2013/01/12

唐土の鳥は病気を運ぶのか?

1月7日は七草がゆの日。
お説料理やおもちでつかれた胃を休めるため、また、冬場に不足しがちな青野菜を補うため、七草がゆを食べる日と言われているのだ。
いろんな習俗が集合した結果、江戸時代に庶民も含めて1月7日に七草がゆを食べるという風習になったようだけど。
これは将軍家が公式行事にしたのが大きかったみたい。

で、ちょうどこのころは寒の入りをしたところで、日本ではもっとも寒くなる季節・・・。
空気も乾燥しているし、カゼに注意したい季節でもあるよね。
そんなことも反映してか、七草がゆは食べるとカゼを引かないとか言うよね。
今ではあまりやる家庭はないと思うけど、かつては、「七草なずな 唐土の鳥が 渡らぬうちに とんとんとん」とか歌いながら七草をまな板の上でたたいたそうなんだ。
まさに、唐土の鳥が疫病を運んでくるので、その前に七草がゆを食べようというわけ。

鳥が病気を運んでくるというと、どうしても思い浮かぶのは鳥インフルエンザ。
基本的にはトリからヒトへの感染はまれだし、さらに、ヒトからヒトに感染することはまずないので、ニワトリなどの家禽の病気なんだけど、突然変異で病原性が上がってしまうと(高病原性鳥インフルエンザ)、一気にヒトの間にも広がりかねないので、注意を払っておくべきものなのだ。
ウイルス的にはヒトのインフルエンザとそんなに大きく違わないんだよね。
さらに、インフルエンザが史上初世界を駆け巡った「スペイン風邪」は、もとは鳥インフルエンザだったのでは、と考えられているらしいよ。
実際、世界的なパンデミックには至らないような毎年のインフルエンザの蔓延にしても、もとはトリやブタに感染を突然変異を繰り返していってヒトに強力に感染するウイルスになって上陸するんだよね。
いわゆる「香港A型」とか「ソ連A型」と呼ばれているのがこの経路をたどっているよ。

インフルエンザ自体は古代エジプトから知られていたようで、通常のカゼとは違って、症状が重い、感染力が強く広く流行するなどの特徴があるのだ。
もちろん、むかしはウイルスの同定とかはできないから、症状の記述と流行の具合といった病理的・疫学的な情況証拠からそう判断しているだけだけど。
日本でも、平安時代にそれらしい流行病(はやりやまい)の記述があるんだって。
でも、このころは流行するといっても局地的なもので、世界中が大騒ぎになるようなことはなかったのだ。

転換点は大航海時代以降の国際交流の拡大による世界の「縮小」。
ものや知識や文化の交流が一気に進んだんだけど、同時に、局地的な病気もグローバルになったのだ。
有名なのは梅毒で、コロンブス以降に一気に世界に広まっているんだよね。
もともとは毒性の弱い病気だったのに、新大陸と旧大陸が出会ったところで強毒性のものに変わり、それがわずか20年ほどで世界を駆け巡ったようなのだ・・・。
わずかな人数のスペイン人が中南米を征服できたのも、欧州人が持ち込んだ病気に現地人は耐性がなかったことも大きいと考えられているんだ。
いずれにせよ、いろんな病原体を世界で共有するシステムが確立されてしまったんだよね。

そんなのもあって、現代では検疫が厳しくて、アフリカや東南アジアに行く際は予防接種が必須だったり、日本に帰国するときにちょっとでもあやしい症状があれば検査を受けさせられたり、隔離病棟に入れられたり、とパンデミックを防ぐための手段が講じられているのだ。
天然痘は撲滅できたし、コレラや赤痢はたまに聞くけど大きく流行することはなくなったのだ。
これは大きな進歩なんだけど、インフルエンザはこういう仕組みではなかなか防げないのだ。

潜伏期間中にヒトが運んでしまうリスクもあるんだけど、問題は、ヒト以外が運ぶことなのだ。
ヒトの間で流行するA型のインフルエンザウイルスは、トリ、ブタ、ウマなどにも感染するもので、宿主ごとに毒性は異なるんだよね。
で、トリなら感染してもそんなに症状がひどくないウイルスが、人に感染する問い深刻な症状になる場合もあるのだ。
このA型ウイルスは特に突然変異が起こりやすいことも知られていて、宿主間を移動している間に感染力がきわめて強くなってしまったりもするのだ。
それで局地的な流行が発生するだよね。

で、それだけなら検疫でなんとか防波堤になれるんだけど、最初に話した高病原性鳥インフルエンザがヒトにも感染し、なおかつ、それがヒトからヒトへも感染してしまうような場合がさあ大変!
鴨や白鳥などの渡り鳥が感染し、海を越えてしまうと、パンデミックが発生する可能性があるのだ。
渡り鳥を検疫するのは不可能だから、インフルエンザに感染してそうなトリが発見されたら極力接触を避け、そのトリが感染しているのがどんなタイプなのかを見極めて事後的な対策を講じることしかできないわけ。
これがこわいのだ。

まさに「唐土の鳥が渡らぬうちに」七草がゆでも食べて耐性をつけるしかないね・・・。
この歌自体はそんなことを意識しているわけもなく、なんとなくどこから発生するかよくわからない病気は外界(=海外)から誰かが持ってくるのだろう、だとすると、なんか鳥が怪しいのではないか、くらいの話だとは思うんだけどね(笑)
これからもう少し寒い季節が続いて、インフルエンザ流行のリスクが高まっているから、自分でできる予防対策はきっちりとしておかないと!

0 件のコメント: