2013/10/19

泣くなら名作劇場を見て泣きたまえ

今年も日本の研究がイグノーベル賞を受賞したのだ(笑)
恒例とは言え、一見間抜けに見える研究にも力を入れている日本の底力が垣間見れるよ。
でも、これって本人たちはわりと、というか、完全に真剣に研究しているんだよね。
研究結果だけ見ると、そんなことのために研究を!?、と思うようなこともあるけど、実際には、研究途上でそういう発見があった、ということの方が多かったりするのだ。

今回の日本の受賞研究はハウス食品による、タマネギの研究。
タマネギを切ると涙が出るけど、その催涙作用を持つ成分を生成させる酵素を発見した、というものなのだ。
この酵素の機能をうまくなくせれば、切っても涙が出ないタマネギができるというわけ。
遺伝子改変食物だと抵抗感があるけど、目が痛くならないタマネギならほしい人も多いんじゃないかな?

これまで、タマネギを切ると涙が出るのは、タマネギに含まれる硫黄化合物がニンニクやタマネギに含まれる酵素のアリイナーゼという酵素で分解されて発生するプロパンチオールSオキサイドという催涙成分であることはわかっていたのだ。
これは目の表面から刺激するだけでなく、鼻の粘膜からも刺激してくるので、ゴーグルや水中めがねではタマネギの「攻撃」を完全には防げないんだよね・・・。
なので、鼻栓も必要なのだ。
この催涙成分は気化性なので、水につけながら切るとわりと平気なのだ。
或いは、あらかじめ電子レンジで加熱してから切ると、アリイナーゼの活性が落ちるので、催涙成分そのものができにくくなるよ。

でもでも、タマネギ独特の風味もまたこのアリイナーゼによる分解によって作られるのだ。
なので、水につけたり、レンジで加熱したりすると風味も失われ、味が落ちるわけ。
そこで仕方がないから我慢してそのまま切るんだよね・・・。
ハウス食品の発見まではそう考えられていたのだ。

ところが、今回の発見で重要なことがわかったのだ。
タマネギ中の硫黄化合物は、アリイナーゼによってプロペニルスルフェン酸という不安定な物質になった後、催涙成分であるプロパンチオールSオキサイドや、風味成分になるチオスルフィネートになるんだけど、これはどちらも偶発的にできるものと思われていたのだ。
ところが、催涙成分の方はタマネギに含まれる別の酵素、催涙成分合成酵素によって作られていることが発見されたのだ。
ニンニクを刻んでもアリイナーゼで中間体のプロペニルスルフェン酸はできているはずだけど、たいして目が痛くならないのが、刻んでいる量が少ないというのではなくて、その催涙成分合成酵素があまり含まれていないからなのだ!

この酵素の発見に至ったのは、タマネギとニンニクのペーストを混ぜて炒めたときにたまに見られる緑変減少。
通常は飴色になるんだけど、中で緑色の色素ができることがあるのだ。
この色素は、タマネギに含まれる硫黄化合物、ニンニクに含まれるアリイン、酵素のアリイナーゼ、そしてアミノ酸の4種類の物質があるとできるのだ。
で、色素ができる仕組みを調べようとしていくと、タマネギ由来の粗精製のアリイナーゼとニンニク由来の粗精製のアリイナーゼを使ったときに色素ができるように大きな差があったのだ(ニンニク由来の酵素を使った方が色素ができる量が多い。)。
この緑色の色素はタマネギの風味成分と同じく、チオスルフィネートからできることが知られていたので、タマネギとニンニクの差は、チオスルフィネートができる量の差だということになるんだよね。

チオスルフィネートと、催涙成分のプロパンチオールSオキサイドは同じプロペニルスルフェン酸からできているので、逆にプロパンチオールSオキサイドの量を調べてみると、ニンニク由来の酵素で反応させた場合はほとんど検出できないのに、タマネギ由来の酵素で反応させると確かに検出されたんだよね。
そうなると、これまでの定説のように、催涙成分が偶発的にできる、というのでは説明できず、何かタマネギ由来の粗精製アリイナーゼに含まれるものによって催涙成分が作られていることになるわけ。

その未知の成分について、高速液体クロマトグラフィやらを使って分析した結果、新たな酵素の発見に至ったのだ。
この酵素のアミノ酸配列を解析し、さらに、そこから遺伝子をクローニングして、逆転写法を使ったRT-PCR法で、cDNAを得ることに成功したのだ。
これをもとにタマネギのゲノム上で催涙成分を合成する酵素の遺伝子が同定できたんだ。
実際、この遺伝子を大腸菌に導入してみると、催涙成分を合成する活性が確認できて、この酵素こそがタマネギを切ったときに涙を出させる張本人であることがわかったんだ。

なんと、この成果はかのNature誌に掲載されるほどの成果で、現在は切っても涙のでないタマネギの開発を進めているのだとか。
タマネギの風味成分や健康によいと言われる生理活性成分はチオスルフィネートからできることがわかっているので、今回見つけた酵素さえ何とかできると、切っても涙は出ないけど、風味も効能も遜色ない夢のタマネギができるかも、なんだって。
ハウス食品ってどうしてもカレー粉のイメージがあるけど、こんな研究もしていたんだねぇ。

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