2025/01/18

当事者間で

 最近よく報道で耳にする言葉。
それは「示談」。
自動車の接触事故とかをイメージするけど、今話題になっているのは、泥酔したうえでの住居不法侵入だったり、和解金を9,000万円支払ったと言われるトラブルだったり。
そこで、改めて「示談」というものを調べてみたのだ。

一般に「示談」と言われているものは、法律上は、最場外の和解、私法上の和解と呼ばれるもの。
民法第695条「和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる」という条項に基づくもの。
重要なのは、双方が譲り合って妥結している、と定義されていることなのだ。
交通事故なんかの場合は、加害者側の謝罪と損害賠償によって被害者側が蛍雪への被害届を取り下げる、みたいな感じ。加害者側は謝罪と被害者側が納得する額の金銭の支払いで、被害者側は被害届の取り下げで、それぞれ裁判で争わないということを譲って合意していることになるよ。

民法事案であれば、双方が納得しているのであれば必ずしも裁判で決着をつけなくてもよいわけだけど(逆に言うと、双方の話し合いだけでは決着しないから民事裁判をするわけだけど)、刑事事案はそう単純ではないんだよね。
治安維持という観点では、社会通念上許されざる行為で法律上犯罪とされているものについてはきちんと罰する必要があるのだ。
なので、接触事故でけがをした、という程度であれば被害届が取り下げられれば送検・起訴されることはまずないけど、ひき逃げで被害者が亡くなっているような場合、被害者遺族と賠償金の支払い等で和解ができていたとしても、刑事罰は免れないのだ。

例えば、今回の住居不法侵入の場合、知らない人に勝手に家に入ってこられる、ということだけど、その家の住人が和解で来ている限りにおいてはそこまで目くじら立てて罰するほどでもないものだよね。
なので、このケースは示談で和解ができていれば刑事事件になる可能性は極めて低いのだ。
入っていただけでなくその場で暴れて器物損壊もある、なんて場合は別だけど、ただ入ってきただけで物的損害なく追い出しに成功していれば、入ってこられた住人側が許すというのであればそれ以上のものではなくなるよね。
一方で、問題は「トラブル」の方。
何があったのか全く詳細はわからないけど、金額的に相当なことがあったんじゃないかと推測してしまうよね。
すると、被害者との間で和解が成立していようが、刑事事件になる可能性はあるのだ。
実際、加害者側はコメントで「示談で和解しているから今後の活動に支障はない」とか書いているけど、すでにこれだけシャイ的に騒がれているわけで。
何があったのかの中身いかんでは、公序良俗の観点で、また、治安維持の観点で刑罰を科すべき、との判断は無きにしも非ずなんだよね。

ここで気になるのは、仮に強制的な行為があった場合、それって「親告罪」じゃなかったっけ?、ということ。
親告罪というのは、告訴が泣けれあ公訴を定義できない、つまり、検察官が刑法犯として裁判にかけられないという犯罪のこと。
プライバシーの保護の観点から、いわゆる「強姦罪」は長らく親告罪とされてきたので、被害者側から訴えがなければ状況証拠として確実にそういう事案があったとわかっていても裁判には持ち込めなかったのだ。
ところが、シャイ的な受け止めとして、強制行為や痴漢・盗撮のような性犯罪は被害者の訴えがなくても罰せられるべきというように社会の受け止めが変わってきたので、「不同意性交等罪」となった現在の刑法の扱いでは非親告罪になっているのだ。
なので、まず警察が捜査に乗り出すかどうかというのはあるけど、示談で和解していても刑事罰は回避できない可能性があるんだよ。
ここまで大々的に報道されるとその可能性はゼロには見えないよね。

