2010/03/12

なめしてガッテン

新婚旅行でイタリアのフィレンツェに行ってきたんだけど、フィレンツェの名産と言えば革製品。
確かに街中にも自分の工場で革製品を作って売っているお店を見かけるのだ。
いわゆるブランドものではないけど、けっこう人気の品みたい。
かく言うボクも、お財布を購入してしまったのだ!
で、気になったのは革製品を作る前段階の皮なめし。
なんかしていることはわかるんだけど、いまいち何をしているかがよくわからなかったので、調べてみたのだ。

皮なめしというのは、動物などからはぎとった生の「皮」を加工して、製品原料となる「革」に加工することを指すんだって。
生きている間は伸縮性も柔軟性もあるけど、死んだ後の皮をそのままにしておくと当然腐ると、徐々に硬化してきてぼろぼろになってくるので、手を加えて腐敗を防ぎ、柔軟性と伸縮性を維持させる技術なのだ。
さらに、水や熱に対する耐性も高め、長持ちするようにするんだよ。
確かにハンドバックやベルト、お財布が腐ってきたらやだよね・・・。

具体的には、生皮から腐敗しやすい動物性油脂やタンパク質を除去し、網目のシート状構造を構成している繊維タンパク質のコラーゲンを安定化させるんだ。
でも、そのままだと少し固いので、そこに後から油脂を加えてしなやかにし、場合によっては表面加工をしたり、染料を加えて色を付けたりするよ。
古い加工法では、火の上で皮を拡げて煙でいぶし、薫製と同じように皮のタンパク質を変質させて長持ちさせるということをしていたようだけど、これだとどうしても固いまま固まってしまうんだよね。
で、できたものをよくたたいたりしていると多少やわらかくなってきて、やっと製品加工できるようになるのだ。
でも、そんなにしなやかな仕上がりとはいかないのは当然だし、煙でいぶしているだけなので中までタンパク質を変質させることはできず、そのためにそんなに長期間もたないのだ。

そこで発明された加工法が皮なめしで、まず生皮を水に浸して柔らかくし、川に着いている肉や脂をよくそぎ落とし、脱毛した後に消石灰を加えるのだ。
そうすると液中で水酸化カルシウムができるんだけど、これにより液性が塩基性(アルカリ性)になって、コラーゲンのような繊維状でない余計なタンパク質を溶かし出すんだ。
これはタンパク質中のアミド結合を加水分解し、より水にとけやすい分子量の小さなポリペプチドに分解する作用があるためだよ。
水酸化ナトリウム溶液を触ると指の表面がぬるぬるするけど、あれは指の表面のタンパク質が水酸化ナトリウムで溶かされているためで、あれと同じようなことが起こるのだ。
さらに、水酸化カルシウムによって皮の中に含まれる脂肪酸が鹸化され、水に溶けるようになるのだ。
こっちは手作り石けんと同じ原理で、脂肪酸と水酸化カルシウムが反応して石けん用の物質ができるんだけど、それは水によく溶けるので皮の中から脂肪分が除去されるということなのだ。

余計なタンパク質と脂肪を取り除いたら、今度は脱灰。
これは酸を加えて中和するとともに、液中からカルシウムを除くのだ。
一般にカルシウム塩は水に溶けにくいものが多く、酸を加えていって液性を酸性にまで持っていくとカルシウム塩が沈殿するんだ。
最初に入れて消石灰由来のカルシウムを除くので脱灰というわけ。
さらに、液性を酸性にしておくと、次のなめし工程に使うタンニンが皮に浸透しやすくなるのだ。

今では工業的に作られたものが使われることが多いようだけど、むかしは柿渋などの天然植物由来のタンニンを使ってなめしを行っていたのだ。
酸性溶液でもタンニンはなかなか皮に浸透していかないので、薄い溶液から徐々に濃い溶液に何度もつけていくことで、皮の中までタンニンがしみ込んでいくようにするんだって。
タンニンがしみ込んでいくと、繊維状のコラーゲンなどのタンパク質と反応し、網目状に絡み合っている繊維タンパク質同士をさらに化学反応で結びつけて、その網目構造を安定化させるのだ。
これにより熱に強く、丈夫で長持ちする革になるというわけ。

