2024/12/21

立ちはだかる壁

 三党幹事長合意というのがあったけど、けっきょく自民党税調は国民民主党の提案「178万円への引き上げ」について渋い回答を出したのだ。
合意がまとまったすぐ後に「目指すだけ」とか「いつまでにとは明言していない」とか日和った発言があったわけだけど、国民目線で見れば、萎えるよねぇ・・・。
もともと税調は「聖域化」していて素人は簡単に手が出せないとかなんとか言うけど、そういう古いやり方が限界に達していて前回の選挙結果になったんだろうから、多少は歩み寄りが必要と思うんだけどなぁ。
で、さんざん選挙の時から聞いている「103万円の壁」だけど、わかっているようでよくわかっていなかったので、自分でも調べてみたよ。

端的に言えば、所得税の控除の問題で、年間で103万円を越える収入があると所得税を支払う必要が出てくるので逆に手取りが減ってしまう、という問題なのだ。
なので、多くの場合は103万円を越えないようにパートやバイトを抑えて働く、ということになるんだよね。
そう聞いただけでも昨今の人手不足問題に影響がありそうだよね。
しかも、この「103万円」という数字はだいぶむかしに決めたきりで、その後の物価上昇率や最低賃金の上昇などの要素が加味されていないんだよね。
すなわち、むかしよりさらに働く時間を抑えないといけない状況になっているのだ!
これが批判される主な理由かな。

この所得税の控除については、所得税法で決まっているよ。
103万円の内訳は、48万円の基礎控除と55万円の給与所得控除に分かれるんだ。
基礎控除については、所得税法第86条第1項で「合計所得金額が二千五百万円以下である居住者については、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額を控除する。」とされていて、さらに場合分けで、「その居住者の合計所得金額が二千四百万円以下である場合 四十八万円」(第1号)となっていることに由来するよ。
これは全員がまず最初に控除される部分なので「基礎控除」というのだ。
休止世所得控除については、同じ所得税法の第28条第3項で「前項に規定する給与所得控除額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額とする。」となっていて、さらに場合分けで「前項に規定する収入金額が百八十万円以下である場合 当該収入金額の百分の四十に相当する金額から十万円を控除した残額(当該残額が五十五万円に満たない場合には、五十五万円)」(第1号)となっていることから来ているのだ。
実際に180万円の収入がある場合の給与所得控除は62万円で、そこから収入が下がると減っていくわけだけど、下限として55万円という数字が規定されているんだ。
103万円の収入だと、103×40/100-10=31.2となって55を下回るので、55万円が給与所得控除の額になるというわけ。

このように、法律の本文で規定されている数字なので、見直そうとすると法律改正が必要という非常にハードルが高いものではあるんだよね。
でも、今回は政治主導の話であり、実際に与党2党と国民民主党との間で合意があって、この3党合わせれば過半数を越えるのだから、普通は実現するものだと思うよね・・・。
けっきょく幹事長同士の合意をなかば反故にするような議論を党内でしていて、結論もそっちに持って行ってしまうのだから(少し引き上げることにしたので中的にはだいぶ譲歩しているつもりかもしれないけど)、さすがにこれ以上は議論できないと席を立たれてしまうわけだ。
これで来年度予算案は無事に国会を通るのか?

で、実際にどのあたりの数字が適正か、という問題もあるよね。
単純に二つの指標で計算してみるよ。
まずは物価上昇率。
総務省統計局の公表している統計データである消費者物価指数(2020年基準、全国平均、総合、年度平均)で見てみると、103万円のかべがせっていされた1995年は95.8で、これを最新のデータである2023年度の106.3と比べると、物価上昇率は11%増くらいになるよ。
そのまま103万円にかけると、114万円ということになるのだ。
でも、国民民主党が主張しているのはこの数字ではなくて、最低賃金なんだよね。
こっちは1995年当時は611円で、今は1,054円なので、73%増、103万円にかけると178万円という数字が出てくるのだ。
確かに、給与所得についてかある税金なので、その給与水準を示す司法である最低賃金で計算するのは妥当性があるよね。

でも、これってさらに政府は1,500円に引き上げたいんだよね・・・。
というこおは、103万円との関係で言うと、2倍以上にする計算になる。
そこまではやらないんだろうなぁ。

2024/12/14

みこみこハウス

 皇位継承順位第二位の悠仁親王が来春から筑波大に進学あそばされることが決まったようなのだ。
新学制下では原則として元官立の学習院ということになっていたんだけど、秋篠宮家ではその慣例には習わず、内親王お二人は大学から国際基督教大学(ICU)に進学されたし、今回の悠仁親王に至ったっては、幼稚園・小学校・中学校はお茶の水女子大付属、高校は筑波大付属で徹底的に学習院を避けているんだよね。
もともと学習院という学校は、幕末に公家の師弟の教育機関として京都に創設されたんだよね。
江戸時代最後の天皇となる孝明天皇より、「学びて時にこれを習う」という論語の一文から「学習院」という勅額が下賜され、学習院と名乗るようになるのだ。
それが御一新後に東京に移ってきて、皇族・家族の教育機関として宮内省管轄の官立学校になるのだ。
宮内省が解体された戦後は私立学校として再出発するんだけど、ずっと皇室との関係は続いてたんだよね。

