2024/04/06

間違うと大変

 小林製薬の紅麹問題はなかなか収まるところを知らないね・・・。
プベルル酸というカビ毒の混入があったことは判明したけど、これってまだ原因と特定できているわけじゃないんだよね。
もともとあんまりよく知られていない物質で、そもそも腎毒性があるかどうかも不明。
仮に、今回の健康被害はこのプベルル酸が原因だったとしても、なぜ混入したのかがわからないと対処できないのだ。
まだまだ未解明なことが多すぎる。
でも、ここをおざなりにしてしまうと、あとで大変なことになるのだ。

歴史的有名な疫学上の大失敗は「脚気」の問題。
日清・日露戦争では多くの戦死者が出たわけだけど、陸軍は活計苦しんで亡くなった方も多いんだよね。
っていうか、神経がマヒして動けなくなるから、軽く症状が出ただけでも戦場では致命的。
当時からいかに脚気を克服するかが大きな課題だったんだけど、陸軍はその対応策を間違ってしまったんだよね。
その中心人物が軍医中将の森林太郎。
そう、「舞姫」の作者、森鴎外その人だよ。

「脚気」の症状は古代の文献にすでにみられるのだけど、広く認知されるようになったのは江戸時代から。
これは白米中心の食文化になったことが影響しているのだ。
主に都市部で発生していて、「江戸わずらい」なんて呼ばれたわけだけど、その本当の原因はビタミンB1の欠乏症。
江戸をはじめとした都市部では、大量の白米にごくごく少量のおかず、という食事スタイルだったので、欠乏症が発生しやすかったのだ。
箱根を越えると江戸わずらいが治るなんて言われていたけど、これは田舎では玄米や麦飯、雑穀などを食べていてビタミンB1を摂取できるようになるからなんだよね。
江戸時代にぬか漬けが普及したのも、ビタミンB1が補給できて脚気にかかりにくくなる、というのがあったと言われているよ。

明治になって、近代軍事組織が整備されると、またこの脚気が問題になるのだ。
というのも、軍人を募集する際に「腹いっぱい白米が食べられる」とアピールしたから。
江戸のような都市部を除いて白米はぜいたく品だったので、当時としてはこのコピーはすごく魅力的だったんだよね。
でも、その結果、軍隊で脚気が大量発生したのだ。
というのも、陸軍の場合だと、1日の食事として支給されるのが、白米6合+少量のおかず、という感じで、まさに脚気リスクがたまるメニューだったから。
で、どげんかせんといかん、ということになったんだけど、陸軍と海軍で対応が分かれるんだよね。

海軍の方は、英国軍では脚気が極めて少ないことに着目し、ひょっとすると日本式の食事が悪いのでは、ということで、兵食に洋食を導入することにしたのだ。
海軍軍医の高木兼寛は、おそらく炭水化物とタンパク質のバランスが悪い、もっとタンパク質を取らないとだめだ、と考えたんだよね。
でも、パンと肉の西洋食(例えばパンとシチュー)はあまり評判がよくなく、肉を使ったおかずにごはんという日本式の洋食スタイル(例えば肉じゃがとごはん)をとることに。
ただし、群で支給する食事に使える金額には上限があったので、肉多めのおかずにするとそっちにコストがかかり、高価な白米が使えず、安価な麦飯になったのだ。
でも、実際はこれが功を奏し、オオムギからビタミンB1が摂取できるようになって脚気が減ったのだ。

これに対し、陸軍は最近原因説をとるんだよね。
森林太郎をはじめとする陸軍軍医はドイツ留学組が多く、ちょうどそのころドイツでは多くの感染症の原因が最近によるものであるというのが盛んに研究されていたから。
また、実際に海軍では食事を変えて脚気が減っているのだけど、そういう経験則的なことではなく、理論的に脚気を駆逐したかった、という対抗心もあったみたい。
で、衛生環境の向上などの取組を始めるわけだけど、食事は依然のままの、脚気の高リスク食・・・。
結果として、日清戦争で数千人、日露戦争では3万人弱が脚気でなくなったといわれているよ(>_<)

当時の技術力では限界もあるのだけど、このように原因を見誤るとかえって被害が拡大したりするのだ。
なので、今回の紅麹の件も、プベルル酸が悪い、と短絡的に考えてはだめで、慎重にじっくりと検証することが必要なんだよね。
そうしないと、また次に同じようなことが起きてしまいかねないのだ。

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