2010/06/19

イオンの力ですいすい

工学実験実証探査機(MUSES-C)の「はやぶさ」が6月13日に地球に再突入し、7年にわたる宇宙の旅を終えたのだ。
機体本体は大気圏突入とともに分解し、燃えてしまったけど、それはきれいなファイヤーボールとして観測されているよ。
多くの流星の下の方でひとつだけ分かれて光っているのが熱シールドに守られた着陸用カプセル。
うまくいけば、試料回収カプセルには小惑星イトカワの砂が入っているかもしれなくて、それを地上に届けるものなんだ。
入っていなくても、7年にわたって約60億kmの宇宙の旅をしただけでもすごいんだけどね。

で、そのたびを支えたのが我が国のNECが開発した電気推進系。
最近有名になったイオンエンジンで、電気の力でイオンを加速して推進力にするものなのだ。
なかなか実用までは道のりが険しいと言われていた技術なんだけど、今回の「はやぶさ」の成果で長時間の運用実績が蓄積し、惑星間航行に使えることが証明されたんだ。
トラブルはいくつもあったけどね(笑)

通常、宇宙探査機の推進力というとヒドラジンなどの化学燃料を燃焼させ、その熱で爆発的に膨張した排気ガスを噴射することで進む化学推進系が一般的なのだ。
でも、宇宙には空気がないから、燃焼させるためには酸化剤を年長と一緒に積んでおく必要があるし、遠くに行くためには燃料もたくさんいるので、どうしても重くなってしまうんだよね。
NASAなんかは原子力電池と言って、放射線を出しながら原子崩壊する放射性同位体(RI)を熱源として積んで、そのエネルギーを推進力に換えている探査機も作っているよ。
外惑星探査のボイジャー・シリーズや木星探査機ガリレオ、土星探査機カッシーニ、冥王星の先まで行っているニュー・ホライズンズなんかはみんなそうで、燃料としてプルトニウムを積んでいるのだ!
熱源となるRIはそんなに大量じゃなくてよいので探査機も小型化できるし、何より、太陽から遠ざかると太陽光発電が使えなくなるので有効な手段なんだ。

でも、今回「はやぶさ」で採用されたのは、イオンエンジン。
火星の手前の小惑星が行き先なので、太陽光発電で発電しつつ、その電気を使ってイオンを加速するのだ。
具体的には、燃料として積んでいる希ガスのキセノン(Xe)にマイクロ波を放射し、電離させるんだって。
で、そこで発生したキセノンの正イオンに電圧をかけ、後方に加速して噴射するのだ。
でも、このときに噴射口付近で同じく電離した電子を中和機から噴射して電気的に中性にしてから噴射する必要があるんだ。
そうしないとどんどん本体が負の電荷を帯びていってしまい、まわりが真空で接地(アース)できない宇宙ではその電荷がそのまま残ってしまうのだ。

さらに、電子を噴射することで全体としてキセノンの噴射方向を絞ることができて、そのままだと正の電荷同士の反発力で広がっていろんな方向で出てしまうものを後方に絞って噴射できるようになるんだよ。
このとき、電気的には中和しているけど、キセノンはプラズマという状態になっているのだ。
プラズマは、正イオンと電子が電離している状態のガスで、よく「はやぶさ」のイオンエンジンの絵で青く光っているものがあるけど、あれがプラズマ発光の色だよ。

この方法だと、加速自体は電気の力なので、後は燃料の質量と加速された速度をかけた運動量の反作用分だけ前に進むのだ。
とは言え、比推力(単位重量当たりの推進剤で単位推力を発生させられる秒数、推進剤の効率の指標だよ。)は高いものの、加速に長時間を要するのだ。
つまり、時間をかけてちょっとずつ加速をしていくというもので、一気に爆発的な推力を産み出す化学エンジンとは大きく特長が異なるのだ。
これを長距離の宇宙航行に使おうという発想こそが「はやぶさ」では斬新だったというわけ。

これまでは静止軌道にある通信衛星の姿勢制御のためのスラスタに使われている例もあったようなんだけど、それも化学エンジンのスラスタが一般的だったみたい。
化学エンジンだとその分燃料をたくさん積んでおく必要があるんだけど、イオンエンジンはまだ動作が不安定で、扱いも難しいというのが原因みたい。
今回も長期間の運転は実現しているけど、途中で止まって、最後は2つの不調になったエンジンの生きている部分を組み合わせて使うという荒技まで使っているんだよね。
そういう意味ではまだまだ課題が残っていそうなのだ。

今回の「はやぶさ」の場合は、イオンエンジンによる加速だけじゃなくて、実際には惑星の重力を活用したスイングバイもやっているので遠くまで行けたんだよ。
何にせよ、頭を使ってより小さい探査機でどこまで遠くに行って帰ってくるか、という発想がよかったのだ。
そこがまさに「工学実証」だったんだけどね。
これである程度実証されたわけで、次はどういう展開になるか、ということなのかな?

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