話はそれたけど、この悠仁親王のお住まいは赤坂御用地内の秋篠宮邸。
本来は皇位継承順位第一位の人物は「皇太子」として呼ばれ、お住まいは「東宮御所」となるんだよね。
今回は今上天皇の弟にあたるので「皇太弟」と呼ばれてもおかしくないんだけど、令和の譲位の際に、そういう呼び方ではなく、「皇嗣」と呼ぶことになったんだよね。
これは皇室典範の規定の中では、第4条で「天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する」としていて、皇位継承順位第一位は「皇嗣」にしているのだ。
下って第8条前段で「皇嗣たる皇子を皇太子という」として、それが天皇の息子に当たる場合は「皇太子」と呼ぶ、とするとともに、後段では「皇太子のないときは、皇嗣たる皇孫を皇太孫という」として、子世代に皇嗣がいなくて孫世代まで行ってしまった場合は「皇太孫」と呼ぶ、と定めているんだ。
で、ここで問題があって、弟が皇嗣になる場合が法律上は想定されてないんだよね・・・。
むかしからよくあることなので俗に「皇太弟」という呼び名はあるのだけど、法律上定めていないので使えないようなのだ・・・。
珍しくないことだからこの際足したらいいのに、とは思うけど、そうもいかなかったのかな?

これがいろんなところにはねていて、皇太子のことは「東宮」ともいうので、天皇のお世話をする侍従職に対比して、皇太子のお世話をする東宮職というのがあったわけだけど、それもいまは「皇嗣職」となっているのだ。
とはいえ、宮内庁の内部組織を規定している宮内庁法には「東宮職を置く」規定しかなかったので、生前退位の手続きを定めた「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」により附則を追加し、「皇嗣職を置く」規定を追加したんだよ。
さらに、皇太子でないから東宮御所とは呼べず、かといって、「皇嗣御所」とかいうのも変なので、皇嗣になる前からの呼称の秋篠宮邸という従前からの呼び方を継続しているのだ。
ただし、お住まいの呼称はけっこう流動的で、譲位後すぐは皇居に移れなかったので、赤坂御用地内の東宮御所を「赤坂御所」と名前を変えて使っていたよね。
今は上皇・上皇后両陛下のお住まいにするためにバリアフリー化などの必要な改修がなされて、「仙洞御所」となっているよ。
ちなみに「仙洞」というのは仙人の住処のことだけど、上皇・法皇の御所のことを「仙洞御所」と呼ぶんだって。

皇太子を東宮と呼ぶのは中国の風習にしたがっているのだけど、伝統的な中国の応急の場合、「君子南面」なので、皇帝の宮殿は南向きに作る、その東側に皇太子の宮殿たる東宮を作る、となっているのだ。
五行思想では「東」は「青龍」であり「春」であるので、「東宮」は「春宮」とも書くのだ。
確かに赤坂御用地は皇居=江戸城から見て東に位置しているよね。
でも、今の御所は実は南向きではなく、東向きに建てられているのだ。
明治になって最初に宮殿を造営したときは伝統にならって南向きで作ったんだけど、今の御所を作る際、無理やり南向きにして設計をゆがめるより、きちんとした宮殿を作りたいという設計者の思いがあり、昭和天皇の了解も得て南向きでない宮殿にしたそうだよ。
さすがに赤坂御用地のほかに新たに皇室のための用地を用意するわけにはいかないから、皇嗣に当たる人の邸宅は皇居から見て東にはあり続けるだろうけどね。

ちなみに、江戸時代は、皇太子も内裏の中に住むことが通例になっていて、御所とは別に東宮御所を設けることはなかったようなのだ。
皇室財政が相当厳しかったというのもあるだろうけど。
で、京都御所では、儀式などに使う正殿の裏手(北側)に天皇の日常の居所である御常御殿というのがあるのだけど、皇太子の住まいはその北西に位置する建屋に住まわ荒れていたようなので、もはや「東宮」ではなかったんだよね。
むしろ、せっかく御所を新たに東京で造営するからしっかり東宮は御所の東に作りたいと思ったのではないかと考えるんだ。
ちょうど江戸城のから見てすぐ東側には旧紀州藩の上屋敷があって用地としても使いやすかったしね。

