2009/11/21

ロースト・ヒポポタマス

今日は日本橋でうなぎを食べたのだ。
うなぎはおいしいよねぇ。
で、うなぎの食べ方と言えば「蒲焼き」。
白焼きであっさりというのもたまにはよいけど、やっぱり甘めのたれをつけて焼いてある蒲焼きがおなじみなのだ。
というわけで、今回は蒲焼きについて少し調べてみたよ。

蒲焼きは醤油、みりん、砂糖、酒などを混ぜ合わせて作った甘めのたれをつけながら焼いていく調理法で、イワシやサンマのような脂がのった青魚や、ハモやアナゴなどの淡泊な白身の魚に使われるんだよね。
うなぎは淡泊な白身で脂がのっているということで両方の特徴を持っているわけだけど、もともとはうなぎをおいしく食べる調理法として開発されて、それが他の魚に応用されたようなのだ。
ドジョウやヘビのような臭みのある食材でも比較的おいしく食べられるので使われるよ。
でも、ハモなんかは梅肉をつけてさっぱり食べたり、お吸い物にするのが主流だし、アナゴも焼くより甘めに煮付ける方がメジャーだよね。
一方、うなぎの場合はたれをつけずに焼く白焼きと蒲焼きくらいしか食べ方がないから、うなぎのための食べ方と言えるのだ。
一般に蒲焼きというとうなぎのことを指すのもうなづけるよね。

うなぎ自体は古代から食べられていたようで、遺跡から骨が見つかったりしているんだって。
川に簡単な罠を仕掛けておくだけで捕れるから、手に入れやすい食材ではあったみたい。
その食べ方はと言えば、太刀魚と同じようにそのまま塩をつけて焼いたり、みそで味をつけたり、筒切りにして煮たりしていたと言われているのだ。
ところが、うなぎの特徴はその脂の多さ。
焼いていると次から次へと油が出てきて醤油やみそといった調味料をはじいてしまうので味がつけづらいのだ。
でも、淡泊な味わいなので塩味だとあきる。
煮てもたくさん油が出てくるので食べづらい(逆に脂が少ないアナゴは焼くより煮た方がふっくらやわらかく食べられるのだ。)。
というわけで、なかなかこれというおいしい食べ方がなかったようなんだよね。

で、江戸時代の中期に出てきたのが今の蒲焼きの手法。
糖分が入ってより浸透圧の高いたれにつけることで身にも味がしみるし、濃い味なので味もつきやすいのだ。
さらに、たれにつけることで身の表面の油が落ちて、よりさっぱりした味になるのだ。
たれの方にもコクが出るんだよね。
うなぎや焼き鳥のたれ、アナゴの煮汁はつぎたしが尊重されるけど、それはこの身から出た油などでコクが出るからなんだよね。
というわけで、淡泊な身で脂の多いうなぎにはもってこいの調理法が完成され、江戸後期の文化文政期に一気に広まったようなのだ。
18世紀からだとすると、意外と新しい料理法だけど、実は、にぎり寿司や天ぷらなんかもこのころに鐘鋳された料理で、現在海外からも人気のある「日本食」はこの時代に作られたものが多いみたい。

蒲焼きの語原は、一般的には串に刺された身がガマの穂に似ている、或いは焼き上がった色がガマの穂の茶色に似ているから「がまやき」と呼ばれていたのがなまって「かばやき」になっという説が有力と言われているよ(「がま」も「かば」も同じ「蒲」の字なのだ。)。
ちなみに、「がま」と言えばイナバの白ウサギだけど、毛をむしられたウサギが大国主命の助言で身につけたのは茶色いガマの穂ではなくて、黄色っぽいガマの花粉(「蒲黄=ほおう」)の方だよ。
そうでないと白ウサギが茶ウサギになってしまうのだ!
その他にも、できあがった色・形が「樺(かば)の木」に似ていたから、とか、香りがよく「香疾(かばや)」と呼ばれたから、「蒲鉾(かまぼこ)焼き」が略されたなんて説もあるよ。

よく言われることだけど、関東と関西では蒲焼きの作り方が違うんだよね。
武家文化の江戸では、うなぎを背から開き、一度蒸して脂を落としながらやわらかくしてからふっくらと焼き、甘めのたれをつけるのだ。
一方、関西ではさきやすいように腹から開き、蒸さずにそのまま油を落としながら香ばしく焼いて辛めのたれをつけるんだよね。
でもでも、実は、江戸は武士に縁起が悪いから背開きにするというのは俗説で、泥臭さを抜くために蒸してから焼くんだけど、そのときに身の端がやわらかいと焼いている最中に崩れてしまうので、背から開いて身の端がかたくなるようにしている、という実際的な理由があるみたい。
蒸してから食べるので、太くて脂ののった身の固いうなぎも食べるのが関東の特徴なのだ。
身をふっくらさせるからたれも甘めにするんだよね。

関西のうなぎは泥臭くないのでそのまま焼いてしまうんだけど、どうしても身が固くなるのでそんなに太いうなぎは食べないんだよね。
さらに、できあがりが香ばしいので、辛めのたれの方が合うというわけ。
名古屋文化圏ではうなぎの蒲焼きを細かく切ってご飯に混ぜる「ひつまぶし」があるけど、この場合は関西風のかための蒲焼きを使わないとうなぎのみがほぐれすぎてしまうので。
普通に関東で買ったやわらかいうなぎの蒲焼きを家で切ってご飯に混ぜてもうまくいかないんだよね。

というわけで、調べてみると蒲焼きもなかなか奥が深いんだよね。
でも、一番興味深いのは、うなぎをいかにおいしく食べるかという工夫の末にできた調理法ということだよね。
ハモも骨切りしてまで食べるけど、めんどくさいって言ってしまったら、あのおいしいハモ料理は現在に残っていなかったはずなのだ。
今では食べ物がいくらでもあるからそういう工夫は生まれないかもしれないけど、むかしの人の創意工夫には敬服するよね。

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