2011/12/31

え、蒸して乾燥!?

寒い季節においしい日本料理といえばふろふき大根♪
ボクはカブの方が早くやわらかくなるし、甘みもあるので好きだけどね。
前から気になっていたんだけど、なぜ「ふろふき」なのか?
まさかお風呂をわかしながらゆでるんじゃないよね(笑)

由来を調べてみると、漆器職人が漆を乾かすのに大根のゆで汁を吹き込むとよい、と教えられ、果たしてうまくいくんだけど、そのときにゆでた大根が余ったので近所に配るとこちらも評判。
漆器を乾燥させる場所が「風呂」と呼ばれていたので、「風呂吹き」大根になったのだとか。
むしろ前後逆転で、漆器を乾かす風呂に水蒸気を吹き込む際、ただただお湯をわかすだけじゃもったいないから、ついでに大根もゆでちゃえ、という方が正解かも、とも言われているよ。

ここで言う「風呂」とは「蒸し風呂」。
江戸時代以前は「風呂」と言えば蒸し風呂だったんだよね。
で、江戸時代の間、いつかはわからないんだけど、お湯につかるように変わったのだ。
弥次喜多の「東海道中膝栗毛」には五右衛門風呂の話が出てくるから、そのころ(19世紀初頭の文化・文政期)にはすでにお湯に入る風呂が一般的になっていたはずだよね。
ちなみに、人が入るお風呂でゆでた大根じゃ食べる気がしないから、風呂吹き大根は蒸し風呂がメインだったころの発明なんだろうね(笑)

で、ここでさらに疑問。
漆を乾かすのに「風呂」ってどういうこと?
乾かすというと、水分を飛ばすイメージがあるので、暖めるとしても乾燥させる必要があるよね。
でも、漆の場合は違うのだ!
「乾かす」と言っても、それは言葉上だけで、実際には水分を飛ばしているわけじゃないのだ。

漆はウルシノキの樹液から作るもので、主な成分はウルシオール(タイやミャンマー産の場合はラッコール)と呼ばれる長い炭素鎖のついたフェノール系化合物。
これが「乾かす」という工程を経ると重合して高分子の樹脂になるのだ。
それが漆器表面の被膜だよ。
この被膜により、木の器は耐熱性、耐水性、耐油性などなどが高まり、かつ、腐りにくくなるのだ。
漆器はお手入れは大変だけど、しっかり手入れすると長持ちするんだよね。

採取したウルシノキの樹液(これを荒味うるしと言うのだ。)は、最初は乳白色なんだけど、空気に触れると褐色になるんだ。
この荒味うるしに少し熱を加えて流動性を上げてから濾過をし、不純物を取り除くのだ。
こうしてできたのが「生漆」で、これをよく攪拌し、成分を均一にするとともに粒子を細かくすることを「やなし」と言うんだ。
漆の主成分のウルシオールは水に溶けないので、ウルシオールは小さな粒子状の脂が水溶液中に分散しているエマルジョンの状態なのだ。
その油の粒子を細かくし、さらに均一に分散させるわけ。

さらに天日干しなどで低温のまま水分を蒸発させる工程を「くろめ」と言い、ここまで来てやっと塗れる漆になるのだ。
この生成過程で鉄分を加えると色が化学反応で黒く発色するんだ。
それが重箱などの黒漆だよ。
何も入れずにそのまま塗るのが透漆(すきうるし)で、木地の目を活かしたいときや、金箔を貼るときの接着剤に使われるのだ。
辰砂(硫化水銀)などの顔料を加えて色をつけることもあるよ。
椀ものなんかであざやかな朱色のものがこれ。
(漆は水に溶けないので、まず水銀などは椀の中身には溶け出さないよ!)

この後、漆は何工程にも分けて「塗り」が行われるんだけど、塗った漆を乾かすのが「風呂」と呼ばれる場所なのだ。
漆の「乾燥」というのは、漆に含まれている「ラッカーゼ」という酵素の作用により重合して高分子化すること。
さらに空気中の酸素で酸化して硬化するのだ。
このうち、空気酸化は常温でもどんどん進むんだけど、酵素反応はある程度の熱と湿気が必要なので、わざわざ「風呂」で「乾かす」んだって。
ちなみに、「くろめ」の時に低温で水分を飛ばすのは酵素を失活させないためだよ。
具体的には、ウルシオールのベンゼン環についている水酸基が架橋してつながるのだ。
空気の酸化では長い炭素鎖に二重結合ができているんだけど、そこは紫外線に弱いので、漆器は洗った後によく拭いてから日に当てずに乾かす必要があるんだよ。

一方、酵素反応を使わず、単純に加熱して固める方法もあるのだ。
それが焼き付けと呼ばれるもの。
120~150度で30~60分焼くんだって。
この方法だとウルシオールが熱重合するんだけど、金属のような塗りではうまく漆がつけられない素材でもコーティングできるのだ。
甲冑なんかの武具の場合はこの焼き付けでコーティングしているのだ。

というわけで、大根から漆の話に変わってしまったのだ(笑)
手入れが大変だから最近は普段使いはしなくなってしまった漆器だけど、やっぱり風情があるよねぇ。
何より、英語ではjapaneseと呼ばれるくらい、海外では日本の名産品と思われているものなのだ。
ちょっとは漆のことを知っていると、海外に行ったときに役に立つかも。
ちなみに、中国や東南アジアにも漆器はあるので日本の特産品ではないよ。
磁器をchineseと呼ぶのと同じで、最初に欧州に入ったときにどこの名産品だったかが重要なのだ。

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