2010/03/06

とろっとした乳

春が近づいてきて、八百屋さんやスーパーでもイチゴをよく見かけるようになってきたのだ。
お菓子でもイチゴ味のものが季節限定で増えるんだよね。
で、イチゴと言えば日本人におなじみなのがコンデンスミルク。
ボクは酸味があるのが好きなのでそのまま食べることが多いけど、コンデンスミルクをかけて濃厚な甘みを楽しむ人も多いよね。
でも、このコンデンスミルクって、加工乳なんだろうな、ということはわかるんだけど、どういうものなのかよく知らなかったので、ちょっと調べてみたのだ。

いわゆる「コンデンスミルク」と呼ばれている缶やチューブに入ったどろどろの乳製品は、食品衛生法に基づく厚生労働省令の「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(通称「乳等省令」)」においては「加糖練乳」と定義されているのだ。
乳脂肪分8%以上、乳固形分28%以上、かつ、すべての糖分58%以下というのが成分規格なんだとか。
これを見ただけでも、カロリーが高そうだよね、半分以上が糖分なわけだし。
英語ではsweetened condensed milkというらしいので、コンデンスミルクというのは和製英語みたい。

甘みの強い乳製品というイメージがあるけど、もともとは糖分を加えて浸透圧を高くすることで雑菌の繁殖を抑え、保存性を高くするために作られたらしいのだ。
一般的には牛乳に砂糖を加えて煮詰め、液体に光沢が出てきたくらいで加熱を止めて冷却。
しばらく寝かせておくと粘性の高いコンデンスミルクができあがるのだ。
しょ糖(砂糖)は結晶化せず、乳糖は最小限の結晶となる限度まで糖分を添加しているそうで、ぎりぎりでざらつき感のない、粘度の高い乳液にしているんだって。
もともと保存用なのでむかしのものは容器に充てん後の加熱殺菌は行っていなかったようだけど、今は耐熱式のチューブなんかもあるので加熱殺菌後に出荷することが多いみたい。

日本ではイチゴにかけたり、かき氷にかけたりというのが一般的だけど、ベトナムコーヒーではコーヒーミルクの代わりに使うんだよね。
生クリームを入れるウインナーコーヒーよりもさらに甘く、濃厚なミルク感のコーヒーになるのだ。
今はジョージア・ブランドの一員になっているマックスコーヒーもコンデンスミルクを入れることで甘さと濃厚さを売りにしていた缶コーヒーだったんだよね。
当初は新鮮な牛乳が得られないところで水やお湯で割って飲んだりしていたらしいんだけど、さすがに流通が発達してたいていの地域では生乳が手にはいるようになったので、今ではそういう使い方をすることはないのだ。
粉状の脱脂粉乳だと食品材料としてよく使われるんだけどね。

コンデンスミルクは、加糖練乳というくらいなので、糖を加えない練乳もあるのだ。
それが無糖練乳。
こっちは乳等省令で「濃縮乳であって直接飲用に供する目的で販売されるもの」とされていて、その規格は「乳脂肪分7%以上、乳固形分25%以上、かつ、細菌数0」なのだ。
コンデンスミルクと違って過剰な糖分で雑菌の繁殖を防げるわけでないので、「細菌数0」という基準が加わるんだよね。
一般的には、牛乳を加熱殺菌して半分くらいになってとろみがつくまで煮詰め、それを感などの容器に封入してさらに加熱殺菌をするのだ。
生乳を煮詰めるだけでなく、脱脂粉乳やカゼイン(乳タンパク)などの粉末乳製品や植物性脂肪、増粘多糖類(いわゆる寒天のようなもの)を加えて風味を付けるものが多くなってきているとか。
そのものを見かける機会はあまりないけど、ホワイトソース(ベシャメルソース)やミルク風味のお菓子の原料に使われることが多いみたい。
これは英語でevaporated milkと呼ばれるので「エバミルク」と呼ばれることもあるけど、ときどき飲食店で業務用の「エバミルク缶」を見かけることがあるよね。

練乳はさらに奥が深くて、糖を加える・加えないだけでなく、生乳原料が脱脂乳原料かの違いもあるのだ。
脱脂乳に糖を加えて煮詰めれば加糖脱脂練乳、そのまま脱脂乳を煮詰めれば無糖脱脂練乳。
コンデンスミルクもエバミルクも規格上乳脂肪分の基準があるので、脱脂乳由来の練乳は別のカテゴリーにわけないといけないんだよね。
乳脂肪少なめ或いは脂肪0とうたった乳製品・ミルク風味食品に使われるみたい。

日本ではあまりなじみがないけど、コンデンスミルクをさらに火にかけて煮詰めていくとできるのがミルクジャム。
南米ではドゥルセ・デ・レチェとして知られるキャラメル風味の乳製品なのだ。
キャラメル風味だけど茶色くなるのは糖同士が重合反応をしていくキャラメリゼ(カラメル化)ではなく、糖とアミノ酸が反応するメイラード反応なんだって。
トーストやごはんのおこげ、黒ビールやチョコレートの色素と同じようなものだよ。
キャラメルは生クリームに水飴、砂糖、バターなどをまぜて加熱しながら練り上げるので、できあがった姿は似ているけど別物なのだ。
キャラメルがソフトキャンディとして主に食されるのに対して、ドゥルセ・デ・レチェはそのまま固めて食べるだけでなく、スプレッド(ピーナッツバターのようにパンにぬるもの)として使ったり、お菓子の原料にしたりするみたい。

というわけで、意外に牛乳を濃縮しただけのように見えても広がりがあるのだ。
乳製品は発酵させたり、乳脂肪分を分離させたりといろいろと加工されるけど、加熱濃縮に糖分添加でさらにバリエーションが広がるんだねぇ。
日本ではそんなに乳製品を食べてこなかったのでよくわからない部分も多いけど、それこそ欧米の文化では牛乳を使い尽くす的な発想があったんだろうね。
感心するのだ。

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