2024/12/07

えらいこっちゃ

 韓国で大統領が「非常戒厳」を発動して議会ともめて大変な騒ぎになっているようなのだ。
おとなりの国はこれから少し政治が不安定になるみたいだね。
それにしても、議会を止めるとか、街中に軍隊を展開するとかすごいことができるんだね、と改めて思ったよ。
各国でも似たような制度はあるんだけど、どこまで何ができるかはそれぞれ。
で、その中でも日本はかなりマイルドなようなのだ。
ま、それも戦前の体制を反省して、ということなんだろうけど。


戦前の日本では、帝国憲法において「天皇ハ戒厳ヲ宣告ス。戒厳ノ要件及効力ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム」とされていて、実際にその要件や効力を規定していたのは「戒厳令」という名前の太政官布告だったのだ。
憲法には「別に法律で定める」規定になっているんだけど、帝国憲法に先行していた太政官布告がその効力を有する、という解釈でいたみたい。
この戒厳令は11条しかな短いもので、その内容は第一条の「戒厳令ハ戦時若クハ事変ニ際シ兵備ヲ以テ全国若クハ一地方ヲ警戒スルノ法トス」にすべて語られているんだよね。
戦争や事変のような非常事態が起こったとき、全国又は一部地方で軍隊を展開して警戒に当たれるようにする、ということなのだ。
今回の韓国の例に近いのかも。

帝国憲法の規定にあるとおり、天皇が宣告するものなので、基本的には天皇の親裁事項(天皇が自ら裁定するもの)。
日清・日露両戦争の際は勅令により戒厳の宣告が行われたようなのだ。
時代が下ってからは「公式令」というのが整備されて、「戒厳の宣告」は「詔書」によって行うこととし、天皇の親署に御璽を押印して、内閣総理大臣が年月日を記入したうえで、内閣の前国務大臣が副署する、というように体裁が整えられたんだけど、こうなってからは正式には戒厳の宣告は行われなかったみたい。
でも、そうなると、太平洋戦争中は戒厳体制に入っていないということなんだね・・・。
治安維持法によりかなり締め付けが厳しく、特高なんかも跋扈したわけだけど、内地に軍が展開されたというわけではないのか。

で、戦後になって日本では「戒厳」について定めた法令は一切なくなってしまったんだよね。
当たり前と言えば当たり前なんだけど、新憲法において交戦力を放棄し、軍隊を持たないという整理になったので、軍隊を街中に展開するという事態は想定されないのだ。
その代わり、よりマイルドな統制強化の枠組みとして「非常事態宣言」というのが導入されているのだ。
「非常事態宣言」というとコロナの時を思い出しがちだけど、あちらは「新型インフルエンザ等対策特別措置法」に基づく「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」のことで、「非常事態宣言」と通称されていただけなのだ。
正式に法律で「緊急事態宣言」を規定しているのは警察法で、第七十一条第一項で「内閣総理大臣は、大規模な災害又は騒乱その他の緊急事態に際して、治安の維持のため特に必要があると認めるときは、国家公安委員会の勧告に基き、全国又は一部の区域について緊急事態の布告を発することができる」となっているのだ。
警察法にあることからわかるとおり、ここで緊急事態の対処に当たるのは警察官だよ。

問題は、緊急事態になるとどうなるか、ということだけど、緊急事態宣言が出ると、内閣総理大臣が一時的に警察組織を統制することになっていて、警察庁長官は都道府県警の警視総監及び警察本部長に直接指揮できるようになるんだよね。
平時では、都道府県に置かれる都道府県警察本部は地方の組織になるわけだけど、緊急時だけは、それが国の機関である警察庁を頂点として指揮命令系統が一本化される、ということなのだ。
刑事ドラマではよく見るような都道府県警の縄張り争い(?)みたいなのがなくなるということかな?
でも、逆に言うと、警察法で定めているのはそこまでで、強制力を持って何かをする、というものではないんだよん。
軍隊が展開される瀬愛から、党勢が一本化された警察組織が展開される、というような大転換だよ。

コロナの時に「非常事態宣言」のときも問題視されていたけど、日本の現行法の世界では、強制力を持って国民の権利を侵して何かさせる、というのが最小限になるようになっているのだ。
それあ戦後の民主主義ということなんだろうけど、危険な地域から強制的に移住してもらったりとか、国の重要施設の整備に当たって用地に居座り続ける人たちを排除したり、とかいうのもできないんだよね。
海外では普通に行われるようなことでも。
それがいいのかわるいのかはいろいろと議論があるわけだけど、何か起こったときにちょっと心配ではあるよね。
日本人は災害の避難時にもわりと行儀よく行動するとは言われているけど、それを過信しすぎるのもなぁ、というところ。
乱用されないという大前提はありだけど、もう少し強制力はあってもいいように思うんだよなぁ