2014/09/13

実録シリーズ?

先日、「昭和天皇実録」の編纂が完了し、今上天皇陛下に奉呈された、という報道があったのだ。
現在はその写しを皇居東御苑で公開(特別閲覧)していて(11月いっぱいの予定)、奉呈されたのと同じ装幀の副本も展示されているんだって。
来年から5年間かけて刊行されるらしいけど、12,000ページもあるらしいし、きっとハードカバーだから高いんじゃないかな・・・。
こういうときこそ、図書館で読みたい時代だけ読むのがよいよね(笑)

もともと「実録」というのは、中国で正史を作る際に参考にされる各皇帝の一代記のことで、その統治下での事績がまとめられるのだ。
中国は必ず前王朝の成立から滅亡までを正史としてまとめ、今の王朝の正当性を主張するんだよね。
なので、「史官」という歴史書を作成する官職があるくらいなのだ。
米国の政府機関でも「historian」という役職の人がいて、政策史をまとめているんだよね。
日本では今回の「実録」を作るので、宮内庁の書陵部にはそういう役職の人がいるけど、正式に歴史を紡ぐ人はいないのだ(>o<)

日本での実録の扱いは中途半端で、各代について作成していたわけじゃなくて、「日本三代実録」のように、清和天皇・陽成天皇・光孝天皇の三代をまとめたようなものも。
そもそも大和朝廷がずっと続いていることもあって、「朝廷の正当性」を主張する正史の必要性は薄くて、「正史」もきちんと作られているわけではないのだ。
「王権神授」というか、皇祖皇宗の由来をひもとく日本書紀があれば事足りる部分もあったんだろうけどね。

一方で、江戸時代には「徳川実紀」というのが幕府によって編纂されていて、江戸幕府の公式記録になっているのだ。
もともとは初代家康公から10代家治公までの事績を12代家慶公に献じたもので、各将軍の諡号に実紀をつけて、「東照宮御実紀」(家康公)、「台徳院御実紀」(秀忠公)、・・・と将軍の治世ごとに事象を日付順で記載したもの。
将軍の逸話を収めた付録もあるとか。

11代家斉公以降も大政奉還まで実紀は編纂され続け、その後半部分は「続徳川実紀」とも呼ばれるのだ。
もともとは将軍ごとの実紀なので、幕府内では単に「御実紀」と呼んでいたものを、明治時代にまとめて総称する際に「徳川実紀」と名付けたとか。
江戸時代は火事が多かったので、古い時代のものは資料が散逸していて、幕府内の公式記録だけでなく、他からの資料の転載のようなものもあるらしいけど、江戸時代の歴史書として非常に貴重なものなのだ。
本体は国立公文書館が保管しているけど、国史大系の一部として刊行されているし、国立国会図書館の近代デジタルライブラリーでも見られるのだ。
これは実質上の「正史」なんだけど、幕府自らが作っているから、中国の歴代王朝の「正史」とはまた位置づけが異なるのだ。

話は「実録」にもどると、明治になって、きちんと各天皇の御代について実録を作ろうということになって、孝明天皇から実録の編纂が始まったのだ。
戦前は宮内省が担当で、それが戦後宮内庁に引き継がれているわけ。
「孝明天皇紀」、「明治天皇紀」は存在が知られていたんだけど、「大正天皇紀」は存在は推測されていたものの、長年宮内庁で情報公開の対象から外されていて、幻の実録だったのだ。
ところが、21世紀に入って、情報公開・個人情報保護審査会が非公開は不当とする判断を下したので(平成13年)、翌年以降一部が黒塗りの形で公開されることになったんだって。
それを受けてか、今回の「昭和天皇実録」は最初から全文が公開されることになっているのだ。
マッカーサー元帥とのやりとりや、終戦前夜の動向など、すでに知られていることも多いけど、未公開の側近や侍従の証言・メモなど、新たな情報も含まれているとか。
個人的にはかなり興味あるなぁ。

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