というわけで、示談による和解で完全に刑事罰が回避できるのは親告罪のみなので、気を付ける必要があるのだ。
刑法上親告罪に規定されているのは3つのケースがあって、「告訴がなければ公訴を提起することができない」と明確に規定されているよ。
(1)事実が公になると、被害者に不利益が生じるおそれのある犯罪
 未成年略取・誘拐罪、名誉棄損罪・侮辱罪、新書開封罪・秘密漏示罪
(2)罪責が比較的軽微であり、または当事者相互での解決を計るべき犯罪
 過失損害罪、私用文書等毀棄罪・器物損壊罪・信書隠匿罪
(3)親族間の問題のため、介入に抑制的であるべき犯罪
 親族間の窃盗罪(親族相盗例)・不動産侵奪罪、親族間の詐欺罪・恐喝罪等、親族間の横領罪
このうち、(3)は相対的親告罪というもので、加害者と被害者の関係性が親族である場合の特例という扱いになっているのだ。

2025/01/11

UG

 産経新聞の元日の一面には、夫婦別姓について小中学生にアンケートをした結果の記事が載ったらしいのだ。
夫婦別姓推進派の人たちはよく「別姓を強制するわけではなく、別姓にして困る人はいない」と主張していたのだけど、このアンケートによると、子供たちは両親が別姓だといやらしいのだ。
家族は同姓というのが当たり前だったのだから当然の結果のような気もするけど・・・。
で、またこの話題が盛り上がったんだよね。

この話でよく出てくるのは、江戸時代までは庶民には名字がなく、明治以降の制度だから「夫婦同姓は伝統ではない」という主張。
これは一部合っていて、一部間違っているのだ。
まず、これはもうよく知られたことだけど、確かに江戸時代は武家・公家以外は公式に名字を名乗ることは許されていなかったけど、さすがにそれでは個人を区別するのが大変なので、事実上は名字のようなものを名乗っていたのだ。
一般に「屋号」とも言われるけど、商家であれば店の名前。
例えば、「紀伊国屋文左衛門」とか「蔦屋重三郎」とかみたいな感じ。
農村集落でも、田の縁にあるから「タブチ」、里山のふもと近くだから「ヤマシタ」、村の庄屋の家だから「ムラカミ」とか。
明治期に名字を名乗るように言われて、その屋号をほぼそのまま名字に転用したケースと、せっかくだからと新たに「創姓」したケース、よくわからないから庄屋や寺社などの額のある人につけてもらったケースなんかがあったみたお。
場合によっては村落でみんな似たような名字になってしまってけっきょく区別がつかないから屋号をそのまま判別に使っているようなところもあるのだ。

武家や公家の名字も似たようなところがあって、正式な一族の血縁を表すのは「本姓」又は「氏(うじ)」なんだけど、これは有名な4姓=源平藤橘をはじめいそんなに種類が多くなく、区別がつけづらいので、屋号のように低地宅の場所や所領の地名などを名乗ったのだ。
例えば、公家の藤原家の例で言えば、北家、南家、摂家、式家の4つに分かれ、それがさらに分かれていって、近衛家や冷泉家、九条家などの明治期に見られる家族に積んがっていくんだよね。
武家の場合はほとんど源氏か平氏なわけだけど、鎌倉幕府を開いた頼朝は源氏姓を使い続けたけど、そののちに室町幕府を開く足利将軍家は同じ源氏でありながら栃木県の足利庄からとった足利を名乗ったのだ。
南北朝期に足利家と対立する新田家は同じ源氏で新田庄からとった名前。
頼朝に協力して鎌倉幕府で執権になる北条家は元は平氏で地盤にしていた伊豆の地名から北条を名乗っているよ。
同じく頼朝を助けた三浦氏も平氏で、こちらは三浦半島のあたり。
羅生門の鬼の腕を切り落とした渡辺綱も源氏で、渡辺は兵庫県の地名だよ(渡辺綱自身は東京三田の当たりの生まれ)。

