで、それをメッキに使っていたんだ。
仏像なんかの場合、銅で鋳造した仏像の表面を梅酢を使ってよく磨き上げ(梅酢に含まれるクエン酸で汚れを落とすのだ!)、そこに金や銀を溶かし込んだ水銀を温んだよね。
これを火にかざすと、その熱で水銀が蒸発し、銅の表面に金や銀が残るのだ。
このままだとまだ表面がでこぼこしていて光沢がないので、さらにへらで表面を平均化し、磨き上げ、ぴかぴかにするんだ。
まさに奈良の大仏がこの方法で金メッキされていたと考えられているんだけど、大量の水銀蒸気が閉鎖空間で発生するため、多くの作業者が水銀中毒になったと考えられているんだ(>_<)

鏡の作成にも当初から水銀は重要な役割を果たしているのだ。
原初の金属鏡は、銅や青銅の表面を磨いただけのもの。
それだとどうしても鈍いので、そこに錫メッキがなされるようになるのだ。
このとき、錫を水銀に溶かして塗ったわけ。
その後、カタバミやザクロの果汁で磨き上げるんだけど、カタバミやザクロにはシュウ酸が含まれていて、その還元力で「くもり」の原因である微細な金属の錆をとっていたのだ。

現代の鏡はガラスやプラスチックなどの裏面に金属を付着させたものだけど、最初はガラスに錫箔を貼り、そこに水銀を注いでアマルガムを作らせて付着させる方法をとっていたんだって。
ただし、これには非常に時間がかかる作業なのだ。
すなわち、超高級品というわけ。
19世紀になると、硝酸銀を使った銀鏡反応で直接ガラス表面に銀を付着させることができるようになったので、ガラス製の鏡がぐっと身近な存在になるのだ。
工業的に大量生産できるようになったんだよね。
今ではガラスだけじゃなく、プラスチックやアクリルなどの透明な板にアルミなどの金属を蒸着させて作っているのだ。
可視光の反射率という点では銀がよいみたいだけど、アクリル+アルミだと安価に軽く作れるんだよね。

というわけで、ついこの間まではだいぶ身近だった水銀も、今ではあまり見かけなくなってきているのだ。
それでも、人類の歴史の上では非常に重要な役割を演じてきた金属なんだよね。
常温で液体という特異な性質が有効利用されてきたのだ。
電池も水銀フリーになってきてますます見かけなくなったけど、今後も活躍の場は出てくるかな?

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