2013/09/21

兄弟星を観測せよ

先週、新型固体ロケットのイプシロンにより、小型科学衛星1号(SPRINT-A)の打上げが行われたのだ。
この衛星は惑星分光観測衛星で、愛称は打上げが行われた内之浦の地名である「火崎」から「ひさき」と名付けられたのだ。
太陽電池パドルも正常に開き、太陽の位置も補足してクリティカル運用期間も終了。
とりあえずこれで一安心というところかな。
今後は2ヶ月くらいかけて高精度の姿勢制御機能の確認をして、その後でやっと観測開始なのだ。

この衛星は、口径20cmの望遠鏡で惑星の大気を観測するんだけど、その観測対象が、極端紫外線という、紫外線の中でも波長が短く、X線に近い領域の電磁波を観測するんだ。
この極端紫外線は、地球の大気に吸収されてしまう波長帯であるため、地上の望遠鏡では観測できず、宇宙で観測することが不可欠なんだって。
これまでの地上の望遠鏡を使った惑星観測で、惑星の大気の状況や元素構成なんかを推測してきているわけだけど、今回の宇宙望遠鏡ではもっとつっこんだ観測ができるようになるよ!
具体的には、固体型惑星で、地球の兄弟星とも言われる金星や火星の大気の観測、太陽に最も近い水星の大気の観測、木星のオーロラの観測、木星の衛星のイオの大気の観測などが予定されているんだ。

ここから先は少し難しいんだけど、惑星や大気の磁気圏の状況を知るには、どんな波長の極端紫外線が出ているかを見ることで推測できる、というのがその原理で、波長別に観測するから「分光」観測なのだ。
太陽からは様々な波長の電磁波(=光)とともに、高エネルギーの粒子が放出されて、これを太陽風と呼んでいるのだ。
この太陽風には生物にとっては有害な放射線も含まれているんだけど、地球の周りにあるヴァン・アレン帯によって守られているんだよね。
ヴァン・アレン帯は地球の地磁気による磁気圏にとらえられた要旨や電子などの荷電粒子の集合で、ここで放射線がトラップされるのだ。
これと同じように、金星や火星といった惑星でも、それぞれの磁気圏と太陽風との相互作用があって、その現象の一部を極端紫外線を観測することでとらえることができるのだ。
この磁気圏と太陽風の相互作用の一端がオーロラなので、「ひさき」はオーロラ観測もするんだけど、見て美しいからではなくて、磁気圏の荷電粒子分布がどうなっているかを知るためにオーロラを観測するのだ。
(地球の磁気圏観測は「geoail」や「れいめい(index)」といった科学衛星で観測してきた歴史があるのだ。)

太陽風が磁気圏に「当たる」と、周辺の電子の衝突が起こって発光現象が起こるのだ。
このとき発生する光のうち、極端紫外線を観測すると、その強度から電子の密度や温度を推測することができるんだって。
空間的に分解して、どの位置だとどういう状態かというのを積み上げていくと、その磁気圏全体の概要が見えてくるというわけ。
時間変化も追うと、空間的な広がりだけでなく、時間的な変化もわかるようになるのだ。

太陽風中のプラズマは磁気圏の中に入ってくることがあるんだけど、通常はその中にたまっていくのだ。
たまに惑星の磁力線に沿って落ちてくることがあって、この加速しながら落ちてきたプラズマと惑星の大気が衝突すると発光現象が起きるのだ。
これがオーロラで、このオーロラの発光現象のうち、極端紫外線を見ることで、どんなプラズマと大気の分子が衝突したのかがわかるんだ。
スペクトル解析をすると、磁気圏のプラズマと大気の組成比がわかるので、これまでの地上からの観測による推測と合わせると、各惑星の大気の状態がより鮮明にわかってくるのだ!
また、太陽光のうち共鳴する波長だけ発光する共鳴散乱という現象を観測すると、もともとの太陽の光量から大気やプラズマの密度の絶対値がわかるんだとか。
この2つを合わせれば、どういう大気の構成になっているのかがわかるんだよね。

これまでの観測だと、金星大気は二酸化炭素が多く、それによる温室効果で非常に高温なんだけど、逆に火星では水蒸気もほとんど流出し大気が非常に希薄で、ほとんど温室効果がないから寒冷になっているのだ。
こういう現象を改めて大気の組成という点で観測できるようになるので、地上からの観測では見えなかった部分が見えてくる可能性があるんだ。
衛星自体は非常に小さいものなんだけど、なかなかすごい発見をしてくれるかもしれないんだよ。
出てきた成果について一般人がすぐに理解できるかどうかは微妙なんだけど・・・。

ちなみに、打上げに使われたロケットのイプシロンは、H-IIAロケットの固体ロケットブースターであるSRB-Aを第一段に改良し、その上にMV(ミューファイブ)ロケットで培った固体ロケット技術を駆使して開発した第二段を載っけたものなのだ。
これまでなんで「イプシロン」かなぞだったんだけど、打上げ成功後の会見で、「MV」の「M」を横にすると「ε」が出てくる、ということだったみたい!
けっこうしゃれがきいているなぁ。

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