武家や公家については、種類の少ない本姓だけだと区別しきれないので、屋号的なもので区別して読んでいたのが名字になっていくのだ。
ただし、公式文書には本姓で署名したりするので、徳川家康も征夷大将軍として「源朝臣徳川家康」みたいに書いたりするのだ(松平氏が源氏かどうかはあやしいとされているけど、なぜか征夷大将軍は源氏の棟梁がなる、というように考えられていたので源氏を名乗ったと言われているよ。)。
ちなみに、織田家は平氏、太閤秀吉の場合は豊臣が本姓なのでそのままだよ。
これらの上層階級は、明治期になって形式的にも本姓を名乗らないようになって、戸籍が整備されるときに本姓ではなく名字の登録になったのだ。

で、問題は、これらの下級で女性はどう名乗っていたか。
平安文学では、菅原孝標娘だとか藤原道綱母みたいな個人名が伝わっておらず、続柄だけで記録されているばあいもあるけど、紫式部の使えた中宮・藤原彰子のように、生家の氏を名乗ることも多かったようなのだ。
考えれば当然で、貴族階級の結婚は純粋な恋愛結婚というより、政略結婚である場合が多かったと考えられるし、そもそも平安時代は「通い婚」なので、男性配偶者の家に入るわけではないのだ。
武家についてはだいぶ血縁による結びつきが強く、家族意識が高いように思われるけど、源頼朝の夫人は北条政子であって、やはり生家の氏を名乗っているよね。
これも血縁を大事にするからこそ、どの血縁集団と親族関係なのかがわかるように、あえてそうしているんじゃないかと思うんだよね。

一方で、庶民については、「嫁に行く」、「婿に入る」が基本なので、どちらかの屋号の集団に組み入れらることが多かったのだ。
そうすると、国民の大多数は庶民なので、明治期に民法を整備する際いろいろ議論した結果、夫婦同姓が基本になったようだよ。
なので、「名字がなかった」というとけっこううそになって、「伝統ではない」とまでは言い切れないわけ。
でも、明治以降に正式に法制度化されたので、そういう意味ではずっとルール化されていたわけではなく、あくまでも習慣的にそういうケースが多かった、程度というわけだね。

2025/01/04

皮と汁

 お正月がやってくるとよく目にするやつ。
それは、あの鮮烈なオレンジ色の・・・。
橙(だいだい)!
みかんじゃないんだよ。
「代々」栄えるという縁起物なので、正月の注連飾りや鏡餅に用いられるのだ。
特に武家で尊ばれたので、江戸以降に広まった文化だと思うけど。

ダイダイは、そのままにしておくと複数年の間、木になったままになるのだ。
これは一部の柑橘類に共通の性質のようだけど、一度越冬して次の夏を迎えるとまた果皮に葉緑素が復活して緑に戻るのだ。
これを「回青」というのだ。
ダイダイはそのまま食用にしないのでそのまんまなんだけど、河内晩柑のような食用のものは食感が悪くなるので、回青しないように袋をかぶせるんだそうだよ。
夏みかんの場合は回青する前、春に完熟した頃に食べるのだ。

ダイダイは飾るだけかというと、そうでもないのだ。
きれいなオレンジに色づくほど熟すると苦みが強くなってしまうのだけど、未熟果の青い状態だと酸味が強く風味がよいので、ポン酢に使われたりするんだって。
スダチやカボスと同じような感じで、酸味が強く、風味がよい果汁を押すの代わりに使うのだ。
一方、完熟した場合は皮を使うんだよね。
乾燥させた完熟果の果皮は「橙皮(とうひ)」と呼ばれる漢方薬。
後から出てくる苦み成分が健胃作用などをもたらすんだよ。
みかんの皮を干した「陳皮」よりも高級みたい。
というわけで、ダイダイは飾りにも使えるし、未熟なうちは果汁が調味料に使われるし、完熟すれば生薬にもなる優れものなのだ。
最近は注連飾りも鏡餅もみかんで代用される方が多いかもだけど。

