2015/12/26

米国の「はやぶさ」

日本で「はやぶさ」というと、加藤隼戦闘隊、じゃなくて、新幹線や小惑星探査機を思い浮かべるよね。
特に「リュウグウ」に向けて地球スウィングバイを成功させたので、宇宙の「はやぶさ」が熱いのだ。
でも、実は、米国にも宇宙の「はやぶさ」があるんだ。
それは、スペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ社、通称「スペースX」社が開発したロケットの「ファルコン」。
これまでの米国のロケットは、米国航空宇宙局(NASA)か国防総省(DOD)のプロジェクトとして開発されたものがほとんどだったんだけど、最近は民間主導のロケット開発が活発化してきているんだよね。
さらに、民間開発と言っても、軍用技術の大陸弾道弾(ICBM)を改良したようなものが多かったんだけど、このスペースXのファルコンは、全く新規の民間開発なのだ!

このスペースX社の設立者は、インターネット決済でおなじみのPayPalのもととなったX.comを始めた実業家のイーロン・マスク氏。
スタイリッシュな電気自動車を送り出すテスラ・モーターズの会長としても有名なのだ。
テスラ。モーターズは、赤字覚悟ですべての特許をオープンにし、電気自動車の普及に貢献しようとしていることでも有名だよね。
そのように、マスク氏は普通の人が想像もできないようなビジネスプランを持っているのだ。
それが宇宙技術で結実したのがスペースX社というわけ。

スペースXのロケットであるファルコンは、燃料にケロシン(高精度のガソリン)を使っているんだけど、これは技術的には伝統的なもの。
日本のH-IIAロケットや退役したスペースシャトルでは、液酸液水といって、液体水素を燃料に使うんだけど、これは技術的には難しいし、ロケット・エンジンの構造も複雑になるんだ。
そうなると、作るのにコストもかかるわけ。
そこで、十分に実績が積み重ねられてきたケロシンを燃料とするロケット・エンジンの「枯れた技術(十分に使い込まれてトラブル対応も含めて確立された技術)」を使った、ものすごくシンプルな構造のエンジンを開発したのだ。
それがファルコンに搭載されているマーリン・エンジンだよ。
その開発に当たっても、軍やNASAの技術者を呼んでくるのではなく、優秀な大学院生をスカウトしてきたというのだから、ここもそれまでの宇宙開発の常識から外れているのだ。

スペースXは、エンジンを1基だけ搭載した小型のファルコン1ロケットでエンジンの技術実証を行い、今度は、エンジンを9基クラスタリングした大型のファルコン9ロケットにつなげたのだ。
ファルコン9はすでに国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送も成功させるなど、実績も出しているのだ。
でも、何よりすごいのがそのコスト。
ロケット1機あたり100億円をきる価格で、これは宇宙業界としては信じられない数字なんだって。
日本のH-IIAががんばって100億円くらいだからね。
さらに、第一段ロケットを回収することにより、さらに安くしようとしているのだ。

サンダーバード3号のように、一度発射したロケットが再び垂直に着地するんだよ!
そのために「脚」もついているのだ。
これをつけること及び帰り分の燃料をとっておくために、ロケットの打上げ能力は低下するんだけど、価格がぐっと安くなるので十分に競争力がある、という考えなのだ。
これまではスペースシャトルのように有人機の上段が再使用されることはあったんだけど、一番コストがかかる割に使い捨てになっていた第一段をリサイクルしようというのがすごいのだ。
誰もが構想はしていたんだけど、通常に海に着水してしまうので回収も大変だったものを、狙った場所に落とすだけじゃなく、うまく着陸させることについに成功したんだからすごいよ。
しかも、洋上のプラットフォームという戻り先が移動できるのとは違い(これまではこっちで試験をしていたのだ。)、今回は地上の射場に戻しているのだ。
これは宇宙技術の大革新。

ち なみに、スペースシャトルのオービターは一度宇宙空間に出て、また大気圏を通って戻ってくるため、摩擦熱による損傷・摩耗が激しいのだけど、ファルコン9 ロケットの場合は、通常よりも低い高度である80~90km上空で第一段を切り離し、あとは第二段ロケットで目的の軌道まで届けるのだ。
打上げ能力は大きく低下するけど、熱の影響がかなり抑えられるので、第一段を再利用しやすくなるのだ。
できない理由を並べるのではなくて、どうやったらできるかを考える、というのを実行した結果、そういう結論になったんだよね。
それが実現できるところがすごい。

日本もさらに効率的なロケット開発を狙っているけど、ここまで来ると大きく発想を変えないとね・・・。
米国では、次期の有人ロケットに向けたロケット開発はしているけど、現時点ではISSに宇宙飛行士を送るのはすべてロシアのロケットに頼っている状況なのだ。
しかも、衛星を打ち上げるロケットにしても、アトラスVのエンジンはロシア製なんだよね。
そういう状況下で、多少政府の支援を受けているとはいえ、民間主体でここまでやったスペースXは、確かに宇宙業界を変革しているのだ。
この先、想像もつかないようなことがさらに起こるのかも。

なお、このロケットの名前の「ファルコン」は、マスク氏が好きだった映画のスターウォーズに出てくる「ミレニアム・ファルコン号」から来ているんだって。
ハン・ソロの「銀河最速」の宇宙船だよ。
でも、スターウォーズの新作が公開されるタイミングで、ファルコンロケットが大きな一歩を踏み出したというのはすごいタイミングだよね。

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