2012/09/08

♪インドの山奥で、修行して

この前、浅草で印傳の小銭入れを買ったのだ。
前にちょろっと見たときにほしいと思ってたんだよね。
「勝ち虫」として縁起のよいトンボ柄で、こじゃれた感じなのだ。
お金も貯まるかな?

この「印傳」というのは、なめしたシカ(又はヒツジ)の皮に漆で模様を付けた工芸品。
こじわがあってしなやかなシカ皮は手になじむし、特殊な製法で防水性や耐久性もアップしているのだ。
現代では巾着やがま口、印章入れ、小銭入れ、財布などなどの製品があるよ。
かつては馬具、胴巻きなどの武具、羽織、たばこ入れなんかにも使われていて、江戸でもはやっていたんだとか。
今でも弓道の道具にはその名残があるみたいだよ。

一説にはインド伝来のものだから「印傳」と呼ばれる、と言われるんだけど、南蛮貿易がさかんになった江戸前期に東インド会社から輸入されたインド産の皮革製品「インデヤ革」に由来があるとか。
でも、日本で独自の発展をとげて、漆で模様を描くようになるのだ。
小桜や亀甲、トンボ、菊などがメジャーな柄。
これが小粋だというのではやるんだ。
さらに、異なる色の顔料を重ね塗りすることで、「更紗」のように極彩色にもできるのだ。
手間はかかるけどね。

インド伝来というのだけど、きれいな色に染色された革製品というだけで、それにインスピレーションを受けた日本人が独自の技術で作り上げているのだ。
特に、「ふすべ」と言われる染色技法は日本古来のもの。
推古朝というから、聖徳太子の時代にはもうあった技術なのかな?
そのままでは白いシカの皮を、わらと松脂を燃やしていぶし、黒い色をつけるのだ。
皮を「燻製」しているような状態だけど、煙でいぶすことで皮革のタンパク質が変性して腐らなくなるとともに、松脂中の樹脂成分が黒煙とともに皮の表面について、そこで熱化学反応をして高分子コーティングになるのだ。
これにより耐水性・耐久性が上がるらしいよ。
特殊な皮なめしの方法ということだね。
染液につけない皮革の染色方法って非常にめずらしいらしいよ。

この鮮やかな色のなめし革が一段と化けたのが甲州において。
もともと甲州は皮革製品が特産だったみたい。
重ね塗りの手法もすでにあったようなのだ。
で、その伝統も活かして、「インド伝来」の鮮やかな皮革に漆で柄をつける製法が始まるのだ。
今でも甲州印傳が有名で、伝統工芸品に指定されているよ。
甲州以外でも印傳の技術は一部あるみたいで、ボクが買ったのは江戸に伝わる技法で作った印傳だって。
それでも、やっぱり甲州印傳が本場みたい。

なめして染色した皮に手彫りした型紙を押しつけて、その上から漆を塗るのだ。
型紙は小桜やトンボなどの柄が穴状に「ぬかれて」いて、そこだけ皮に漆がつくわけ。
これを丹念に塗り込んで、熱と蒸気で漆を乾燥させるとできあがりなのだ(漆は熱と湿気で化学反応を起こして固まるのだ。)。
複数の型紙を使って顔料で様々な模様をつける技法もあるよ。
浮世絵のように一色ずつ色をつけていくんだよ。

漆で柄をつけるのは見た目だけの問題じゃないんだ。
細かな柄がなめらかな皮の表面につくことで、それが滑り止めになるのだ!
いぼいぼ付の軍手と同じかも(笑)
弓道の弓や馬具、たばこ入れ、小銭入れ、札入れなんかの用途だとそれが発揮されることになるのだ。
実用的でもあるんだよね。
皮のなめらかさを活かしながら、見た目もよく、実用的でもあるっていうのはなかなかすばらしいよね。

皮革製品っていうとどうしても欧米のものが思い浮かぶし、確かに染色も鮮やかなんだけど、日本の技術もあなどれないのだ。
印傳は和装小物としてしか見かけないけど、実は海外に発信すべき日本の皮革製品なのかも。
漆を使っているというだけで海外の興味は引きそうだし、柄もかわいいからいい線行くと思うんだけどなぁ。

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