2016/05/14

経歴詐称なのか?

日銀の審議委員の「経歴詐称問題」が出てきたのだ。
例の「ほらっちょ」さんとは違って、行ってもいない学校名を書いたりしていたわけではないんだよね。
問題は、「博士課程修了」という表現。
今回話題になっている有識者は、博士課程には進学したけど、博士号は持っていない人。
それで経歴に「博士課程修了」と書いていて、これが詐称に当たるのでは?、と騒がれているのだ。

日銀によると、博士号取得者の場合は、「○○博士」と経歴上明記するようにしていて、「博士課程修了」は「単位は取得したけど博士号を取得していない人」に対して使っていると弁明しているのだ。
確かに、そう表現されることもあるんだけど、多くの場合は、「単位取得退学」とか「満期退学」という言い方をして、「修了」という表現は使わないようにするのだ。
理系だと博士課程在学中に博士号を取得できる例が多いのだけど、人文系の場合は、多くの場合「満期退学」して大学教員などの研究職に就いて、定年間際に論文博士で博士号を取得する、という例が多かったんだよね・・・。
なんでそうなっているのかはよくわからないけど。

で、今回も「経済学」らしいので、上記の例に漏れず、なかなか博士号が出ない分野ではあったのだ。
なので、通常は大学院に進学しても、博士号は取得せずに就職するのがおきまりだったはず。
本人としても、別に変なことはしていない、という認識だったはず。
ただ、表現が正確かと言われると、実はまずかったようなんだよね。

学位についてはきちんと法令上の位置づけがあって、ルールの下に運用されているのだ。
まず、学校教育法(昭和23年法律第26号)の第104条第1項で、「大学(第百八条第二項の大学(以下この条において「短期大学」という。)を除く。以下この条において同じ。)は、文部科学大臣の定めるところにより、大学を卒業した者に対し学士の学位を、大学院(専門職大学院を除く。)の課程を修了した者に対し修士又は博士の学位を、専門職大学院の課程を修了した者に対し文部科学大臣の定める学位を授与するものとする。」と定められているのだ。
ここで重要なのは、「授与することができる」ではなくて「授与するものとする」と規定されていること。
すなわち、「博士課程の修了」=「博士の学位授与」ということなのだ。
これを受けて、学位規則(昭和28年文部省令第9号)第4条第1項で「法第百四条第一項の規定による博士の学位の授与は、大学院を置く大学が、当該大学院の博士課程を修了した者に対し行うものとする。 」となっているよ。

では、「博士課程の修了」とは何かと言うと、、大学院設置基準(昭和49年文部省令第28号)の第17条第1項で「博士課程の修了の要件は、大学院に五年(・・・)以上在学し、三十単位以上を修得し、かつ、必要な研究指導を受けた上、当該大学院の行う博士論文の審査及び試験に合格することとする。ただし、・・・」と規定されているのだ。
これによれば、規定数以上の単位の取得+論文審査・試験に合格の両者が必要なんだよね。
つまり、論文審査が通っていない状態で、単位取得のみの場合は、博士課程は修了していないのだ!
なので、「単位取得退学」≠「博士課程修了」ということだよ。

というわけで、ルール上は博士号を取得していない人は博士課程を修了していないことになるのだ。
というか、博士課程を修了すると自動的に博士号が授与されることになるので、博士号を取得せずして博士課程は修了できないというわけ。
ただし、上にも書いたように、俗に「「大学院博士課程の単位取得」を「博士課程修了」と表現し、「博士号取得」と「博士課程修了」を区別する表現が行われていたために起きた混乱なのだ。
なんか「退学」というネガティブな響きがあるから、「満期退学」とか「単位取得退学」とはしたくなかったんだろうけど、ギリギリを正確性を追求すると「博士課程修了】と書くのはウソになってしまうんだよね・・・。
「でき婚」を「さずかり婚」と言うみたいに「満期退学」をもう少しポジティブな表現に言い換えられれば、こういう混乱はなくなるかもしれないね。

0 件のコメント: