2012/10/13

アップルがプレイステーションを買収したわけじゃない

めでたいことに、今年は日本人のノーベル医学・生理学賞が出たのだ!
1987年の利根川進博士以来の快挙♪
もちろん、京都大学の山中伸弥教授だよ。
受賞理由は言わずとしれた「iPS細胞」。
最初の研究発表から6年という短期間で、50歳という若さでの受賞はその成果がすばらしさを物語っているのだ。

このiPS細胞というのは、成体の体の細胞に細工をしてあげると、体中の様々な種類のどの細胞にも分化できる能力を持つ細胞になるというもの。
induced Pluripotent Stem cellsの略で、日本語では「人工多能性細胞」とも呼ばれるのだ。
これまで再生医療の研究に使われていたのは受精卵由来のES細胞(Emryonic Stem cells)。
受精卵が細胞分裂を始めてから16細胞~32細胞くらいになったとき、単に細胞がくっついている桑実胚から中空の胚盤胞呼ばれる形状になるんだけど、球状の細胞の層の中にぽつぽつと細胞が転がっているイメージなんだよね。
その中の細胞を取り出して培養してできるのがES細胞で、受精卵を使わないと作ることができないのが難点だったのだ(実際的にも、倫理的にも)。
一方、iPS細胞は体の細胞を使って作れるので、その点はクリアできるし、何より、自分と遺伝情報が全く同じクローンの細胞が作れるのが魅力なんだよね。
ES細胞の場合は、どうしても核移植などをしないとクローンにできないのだ・・・。

ES細胞は受精卵から取り出して培養するだけなんだけど、iPS細胞の場合は細胞に処理をしないといけなくて、それが「induced」と呼ばれる所以。
2006年に山中教授がマウスでiPS細胞を樹立したときは、4つの遺伝子を導入することで実現しているのだ。
ES細胞に特異的に発言している遺伝子を導入すれば、幹細胞になるんじゃない?、という発想の下、そういう遺伝子を洗い出し、さらに組み合わせ実験で絞り込みをして、これだ!、という4つの遺伝子を突き止めたのだ。
その後、これは薬剤をうまく使えば3つの遺伝子でできることもわかったんだけどね。
この成果の後、世界で大競争が起こってヒトのiPS細胞の樹立が行われることになるんだけど、ここでも山中教授は実際に患者さんの細胞を使って樹立するという偉業を成し遂げるのだ。
今のところ、本当の意味で世界No.1の実力なんだよ。

iPS細胞やES細胞の「万能性」というのは、体に存在するどんな種類の細胞にも分化できる可能性を秘めている、という意味。
この先駆的な実験を行ったのが、今回の共同受賞者のジョン・ガードン博士なんだ。
ジョン・ガードン卿は、腸の細胞の細胞核を卵細胞の細胞核と交換する、という実験を行ったところ、腸細胞の細胞核を入れた卵細胞は普通の卵細胞同様に発生の過程を経てオタマジャクシになった、という発見をしたんだ。
これは、成体の体細胞であっても、発生の過程に必要な遺伝情報のすべてを持っていて、うまく発生という場に送り込めればひとつの個体を形作る「全能性」を獲得できる、ということを意味しているんだ(「全能性」という場合には個体まで発生できるポテンシャルを指し、すべての細胞に分化できるポテンシャルは「万能性」と呼ばれるのだ。)。
すなわち、どの細胞も基本的には遺伝情報は同じで、遺伝子の発現制御などの遺伝情報の使い方(こういうのを「エピジェネティック」というのだ。)で発生というプロセスがコントロールされていることを示したわけ。
(後に利根川博士は免疫細胞ではDNAの組替えをすることで多様性を確保している、という発見をし、すべての細胞が同一の遺伝情報を持っているわけではない、ということが証明されるのだ。)
ちなみに、ガードン卿のこの発見が論文になったのは1962年で、なんと山中教授が生まれた年の成果だよ!

で、このガードン卿の発見から、どうやったら成熟した細胞がいろんな細胞に分化する能力を取りもどせるか、という研究が始まるのだ。
イモリなんかは手がちぎれても再生するけど、ヒトではそうもいかないからね。
しかも、がんという病気は、もともと分化して成熟していた細胞が未分化な状態になり、制御不能な状態で勝手に増殖して起こるものなんだよね。
すると、逆に身勝手に増えるこの未分化の細胞を、うまく分化させ、成熟した細胞にもどしてあげれば治すことも可能なのだ。
その意味でも、ES細胞やiPS細胞の研究は重要なんだよ。
現在は、いろんな種類の細胞に分化させることには成功し始めているけど、一方で、中途半端な状態で人体に移植してしまうと、けっきょくそれががん細胞のようにアンコントローラブルに増殖してしまうおそれもあるので、その安全性の確保も急がれているんだ。
特に、iPS細胞は遺伝子導入をしているので、注意が必要だと言われているよ。

とにかく、また日本からノーベル賞が出たのは喜ばしいことなのだ。
これで19人目。
臨床応用まではもう少し時間がかかると思われるので、タイミング的には少し早いような気もするけど、この世界は日進月歩であっという間に進捗があるのもまた事実だから、これを機にまた一気に実用化に近づくかも。
まだ50歳だし、まだまだ最前線で活躍してもらいたいね

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