同じくこの頃に出てくるちょっと変わった柑橘類と言えば金柑。
ダイダイはかなり果実が大きいけど、金柑は小さめ。
で、この金柑の特徴は、果汁ではなく、むしろ皮をメインに食べること。
実が小さいし、わりと水気が少ないので、果汁は微々たるもの。
むしろ、甘露煮にしたり、砂糖漬けにしたりで、そのまま食べることが多いのだ。
でも、そうして甘く味付けても、もともともっているほんのりした苦みで後味がよいのだ。
そして、きっちりと柑橘特有のさわやかな風味もあるんだよね。
小さいけど種はしっかりあるのだけど、これは原種に近いものだからみたい。
それでも、それをおいしく食べようとするんだから、昔の人はいろいろと工夫するよね。

2024/12/28

現代の口入屋

 「闇バイト」関連で「スキマバイト」紹介業が注目を集めているのだ。
明かにやばいバイト求人が普通に載っていると・・・。
「闇バイト」に応募・従事しているひとたちは、なにもアンダーグラウンドな掲示板などにアクセスしているわけではなく、普通にスマホアプリで単発・短期間バイトを検索していただけ。
で、異様に好条件なものを見つけ、その裏にあるものなどあまり考えずに、ということのようなのだ。
そこまで割の良いバイトがそうそうあるわけじゃないんだけど。

そういうチェック機能が働いていないんじゃないか、という点に加え、このサービスは「雇いたい人」と「働きたい人」を結び付けるだけであって、それ以上でもそれ以下でもないので、雇用者・被雇用者間で何かもめごとがあっても責任を持たない=知らんぷりをする、という問題点があるのだ。
これは食品デリバリーでも同じような話があったけど、雇用者側から雇った人が〇〇みたいなクレームが来ても、今後気を付けますが最終的に選んだのはあなたですよね、こっちはサービスを提供しただけです、となるんだよね。
逆も然りで、バイトに行ったら相手がやばい業者だったんですけど!、っていうクレームについても、紹介しただけで雇用契約を結んだのはあなただから自己責任で、という話になるのだ。

これは、このサービスが職業安定法に基づく「有料職業紹介事業」というカテゴリで行われているものであるため。
無料の「職業紹介事業」は、国が提供している「職業安定所(ハロー枠)」や大学事務局による就職あっせんのようなサービス。
で、有料の方は、もともとは専門スキルは要するような職業であって、常時抱え込まなくてm日常業務は回せるような人材、例えば、エンジニアや法務や財務のエキスパート、通訳などを紹介するようなものだったのだ。
御大尽の生活をのぞき見しちゃう家政婦さんを紹介する「家政婦紹介所」もこれと同じ。
で、この制度を短時間・短期間の単発仕事のマッチングに使い始めたのが、タイミーやシェアフルのようなスキマバイト紹介サービスなんだよね。

俗に「派遣さん」と言われる労働者派遣法に基づく労働者派遣事業においては、派遣会社は派遣する労働者を有機又は向きで雇用していて直接の雇用関係があるんだよね。
なので、その労働者に対して一定の責任を持たなくてはならないのだ。
それは社会保険のような制度もそうだけど、派遣労働者が派遣先で損害を出した場合など、一義的には派遣会社がその責任を取る必要があるよ(ただし、その後、派遣会社からやらかした派遣労働者に求償をするだろうけど。)。
なので、ある程度の身元保証を派遣会社がしてくれる、というところが大きく違うのだ。
雇用を柔軟にしたいけど採用・罷免の自由度は制限されたくない、という雇用者側のわがままに応じるものなのだ。
ただし、派遣労働者の手取りは別として、派遣会社には一人当たり高コストな費用がかかっているわけで、その「マージン」こそがビジネスなのだ。

一方、職業紹介の場合は、マッチングさせるだけなので、派遣先についても、派遣される労働者についても、必要書類等で一定の確認はするけど、身元保証までするわけじゃないんだよね。
さすがに明らかに公序良俗に反するような仕事(ダイレクトに強盗してほしいなど)を掲載することはしないけど、強盗の実行犯を探す「闇バイト」のカモフラージュされた求人ははじけなかったりするみたいなのだ。
で、仮にそれが事後にわかったとしても、もともとマッチングさせることのみが提供すべきサービスなので、最後は知らぬ存ぜぬになってしまう、というわけ。