でも、このままではまだ固いので、この後に油脂を加えてなめらかさ、しなやかさを出すのだ。
シャンプーした後にリンスをすることでとりすぎてしまった油脂を補充するのと同じようなものだよ。
なめしが終わったら、液性を中和し、よく水洗い。
その後、半乾きのうちにヒマシ油などの加脂剤をまんべんなく塗り込んでいくのだ。
染料をしみ込ませたいときはこの工程と合わせて行うみたい。
で、引っ張ってよく乾かしたら、たたいて伸ばしてやわらかくするのだ。
最後に表面を磨いてできあがり。

このタンニンなめしの場合、何度も溶液につけないといけないのでどうしても工程数が多くなるのだ。
そこで考案されたのが化学的になめしを行うクロムなめし。
これはタンニンの代わりに塩基性硫酸クロムなどの化学薬品(いわゆるミョウバンのようなもの)を使ってなめすんだけど、よく浸透するので一度ですむのだ。
この場合、クロムイオンが間にはさまって繊維タンパク質同士を錯体として架橋することで、網目構造を安定化させるのだ。
タンニンでなめすと自然と仕上がりは茶色くなり、型くずれしにい、染料で染めやすい、吸湿性がよい、使い込んでいくうちにつやが出てなじんでくる(柔らかくなってくる)などの特徴のある革ができあがるんだけど、クロムなめしの場合は、仕上がりが青白く、伸縮性が翼柔軟でソフト、吸水性が低く水をはじく、耐久力があり熱に強い、といった特徴の革になるんだって。
ただし、クロムなめしをした革を焼却処分すると有害な物質が出てくるので、最近では原点回帰でタンニンなめしが見直されているらしいよ。

ようは余計なタンパク質と脂肪を除いてから、繊維タンパク質を変性させて安定化させればよいので、他にもアルデヒド・ホルマリンやジルコニウムなどの金属イオンでなめすこともできるみたい。
さらに、むかしながらの手法としては、油をよくしみ込ませてなめす方法もあるのだ(ただし、耐久力などは低め。)。
さらに、日本の伝統的な白なめしという方法では、生皮を川に着けてバクテリアの力を借りて脱毛し、その後塩入れ、菜種油による油入れを経て、天日干しをしながら足でもんで徐々に柔らかくしていく、という一切のなめし剤を使わない方法もあるんだって!

さらに、なめした革の加工法としては、表面にエナメルペイントを施したエナメル皮(靴などにうよく使われるつやつやのやつ)、毛でなくて肉が付いていた内側の方の表面をヤスリなどでけずって起毛させたスウェード(表面がビロード状になったやつ)、逆に毛のついていた外側をヤスリなどでけずって起毛させたヌバック(いわゆるデザイン目的のダメージ加工)などなどがあるのだ。
上からロゴなどをプレスして型押しもするし、クラッキングと称してわざと最初から表面にひび割れを入れることもあるのだ。
加工品を作ってから脱色・染色をするものもあるみたい。
スプレー缶なんかもあるけど、表面に樹脂の膜を吹き付けてはっ水・防水加工をすることもあるよね。
と、様々な目的・用途に向けて加工されていくのだ。

この天然皮革の対極にあるのが人工皮革。
いわゆる合皮、合成皮革で、これはベースとなる布地に樹脂などを付着させて皮革のようにしたもので、天然皮革に比べて手入れが簡便、品質が安定、水に強いなどの特徴があるよ。
ただし、やっぱり色合いがチープな印象を与えたり、使い込んでいくうちになじんでくる、ということもないので、人工皮革の方がもてはやされるのだ。
さらに、むしろ合成皮革の方が劣化が早い携行があるんだよね。

というわけで、皮なめしについて調べてみたけど、けっこう奥が深い技術だよね。
今となってはどういう化学反応が起こることで丈夫で長持ちな革になっているかがわかっているけど、それを経験的に試行錯誤の末に培ってきたんだからすごいものだよ。
革製品って身近なものだけど、あなどれないよね。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

革について調べていたら見つけました。とても分かりやすく、適度に詳細の化学反応も説明してあり、とても勉強になりました!ありがとうございました。

匿名 さんのコメント...

大変解り易い説明で皮鞣しの判らないところのヒントが得られました。
有難うございました。
鞣し剤(クロムやミョウバン)は、コラーゲン繊維間に潜り込んで錯体を作っていたのですね!
ナルホド。