2015/12/19

ぬらぬらコーティング

非常に興味深いニュースを見つけたのだ。
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/121100361/
米国のアトランタ動物園の研究者が、長年謎とされてきた、ヘビの生態の手がかりを見つけたんだよね。
それは、ヘビのうろこの表面が資質でコーティングされていて、それが潤滑油となってヘビの運動を支えていると言うこと。
ヘビは脚がないのに地上をなめらかに移動し、木にも登り、とかなり運動性が高いのだけど、そこに一役買っているようなのだ。

ヘビが前進する方法にはいくつかあるんだけど、代表的なのは「蛇行」。
漢字だとそのままだよね(笑)
体をくねらせながら前に進んでいくのだけど、このとき、腹側のうろこが大きな役割を果たしているのだ。
鱗と鱗の間はかなり伸縮性があって、しかも、うろこはある程度角度をつけて立てることができるようになっているのだ。
これを利用して、うろこを少し立ててエッジにしてひっかけ、そこを「足がかり」にして後方の体を引き寄せるのだ。
まっすぐのままだと、体を引きつけるときに左右にぶれてしまってうまく進めないので、S字型に体を曲げておくことで、効率よく前進ができるようになるのだ。
まっすぐな時と比べて、進行方向と直行する方向でエッジが効かせやすくなるしね。

ミミズも同じような仕組みで、体表面に生えている剛毛を引っかけて、体を伸び縮みさせて前に進むのだ。
伸び縮みだけだと前にも後ろにも進む可能性があるのだけど、逆行しないように剛毛をスパイクのように滑り止めにしているのだ。
ミミズだけでなく、アザラシも似たような原理を使って前に進むのだ。
ひれ状の前足を使って前へ進もうとしても、滑り止めがないとうまく氷の上を進めないよね。
そこで、アザラシの毛皮は前方向にはなめらかに滑るけど、後ろ向きには引っかかるように毛が生えているのだ。
これを使って、スキー板の裏にアザラシの毛皮を張って、後ろ向きに滑らないようにしたものもあるんだよ。
これは山岳スキーで板をはいたまま山を登るときなんかに使うし、山岳警備隊が銃を撃つときも、普通のスキー板だと反動で後ろに滑ってしまうので、これを使うのだ。

そんなわけで、この滑り止めの機構についてはヘビでもよくわかっていたのだ。
ところが、問題はその先。
ヘビはいろんな場所をするするとなめらかに移動するので、このうろこの表面はすべすべでないと困るんだよね。
で、実際に、背側のうろこよりも腹側のうろこの方がすべすべであることはわかっているんだけど、うろこをいくら調べても、違いがわからないでいたのだ!
は虫類のうろこはケラチンなどの硬いタンパク質からなる角質化した皮膚なので、人間で言えば爪のようなもの。
磨けば光沢も出て、すべすべになるけど、ヘビのように年がら年中這いずり回っていれば、表面に細かい傷ができて滑りにくくなるはずなのだ。
ところが、世の中のヘビはみんなぬらぬら、すべすべなんだよね。

そこで、何かあるに違いないと、米国の研究者は、吸収端近傍X線吸収微細構造(NEXAFS)という、冥黒エレクトロニクスの分野で表面構造を解析する手法で調べたのだ。
物体にX線を照射し、その表面でどの波長のX線が吸収されたかをみることにより、その表面にどんな物質があるのかを探る手法なのだ。
エレクトロニクス分野では、薄膜がきちんとできているかどうかの検査などに使われるんだよ。
この実験では、カリフォルニアキングヘビ(コモンキングヘビの亜種)の脱皮した皮で調べたところ、うろこの表面がナノメートルの厚さで脂質でコーティングされていることがわかったのだ。
どうも、背側と腹側では脂質そのものが違うだけでなく、腹側ではより規則的に脂質の層が積層されているとのことで、より丁寧に脂質が「重ね塗り」されている状態だったようなのだ。

両生類や軟体動物などでは、体表面が粘液で覆われている例がよく知られているけど、これは触ったときにその粘液がつくからわかるんだよね。
ヘビの場合は、手で触ったくらいではこの脂質ははがれず、手にもつかないので、誰もコーティングがなされているとは気づかなかったのだ!
実際の生体でも、地を這ったり、木に登ったりといろんなところにこすりつけてもはがれないわけだから、当たり前と言えば当たり前かもしれないのだけど。
まだどんな物質かはよくわからないし、どうやってうろこ表面を覆うのかはよくわからないけど、マニキュアのトップコートのように、うろこに光沢となめらかさを与えるとともに、物理的な保護もしているのだ。

これまでヘビの動きはよく研究されていて、軍事用とか災害レスキュー用にヘビロボットが開発された来ているんだよね。
でも、このコーティングに着目した人はいなかったのだ・・・。
ヘビの謎がまた一つわかったというだけでもおもしろいのだけど、これがどんな物質かわかれば、性能の高い潤滑剤として人工関節などに使える可能性もあるんだよね♪
生物学的だけでなく、工学的にもおもしろい発見なのだ!
とりあえず、コーティングされていることはわかったので、おそらく、ヘビの皮をいろんな溶剤につけて、この脂質を抽出・同定する研究が始まるんだろうなぁ。

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