シフトに入っていたバイトが急病で来られなくなったけど、他のバイトはそのシフトを埋められない!、みたいな事態になったときには非常に便利なサービスではあるんだよね。
また、本当にその日だけ単発で手伝ってほしい、みたいな需要にも合っているのだ。
だからこそこのサービスも広がっていったんだと思うけど、世の中には悪い人もたくさんいるわけで・・・。
甘利にもきつい仕事でどのバイトも長続きしないようなものをこれで埋めたり、なんてもあるらしいし、「闇バイト」的な求人も入ってきたりと荒れてきているのだ。
また、雇用側からすると、働きに来た人に支払う賃金とは別にサービスの利用料がかかっているわけで(通常は給食している側は無料でサービスを使っているので)、他のバイトと比べて上乗せで雇ってこれか、という思いも出てきてしまうし、他のバイトからすれば何もわからないぽっと出の人がいきなりやってきて、という感じだから、通常バイトと混ざるような場合はぎすぎすしやすいのだ。

当たり前の話だけど、サービスは使いようとはいえ、トラブルが頻発するようなら変えていかなきゃいけないよね。
まずは「闇バイト」みたいな求人は載せないか、発覚したら即刻削除することをきちんと義務付ける、みたいな規制を入れるんだろうけど、その判断の線引きは難しいよね。
加えて、間をつなぐだけ、という業態に対して、どこまで雇用者・被雇用者間のトラブルの責任を求めるかも難しいんだよね。
正直、食品デリバリーの方もそこの改善はうまくいってないから、なかなかうまくいかないだろうなぁ、とは思う。

2024/12/21

立ちはだかる壁

 三党幹事長合意というのがあったけど、けっきょく自民党税調は国民民主党の提案「178万円への引き上げ」について渋い回答を出したのだ。
合意がまとまったすぐ後に「目指すだけ」とか「いつまでにとは明言していない」とか日和った発言があったわけだけど、国民目線で見れば、萎えるよねぇ・・・。
もともと税調は「聖域化」していて素人は簡単に手が出せないとかなんとか言うけど、そういう古いやり方が限界に達していて前回の選挙結果になったんだろうから、多少は歩み寄りが必要と思うんだけどなぁ。
で、さんざん選挙の時から聞いている「103万円の壁」だけど、わかっているようでよくわかっていなかったので、自分でも調べてみたよ。

端的に言えば、所得税の控除の問題で、年間で103万円を越える収入があると所得税を支払う必要が出てくるので逆に手取りが減ってしまう、という問題なのだ。
なので、多くの場合は103万円を越えないようにパートやバイトを抑えて働く、ということになるんだよね。
そう聞いただけでも昨今の人手不足問題に影響がありそうだよね。
しかも、この「103万円」という数字はだいぶむかしに決めたきりで、その後の物価上昇率や最低賃金の上昇などの要素が加味されていないんだよね。
すなわち、むかしよりさらに働く時間を抑えないといけない状況になっているのだ!
これが批判される主な理由かな。

この所得税の控除については、所得税法で決まっているよ。
103万円の内訳は、48万円の基礎控除と55万円の給与所得控除に分かれるんだ。
基礎控除については、所得税法第86条第1項で「合計所得金額が二千五百万円以下である居住者については、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額を控除する。」とされていて、さらに場合分けで、「その居住者の合計所得金額が二千四百万円以下である場合 四十八万円」(第1号)となっていることに由来するよ。
これは全員がまず最初に控除される部分なので「基礎控除」というのだ。
休止世所得控除については、同じ所得税法の第28条第3項で「前項に規定する給与所得控除額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額とする。」となっていて、さらに場合分けで「前項に規定する収入金額が百八十万円以下である場合 当該収入金額の百分の四十に相当する金額から十万円を控除した残額(当該残額が五十五万円に満たない場合には、五十五万円)」(第1号)となっていることから来ているのだ。
実際に180万円の収入がある場合の給与所得控除は62万円で、そこから収入が下がると減っていくわけだけど、下限として55万円という数字が規定されているんだ。
103万円の収入だと、103×40/100-10=31.2となって55を下回るので、55万円が給与所得控除の額になるというわけ。

