2017/10/07

冷やして、固めて、電子で見る

今年もノーベル賞の季節がやってきたのだ。
残念ながら、自然科学三賞については日本人受賞者なし。
ま、毎年出るというものじゃないからしかたないけどね。
でも、やっぱり日本人がイルかもしれないと注目しちゃうよね。
で、今年の自然科学三賞のうち、ボクが気になったのは、ノーベル化学賞の「極低温電子顕微鏡法による液中の生体分子の高解像度構造決定法の開発」というもの。
物理学賞のLIGOによる重力波の間出というのは難しすぎるからね(笑)

この方法の画期的な点は、電子顕微鏡により、液中のタンパク質などの生体高分子の構造決定ができるようになったこと。
電子顕微鏡でのタンパク質の構造決定はむかしから行われていたんだけど、伝統的な方法だと、いったんタンパク質を結晶化させないとダメだったのだ。
なので、どうやって安定的な結晶を作るかが大きな課題だったんだよね。
その際、膜貫通型受容体については、生体膜の構成成分であるリン脂質と一緒に結晶化させるという方法が生み出され、その高次構造が分析されるようになったりしたのだ。
でもでも、やっぱりリジッドに固まった状態のタンパク質の構造決定しかできなかったんだよね。

一方で、実際の酵素や受容体などのタンパク質は、水溶液中でその機能を発揮しているのだ。
つまり、溶液中でどういう構造をしているのか、その構造がどのように機能に関係しているのか、が知りたいわけ。
そこで、核磁気共鳴法(NMR)を使った解析法なんかも出てきたんだけど、NMRだと、あまりに大きな分子量のものは解析できないんだよね。
情報量が多すぎて処理できず、高次構造が決定できないのだ。
なので、タンパク質の一部分だけを取り出して構造を見るとか、そういうやり方をしていたのだ。

そこで出てきたのが、極低温電子顕微鏡法という手法。
平たく言うと、液中のタンパク質を、液体ヘリウムや液体窒素で凍らせ、固めてしまって、それを極低温環境下で電子ビームを当てて解析するというもの。
透過型電子顕微鏡と同じように、試料に電子ビームを当てて、その影(射影)を見ているのだ。
そのままだ二次元情報なんだけど、角度・方向を変えて像をとり、それをまとめてコンピュータで処理してあげると三次元情報が復元できるのだ。
もちろん、その復元にもものすごいコツがあるみたいだけどね。
こうして、氷の中で、そのタンパク質がどういう立体構造をしているのかがわかるようになったわけ。

この方法のすごいところは、液中であってもリジッドな構造体の部分と、液中ではフレキシブルに動いていて、おそらく機能に関係していると思われるところが分けて見られるということ。
可動部分はぶれて見えるので、そこがまさに目をつけるべきところということになるのだ。
コンピュータによる解析は必須だし、直接見られるわけではないんだけど、かなり光学顕微鏡に近い感覚でタンパク質などの生体高分子の観察ができるようになったんだよ。
グラフィックスで三次元モデルが作れて、それを動かしたりもできるしね。
タンパク質の機能に関係している部分を研究することは、病気の解明や薬の開発に直結しているので、非常に重要な成果なのだ。

ただし、この方法だと、立体的な輪郭はわかるんだけど、どのアミノ酸残基がどういうように相互作用して・・・、という情報までは当然得られないんだよね。
立体的な形がわかるのみ。
なので、伝統的な結晶化による構造決定も必要で、例えば、突然変異である特定のアミノ酸残基が変わったときにそのタンパク質にどういう影響があるか、というような研究をしようと思ったら、まず立体的な構造が維持されているのか、変な形になってしまうのかを観察した上で、実際に分子レベルでどういうことが起こって形状が変わってしまうのか、といったことを突き詰めていく必要があるわけだよね。
そうなると、両方の解析法が必要になるので、これができたから従来の解析方法に取って代わる、というものでもないんだ。

それにしても、技術の進歩はすごいよね。
見えなかったものを可視化し、検知できなかったものをとらえられるようにし、それで更に謎が深まっていくのだ(笑)
人類の知的好奇心ていうのは果てしがないのかも。
ま、ここから先はないよ、というのも夢がないけどね。

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