2013/07/20

ただ静かに上澄みをすする

先日、海外旅行のおみやげでコーヒー(豆を挽いたもの)をもらったのだ。
ここまではよくある話で、それが南米の豆だったり、アフリカの豆だったり、あるいはハワイの豆だったりするんだよね。
今回もらったのはインドネシアの豆。
バリ島のお土産だよ。

ところが、これがおどろきのコーヒーで、いわゆるペーパードリップで抽出するのではないのだ!
まるでまるであたかもインスタントコーヒーのようにスプーンで適量をカップに入れ、その上からお湯をじょぼじょぼと・・・。
よくかき回したらできあがり、じゃなくて(笑)、そこから数分静置するのだ。
すると、コーヒーの豆が沈むので、上澄みを飲むというわけ。
ものすごい簡便な抽出法だけど、これが意外といけてる味になるんだよね。
本場ではコーヒー豆と砂糖を一緒にカップに入れ、最初から甘くするんだって。
(熱帯であるバリでは冷蔵庫がない時代に生乳の扱いが難しかったので、伝統的には砂糖のみを入れるんだけど、たまにベトナムコーヒーのように練乳も足すみたい。)

植物としてのコーヒーノキの原産地はエチオピアあたりで、文化としてコーヒーを飲み始めたのはイスラム世界が最初と考えられているんだ。
カフェインを含むコーヒーは覚醒作用がある刺激物で、アルコールが禁止されているイスラム世界ではその扱いが長らく議論されていたようなのだ。
それまでは神秘主義の中で秘薬として興奮作用をもたらすもの、といった扱いだったみたい。
15世紀になって正式にイスラム法上の扱いが確定すると、一気にイスラム世界に広がっていって、オスマン・トルコ帝国を介して欧州にももたらされたのだ。
コーヒーは欧州から植民地だった米大陸や東南アジアに広まり、現在のコーヒーベルトと呼ばれるコーヒー栽培可能地域(北回帰線と南回帰線の間)に広がっていったのだ。

この経緯からいくと、一般的な嗜好飲料としてはトルコでの飲み方が古いわけ。
トルコでは、コーヒー豆を粉砕したものと砂糖を一緒に鍋に入れて煮出すのだ。
コーヒーと砂糖は同量というから、相当甘いはず。
これはアジア地域での茶の飲み方に近いよね。
日本茶や中国茶は茶葉に湯を加えて抽出するけど、モンゴルやチベットのバター茶やインドのチャイは茶葉を乳製品と一緒に煮出すのだ。
おそらく、質のよい茶葉が得られなかったからそういう飲み方になっているんだろうけど、そういう基本の上にこういう飲み方ができているような気がするんだよね。
コーヒーの場合、ゆっくりと抽出しないとあまり抽出できないので、工夫が必要なのだ。

欧州にコーヒーが伝わると、この上澄みを飲む淹れ方から、沈殿物を濾す淹れ方に変わるんだ。
まずは布で濾過する方式がフランスで考案され、布ドリップの原型になるのだ。
布で濾すことでコーヒーがらをよけられるし、ゆっくりと淹れられるので、煮出さなくてもしっかりと抽出できるというわけ。
そこから1世紀ほど経つと、今度はサイフォンの原理を応用したサイフォン・ドリップが考案されるのだ。
ドリップ式だとお湯を注ぐ量や速さでぶれが出るけど、サイフォンだと条件さえそろえれば抽出の質が一定するのだ。
こぽこぽと見ていてもおもしろいよね。

20世紀初頭には、金属製のフィルターを使って圧力をかけて抽出するエスプレッソマシンが登場。
その後になってようやく紙で濾過するペーパードリップが確立するのだ。
絵数れっそよりはペーパードリップの方が簡単そうだけど、むしろ、濾紙を作る技術が問題だったんだろうね。
目詰まりせずちょうどよく抽出できる紙を作る技術はけっこう高度なのだ。
19世紀にフランスから入ったベトナムコーヒーなんかだとやっぱり金属製のフィルターを使うんだよね。
豆を粗めに挽いて、小さい穴からぽたぽたと5~10分かけて抽出するんだって。
高温多湿なベトナムなんかだと熱いコーヒーがマストではないから、こういう冷めてしまうようなゆったりとした淹れ方でも問題ないようなのだ。
エスプレッソは熱く淹れるために圧力をかけるけど、その必要はないんだね。

で、問題のバリのコーヒーはフィルターなど使わずかき混ぜるだけ。
物資的な問題もあったんだろうけど、原点回帰で粉をお湯に混ぜるだけなのだ(笑)
やっぱり熱いコーヒーは必ずしも必要ないから、数分置いておいて冷めてよい、ということでないとこれは広がらないよね。
ちなみに、沸騰したお湯で淹れれば、ちょうどよく冷めて飲みやすくなった頃に飲めるようになるよ。
ただし、バリコーヒーの場合は、よく抽出するために粉をものすごく細かく挽くのだ。
この技術は高いんじゃないかな?

こうして見てくると、コーヒーって本来は甘くして飲むものなんだよね。
おそらく、覚醒作用がほしいけど苦いのは・・・、ということで、飲みやすさのために甘くしたり、ミルクを入れるようになったはずなのだ。
チョコレートも同じように砂糖を入れて甘くすることで食べやすくした結果、今ではお菓子になったのだ。
ということで、ブラックはむしろ進化した姿なんだよね。

でも、南の地域では相変わらず甘いものが主流なのも事実。
紅茶なんかでも甘くして飲むよね。
米国南部のソウルドリンクであるスウィートティーなんて、限界まで溶かし込んでいるんじゃないか、と思われるほど砂糖をたくさん入れたアイスティーなのだ。
やっぱり暑いと甘いものが恋しくなるのかな?
ちなみに、日本で飲む分にはバリのコーヒーでもブラックで飲んでまったく問題ないよ(笑)

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