このように、法律の本文で規定されている数字なので、見直そうとすると法律改正が必要という非常にハードルが高いものではあるんだよね。
でも、今回は政治主導の話であり、実際に与党2党と国民民主党との間で合意があって、この3党合わせれば過半数を越えるのだから、普通は実現するものだと思うよね・・・。
けっきょく幹事長同士の合意をなかば反故にするような議論を党内でしていて、結論もそっちに持って行ってしまうのだから(少し引き上げることにしたので中的にはだいぶ譲歩しているつもりかもしれないけど)、さすがにこれ以上は議論できないと席を立たれてしまうわけだ。
これで来年度予算案は無事に国会を通るのか?

で、実際にどのあたりの数字が適正か、という問題もあるよね。
単純に二つの指標で計算してみるよ。
まずは物価上昇率。
総務省統計局の公表している統計データである消費者物価指数(2020年基準、全国平均、総合、年度平均)で見てみると、103万円のかべがせっていされた1995年は95.8で、これを最新のデータである2023年度の106.3と比べると、物価上昇率は11%増くらいになるよ。
そのまま103万円にかけると、114万円ということになるのだ。
でも、国民民主党が主張しているのはこの数字ではなくて、最低賃金なんだよね。
こっちは1995年当時は611円で、今は1,054円なので、73%増、103万円にかけると178万円という数字が出てくるのだ。
確かに、給与所得についてかある税金なので、その給与水準を示す司法である最低賃金で計算するのは妥当性があるよね。

でも、これってさらに政府は1,500円に引き上げたいんだよね・・・。
というこおは、103万円との関係で言うと、2倍以上にする計算になる。
そこまではやらないんだろうなぁ。

2024/12/14

みこみこハウス

 皇位継承順位第二位の悠仁親王が来春から筑波大に進学あそばされることが決まったようなのだ。
新学制下では原則として元官立の学習院ということになっていたんだけど、秋篠宮家ではその慣例には習わず、内親王お二人は大学から国際基督教大学(ICU)に進学されたし、今回の悠仁親王に至ったっては、幼稚園・小学校・中学校はお茶の水女子大付属、高校は筑波大付属で徹底的に学習院を避けているんだよね。
もともと学習院という学校は、幕末に公家の師弟の教育機関として京都に創設されたんだよね。
江戸時代最後の天皇となる孝明天皇より、「学びて時にこれを習う」という論語の一文から「学習院」という勅額が下賜され、学習院と名乗るようになるのだ。
それが御一新後に東京に移ってきて、皇族・家族の教育機関として宮内省管轄の官立学校になるのだ。
宮内省が解体された戦後は私立学校として再出発するんだけど、ずっと皇室との関係は続いてたんだよね。

話はそれたけど、この悠仁親王のお住まいは赤坂御用地内の秋篠宮邸。
本来は皇位継承順位第一位の人物は「皇太子」として呼ばれ、お住まいは「東宮御所」となるんだよね。
今回は今上天皇の弟にあたるので「皇太弟」と呼ばれてもおかしくないんだけど、令和の譲位の際に、そういう呼び方ではなく、「皇嗣」と呼ぶことになったんだよね。
これは皇室典範の規定の中では、第4条で「天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する」としていて、皇位継承順位第一位は「皇嗣」にしているのだ。
下って第8条前段で「皇嗣たる皇子を皇太子という」として、それが天皇の息子に当たる場合は「皇太子」と呼ぶ、とするとともに、後段では「皇太子のないときは、皇嗣たる皇孫を皇太孫という」として、子世代に皇嗣がいなくて孫世代まで行ってしまった場合は「皇太孫」と呼ぶ、と定めているんだ。
で、ここで問題があって、弟が皇嗣になる場合が法律上は想定されてないんだよね・・・。
むかしからよくあることなので俗に「皇太弟」という呼び名はあるのだけど、法律上定めていないので使えないようなのだ・・・。
珍しくないことだからこの際足したらいいのに、とは思うけど、そうもいかなかったのかな?

