2010/03/27

不毛地帯?

職場に置いてあった日経サイエンスをちらちらと見ていたら気になる記事を発見。
それは、なぜサルの仲間のうち、人間だけが「裸」なのか、というもの。
確かに、人間に一番近いとされるサルの類人猿もみんな毛深いよね。
で、気になったので中身を読んでみたのだ。
今回はその紹介だよ。

これまでけっこう信じられていた説のひとつは、人間への進化の過程でいったん半水棲生活を送っていて、その名残で毛がない、というもの。
これは、水棲ほ乳類の中でも、イルカやクジラの仲間には毛がない、という事実から発想を得たものなんだとか。
水の抵抗を少なくするために毛がなくなり、体も魚と同様に紡錘形になっているよね。
でもでも、ここで忘れちゃいけないのが他の水棲ほ乳類たち。
水の中に棲んでいると言っても、また陸上に生活の場を移したということは、水中と陸上を行き来していたはずなのだ。
で、そういう動物でいうと、ラッコ、アザラシ、アシカ、カワウソなどなどがいるわけだけど、どれも毛皮があるんだよね(笑)
イルカやクジラみたいに魚類と同様の生活を送るのならまだしも、陸上にもどった人間が毛をなくすのは考えがたいのだ。
体の形はサルのままだしね。

で、そこで研究者たちは考えたらしいんだけど、着眼点は至ってシンプルで、「裸」である方が毛皮があるよりも有利なことはないか?、ということ。
つまり、毛がない状態の方が有利な生活形態になったので、自然選択で毛の少ない個体が選ばれ、現生人類のような「毛のないサル」になった、という考え方だよ。
一般的な進化生物学の考え方で、当たり前と言えば当たり前なんだけど、これまではどうしても、「毛が必要なくなったからなくなった」と考えがちだったようなのだ。
そんなこと言っても、進化の過程では必要だったけど、今となっては不要なものが「進化の痕跡」として残っていることもあるから、やっぱり無理がある考え方なのだ。

で、結論から言うと、「毛のないこと」のメリットは、発汗による冷却機能が向上すること、なんだそうな。
動物の場合、人間のように汗をかくことはまれで、イヌやネコは暑いときに舌を出して「はぁはぁ」して放熱しているよね。
人間のように汗をかいて体を冷やしているのはウマくらいなのだ。
これは、毛皮にくるまれているとそこに汗が貯まってしまって乾きにくい=蒸発して気化熱を奪ってくれない、ということ。
お風呂に入った後、体はタオルでふけばすぐに乾くけど、髪の毛はなかなか乾かないのでドライヤーを使うよね。
それと同じで、毛皮は体温を保つために保温機能は高めるけど、そのために発汗による冷却機能は下がっているのだ。
つまり、人間はあるときから、体を温めるよりも、冷やすことの方が重要になる生活形態に移行した、と考えられるわけ。
ちなみに、ウマの毛皮をみるとわかるけど、非常に短髪でその上を汗が流れるのだ。
なので、走らせた後のウマはよくワラで汗をふいてあげないとカゼを引いてしまうんだよ!

では、なぜ保温よりも冷却が重要になったのかだけど、それは、人間が森を出て、草原で暮らすようになったことと関係している、と書かれていたよ。
森の中にいる限りは、食べ物もそれなりにあるので、基本的には採取生活ですむのだ。
すると、できるだけエネルギーを節約して、時々食べ物を食べる、という生活の方が有利なわけ。
一方、草原の場合は、食べ物も豊富でなく、何より身を隠すところもないので、常に狩猟や隠れるために動き続けなければならないのだ!
これが冷却機能が重要になった理由で、長時間動き回るからこそ、体から適切に排熱することが求められたんだよ。
人間は短距離走ではほとんどどの動物にも勝てないほど足が遅いけど(100mを10秒で走れても時速は36km/hで、カバの最高時速の40km/hより遅いのだ。)、長距離となると断然人間が有利なんだって。
実際にマラソンのように長時間走り続けることができるのは人間くらいで、それも汗をかいて体を冷やしながら動けるからなんだそうだよ。

記事の中では、この冷却機能の向上がもうひとつの恩恵をもたらした、と考察しているのだ。
それは脳の発達。
あまりにも高熱になると脳機能に障害が出ることが知られているけど、それくらい脳という組織は熱に弱いそうなのだ。
ところが、きちんと体を冷却できるようになったので、熱に弱い脳を大きく発達させることができるようになるのだ。
実際、森に棲んでいたと思われる猿人は脳の容積がかなり小さく、ほとんど類人猿と変わらないけど、草原に棲んでいたと思われる原人まで来ると格段に脳の容積が大きくなっているそうなのだ!
走り回るために毛をなくしたことで、ついでに脳が発達してより高次で複雑な脳機能を持つに至ったというわけ。
これってなんだかすごいよね。

というわけで、なかなか興味深く読めて、感心するところもあったのでついつい紹介したくなったのだ。
こういう研究は考えを巡らせるだけで、検証できないことだけど、いかに矛盾なく説明できるかという点で考えていく、というのは非常におもしろいのだ。
これこそ人間の思考力の極みだよね。

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