2024/10/12

金のひび

 なんでも鑑定団とかを見ていると時々出てくるけど、陶磁器の修復方法で「金継ぎ」というのがあるのだ。
割れたかけらをくっつけるのだけど、そこの境界部分が金色になっているやつ。
目立たないように修復するのではなく、それもまたひとつの「味わい」として楽しむ、というものなんだよね。
千利休がそういう考え方を打ち出したらしい。
ものを大事にしつつ、さらにそこに新たに芸術性を加えるというのはすごい発想なのだ。
日本発で「モッタイナイ」の次に広めたいよね?

そんな金継ぎなんだけど、これははんだのように金属を溶かして間をつないでいるわけではないのだ。
当たり前だけど、陶磁器と金属ではそこまできれいに接着しないし。
ここの接着で重要なのは、「うるし」なのだ。
うるしは一度固まってしまうと水にも油にも酸にもアルカリにも強いので、食器として使う場合でも安心。
漆器は木地物のそういう弱点を克服するものだしね。
一方で、極度の乾燥や継続的な湿気、それから紫外線が大敵。
陶磁器はこういうのには強いけど、金継ぎが修復した場合は気を付けないといけないよ。

で、具体的な方法だけど、一般に公開されているものはあるのだけど、細かなコツや美しく仕上げる手法などは師弟関係の中でのみ伝達されるので、よくわからない部分が多いのだ。
ま、職人仕事だからそういうものだろうけど。
ただ、そういう一般レシピでよいのであれば、金継ぎ体験なんかもできるみたい。ちょっと興味あるかも。
そういうのの公開されているプロトコールを見てみると、次のようなものなのだ。

(1)接着したい断面にうるしを塗り、よく乾燥させる(これは後で接着剤をつけやすくするため)。
(2)小麦粉を水で練って作ったのりと生うるしを混ぜて「麦うるし」を作り、これを接着剤としてくっつける。
(3)(一般的な漆器の場合と同じように)高温多湿の室の中に入れてうるしを固める(~2週間)。
(4)修繕した部分にさらに黒うるしを塗り、乾燥させた後磨く、という固定を数回行う。
(5)仕上げとして修繕部分に金粉(金箔を粉にしたもの)を赤うるしと一緒に塗り、乾燥させる。
(6)最後の仕上げとして透うるし(水分の多い生うるしから不純物をろ過して除いた透明度の高いうるし)をコーティング剤として塗り、乾燥させる。

うるしはウルシオールという成分がラッカーゼという酵素の作用により周辺の水と反応して重合し、固まるんだよね。
なので、「乾燥」と言いつつ、高温多湿のところにおいておく必要があるのだ。
で、固まったとき、少しだけ体積が減って縮むのだ。
コーティング剤として使う分にも気にする必要はないのだけど、金継ぎのような修復に使う場合は、そのままにしておくと修復部分が少しだけへこんでしまうんだよね。
人間の触覚はなかなかすぐれたもので、割とそういうのを知覚してしまうので、さらに修繕部分にうるしを重ね塗りし、平たんにしていく作業が必要なのだ。
これが(4)以降の作業の意味。
で、修復部分をひびが目立たないようにすることもできるけど、最後に金色にしてむしろ新たな味わいを出す、という工程になっているよ。
ここで金粉を使わず、陶磁器の地の色と近い感じの色合いで塗ってあげれば日々を目立たなくすることもできるのだ。

接着剤に使っている「麦うるし」も特徴的なもので、これはのりの成分にもなるでんぷんをあえてすべて取り除き、(麺のコシのもとである)グルテンだけを残して使っているのだ。
でんぷんのりだと一度固まっても水気があるとすぐにふやけてしまってはがれてしまうので、高温多湿な環境で固める必要のあるうるしと相性が良くないのだ。
グルテンのりの場合は、もともとの接着力も強く、固まった後も水気で柔らかくはなるけど接着力は強いままなのでちょうどよいわけ。
こういうのも昔の職人さんが工夫しながら見つけたんだろうね。

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