これがいろんなところにはねていて、皇太子のことは「東宮」ともいうので、天皇のお世話をする侍従職に対比して、皇太子のお世話をする東宮職というのがあったわけだけど、それもいまは「皇嗣職」となっているのだ。
とはいえ、宮内庁の内部組織を規定している宮内庁法には「東宮職を置く」規定しかなかったので、生前退位の手続きを定めた「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」により附則を追加し、「皇嗣職を置く」規定を追加したんだよ。
さらに、皇太子でないから東宮御所とは呼べず、かといって、「皇嗣御所」とかいうのも変なので、皇嗣になる前からの呼称の秋篠宮邸という従前からの呼び方を継続しているのだ。
ただし、お住まいの呼称はけっこう流動的で、譲位後すぐは皇居に移れなかったので、赤坂御用地内の東宮御所を「赤坂御所」と名前を変えて使っていたよね。
今は上皇・上皇后両陛下のお住まいにするためにバリアフリー化などの必要な改修がなされて、「仙洞御所」となっているよ。
ちなみに「仙洞」というのは仙人の住処のことだけど、上皇・法皇の御所のことを「仙洞御所」と呼ぶんだって。

皇太子を東宮と呼ぶのは中国の風習にしたがっているのだけど、伝統的な中国の応急の場合、「君子南面」なので、皇帝の宮殿は南向きに作る、その東側に皇太子の宮殿たる東宮を作る、となっているのだ。
五行思想では「東」は「青龍」であり「春」であるので、「東宮」は「春宮」とも書くのだ。
確かに赤坂御用地は皇居=江戸城から見て東に位置しているよね。
でも、今の御所は実は南向きではなく、東向きに建てられているのだ。
明治になって最初に宮殿を造営したときは伝統にならって南向きで作ったんだけど、今の御所を作る際、無理やり南向きにして設計をゆがめるより、きちんとした宮殿を作りたいという設計者の思いがあり、昭和天皇の了解も得て南向きでない宮殿にしたそうだよ。
さすがに赤坂御用地のほかに新たに皇室のための用地を用意するわけにはいかないから、皇嗣に当たる人の邸宅は皇居から見て東にはあり続けるだろうけどね。

ちなみに、江戸時代は、皇太子も内裏の中に住むことが通例になっていて、御所とは別に東宮御所を設けることはなかったようなのだ。
皇室財政が相当厳しかったというのもあるだろうけど。
で、京都御所では、儀式などに使う正殿の裏手(北側)に天皇の日常の居所である御常御殿というのがあるのだけど、皇太子の住まいはその北西に位置する建屋に住まわ荒れていたようなので、もはや「東宮」ではなかったんだよね。
むしろ、せっかく御所を新たに東京で造営するからしっかり東宮は御所の東に作りたいと思ったのではないかと考えるんだ。
ちょうど江戸城のから見てすぐ東側には旧紀州藩の上屋敷があって用地としても使いやすかったしね。

2024/12/07

えらいこっちゃ

 韓国で大統領が「非常戒厳」を発動して議会ともめて大変な騒ぎになっているようなのだ。
おとなりの国はこれから少し政治が不安定になるみたいだね。
それにしても、議会を止めるとか、街中に軍隊を展開するとかすごいことができるんだね、と改めて思ったよ。
各国でも似たような制度はあるんだけど、どこまで何ができるかはそれぞれ。
で、その中でも日本はかなりマイルドなようなのだ。
ま、それも戦前の体制を反省して、ということなんだろうけど。


戦前の日本では、帝国憲法において「天皇ハ戒厳ヲ宣告ス。戒厳ノ要件及効力ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム」とされていて、実際にその要件や効力を規定していたのは「戒厳令」という名前の太政官布告だったのだ。
憲法には「別に法律で定める」規定になっているんだけど、帝国憲法に先行していた太政官布告がその効力を有する、という解釈でいたみたい。
この戒厳令は11条しかな短いもので、その内容は第一条の「戒厳令ハ戦時若クハ事変ニ際シ兵備ヲ以テ全国若クハ一地方ヲ警戒スルノ法トス」にすべて語られているんだよね。
戦争や事変のような非常事態が起こったとき、全国又は一部地方で軍隊を展開して警戒に当たれるようにする、ということなのだ。
今回の韓国の例に近いのかも。

帝国憲法の規定にあるとおり、天皇が宣告するものなので、基本的には天皇の親裁事項(天皇が自ら裁定するもの)。
日清・日露両戦争の際は勅令により戒厳の宣告が行われたようなのだ。
時代が下ってからは「公式令」というのが整備されて、「戒厳の宣告」は「詔書」によって行うこととし、天皇の親署に御璽を押印して、内閣総理大臣が年月日を記入したうえで、内閣の前国務大臣が副署する、というように体裁が整えられたんだけど、こうなってからは正式には戒厳の宣告は行われなかったみたい。
でも、そうなると、太平洋戦争中は戒厳体制に入っていないということなんだね・・・。
治安維持法によりかなり締め付けが厳しく、特高なんかも跋扈したわけだけど、内地に軍が展開されたというわけではないのか。

で、戦後になって日本では「戒厳」について定めた法令は一切なくなってしまったんだよね。
当たり前と言えば当たり前なんだけど、新憲法において交戦力を放棄し、軍隊を持たないという整理になったので、軍隊を街中に展開するという事態は想定されないのだ。
その代わり、よりマイルドな統制強化の枠組みとして「非常事態宣言」というのが導入されているのだ。
「非常事態宣言」というとコロナの時を思い出しがちだけど、あちらは「新型インフルエンザ等対策特別措置法」に基づく「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」のことで、「非常事態宣言」と通称されていただけなのだ。
正式に法律で「緊急事態宣言」を規定しているのは警察法で、第七十一条第一項で「内閣総理大臣は、大規模な災害又は騒乱その他の緊急事態に際して、治安の維持のため特に必要があると認めるときは、国家公安委員会の勧告に基き、全国又は一部の区域について緊急事態の布告を発することができる」となっているのだ。
警察法にあることからわかるとおり、ここで緊急事態の対処に当たるのは警察官だよ。

問題は、緊急事態になるとどうなるか、ということだけど、緊急事態宣言が出ると、内閣総理大臣が一時的に警察組織を統制することになっていて、警察庁長官は都道府県警の警視総監及び警察本部長に直接指揮できるようになるんだよね。
平時では、都道府県に置かれる都道府県警察本部は地方の組織になるわけだけど、緊急時だけは、それが国の機関である警察庁を頂点として指揮命令系統が一本化される、ということなのだ。
刑事ドラマではよく見るような都道府県警の縄張り争い(?)みたいなのがなくなるということかな?
でも、逆に言うと、警察法で定めているのはそこまでで、強制力を持って何かをする、というものではないんだよん。
軍隊が展開される瀬愛から、党勢が一本化された警察組織が展開される、というような大転換だよ。

コロナの時に「非常事態宣言」のときも問題視されていたけど、日本の現行法の世界では、強制力を持って国民の権利を侵して何かさせる、というのが最小限になるようになっているのだ。
それあ戦後の民主主義ということなんだろうけど、危険な地域から強制的に移住してもらったりとか、国の重要施設の整備に当たって用地に居座り続ける人たちを排除したり、とかいうのもできないんだよね。
海外では普通に行われるようなことでも。
それがいいのかわるいのかはいろいろと議論があるわけだけど、何か起こったときにちょっと心配ではあるよね。
日本人は災害の避難時にもわりと行儀よく行動するとは言われているけど、それを過信しすぎるのもなぁ、というところ。
乱用されないという大前提はありだけど、もう少し強制力はあってもいいように思うんだよなぁ